【2009年冬企画】どうする? おまえの相手は世界一強い饅頭だぞ(SS750)

 ※一部悪い存在が登場します




 星を壊したらしい、という逸話が、今一解らなかった。

 ある国家をいくつもに分断させ、内乱を引き起こしたとか(今でも終結していないらしい)は割かし有名な話で、
それを誇張して「星を壊した」という事になったのかもしれないが、彼は、本人に会ったらまずその事を聞こうと
思っていた。

 地下も40階。日の光は想像も出来ない場所に、その部屋はあった。
 核シェルターと同じレベルの強度と、分厚過ぎる窓。これだけでも違和感のはずだが、彼が見とれたのは、
その牢獄の中央にある「物」だった。
 人ではなく、「物」だ。綺麗な立方体に、鋼鉄が恐らく幾層にも固められているのだろう、鋼鉄の箱がある。
 更に―――――古今東西を問わず、節操無しともいえる状況で、主に東洋の教会で見られるものを中心に、
魔除に使われるアイテムが四方に付着されている

 「これに意味があるとは我々も思わなんだ」

 流石に察して、所長が説明をいれる

 「ただ――――いかなる方法でも、閉じ込めて置けなかった所を、困った時の神頼みという奴かな。カソリックで
  の物だけじゃ足りないと最初は思って、手当たり次第に貼ったら、いつの間にかああなった。
  原理は繰り返し言うが、解らん。重要なのは―――――」

 帽子を目深に被り直し

 「あの状態をキープし続けなければ、あいつに逃げられるという事だ」
 「本当にあの状態で―――――」



 あの立方体の中に、囚人が入っているというのだろうか?



 「いや、それより………」


 小さすぎる。
 塊は、彼の一抱えほどもない。
 幼児どころか、赤子のような小ささという事になる。

 「じゃあ、頼む」
 「はっ…………………」

 監獄の前にしつらえられた粗末な椅子に腰を下ろし、所長がまるで逃げるように出て行くのを見送った。
 そして、見計らったように―――――明らかに、立方体から声がした


 「 中々勇気があるね!!!」


 何しろ、相手は「世界最強の饅頭」である


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 ストレスだった。
 仕事柄、想像を絶する世界と価値観に生きる人間に付き合わされることはあるし、多くの者は本当に不愉快
極まりない。どこかで自分の感覚を遮断して、自分を機械と考えて付き合わねばならないこともあった。
 今回もそれを覚悟した。
 何せ、天才の囚人に協力を仰いで、迷宮入りしかけの事件を解決しようというのだ。
 だが、そうはできなかった。
 調書を持って、今日も地下牢の前に立つ。


 「また来たの?そんなにも私が忘れられないの? ゆっくりしていってね!!!」


 まず声が、パソコンのSOFTALKとかいう読み上げ用のフリーソフトに似た、棒読みの緊張感の無い声で、本人
が喋れないため、本当にこのソフトを使っているのかと考えていたが、どうやら本当にああいう声らしい。この時点で
ふざけている。


 大体最初から可笑しかった。



 「君が来る事は知っていたよ。まあ、そこにかけてゆっくりしていきたまえ、ブライアン・ウォザースプーン君」
 「あ、ケネス・トランストンです」
 「ケネス君。かけたまえ 刑事の仕事も楽じゃないね」


 既に座っている


 「さて………何でも質問に答えたいんだけど、やっぱり信頼関係を築きたいしね!!! 先に色々質問してみてね!!!」


 おそらく余程暇で、話し相手が欲しいのだろう。こちらも確かに聞きたい事があった。


 「れいむさん、でよろしいですね」
 「いかにも!!!」
 「その…………人を、文字通り食べたって本当なんですか? そして、 『星を破壊した』とは?」


 この刑務所に入った様々な理由や、捕獲時の事は聞いている。


 「本当だよ!!!  数え切れないほどの人間を食べてきたね!!! ある時はサンドウィッチ、ある時はオムレツにはさみ、
  ある時はオニギリの具、御饂飩の中に入れたこともあったね!!! 星を破壊したってのは、まあ――――そういう事だよ…」


