にともみゆっくり将棋

※東方キャラ登場注意



ゆっくりSS   にともみゆっくり将棋







時刻は真昼。
幻想郷の中でも数多の妖怪達が闊歩する妖怪の山。
大自然溢れるその山から流れ落ちる巨大な滝の梺にある、白いごつごつした石で敷き詰められた河原。

「う~む」
「にひひ、もう降参ですかい?」

二人の妖怪が、木製、一辺60cmくらいの正方形の大きな盤面を、胡座をかきながら囲んでいた。
盤面を難しい顔で睨んでいるのは、大滝近辺の見張りを担当している、下端哨戒白狼天狗、犬走椛。
余裕ある笑みでにひひ、と笑っているのは、この河原に済んでいる河童の少女、河城にとり。
山の妖怪は時折こうして盤面を囲み、大将棋という遊びに興じて時間を潰す。
長い時を生きる妖怪にとってこうした暇を潰す手段は大変重要なのだ。
だが、今彼女たちが行っているのは、彼女たちが普段行っているボードゲームとは、少し勝手が違っていた。
まず、先ほど説明した通り、盤面が異常な程大きい。
そして、その大きな盤面に乗っているのは、どう見ても将棋の駒ではなかった。

盤面に乗っているのは、ピンポン玉程の大きさの小さなゆっくり達、
其々の帽子やリボンに飛車やら歩やらの役割を示す紙が貼ってあり、
皆やけに自身満々な顔で盤面の上に居座っている。

「いや、まだ勝つ目は残っている。王将、一歩前へ」
「ゆっ!」

その中でも少し大きめのゆっくり、王と書かれた紙が貼られた、
もみじ側の陣地に居たゆっくりまりさが、名前を呼ばれ嬉しそうに返事し、

「ゆっくり進むよ!」

ぴょんっと盤面を一マスぶんだけ前に進んだ。

「ここで王将を動かすか‥、大胆ですねぇ」
「そう簡単に勝ち目を取れると思わないで欲しいね」

真剣な顔をして睨み合っている両者を脇に、盤面のゆっくり達は王将のゆっくりを羨ましそうに見つめ、
「いいな!いいな!」「次はれいむの番だよ!れいむを動かしてね!」「いいえ、次に動くのはひなよ!」などとはしゃいでいる。

「じゃ、私は桂馬を‥、桂馬のしずは、右一、前二」
「ゆっ!?」

桂と書かれた紙を髪飾りにつけたゆっくりしずはが、少し緊張した面持ちで『私なの?』と聞きたげな顔で、
盤面を見下ろすにとりを見つめる。
にとりがコクリと頷いたのを確認すると、しずはは恥ずかしそうに、それでも嬉しそうに頬を染めながら、ぴょんぴょんと進んだ。

「ここがしずはの新たなゆっくりプレイスね!」
「ああ違う、そこじゃないそこじゃない」

嬉しそうにふんぞり返るしずはを制止し、にとりは正しいマスを指差して教えてやる。

「ゆ、ゆぅ~、間違えちゃった」
「もう、なにやってるのよ姉さん」

同じ盤面の上で恥ずかしそうな顔をしている身内のヤジを受けながらも、しずはは今度こそ目的のマスに辿り着く。
だが、そのマスには既に先客、相手の駒である『歩』と書かれた紙が貼られているゆっくりさなえが居座っていた。

「えぇい!」
「がぁん、やられちゃいました~」

しずはがさなえに対して軽く体当たりをしてそのマスの上に新たに居座り、
追い出されたさなえは残念そうな顔で盤面から退いていく。
そしてにとりが座っている脇に置いてある大きめの箱、
既にたくさんのゆっくりで敷き詰められている駒入れに渋々入り込んだ。

