不滅の玩具

 今までに無い設定と思いますが、少し寂しい話かも
 チル裏で教えてもらった、某玩具販促アニメの影響をもろに受けてます


 副部長がどうにも最近怒らなくなった。

 以前は部長以上にカミナリを落としていて、それが幹部としてのポーズの厳しさではなく、
地で怒りっぽいことは皆解っていたから恐れをなしていたのに、最近は表情にも出さなく
なったので、却って部員達は集中力を欠き始めていた。
 殴らないどころか、怒鳴りつける事さえしない。
 変に慣れた時にまた怒られては敵わないと、部員達の何人かはその穏やかになった
原因を探ることにした。
 ――恋人でもできた?
 これは、同学年の4年生達に聞いたが、そんな素振りは全く無いという。
 ――心穏やかになるよな音楽でも聴き始めたか?
 そんな柄ではない。
 ――何か動物でも飼い始めたか?
 だとすると、すぐに家に帰りたがるはずだが、いつも練習後部室に残って、机に向かい
デスクワークをしている。

 そう―――部室に、最後まで残ったり、一人でいる事が多いのだ。

 戸締りは一年生の仕事なので、最初は迷惑そうにしている者も多かったが、すぐにそれ
に気づき、自ら戸締りを引き受けて、他の者を帰してすらいる。

 皆が帰った後、一人で何かしている。



 早速その日の練習後、変える振りをして、マネージャーと3年筆頭が外の木に登り、窓から
覗き込む事になった。

 副部長は一人でノートに何かを書き連ねている。
 恐らくは課題だろう。家でやればいいものを、いつまでも何を残っているのかとイライラしていたら、
立ち上がり、一人でコーヒーを入れて席に着いた。
 周りをキョロキョロと見回しているが、背後の外の木の上のマネージャー達には気がついていない。

 と―――――恐る恐る、副部長は机の引き出しを開け、何かを二つ取り出した。


 少女の生首二つである。


 ソフトボール大の、愛嬌こそあれ、恐ろしく憎たらしい、黒髪にリボンの自信満々な笑顔のが右に、
金髪に魔法使いのような帽子を被った、眉をしかめた方を左に。
 幾分、部員には見せたことも無い項垂れた様子で、副部長は、突然生首二つに話しかけた。

 「はあ・・・・・私、また留め三だしちゃったよ・・・・・・・」

 木の上で、夕闇迫る中、彼女とマネージャーは顔を合わせた。

 「的中率、何でこうも落ちちゃうかねえ………そりゃ実習で一週間開けた事はあったけどさ。こんなに
  長く・・・・いや、そりゃ努力は足りないのは解るけど」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 「2年はそこそこ平均的に上がってきてるけど、肝心の3年が止まり気味ね。来年からどうするつもりかしら」

 狭い部室で、机の上の小さな憎たらしい生首二つに――――これを隠し持っているというだけでもアレなのに、
熱心に語りかけ、愚痴っている副部長
 マネージャーは枝から落ちそうになる所を、何とか彼女にしがみついてバランスをとっている。
 だが、結果として、大きく枝を折り、バサバサと不自然な音が響いたのだった。
 副部長は振り返ってこちらを見る。
 驚いてはいたが、その眼は穏やかに見えた。
 だが、半眼で奥底には怒りが渦巻いているのは解った。



 逃げるわけにも行かず、彼女とマネージャーは、部室に入ると、机の前で正座して、まずは謝った。
 副部長は、生首二つをしまいもせずに、足を組んで二人を見下ろしている。いつもなら肘鉄を食らわされてる
所なので、やはり丸くなっている。
 が、正直、机の二つの方が気になる。
 どこかで見覚えがあった。

 「すみませんでした・・・・・・・・・・・・・・」
 「出来心・・・・・・・・・・です」
 「この事は、もう誰にも言いませんから・・・・・・・・」

 副部長はあらかたの言い訳を無言で聞き終わったあと、


 「感心しないな。覗き見なんてこそこそした真似をする奴はこの部にいる必要があると思うか?」


 重々しく言った―――が、その時!