 何かに挟んでばかりだ。今一残虐さが伝わってこない。 最後ははぐらかされたし。


 「私が手をかけて食べた人間は80人いや、900人。――――2000人はいったかな? ………言い過ぎた。500人」


 適当すぎる。最後は流石に小さな声になっていた。


 「ケネス君、恐れをなしちゃったかな?」
 「いえ………あなたが今までに犯した悪行はいくつか聞いておりましたので………」
 「ゆふふふ………賢明だね。事前学習は何かと闘う時の基本だよ」
 「私は、あなたと戦うために面会に来たのではありません。協力をあおぎにきたのです」


 そう――――懲役にすれば4000年。正確な内容もわからず、ただ、死刑にする事自体が「不可能」なため、そんな今でも
何故だか余裕で生き続ける「悪の天才」に、教えを乞うしかない


 「まあ、協力は惜しまないよ。私は悪党だけど、私以外の悪い奴は大体嫌いだからね。 ただ、もう少し世間話につきあって
  もらおうか」
 「ありがとうございます。しかし、私以外には話し相手なら沢山居る事でしょう」
 「いや、この刑務所の奴等は、怖がって近寄ろうともしないよ。別に食事の差し入れは私には必要ないからね!!!ちなみに、
  君の様に私に仕事の依頼に来た奴は星の数ほどいたね!!!」
 「そうですか………」
 「君で21人目だよ!!!」


 意外と少ない


 「私に面会した者の内、6人は原因不明の死を遂げ、4人は現在精神病院で治療を受け、3人は行方不明。――――残りは
  どうなったと思う?」
 「ど………どうなったんですか?」
 「――――知りたいかえ?」



  ――――― 今も元気に暮らしているんだよ!!!


 「一応ね」


 だったら、それを2番目あたりに言って、最後に残り6人が全員死んだという順番で言えばいいのに………
 その後、好きな音楽はDir en greyとSlipKnoTだと解ったが、これにはあまり驚かなかった。ケネスは少し自分の事も話そうと思い、
simple plan や SUM41の話をしたが、一蹴された。
 1時間ほど無駄話を続けてから、一呼吸あくと、彼女? は言った


 「犯人だったら、マックマスター大学の用務員室に行ってみるといいよ」
 「えっ?」
 「大体それで解ると思う」


 ―――――実際、用務員が犯人だった


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 「れいむ」とかいう囚人の正体は、根気よく調べたがどうしても解らなかったし、紹介してくれた上司も答えてはくれなかった。
何を隠しているのかと思っていたら、本当に知らない様だった。
 おそらく、所長もそうだろう。


 「何もかも行き詰った時、誰にも知られないようにあの刑務所を尋ねるんだ。ほぼ100%事件の真相がわかる」
 「何故、こっちが質問もしていない事件の犯人を知ってるんです?あの牢の中には、何が入ってるんですか?」
 「解らんよ。私も君位の頃に教えてもらったんだ。この課の伝統みたいなものさ。ただ――――正体の解らない囚人から
  アドバイスをもらってなんて事は公表できん」
 「随分昔からいるんですね、あの人」
 「人かな?あれ」


 常に、一言こう呼ばれるという



 「世界最強の饅頭」


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 慣れた頃に聞いてみた

 「皆、れいむさんの事を『饅頭』と言いますが、本当なんですか?」
 「それ以前に、事件に行き詰ってるわけでもないのに、刑事さんがここに来るのもどうかと思うよ」

 見透かされていたか

 「饅頭というのはある意味本当だね」
 「何かの隠語なのですか?」
 「いけにえとかそういう………話はつまらないからしたくないけど、こんな小さい箱の中に、人間が入れるわけ無いだろJK」