「お邪魔しますね」
「むぎゅ」「また狭くなったよ!」「次の出番まだ?」

数匹のゆっくりの何とも不満そうな声が響く。
彼女達にとって盤の上に駒として立てないことはこの上なく退屈なことらしい。

「さぁて、これでまた一歩追い詰めましたよ」
「ぐぬぬ‥」

更に険しい顔をしながら、椛は諦めずに駒に指示を出す。

「ならばこちらも桂馬を、めーりんの方の桂馬、左一、前に二」
「‥‥」
「めーりん、左に一、前に二歩だぞ」
「‥‥‥zzzz」

ゆっくりめーりん特有の特技、しえすたである。
別にめーりんでなくても、ゆっくりではよくあることである。

「‥ってい」

もみじは無言で、盤の上で熟睡しているゆっくりめーりんをデコピンしてみる。

「‥ゆっ!? ゆ‥? ゆゅゅゅゅ‥zzzzzzz」

一瞬驚いたように目を開けたが、その後また眠そうに大きく口を開けると再びめーりんは眠りに落ちてしまう。
これまたゆっくりめーりん特有の特技、二度寝である。
別にめーりんでなくても、人間でもよくあることである。

「ていていていてい」

もみじはそんなめーりんに対し淡々と人差し指でそのほっぺをつっつき続ける。
突く度に柔らかすぎず堅すぎない、適度な弾力の肌がもみじの指を何ともいえない感覚で包む。

「ていていていていてい」
「ていていていていてい」

気がつけばにとりも無意識のうちに、めーりんのもう片側の頬を反対側から人差し指で突いていた。
二人がめーりんの頬を突く度、めーりんのたゆんたゆんなほっぺが心地良さそうに振動する。

「起きないですねぇ」
「そーだねぇ」

何とも気の抜けた顔で二人の妖怪は顔を見合わせ、ほんわかと笑い合う。
そして二人まためーりんが起きるまで頬をさらにつっついてやろうと盤に手を伸ばそうとしたところ、

「いい加減にしろゥッッ」

突然、盤が空高く舞い上がった。
「ゆー」「ゆゆー」「ゆわー」「お空を飛んでるみたい」
「うー!」「気持ちぃぃ」「みゃー」「にゅー」「ゆゆーい」
「I can fly」「you can fly 」「we can fly 」「Motto Motto」
などと、盤上のゆっくり達もそんな気の抜けた声をあげながら、盤と同じように空高く舞い上がる。

「な!?」「何するんだよ!?」
「あ、つい」

盤上をちゃぶ台が如くひっくり返したのは、いつの間にかそこに居た普通の魔法使い、霧雨魔理沙。
頭を掻きながら悪かったと軽く頭をさげる。

「まったく、これだから人間って奴は」

などと文句を垂れつつ、もみじは盤を置き、
「ゆー」などと言って思い思いに散乱したゆっくり達を元の位置へと戻していく。

「どうしたのさ、魔理沙。突然こんなとこに来て」
「それをお前が言うのか。今日、発明品見せてくれるって約束したのはお前とは違う河童だったみたいだ」

腕を組み恨みがましくにとりを睨む魔理沙に、にとりはハッと思い出したような顔で、

「あ、そっか、確かに今日だった。ごめんな、盟友」

両手を合わして頭を下げた。

「それでこんなところまで捜しに来たら、天狗と一緒に何やら面白そうなことしてるからさ、暫く観察してたんだ。
 結果面白くなかったがな。何のゲームだ、それ?」
「ああ、これはゆっくり将棋だよ」

もみじと同じく散らばったゆっくり達を回収しながら、にとりは説明する。

「簡単に言えば、将棋の駒をゆっくりに置き換えた将棋さ。ルールも殆ど変わらない。
 ただ、駒は指示に会わせてオートマチックに動くから、自分の指で動かす必要がないのさ」
「自分で動かした方がずっと速そうだぜ?」
「そしたらゆっくりでやる必要性がないじゃないか」

もみじがうんうんと頷いて、にとりの言葉に続けて言う。

「このゲームの良いところは時間がとにかくかかることだ。駒によっては大将棋の2,3倍かかることだってある」
「まず、駒を必要数集める時点で丸一日かかったりするしね」
「駒に将棋のルールを教えるのにもけっこう時間かかる、うん」
「ルール教えても次会った時には忘れてたりするしね」

