ある夏の夜。
十人の人間が行灯を囲い込んで百物語を行っていた。
同窓会で再会した彼らは、二次会代わりに百物語をすることにした。
部屋は、一つ上の先輩の住む近くの寺の一間を借りた。
「お前ら、分かってるだろうが場所が場所だ。万が一何か憑いたら一応は祓ってやるが、あまり変なことはするなよ。」
先輩の忠告を受けて、彼らは取り敢えず青い紙を貼った行灯だけを置いて、簡易的な百物語にすることにした。
その中の一人はゆっくりれいむを連れて来ていた。
「ゆ!おかあさん、こわいよ!!」
「はいはい、大丈夫よ。さっきのは作り話だから。」
そう言ってれいむの頭を撫でてあげる。
さっきまでは程よく怖がる程度だったのだが……やっぱり子どもの幽霊絡みの話には並々ならぬものを感じるのか。
「おい、そのゆっくり、先輩の所に預けてきたらどうだ?すごく怖がってるみたいだし。」
と彼女の同級生が言うと、
「ゆ!やだよ、おじさん!れいむはおかあさんといっしょにいたいよ!!!」
と言い出す。
「そうは言っても怖いだろ、お前。先輩ゆっくり好きだから優しいぞ。」
「だいじょうぶだよ!だってれいむおねえさんだもん!!!」
それを聞いたら息子はまた怒っちゃうだろうな、と彼女は思った。
「『お前だー!』……って、お前らちょっと怖がれよー!」
聞いたような九十九話目が終わって、彼女の順番になった。
「私の番か。……うーん……。」
栄誉あるトリだというのに、彼女はすでに話せる怪談のすべてを喋ってしまった。後は実体験しかないが、話の背景が重すぎるし、れいむにも悪い。そんなとき、横から声がした。
「ゆ、最後はれいむに話させてね!」
れいむからのまさかの助け船。
「れいむ、何か話せるの?」
「うん!れいむに任せてね!百物語の最後を締め括る一世一代の怪談を話してあげるよ!」
いつに無く饒舌なれいむを見て、張り切ってるな、と彼女は思った。
れいむは行灯の前に跳ねていき、話し始めた。
「じゃ、話すよ!『ゆっくりの首』!」
「ちゃんちゃん♪」
れいむが話し終わると、その場にいた全員が騒然とした。
「……驚いたな。さっきのは怖かった。」
彼女も驚いた。まさか饅頭のれいむがこんな話をするなんて……。彼女は目頭を押さえた。ちょっと感動したのだ。
「怖かったよ。ありがと、れい…」
あれ?
「れいむ?」
さっきまで行灯の近くにいたれいむがいない。
そして、彼女は気付いた。
「……ねぇ、さっき聞いた『ゆっくりの首』ってどんな話だったっけ?」
誰もが、「何を言ってるんだ?」というような顔をして、すぐに首をひねり始めた。
「そういや、どんな話だったかな……?」
「よく考えたら、なんで怖い話聞いたのに俺たち興奮してんだ?」
襖が開いた。
「お。お前ら、終わったか?」
そう話す先輩の後ろから団扇を扇ぐきめぇ丸と、
「れ、れいむ……?」
さっきまでここにいた筈のれいむがあらわれた。
「おかあさん、ごめんね!!こわかったからきめぇまるとあそんでたよ!!!」
「い、いつから?」
「えーっと、はちかいめのおかあさんのばんがきたとき!」
八十話目から?そんな馬鹿な。じゃあ、それまで私の側にいたのは……。
「何変な顔してんだ、お前ら。……さては」
先輩がそう言っているとき、彼女は青い紙越しに、無風にも関わらず行灯の火が揺れるのを見た。
「青行灯のお出ましか。」
まるで計ったかのように、行灯の灯が消えた。
「おお、こわいこわい……。」
>>96でも弁明してたけど、今回、今まで以上に愛でてません。
あと、微妙にゆっくり怪談「こんどは」と繋がってたり。
お目汚し、申し訳ありませんでした。
by.ゆっくり怪談の人
最終更新:2008年09月23日 10:21