夜の妖怪達はどよううしの日に鰻を食べる

チルノの裏過去ログ122の2009-07-22 20:11:42の人からのネタ提供です。有難うございました。
※東方キャラ登場注意、独自の解釈を含めます。
※ゆっくりの出番が少ない気がします。つまりいつも通りです。
※百合要素? そんなの無い訳無いじゃないですか。



ゆっくりSS 夜の妖怪達はどよううしの日に鰻を食べる





「土用丑の日ってさー」

ルーミアの一言に、彼女の友達二人、ミスティアとリグル、
ついでにミスティアの頭の上に乗るゆっくりみすちーはきょとんと首を傾けた。

「え?」「今何て?」「ちんちーん」
「いや、だから土用丑の日―」
「?」「??」「ちーん?」

またきょとんと首を傾ける二人と一匹。
ルーミアは少し考え、ちょっと言い方を変えてみた。

「どよううしの日ってさー」

「「ああ、それか」」「ちんちーん!!」

ミスティアとリグルが声を揃えて成程なと頷いた。

「リグルはともかく鰻屋のミスティアは気付いてよー。ていうか声に出して言ってるんだから漢字表記とか関係ないはずでしょー」
「いや、何となく」
「わ、私は知ってたよ!!ただちょっと忘れてただけで」
「ちんちーん///」

恥ずかしそうに頭を掻きながら照れたように笑う二人+一匹を、ルーミアは嘆息して呆れたような半目で眺める。

「まぁいいや。土用丑‥いや、どよううしの日のことなんだけさー」
「今日でしょ?」
「だから皆うちに来てんでしょ?」
「ちんちーん」

今日は7月19日、或いは31日。ついでに時刻は人も獣を眠る夜深く。
幻想郷でも存在しているらしい土用丑の日だ。
だからリグルとルーミアは此処、ミスティアが運営しているヤツメウナギの屋台に遊びに来た訳である。
椅子に座ってビールと一緒にヤツメウナギの蒲焼を突いているルーミアは、隣に座るリグル、
そして屋台の中でエプロンを着込んで蒲焼を焼いているミスティアに脱力しながら話しかける。

「いや、それは分かってるよー。どよううしの日ってさー、どうして鰻食べるんだろうねー、って聞こうとしたんだけど‥」

ルーミアは小馬鹿にしたような目つきで二人を見て薄く笑う。

「聞いてもどうせ無駄だよねー」
「あ、今私のこと、どうせ蟲頭だって思ったよね!?」
「私のことはどうせ鳥頭だからって思ったでしょ!?」
「みすちーのことどうせ餡子入りだと思ったでしょ!?」

二人+一匹はムキになってルーミアに詰め寄る。

「饅頭は知らん」

『みすちーの中身は鶯餡だー』とか言って迫るゆっくりみすちーを非情にも両手で押しのけて、

「じゃぁ、教えてよー?どよううしの日ってどうして鰻食べなきゃいけないのかー」

ルーミアはアルコールですっかり真っ赤になった顔で、二人に意地悪くニヤニヤ笑いながら問い掛ける。

「えぇ‥、ええと、うし‥うしかぁ‥、牛の日だから‥? 牛って鰻食べたっけ?」
「妹紅の友達に牛っぽい人居たなー、けどうちには来た事ないよ」
「多分その牛じゃないと思うよー」

そこで、ミスティアの頭から降りてパタパタ羽ばたいていたゆっくりみすちーが、自信満々に声をあげる。

「分かった!分かったよー!」

ルーミアが胡散臭げな目でミスティアを見つめる。

「ふぅん、じゃ饅頭、言ってみー」

ゆっくりみすちーは任せろ言わんばかりに空中でふんぞり返り、高らかに言う。

「土用とは土を用いるということ、そして丑の日の丑は『丑の刻』、即ち深夜二時とか三時‥、
 丑の刻参りと言われるように呪いの儀式を行うのに一番適した時間帯だよ!」

つまり、とゆっくりみすちーは締めくくる。

「昔の人はきっと土人形で丑の刻参りする時に生贄として生の鰻を使っていたんだよ。
 しかし呪いが終わった時その鰻を捨て置くのはあまりにも勿体無い‥、だから呪いが終わった後に鰻を蒲焼にして食べることにした。
 呪いという風習が廃れた今でも鰻をこうして食べる習慣だけは残ったという訳なのであった」

じゃじゃん、ゆっくりみすちーが翼をいっぱいに開いて語り終えた。
普段はちんちんばっかり言ってるゆっくりみすちーの饒舌な語りを聞き入っていた三人は暫し呆然し、

「なるほど!」
「それでか!!」

リグルとミスティアは納得したように手をポンと叩いて大きく頷いた。
きっとこの二人はそれっぽい説明なら何でも納得するのだと思う。

「絶対違うと思う」

ルーミアはまたも半目で、納得している⑨コンビを呆れたように見つめていたが、
そもそもこのメンツにこんな雑学的な話題を振った自分が悪かったのだと自省し、
神妙な顔で頭をころころ振って、ミスティアに注文を頼んだ。

