大図書館のムラサキもやし

SSが一番書き進むタイミングってば現実逃避ですよね!
以下のことに注意しながらお読みください。
  • 東方キャラ登場注意
  • 特に約一名一般的なイメージと掛け離れてるから注意



気が付いたら、この大きな図書館の小さな片隅に、一匹のよく分からない球形が存在していた。

『むきゅー』

とか鳴き声のようなものを発している。

「おー」

こんな珍しい動物?或いは妖怪?は見たことなかったので、思わず感嘆の声を漏らしてしまう。

「これは世紀の大発見なのかもしれませんよー」

見たことない珍しいなま物、彼女の敏感な好奇心を動かすにはそれだけで十分だった。
パタパタ近づいて、逃がさないよう“それ”が存在している本棚と対峙するように囲い込む。

『むきゅー』

恐れているのか、それとも向こうもこちらに好奇心を抱いているのか、
その眼は無機質無感動、
ジト眼でこちらを見つめているだけなので、その感情はとても読みとれないが、
また“それ”はか細い声でそう鳴いた。

「ほほう、魔界の住人であるこのボクを目の前にして逃げ出さないとは大した度胸なのです。
なかなか見どころのある下等生物なのですよー」

実際に近づいてみると好奇心は大きくなるばかり。
柔らかそうなほっぺ、
何を考えているのかさっぱり分からないジト眼、
そして、1頭身の癖に生意気にも中々立派な、月の形のアクセサリーの付いたピンクのZUN帽を被っている。

あれ‥、この帽子どこかで見たことあるような。

「あー、それ、パチュリー様と同じ形の帽子なのですよー!サイズはちっこいけど」
『むきゅー』

間違いない。球形の“それ”が被っているのは、自分が仕えている魔女と同じものだ。
よく見ると、“それ”の髪の毛もその魔女と同じ紫色で、
その髪型、顔を囲むように垂れ下がった二本のおさげも、その魔女と同じものだった。

「おおおお、こいつはすげーのです。笑う角には瓜二つなのです」
『むきゅー』

まるで、自分の主人の生首をデフォルメ化して床に置きっぱなしにしたような存在。
彼女は驚き戦きながらも、更なる好奇心に駆られ、自身の細長い指先を“それ”に向かって突き出してみた。

『むきゅー(がじり)』
「ぎにゃぁぁッー!いッてぇッッーなのですッー!」

当然のように噛まれた。

頭しかない癖に、いや、頭しかないからか、思いのほかそれの噛む力は強く、
彼女は瞳に僅かな涙を溜めながら、ぶんぶん“それ”が噛みついた細腕を振りまわした。

「このやろー、放すのですーッ!ボクは美味しくなんかないのですーッ!」
『(がじがじ)』
「悪魔を食べるなんて恐ろしいことなのですよッー!黒魔術の生贄になりたくなければ‥、ぎひぃーッッ!痛いから早く放すのですッー!!」
『(がじが‥ぐったり)』
「にぁぁーっ!痛い‥、 あれ‥? ボクの右手が放たれてフリーダムなのです」

何の予兆もなく、“それ”は彼女の右手を噛み放した。
あまりに呆気ない幕切れに、彼女はきょとんとしながら、彼女の右手から離れた“それ”に恐る恐る近づいて様子を見てみる。

『む、むきゅー(ぜぇはぁ、ぜぇはぁ)』
「ば、バタンキューしているのです‥」

ジト眼なのは相変わらずだが、それでも疲労困憊という風に、
“それ”は丸い身体全身から汗のような液体を流し、
その小さな口は、ネジの切れかけたブリキ人形が如く儚く苦しそうな動きで呼吸を続けている。
どうやら、彼女の右手を放したのも、“気が済んだ”からではなく“体力的に限界だったから”だったようだ。