「それは悪い所だ。普通の人間にとってはな」

さも楽しそうに話す妖怪二人の会話に、魔理沙は理解できないと首を左右に振る。

「正直見ていて気持ちの良いもんじゃぁなかったな。寧ろイライラした。
 プロの棋士は一手に何十分も時間をかけることもあるようだが、駒を動かすのにそれぐらい時間がかかっちゃ溜まらないぜ」
「まぁ、人間の感性だとそうなるんだろうねぇ」
「それでも、盤をひっくり返すのはどうかと思う」

ジト目で睨むもみじに、魔理沙は慌てて両手を合わして「だから悪かったって」と苦笑いしながら謝罪し、

「それじゃ、さっさと行こうぜ」

ポンとにとりの肩に手を置いてそう言った。

「え?」
「だから、発明品だよ。見せてくれるんだろ?これでも割かし楽しみにしてたんだぜ」
「あ、でも、うぅん」

にとりは困ったように盤ともみじの方を見る。

「おいおい、まさかそのゲームが終わるまで待てと言うんじゃないだろうな?
 それは、また新しく明日以降の日程に約束するのと同じことだぜ?」

ゆっくり将棋はとにかく時間のかかる遊びだ。
魔理沙の言うとおり、優勢だからといって後十分や一時間で終わる見通しは立たない。

「一応聞いておくが、まさか私の約束が後発だったとは言わせないぜ?」
「うぅん」

にとりはゆっくり将棋に興じ過ぎていて忘れていたが、
魔理沙の言うとおり、彼女との約束はにとりがこの勝負を始めるずっと前からしていたことだ。
ここは、魔理沙の言っていることが筋が通っている。

「はぁ、しょうがないか。ごめんなさい、もみじさん。済まないけど‥」


ジャギンッ


にとりの言葉は、白く鈍く輝く物騒な光沢によって中断された。

「ひゅい!?」

にとりの頭のすぐ横、そこにはもみじがいつも携帯している巨大な刀が、
彼女の肩をすぐ切断できるほどの重みを伴って、彼女に寄り添うように存在していた。

「まさか、優勢のまま勝負をほっぽって、その人間と一緒に行くとか言わないよね?にとり」

もみじが、異様なまでの苛立ちを伴った三白眼で、にとりのことを睨みつけている。

「え、えっと、ちょっともみじさん。取り敢えず落ち着いて、さ」
「にとりにとっては、ボクとの勝負より、その人間との約束の方が大事なの?」

下っ端とはいえ、もみじは天狗の一族の一人だ。
彼女から発せられるプレッシャーは、臆病なにとりを怯ませるのに十分過ぎるものだった。

「おいおい、困るぜ犬耳天狗よ。優先順位は先着予約順だぜ、何事もな」
「五月蝿いな、白黒。さっきから、気安くボクのにとりに触ってんじゃないよ」

今度は魔理沙の方にその巨大な刀を向けて、もみじはにとりの肩に置かれたままの魔理沙の腕を睨む。

「待て待て、私の興味の対象はにとりでなく、にとりの発明品だ。お前とやり合うつもりはないぜ」
「ふん、ならお前一人でにとりの家に行って発明品でもなんでも見てくればいいだろ?にとりは持っていかせられないね」
「あ、そっか」

魔理沙は酷く納得したように大きく首を縦に振った。

「うむ、そうだな。若い二人の邪魔はこれぐらいにして、人間は一人寂しく去らしてもらうとしよう」
「ちょ、魔理沙!?それってもしかしなくても、私の発明品を勝手に持ち出す気じゃ‥!駄目だよ!
 って、言ってる側からもうあんなに遠くに!!」

呼び止めようとした頃には時既に遅し、魔理沙の姿はにとりの家めがけて真っ直ぐに、音速を超えたスピードで消えていった。

「あ、あぁ」

にとりは顔を真っ青に染めながら、頭を抱えた。
魔理沙は根っからの蒐集家で、一度借りたものは死ぬまで返さない、死んだら返すことに定評がある魔女だ。
知り合いの人形遣いや七曜の魔女などから多くの物品や魔道書を勝手に持ち出している実績がある。
それはにとりも例外ではなく、魔理沙が遊びに来る時は大事な発明品を持っていかれないよう、
いつも目を光らしているというのに。

(あの様子じゃ、いくつ持っていかれてもおかしくないじゃないか!)

