ここにはかつて街があった
その廃墟となった街の一角でこの物語は始まる
「ゆっ! ゆっ!」
歩くものが絶えた道を私は跳ねている
「ゆっくりしすぎたよ!! おくれちゃうよ!!」
街の何処かにあると言われている「駅」へ向かって
「ゆふー、ちょっとやすむよ!!」
どれだけ跳ねてきたかは分からないが
ビルにもたれて一休み
ふと、来た道を振り返ってみると そこに道はなく
只、空虚な空間が広がっていた
ゴーン、ゴーンと時計塔の鐘が鳴っている
「ゆわわ... ほんとうに まにあわないよ!!」
再び何処にあるか分からない「駅」へ向かって跳ねる
今まで幾度と繰り返してきたこの慌ただしい引っ越し
街の作りはどこも一緒なのだが「駅」の入り口だけが毎回変わる
実に面倒なからくりだと思う
「こっちよ!!」
呼ばれた方を見てみれば少女が「駅」への扉が閉じるのを押さえていた
「貴女で最後ね、よいしょ」
入り口を最後の住人である私が通ったのを確認すると、少女は扉から手を離した
それと同時に完全に扉は閉じ、そこに在ったことすら分からなくなってしまった
「それじゃ行きましょうか、次の街へ」
「駅」の中を行き交う人は皆一様に俯いて忙しなく歩いて行く
「ゆっくりしていってね!!!」
声をかけてみても相も変わらず過ぎていく
「彼等にも時間がないのよ」
彼女はそう言って銀の小さな懐中時計を出した
『***KB/500KB ***レス/1000レス』
「私たちも彼等も等しく時間は残されていないのよ」
文字盤の意味は解らなかったがとにかく時間は無いらしい
「来たわよ」
気がつけば目の前に列車が来ていた
空席が一つしかなかったので彼女の膝の上で発車を待つ
『何時も 東方鉄道をご利用頂き ありがとうございます。この電車は 区間急行の 新日暮里行きです。 次は 新洲檸町に 停まります』
機械の様に抑揚ない車内アナウンスが流れ
音もなく列車は滑るように進んでいく
「貴方はどうするの?」
少女が私に問いかけてくる
「私は切符を二枚ずつ持っている。終点までのと、次の駅で降りるのと」
スッと私の前に切符が差し出される
「私は終点まで行くのだけれど貴方はどうする?」
「んーとね...」
結局私は新洲檸町で降りた
「>>1さんによろしく」
それだけ言うとまた彼女は列車に揺られて行ってしまった
彼女の時を刻むために
「ゆっくりしていくね!!」
そして私もこの街で新しい時間を刻んでいく
おわり 夢饅頭
最終更新:2009年08月19日 11:45