「ふぅ、ミスティアー、鰻御代わりー」
「お、うぃーす」

ミスティアは足元にあるツボの蓋を開け、ヤツメウナギを取り出そうと手を伸ばし、
ふと何かに気付いたように動きを止めた。

「あ‥」
「どーしたのー?」
「ごめん、ルーミア。鰻もう売り切れ」

申し訳なさ気にミスティアは手を合わせ頭を下げた。

「そーなのかー」
「やっぱ今日はたくさん来たんだ、お客さん」

リグルが腕を組んでミスティアに尋ねる。

「うん、常連から普段見ない顔までたくさん来たよ」
「大繁盛だったよ!」

ミスティアと脇でパタパタ飛んでいるゆっくりみすちーが大げさに手を広げ嬉しそうに報告する。
特に夕刻頃は、妹紅と永遠亭の姫が食べに来て、仲良いんだか悪いんだか分からない言い合いを延々聞かされて大変だったものだ。

「そっかー。じゃ仕方無いかー」
「ほんと、ごめんねー」

ルーミアは諦めたように方を降ろし、顔を俯かせ、


「とでも言うと思ったのかー?」


ギラギラと輝く凶悪な笑みを浮かべたと思うと、
ミスティアの一瞬の隙をついて勢い良く客席から屋台の中へ飛び込んだ。

「ひきゃ」
「ちょっとルーミア!?」
「ちーん!?」

驚いたミスティアルーミアとぶつからないように一歩退く。
それがいけなかった。

「うーそーつーきー」

ルーミアは何時の間にか、それまでミスティアの足元にあったはずのツボを持ち上げ、蓋を開き中を確認していた。

「いち、にー、さぁん。まだ三匹も残ってるよー」

ミスティアは僅かに顔を怯ませたが、ルーミアの持つツボを反対側から奪い返すように掴んだ。

「へぇ、耳が良いのね」

ルーミアも取り返されまいと両手でぎゅっとツボを抱きしめる。

「まーねー」
「でもごめんなさい。これは、食べちゃ、駄目、なの!!」
「まだお客も材料も残っているのに、料理が出されないなんてー、屋台の名折れだよねー」
「いいでしょ!あんた散々食べたんだから!食い足りないっていうのならその辺で人間でも兎でも捜しなさいよ!」
「やーだー。鰻が食べたーいー。もっと食ーべーたーいー」

突然ツボの取り合いを始めてしまった二人を、リグルはおろおろしながら何とか諌めようと試みる。

「ちょっと二人とも。落ち着こうよ。それ絶対引っ張り合いすぎて最後に壷が割れるパターンだよ!」
「お約束だよ!」

だが、そんなリグルとゆっくりみすちーの制止も聞かず、二人のツボに入れる力の量はどんどん大きくなっている。
少女のナリをしていても二人はれっきとした妖怪だ。このままでは本当に壷が粉々に砕け散るのも時間の問題だろう。

「そもそもさー」

ルーミアがミスティアに意地悪な笑みを浮かべて詰め寄る。

「どうしてそんなに拘ってんのよ?何時もなら客か材料がなくなるまで営業してるのに?
 いったいどうしてその鰻を大事に取っておこうとしてるのかー?」

む、とミスティアは少し逡巡し、ムキになって言い返す。

「そ、そんなことルーミアには関係ないでしょ!!」
「誰かの為に残してある大事な鰻なの? とか聞いてみたりしてー」

ルーミアのひっそりとした、だが確信的な物言いに、ミスティアは的を射られたように顔を真っ赤に染めあげた。

「そ、そ、そんなことにゃいよ!!」
「ふん、図星かよー」

ルーミアは呆れたような乾いた笑みを浮かべ、ミスティアの腕から力が抜けたタイミングを見逃さず、一気に壷を奪い取った。

「ちょっと、返してよ!私のヤツメウナギ!」
「お断りー。こうなったら生でもいいかなと思ったりー」
「や、やめて!」

壷を高く持ち上げて差し出す手をのらりくらりと避けるルーミアに、ミスティアは大きな声で懇願するような叫びをあげた。

「売り切れなの!もう今日はこれ以上出せないって言ってるでしょ!!」

今にも泣き出しそうなミスティアの顔に流石にやりすぎだと思い、ルーミアを止める為、リグルはすっと立ち上がった。

「ちょっとルーミア、もうよしなよー。その鰻だって元々ミスティアの‥」
「あら‥」

だが、その制止の声は、突然店に現れた優雅な声によって打ち消される。

「もう売り切れなの?折角来たのにー」
「え?てうわ!!」

何時の間にだろうか。
リグルの隣には寒色系の着物を着た陽気な亡霊、幽々子が自分の人差し指を口で咥えて物欲しそうに立っていた。
突然の大物の出現にリグルは戦く様に幽々子から一歩離れる。
だが、その亡霊の登場に一番驚いたのは彼女ではなかった。