 だったら

 「私の正体を知ろうとするのは止めた方がいいね!!! たくさんの連中がそれをやろうとして頭がおかしくなったり、色々な
  境界がなくなってしまったよ」
 「誰でも気になります」
 「別になんだっていんだけどねー  人間は、『よく解らないもの』が怖いから。何か説明がないと落ち着かないから、無理やり
  当てはめようとする。 『よく解らない』から楽しいし、『よく解らなかった』なら、それをそのまま楽しんだ方が良い場合もあるのにね!!!」

 その日、れいむは初めて翳りのある声を聞かせてくれた

 「人間は馬鹿だよ。目の前に餌をぶら下げれば、どこまでも食いついていく。周りの事なんかお構い無しにね
  おかげでこっちは困らないいし、ひもじい思いもしたことがない。 
  笑が止まらんわ。
  いや――――ひもじい思いはこっちもしたか」
 「それで、どこかの国を3つにも4つにも分けて内戦を起したり、人間を食べてしてしまったりしたんですか?」
 「まあ、良い事もやったよ。私の眷属が困っていたし、周りの人間も嫌がっていたから、結界を張って村づくりも手伝い、
  ゆっくり出来ない奴等は入れないようにしたりとかね
  人間は、まあ旨いから」

 聞くのは辛い

 「やった良い事っていうと―――――何だろうね? 一度、ちっちゃい女の子に頼まれた事があったよ寂しがってたし、勇気が欲しいって
  言ってたから、御手本になるヒーローに依頼を出した」
 「でも、子供も食べたりするんでしょ?」
 「そんな事もあったかな?無かったかな?」

 何故だろうか
 箱の中の饅頭? を、彼は幾度と無く思い描こうとしたが無理だったのに、その時何故か、妙に鮮明なイメージが頭に浮かんだ。
不気味な兎と人間の合いの子の様な商人、少女なのか年老いているのか解らない、何かとても禍々しい金髪の女性等等

 「―――――本当に悪い人なんですね」
 「人間にとってはね」

 そう――――人間にとっては。
 饅頭なのだから、饅頭の論理だと人間の国家を分断したり、500人だか900人だかを食べてしまうのはそれほど訳も無い事なのだろう。
 人間だって、動物にしている事は、生き物をあくまで平等とみなすなら取り返しがつかなさ過ぎることを十分している。
 100%の遊びで随分と殺戮を繰り返しているし、そのせいで種族自体が猛烈な勢いで絶滅したりしている。
 自分が動物の側だったら、人間を一生許せないかもしれない。いや、許せないだろう
 だったら―――――目の前にいる饅頭に、指一本触れられないが、もっと抱くべき感情はあるだろう。

 実際、怒りが無かった訳じゃない――――――


 「この話をしたがる割には、すぐにケネス君は気分を悪くするねー」
 「そりゃそうですよ」


 しかし、ケネスは気がついていた。
 本当に、心を読むような神通力のような馬鹿げたものを、この饅頭は持っているわけではないという事を。

 「今日はゆっくりできそうもないし、何かれいむの事嫌いみたいだから、帰ったほうがいいよ」
 「そうさせてもらいます」


 ――――本当の気持ちなんて解っていない


 ストレスがたまる。


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 普通の仕事の依頼もする

 「だったら、単純に床下を探しなさい。それから次男の職場も何かあるでしょ」
 「――――了解しました。ありがとうございます」
 「所で、今日は何日だっけ?」
 「12月25日?」
 「―――――――終了したでしょ?」
 「??」