   _人人人人人人人人人人人人人人人_
  >  ・・・・ ゆっくりしていってねー!  <
   ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄

 声は、机の上から聞こえた。
 かなり元気の無い声だったが・・・・・・・

 「えっ?」
 「ちょ・・・・こら あんた達やめn  _人人人人人人人人人人人人人人人_
                    >  ・・・・ ゆっくりしていってねー!  <
                     ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄

 どうも、副部長の声に反応して、明らかに、生首ふたつが 「ゆっくりしていってね」 と喋っている様子だ。
 慌てふためき、黙る様に言う副部長の声に反応して、また 「ゆっくりしていってね」を繰り返す。
 マネージャーは、気がついたように顔を上げて言った。

 「それ・・・・『ゆっくりしていってね!!!』ですか?」
 「――――――よく知ってたね」

 副部長は、今度こそ怒りの無い、穏やかな、しかし寂しげな笑顔を見せた。

 「何だっけ?」
 「新潟県の伝統工芸品だよ」


 ―――そういえば、一度ブームになったことがあった。


 モチーフが謎の、2対のこの様に小憎たらしい子どもの様な2つの生首が、向かい合った人間の音声に
反応して、「ゆっくりしていってね!!!」と元気よく発音する。
 起源は、室町時代に発すると言われているが、現在のスタイルが決まったのは戦後間もない頃からだと言う。
 その何だかんだ言っても愛くるしい見た目と、材質は不明だが、ぷにぷにした感触――――何より、この意味不明
な台詞が――――対話していると一種のセラピー効果があるとかないとかで話題となり、大量に出回り、そこら辺で
見せられたのが、確か5年ほど前。
 セラピー効果は、どうやら本当だった様子。
 もう、懐かしいの域に入ってしまっていたのか。

 「懐かしいですね」
 「・・・・・・・・やっぱりそう思うよね」

 副部長はまだ笑っていたが―――――その顔全体に貼り付けられているのは、「哀」
 「ゆっくりしていってね」2体を両手で抱えて、もうとっぷり暮れかけている窓の外を寂しげに見やる。

 「私は、日本一の『ゆっくりしていってね!!!』の生産地の湯栗村の生まれでね」
 (とってつけたような地名だなあ・・・・・)
 「とってつけたような地名だろう? でも、私は『ゆっくりしていってね!!!』と共に生まれ育ったんだ」
 「だから・・・・・こうしてこっそり部室にまで持ってきて?」
 「・・・・・・・・・・・・こいつら、最後なんだ」

 まるで、生物の様に言っている。

 「御祭りの跡地は荒れるだろう? 都会でブームになった頃、私は転校して東京に来ていたけど・・・・・・
  そりゃ嬉しかったさ。こいつらに遠くの地でまた会えて」
 「でも・・・・・・・」
 「いい事ばかりではなかった」

 流行ったと同時に訪れたのは―――大量生産と大量の投棄。
 勿論、本物も流通していたし、それぞれオリジナリティ溢れるものも流行ったが、中には目を覆いたくなる模造品も
あった事は確か。
 公園や道端で、大量の汚れた「ゆっくりしていってね!!!」が見るも無残に笑顔のまま捨てられているのを
見た時には――――正直心が痛んだ。
 人間に近い容姿だから、というだけではない。

 「もう――――私の村では、職人が殆どいなくなってしまったんだ。色々辛くなったらしい」
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 「私のお爺ちゃんもそうだったんだけど、数年前に引退して、これが、最後の一個だったんだよ」
 「跡を継ぐとかは・・・・・・」
 「私にはその資格は無い」

