好奇心は猫を殺す、肝に銘じておこう。しかし我が探究の志、未だ潰えず。
「ただいま戻った」
「おかええり~」
『岡江映里』
忘れえぬ私の初恋の女性の名を何故まりさが?
「まりさ」
「かんでないよ」
勘でない…やはり彼らにはまだ我々の知りえぬ秘めた能力が隠されているようだ。
しかしそこはいずれ解明していくとしよう、何事も基本からだ。
「時にまりさ、君達ゆっくりの生活行動が『ままごと』と揶喩される事がある。
むしろその身体構造でままごとと見えるなら君達が十分に文化的な生活を送っている証拠であると私は思う。
習慣の違いとは人間界でもさして珍しい事でもないが、さしあたって思うに君達の言動や嗜好がそのようにイメージされる要因になっているのではないか、と推察した。
が、私は君達のその言動から非常にユーモラスでコミカルな印象を受けている。
むしろ無心にもそもそと動いている方がただひたすらに不気味な存在になっていたと思われる」
「多分ほめられたからてれるね…ゆふふ」
「そしてもう一つの要因は視覚情報、つまりは見た目にあると考えた。
「同じ見た目なのに親子とか家族とかないわ」…なる意見も耳にする。しかし妙な話だとは思わないか?それは大抵の動物にも当てはまる事ではないか。
しかし面目ない話ではあるが、正直の所私も君達ゆっくりが皆同じに見えてしまう事も確か。
そこで問いたい、君達自身互いをどのように認識しているのだ?一般的には装飾品による認識という説が浸透しているが」
「は?」
「つまりまりさならば帽子、れいむならばリボンに個々の微妙な違いがあるのではないかという…」
「そんなのわかればデートでくろうしないよ!」
『「髪型変えたのになにもないなんて…私の事なんかどうでもいいのね」』
違う、違うんだ映里くん、私は君でさえあればそれで良かった。
しかし君がそれだけで安心出来なかったのを私は分かることが出来なかった…
「…まりさ、君の言う通りだ」
「わかればいいんだよ!(なんでないてんのかな?)」
さらば初恋、私は私の道を行く。
※・※
市内某大型スーパー・迷子センター
「それでは検証を始めよう、と思うのだが…」
「ゆ!」「ゆ!」「ゆ!」「ゆ!」「ゆ!」「ゅ!」「ゆ!」
「おちびちゃんがいっぱいだね!…そろそろまりさも自分のかていをもちたいよ」
「善処しよう」
ふむ?一見すると一番小さな者以外はどのゆっくり達も皆同様にほとんど同じ大きさで見分けがつかない…
性格や言葉使い…これは一目でわからない。
ならば匂い…体臭が無いせいかあまり差異が無い。
もしや声が…私にはどのゆっくりが何を喋っているかがすでに認識できていない。
―あ、すいません。ちょっと失礼します
「ん、あぁこれは失敬」
―お、いたかちび
「ゆっ!おにーしゃん!」「ゆん!」
―勝手に歩き回りおって、ん?隣のは妹まりさか。アイツも来てるのか?
「きてるのじぇ!あとねーちんとれーむとちぇーにらん!」
―お前見ない内にずいぶん感じ変わったな、つか買い物に総動員かよ
「・・・・」
あの青年、この迷子センターにいる多くのれいむの中からなんの迷いも無く自分の連れを見分けた。
やはり個人を判断する明確な違いが存在するのか?しかしそれは一体…
「失礼だが、よろしいだろうか?」
―はい?なんすか?
「何故そのれいむが自分の連れと迷わず判断出来たのだ?
出来れば一体どの辺りで判断したのか詳しく、現在ゆっくりの認識についての検証中なもので」
―また、ずいぶんメンドそうな…まぁこないだ風呂に入れた時からリボンが右にずれたまんまなんで
なるほど生活を共にしているからこその判断材料、非常に分かりやすい理由だ。
しかしそれが理由ではない事はまりさが証言していた…残念ながら及ばずか。
―あと顔つき…ですかね?まぁほとんど慣れっスけど
「顔つき?」
―このまりさとこのまりさなら目の間隔とかだいぶわかりやすいかと
「ん……うむ、確かに言われてみれば片方のまりさの方が目の間隔が狭い、それに目の色も微妙に違う。
こちらは髪の癖が内側に向いていてたれ目、こっちは帽子の被りが浅くつり目気味であるな」
「おにいさんさっきからきづいてなかったの?!」
「面目ない」
ここまで個々の違いがハッキリとしているとは思わなかった!通常でも十分に見分けられるレベルだ。
理由としてはなんて事は無い、我々と同じ理由。当然と言えば当然の事。
植物ですら個体の違いは表れている、なんら不思議な事は無い。だが何故かその当然すら認識できていないとは自分の意識の甘さを痛感する。
私は昔からそういった違い、変化に疎かった。だからあの時も…
「…貴重な意見に感謝する。ありがとう」
―いえ…では (な、泣くほど大層な事じゃないような…)
さらば初恋…
報告
我々は今一度隣人を見つめ直さねばならない。己として。個として。
我々は情報だけで生きているのではない、されど情報を認識してもらいたいのだ。
「では、まりさシャッフルだ」
「らじゃー」
『『『しゃっふるふるふる♪…さあ!!』』』
「・・・・・・・・」バタンッ!
「わー、けむりふいちゃった」
「だらしねぇな」「ねー」「けむっ」
「まだまだだね」「のみいく?」「いいねぇ」…
追記
数とは一種の恐怖である。見分けがついたとしても、ほぼ同じモノの集合体とは様々な器官を麻痺させる。
それが一つの種族の認識の限界。
それでもなお彼等が平然と日常を送っているのは、そこがすでに異国であるからだ。
我々が介入せずとも、この世は彼等の世界なのだ。完全に踏み入る事は何者にも叶わない。
以上。
by.とりあえずパフェ
ぬいぐるみ買いに行った時あんな悩むとは思わなかった、がモデル
最終更新:2009年11月23日 18:29