「ぷ‥」

その今にも昇天しそうな“それ”の有様に、彼女は思わず片手を口に当てて吹き出した。

「ぷ‥ハハアハハハハ!アホなのです!自分で噛んどいてこんなに早く力尽きるなんて、虚弱体質にも程があるのですぅー!」
『みゅ、みゅきゅ~』
「貧弱を絵に描いたような饅頭野郎なのですぅ!そんな所までパチュリー様にそっくりなのですよ!ケャハハハハハハハ!!」
『むきゅ~』
「そうですー!体力0の喘息体質の癖に無理してボクに歯向かうからそういうことになるのですよぅー!
 無理せず本に挟まれて閉じこもっていれば良いのに、無理に身体を動かして自滅してやがるのですぅ!」
『むきゅきゅ‥』
「体力に自信ないくせに萃夢想、緋想天、非想天則、弾幕格闘ゲー全部出席なんて無茶にも程があったのですよー!
 そんなんだから一時期オワタ四天王として名を馳せることになったのですぅ!
 少しはキャラの適材適所ってモンを考えろっつぅんですよぅ!このムラサキもやしが!ケャハハハハアッハ!!!」



「ねぇ、貴女はいったいそこで何を一人愉快に叫んでいるの?」
「!?」



背後から突然襲ってきたものは、
聞き覚えのある声、というより、彼女の日常生活では一番聴くことの多い声。
彼女は背中を冷たく末恐ろしい何かが全力疾走するのを感じながらも、ゆっくりと後ろを振り向いた。

「パ、パ‥、パチュリー様‥?」

そこに立っていたのは、悪魔である彼女を使役している紅魔館の七曜の魔女、パチュリー・ノーレッジ。

「ごきげんよう、小悪魔。命じた筈の図書整理もせず、こんな所で貴女は何をしているのかしらね?」
「ち、ち、違うのですよぅ?
 ボクはパチュリー様の命令通り図書館をパタパタ飛び回って整理すべき本棚を探しまわっていたのですよぅ。
 そしたら、館内に怪しい球形の不思議生物がですねぇ?」
「不思議生物が、どうしたの?」
「こ、こいつなのですぅ!決してパチュリー様の悪口を言っていた訳ではなくこいつの‥!」

そう言いながら小悪魔は振り向いて、例の球形生物を主人に差し出そうと見まわしてみるが。


そんな生物は、既に影も形も居なかった。


「あ、あの野郎!逃げやがったのですッー!虚弱ムラサキもやしの癖に回復だけは一挙前に早い‥、あ‥!」

しまった、というように、小悪魔は慌てて自身の口を両手で閉ざす、が、
覆水盆に返らず、どんなに後悔しようとも放った言葉は口を離れて遠く魔女の耳の中、
既に手遅れにも程があった。

「だからさ、小悪魔。どうしてその不快な口をさっさと閉じないのかな?」
「ち、違うのですよぅ!!さっきのはパチュリー様に言ったのではなくてですねぇ?
 パチュリー様そっくりのムラサキ饅頭に‥」
「ふぅ‥もういいわ」

魔女は失望したように深くため息をつくと、無言で片手に持った本を高く掲げた。

「ま、待ってくださいよぅ!ボクは、小悪魔は決して嘘はついてないのですぅ!話せば分かりあえるのですぅ!」

だがしかし、小悪魔の言葉も空しく、魔女は困ったような笑顔で首を振る。

「どうやら貴女に対する調教が足りなかったみたいね」


日符「ロイヤルフレア」


「え、エクストラのスペルとは、あんまりなのですぅぅぅ!!!!!」



何かが焦げるような香ばしい匂いで包まれる大図書館。
惨劇から隠れるように遠くの本棚の隅に退避していた“それ”は、
その光景を呆れるような眼で見つめながら、

『むきゅー‥(本たくさんだから気に入っていたのだけど、引っ越しした方がいいかなぁ)』

とか、そんなことを思っていたとか、いないとか。


 ~終わろ~


後書き:ボクッ娘って良いよね!

書いた人:かぐもこジャスティス

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最終更新:2009年11月25日 21:22