そんなにとりの心情を知ってか知らずか、もみじは邪魔者がいなくなり満面の笑みで刀を鞘に戻してにとりに笑いかける。

「じゃ、にとり、再開しようか」
「「「ゆっくり再開してね!!!」」」

そんなもみじとゆっくり達の言葉に、にとりは乾いた笑みで頷くことしかできなかった。













「しかも負けたぁぁ!!!」

太陽が沈みきった頃、やっとこさ勝負はにとりの負けをもって幕を閉じた。
昼頃では優勢だったにとりだが、魔理沙が顔を出した直後から調子が出ず、着実に持ち駒を削られた後、
大ポカをして王将をみすみす相手の射程圏内に入れてしまったのだ。
そこからは、もみじにとっての詰み将棋、結果だけ見ればにとりの惨敗と相成ってしまった。

「よっしゃぁ!」
「ゆー!」「ゆゆーい!」「やりましたね!!」「うわーい!」「うー!」

もみじの陣地からは、さも嬉しそうなもみじとゆっくり達の歓声が聞こえる。
最終的に陣地の多くの駒を取られてしまったので、半分を裕に越える数のゆっくりが勝利の味をかみ締める結果となった。
といっても、彼女達は指示に従って動いていただけで、特に何をした訳でもなかったのだが。

「よし、それじゃ飴やろう、一人一個だよ」

もみじがポケットの中から飴玉を出し、一匹一匹に分け与える。
これはゆっくり将棋を始める前からしておくゆっくり達との約束事である。
勝負を始める前に一個、そして勝った時、その時点で勝利者側の陣地に居るゆっくりにはもう一個、飴玉をくれてやることになっている。

ゆっくり達は目を輝かせ、我先にへともみじの掌に群がっていった。
ゆっくりとは元来甘いモノ好きである。そしてこのサイズのゆっくり達にとっては飴玉一個も、十分過ぎる量の御馳走だ。
一同に「しあわせ~」と嬉れし涙を流しながら、飴玉の味を堪能している。

一方、敗北者となってしまったにとり側のゆっくりは、
「あーうー」「ゆー、ふしあわせ~」「次は絶対勝つよ、悔しくなんかないもん!」
とこちらは悔し涙に頬を塗らして、渋々と森の茂みへ帰っていった。
にとりはそんなゆっくり達と気持ちをシンクロさせて、がっくり腰を降ろし、
体育座りで河のせせらぎに只耳を傾ける。

(今頃うちは魔理沙に在らされて無残な光景になってるんだろうなぁ。隠し扉も見つけられてるかも‥。
 いったい私の発明品いくつくらい残ってるだろう‥。ああ、憂鬱だぁ~)

そんな心中を吐露するように、自分の膝に顔を埋めて、にとりはポツリと呟いた。

「あぁ~、うちに帰りたくないなぁ」
「ん?」

犬耳をピクリと反応させて、もみじはにとりの方を見つめる。
そこには、随分小さくなった河童の背中が一つ。

「それじゃぁさ!!」

もみじは子犬のような笑顔でにとりのその小さな背中に抱きついた。

「今日はボクの家に泊まっていきなよ!」
「え‥、ひゅい!?」

もみじはじゃれつく子犬のように、
顔を赤らめるにとりの頬を、ぺロリと長い舌で舐め上げた。







終われ









書いた人 かぐもこジャスティスの人




以下、後書き
※ヤマカワさんのディケイネ企画にて二回ほどにとりともみじを入れ替えて書いてしまったことがあったので、
 その責任をとってにともみSSなのです。
※ボクっ娘もみじは我が小さなジャスティス。
※ゆっくりメインとなるかと思ったけどそんなこと全然ありませんでした、つまりいつも通りです。

  • ゆっくりのチェスを今作ってたんだが、駒自ら動くのか。チョロQのモーターでもつけてみるか。 -- 名無しさん (2009-08-25 17:25:49)
  • 僕っ娘モミジがジャスティス………いいね。 -- 名無しさん (2009-08-25 19:24:45)
  • この二人の結婚式はいつですか? -- 名無しさん (2009-09-30 10:47:25)
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最終更新:2009年09月30日 10:47