「ゆ、幽々子‥!え、そんな、嘘!?」

ミスティアは慌てふためいて、また顔を真っ赤にして挙動不審に両手をばたつかせる。

「ち、違うの!!鰻は、ヤツメウナギは売り切れなんかじゃなくて‥!!」

一方ルーミアはというと、気にくわなそうなしかめっ面でその亡霊をまじまじと見つめていた。

(ああ、そういうことだったんだ)

普段にないミスティアの慌てっぷり、そして意図的に残そうとした三匹のヤツメウナギ、そして亡霊。
リグルは大体の事情を察した。
それと同時に、

「さぁ!!お食べなさい!!」
「もがぁ!!」

それまでちょっとした空気だったゆっくりみすちーが、勢い良くルーミアの口目掛けて猛スピードで突撃した。
ゆっくりみすちーはほぼサッカーボール大のゆっくりだ。
そんなものが少女の小さい口に収まりきる訳もなく、ルーミアは「ひゃひひゅゆひょひゃー」と苦しげにもがき苦しみ、
手に持っていた壷を放してしまう。

「うわっと」

それを見逃さずミスティアがナイスセーブ。
壷もその中のヤツメウナギも無事取り戻すことができた。

「じゃ、私らはこの辺で。ご馳走様でしたー」

ルーミアが一時的に無力化したのを見計らい、リグルも屋台の中に入り込み、
じたばたともがいているルーミアの背中を掴んで、逃げるように屋台から出て行った。
もちろん、ルーミアの口に詰み込まれていたゆっくりみすちーも一緒に。

「あ‥、うんまたねー」
「あらあら」

そんな嵐のような弩等の一部始終を見届けたミスティアと幽々子は、呆然としながら闇の中へ消えていく妖怪達を見送った。






「へぇ、私の為にとって置いてくれてたの?悪いわね~」
「い、いや別に‥、来るかどうかも分からなかったし」

嬉しそうに笑う幽々子から目を逸らし、ミスティアは黙々とぽたぽたとヤツメウナギを焼いている。
じゅぅ~じゅぅ~と鰻が焼ける独特の音と香ばしい匂いが幽々子の食欲を刺激する。
幽々子はだらしなく涎で口を一杯にしながら、愛おしそうにその蒲焼を見つめる。

「でも、一匹くらいお友達にあげても良かったんじゃない?三匹残ってたんでしょ」
「だって、いつも幽々子たくさん食べるから‥」
「いくら私だって三匹も食べたいだなんて言わないわよ~。二匹で十分すぎますわ」

幽々子は微笑みながらミスティアの前にVサインをビシっとかざして見せる。

「違うの‥」

ミスティアは俯きながら、焼き終えた三匹分の蒲焼を新聞紙に乗せて油を取ってから皿に盛る。

「違うって?」

幽々子はきょとんとしながらも、焼き終わったヤツメウナギを子供のように期待に溢れた目で見つめている。

「えぇとね‥、その‥、一匹は私の分なの‥」

俯いたまま、ミスティアは気恥ずかしい様子で両手の指をもじもじと絡め合わせている。
緊張の為か背中の大きな翼は小さくプルプルと震えていた。

「その、今日どよううしの日だから‥、だから‥、私も‥、幽々子と、幽々子と一緒に食べたいなって思って‥!」

ミスティアは自分の感情を吐露するように一気に言ってのけた。
それまで蒲焼を見つめていた幽々子の眼が一瞬でミスティアの方に向けられる。
彼女の顔はあまりに気恥ずかしさのあまり頬や鼻の上に汗が溜まり、その両手を心細気に束ねながら小さく震えていた。



幽々子の中の時間が数秒停止する。



「うっわめっちゃ食いてぇ」
「え?」
「いえ、何でもありませんわ」

幽々子は気を取り直したように微笑みながら、ついでに一瞬で口元からだらしなく垂れた涎をごしごしと拭きながら、
ぽんぽんと自分が座っている長椅子の隣の空いている空間を叩いた。

