「いいかい、あぶないからここでじっといるんだぞ…すぐもどるからな」
数分前、そう言い残し、らんは炎の中へと消えていった…
炎はらんを一瞬で呑み込み、
残されたちぇん達は呆けたように炎を見つめている。
人間にしてみれば小さな火だが、ゆっくりとってはごうごうと燃え盛る大きな炎。
パチパチと火の粉が舞う度に、らんの元へ駆け込んでいきたい衝動に駆られるが、
それを堪え、ちぇん達は言いつけ通りにじっとらんを待ち続けた…
バチィッ!
ふいに一際大きく炎が弾け、中から一つの影が飛び出してきた。
「「「らんしゃまー!!」」」
その黒い影へ駆け寄るちぇん達。
「まって…」
咄嗟にちぇん達を押し止める黒い影…らん
「いま…そこまでいくから…」
そう告げらんはゆっくりと歩んでいく。
しかしらんの姿は炎からはなれても黒い影のまま…
らんの体は完全に真っ黒に焼け焦げ、もう形でしからんとは伺いしれない。
「らんしゃまぁ…」
「だいじょうぶ…だから」
不安げに聞くちぇんにいつも通り優しく答え、笑顔を作るらん。
『ボロッ…』
次の瞬間、らんの焦げた体にヒビが入り、
尻尾がポトリと落ち、らんは叫びを上げた。
「キャストオフ!!」バリィーンッッ!!
すると一瞬にして黒焦げの体はもとのふにふにボディに。
髪はファサァッと風になびき、最後に新たな尻尾が迫り上がるようにモッフリと持ち上がった。
「ちぇぇぇんじ!スッパテンコー!」
ただし帽子は一緒に盛大に吹き飛んでしまっていたようだ…
一頻りポーズを決め終わり、らんはいそいそとスペアの帽子をかぶり、
落ちた尻尾をちぇん達の前に集めた。
「さぁちぇん、やきいもがやけたぞ!」
「わかるよー!」「やきいもさん♪」
「みんなでせーの、するよー!」
「「「せーの、」」」ビリビリビリ…
ちぇん達が端を加え引っ張ると回りの新聞紙が破け、良い具合に焼けたのさつまいもが現れた。
らんが一つパカッと割ると中身は見事な黄金色でホクホクの湯気が立ち上った。
らんは尻尾の部分に芋を付け自ら焚き火に入る事でこの絶妙な焼き加減を実現したのだ。
「おいしそーだよー!」「いいにおいー♪」「わかるよー!らんしゃまのやきいもおいしいんだよー!」
「さあ、きをつけておたべなさい!」
「「「いただきます!」」」
「むーしゃむーしゃ!ほくほくー!」
「はーふはーふ…あまーい♪」
「ほふっ!あっついよー!」
「ほらふーふーしてあげよう、ふー…ふー…」
「ありがとーらんしゃま!むーしゃむーしゃ、しあわせー♪」
らんの焼き芋―、それは大地の恵みと、
ちぇんのためならたとえ火の中水の中の精神が一体となった田舎の秋の風物詩である。
『『しあわせー♪♪』』
おしまい。
~おまけ
「なぁらんや…」
「なんだい、おじさん?」
「お前さん…大丈夫なのかい?一々焼き芋のたびに…」
「おじさん!らんしゃまはすごいんだよー!」
「そういう問題なのかい?」
「よい子のみんなはまねしたらだめだよ!」
「いやできないからね、それ」
by.とりあえずパフェ
最終更新:2009年09月22日 08:25