(ああ、幸せとは、春の訪れによる雪溶け水よりも儚きものよ)
ジリジリと距離を詰め行くソレを目の前に、れいむは一つ、世の理を感じた。
(思えば、色々あった。拳銃を喉まで挿し込まれた相手と時間を共にしたり、その相手に浮気をされた…)
れいむが初めて彼女と出会ったのは、今から10年前の事。
彼女はウェーブがかったブロンドの髪を引き下げ、自分の目元をサングラスで隠し、…れいむの喉奥に拳銃をつきつけて現れた。
互いに互いを牽制し、やがては事なきことを得るが、それきり二人が自身からそれぞれに干渉しあう事は無かった。
…事件から1年後、二人は再び対面する。
何も他意があるわけではない。…独自、たまたま海辺を散歩していた時に、偶然出会ったのだ。
当然、始め二人はそれぞれを警戒する。
されども個々に探りを入れている内、やがて彼女ら各自で危惧が及ばない事を悟り、少しずつ寄り添い始める。
初めは、挨拶から。そして会話、やがては擦り寄いあってゆく。
ラズベリーの果実を頬いっぱい齧った様な、えくぼの窪む甘酸っぱさを、れいむは確かに感じていた。
(夕焼けに日照るブロンドの髪の毛が、一層彼女をいとおしく感じさせた)
翌年に、れいむが彼女の浮気現場を目撃してしまう事も、今はわからない。
(色々とあった)
れいむはどこか胸苦しさを憶え、解消しようと息を吸い込もうとする。
しかし、上手く行えない。
まるで肺につっかえの板が挟まり、酸素の運搬を妨害しているかの様に、れいむの体は呼吸を拒否しているのだ。
(そうか。考えれば、当然だな。…思い出が血液中を駆け巡る。
試合直後の記憶も、やおら、すぐ昨日の出来事の様に。すなわち、走馬灯なのだ)
僅差で負けた、地区大会決勝での熱気。
家に帰宅しても、何をしても不満や後悔を拭い切れず、呆然自失とした自分をれいむは間近で見ている。
呼び掛けても反応は無い。…当然だ。
れいむには今の状況が把握出来ていた。
(…れいむは、これから、死ぬのだろう。生きていたとしても、日常生活に支障が出て、最悪自ら命を断つ事だろう。
避けられぬ運命なのだ。四肢が機能が止まり、退職金と言わんばかりに、胸を焦がすほど戻りたいと願った風景に立っている事が何よりの証拠だ)
れいむはまなじりを決する。
先程まで視野にしていた景色は遥か背の方向まで遠のいてしまい、また新たな光景がれいむを包む。
されどもながら動揺は微塵にも見受けられない…。
所詮、れいむは、受け入れたのだ。
「しゃあねえ」
この時れいむは始めて声を発するのだが、本人はおろか、間際のソレすら声色に気が付かない。
「腹を据えてゆっくり走馬灯鑑賞といくか」
迫り来るソレを眼前にしてもれいむはただ安静で、…最後、何かに身を委ねた。
打ち切り
目にゴミがと
覚悟決めての作者さん、すみませんでした。
早苗ちゃんの人
最終更新:2011年04月28日 15:23