 副部長は笑いながら、それでも下を向きつつ言った。

 「私は、『ゆっくりしていってね!!!』の声がもう聞こえなくなったんだ」
 「・・・・・難聴とかそういう?」
 「違う。 上手く言えないが、『心の声』って奴かな?」
 「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
 「ああ、やっぱりそういう目で見るよね。自分でも解ってる。――――だけど、本当なんだ。湯栗村出身の奴なら、
  大体はそれがそれができたんだ」


 ――聞こえる、 というより、 感じるもの。
    工芸品とは言え――――確かに、語りかけてくるものがあった。確かにだ。

 それも、東京に来て、聞こえなくなった。


 「いや、自分から耳を閉ざして、聞く能力みたいなものを潰しちゃったのよ」
 「・・・・・・・・・無理もないです」
 「あれだけ、大量に捨てられてたら、さぞかし辛い声が聞こえたんですね・・・・・・」

 祖父が引退した記念に――――最後の作品の一部を送ってくれた。
 もう、心の声は聞こえなかったが、それでも、懐かしさに勝てず――――副部長は、ずっと「ゆっくりしていってね!!!」と
会話し続ける日々を過ごしてしまった。
 あらためて、その「ゆっくりしていってね!!!」を見ると――――目がどこかうつろである。

 「そろそろ『寿命』なんですね」
 「うん・・・・・・・・・いつまでもこの台詞は、言えない。 でも、話かけるたび、こいつらは応えてくれた。でも、その
  役目ももう終わる」

 静かに、副部長は2体を机の上に置いて、彼女とマネージャに並んで眺めた。

 「こうして見ると、やっぱりかわいいですね」
 「ムカつくけど、本当に・・・・・ね」
 「あんた達、最高よ」

 軽く肩を震わせて、反応できるくらい大きな声で、副部長は言った。


 「いつも、ありがとうね!!!」


 その時――――――とても小さいが、奇跡が起こったかもしれなかった。



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 2体は―――翌日に、機能を終え、もう台詞を発せられなくなったらしい。


 副部長は、その日からまたすぐ怒るようになった。


 全て、また元通りになっただけだ。
 そんなある日―――――


 「お疲れ――――」


 暫くインターンシップで顔を出せなかった部長だった。


 「お土産だよ」
 「徳島に行ったんでしたっけ?」


 少し重そうな箱を開けると・・・・・


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 「おお、天然物ですね!!! 台詞もちょっと違うし、かわいい胴体まで!!」
 「温暖化の影響で、一時は不作だったらしいけど、四国の山じゃまだまだ採れるみたい」
 「養殖は難しいからねえ」


 副部長は名残惜しそうにカタログを見ている。


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│      `ーr=ゝ、____ハ、__,.イ > しね!!!< 'r-- 'i    ̄ヽ,_ノ   \5000      .....│
│       ヽ__/´   `ー´ ̄^Y^Y^Y^Y^Y^ ̄ ヽ二ノ                     ....│
│                                                   .....│
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 「やっぱり5000円は高いよなあ。外国産は・・・・・・・」
 「しかも、『ゆっくりしね』だしなあ。まったくロシア人どもは………」
 「へえmあれ苦手なんだ?」
 「解る解る」




 卒業後

 副部長は結局実家に帰って、一から職人の修行をし、能力を復帰させて跡を継ぐことになり、マネージャーと
彼女は、九州へ行ってダイビングの訓練を受け―――――今では深海に潜り、天然の「ゆっくりしていってね!!!」を
採掘する毎日です

 色々ありますが、まだまだ天然物は海や農村で収穫できる上、需要が在るようです

  • ゆっくりバトルの世界大会やら嘘死亡予告やらが頭を駆け巡った -- 名無しさん (2009-11-06 12:11:45)
  • チルノの裏でも出てたけどこの動画を見とくとより楽しめるかも?
    ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm5365262 -- 名無しさん (2009-11-06 17:07:23)
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最終更新:2009年11月06日 17:07