「なら、こっちに来て一緒に食べましょう、ミスティア」

名前を呼ばれミスティアの翼がバサっと大きくざわめく。
彼女は真っ赤だったその顔を更に赤く赤く染め上げて、
自分の細い肢体をぎゅぅっと抱きしめながら、

「うん‥」

嬉しそうに恥ずかしそうに、
小さくこくりと頷いた。







「詰まらないー」
「ちんちーん!!」

そんな様子をデバガメ宜しく遠くの闇から覗いていた暗闇の妖怪は、本当に詰まらなそうな顔で小さく舌打ちしながら呟いた。
その脇には七分の一ほど身体を齧られたゆっくりみすちーが嬉しそうに飛び回っている。

「はは、いいじゃん。ミスティア嬉しそうだよ」
「私達と居るときよりよっぽどねー」
「‥、うん」

「あーあー、やっぱ友達より女なのかよー」
「私達も女でしょ」

落ち込むように体育すわりでぼやくルーミアを慰めるように、リグルはポンと彼女の肩に手を置く。

「知ってたんでしょ? 最初から。あの壷の残りの鰻はあの亡霊の為なんだろうって。だから邪魔したんだ」
「ふーん!」
「確かに‥、こういう形で友達が離れていくのは寂しいけどさ。けれど友達じゃなくなった訳じゃないんだし。
 素直に祝福してあげようよ、ね?」
「リグルったら優等生ー。 けどさ、やっぱ詰まらないよー」
「大丈夫だよ」

リグルは翡翠色の儚い光で辺りを照らしながら、ルーミアの手を掴んだ。

「私はずっと、ルーミアと一緒に居てあげるから」
「リグル‥」

ルーミアは感動したように目を潤ませながらリグルの顔を見つめ、


「‥、そういえば時にリグルよ。ずっと気になってたんだけどさー」


彼女の頭にはえている二本の細い触角、その先端に喰らい付いている野球ボール大の何かに目をつけた。

「その、さっきからリグルのアレをガジガジしてる丸いのは何ですかー?」

一応今日会った時から気になってはいたのだが、
あまりにリグルが何時もと変わりない態度を取っていたため中々聞くタイミングが計れなかったのだ。
暗闇でよく見えないが、彼女の触覚に噛み付いているのは緑色の髪でやけに凶悪そうな顔をしているゆっくりのようだ。
どこぞかの凶悪花妖怪に似ている気がしなくもない。

「ああ、これー」

リグルはちょっと気恥ずかしげに、触覚を齧ってるそれを撫で撫でする。

「ちょっとね。最近幽香の太陽の花畑でこういうの、ゆっくりだっけ?
 それがたくさん出るようになったんだってー。自発的に花の世話をしてくれるから幽香は有難かってたけど。
 それでね、『可愛いなぁ』って言って観察してたら一匹だけ分けてくれたの」

さも嬉しそうにリグルは語る。
あ、今触覚からリグルの指に乗り移った、もとい、噛み移った。
一生懸命楽しそうに本人さながらのドSな顔でリグルの人差し指を齧っている。
何か血が出てるように見えるけど彼女は痛くないのだろうか。

「えっへへ、本当可愛いよねぇ、幽香そっくりで」

ピシ、とルーミアの中で何かが静かに弾ける音がした。
ルーミアは無言で静かにリグルを見つめる。

「良かったらルーミアも撫でて‥、あれどうしたのルーミア?ちょっと顔が怖いよ。何で口では笑ってるのに、目は全然笑ってないの?
 ちょ、ちょっと、私の光を覆い隠すように何か暗闇が広がってきてない?ていうかどうして両手を広げてるの?それルーミアの戦闘スタイルだよね?
『聖者は磔にされました』って、え?何のこと? ちょっと、何か妖力が高まってるよ。まるでこれから戦闘でも始めるみたいにさ‥
 ちょっとルーミア?いきなりスペルカードなんて構えないで。私の話聞こえてる?ねぇ、ルーミア。ルーミアちゃーん!
 おーい!や、ストップ。やめて、止まって、そのスペルは洒落にならないから。ルナティックはやめて本当やめてだから‥」


「黙るがいい、ブルータス」


闇符「ダークサイドオブザムーン」


そうして(一方的な)弾幕勝負を始める少女達の姿を、
ゆっくりみすちーは高い木の上から眺めていた。
ふう、悟ったような大きな溜息をつき、ポツリと独り言を言う。

「教訓、友達は大切に」

そしてもう一言。

「土用丑の日は鰻を食べよう。ちんちーん!」



      終われ



※土用丑の日は鰻を食べようキャンペーンでした。19日間に合わなかった人もまだ31日があるですよ。
※チルノはどうした?→夜遅いから多分もう寝ちゃってます。

  • 平和でいいなぁ
    こういう光景を幸せとでもいうんでしょうねぇ -- 名無しさん (2009-08-05 22:19:16)
  • うっわめっちゃ食いてぇwww -- 名無しさん (2013-08-26 09:57:08)
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最終更新:2013年08月26日 09:57