 妙な怒気をこめて、れいむは箱の中から言う

 「クリスマス? 去年もやっただろ!!?」
 「はあ…………」
 「ほら、終了のお知らせしようよ」

 恐る恐る聞いた

 「クリスマス、嫌いなんですか?」
 「こんな箱の中で一人で過ごすのに好きな訳無いだろ!!!  じゃあ、ケネス君付き合ってくれるの?」

 ――――ケネスは、でかかった、歓迎の言葉を、飲み込むのに必死だった

 「お先に失礼します」
 「―――――ひとでなしー   膝枕してやるからつきあえよー」

 箱から一歩も出られないし、膝だって饅頭なら無いはずなのに…………


 「ちくしょう」


 誰もいないので、長いエレベーターの中、壁に拳を押し付け、彼は涙を飲んだ
 本当にストレスがたまる




 「何で あいつ、 あんなに一緒にいて楽しいんだ  饅頭なのに、    極悪人なのに!!!!!!」



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 そう、色々とあの饅頭は人間的過ぎる。
 人類の敵ともいえるし、一応捜査に協力はしてくれているが、それも単に暇だからに過ぎないそうで―――――
自分の事も、単なる玩具くらいにしか見ていないだろう
 実際人智を超えた存在で、闘っても勝てるわけ相手はいない。

 だから、自分はあの饅頭を憎むべきなのだと思っていた。そもそも仕事でのこうした関係だから、必要以上の感情を
持つべきではない。

 だからこそ、ストレスだった。

 「何なんだよもう!」

 しかも、会うたびに、見透かすように言ってくるのだ

 「忘れられずにまた来たの? 病みつきなの? れいむの事がわすれらないんでしょー? ねてもさめてもきになるんでしょー?
  ほれほれ、この豊満な胸の中に飛び込んでらっしゃいらっしゃいらっしゃい」

 勿論本気ではないだろう
 ――――しかし、箱どころか、物理的な壁がその前にある。



 「畜生」



 部屋に戻っては、彼は毎日泣いた。
 忘れようにも、顔を見ていないから思い出せもしない分、あの緊張感の無い棒読み声が脳内で正確に再生される。
 そう顔も―――――正体が本当に不明という事が、何故にこんなに思いをかきたてるのか
 気晴らしで見ていたTVでは、日本人の妖怪をテーマに描く漫画家が語っていた。
 ―――所謂、今まで描いた妖怪達は、実際の資料を元にはしているものの、かなりの部分が想像でおぎなっており、そもそも
その姿形を正確に見たものも多いという。
 そして、それを絵で表す場合は、自分が感じたものを書くのだそうだが、その伝説が実際に残る現地でその絵を見せたところ、
何度か通じ、理解してもらった事があるのだという。

 ならば。

 ――――その夜、数枚のスケッチに、あの間抜けな声を頭の中で再生紙しながら書き殴った



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 「ああ………… こんな感じだねえ」
 「ですか……………」

 所長、そして何人かの職員に、恥ずかしげも無く、その絵を見せてしまった。
 数種類。 いずれも自信満々に眉を吊り上げている丸みを帯びた顔の少女で、正直可愛くもなんとも無い。うざったさすら
感じる。更に何故か東洋風。
 自分でも何故こんな顔にしたのか解らなかった。

 本人に見せる気は無かった。

 絵は―――手帳に軽く折られてしまわれた。
 彼は馴れない日本酒を買い、一人呷る。


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 何故、東洋風に書いたのか―――――恐らく韓国か中国と思っていたが、日本だったらしい。あの漫画家もそうだった。

 気がつくと、彼は神社に居た。

 よく考えると昔写真で見たことがあった。

 だが、そこで掃き掃除をしていた巫女さんの服のデザインが、どこからインスパイアされたものか解らなかった。

 とにかく―――――頭部の後は、自分で描いた絵に似ていた
 顔も、あんなにふてぶてしくは無い。何故か脇の部分を露出させた意匠が理解できかかったけれど。

 何も言えずにいると、巫女さんは彼の方を眠そうな目で見た。 やる気の無さそうな目だった。

 「どうも」
 「ああ」

 ―――――あの、SOFTALKの棒読み声ではなかった。
 嫌がってはいないが、別段心境に変化は無い様子。単純に、ただ単純に興味が無いだけのよう。

 「れいむさん………?」
 「ん?」

 間違ってはいなかった。
 聞きたい事、話したい事は山ほどあった。物理的な好奇心もさることながら――――とにかくたくさんの事
 牢獄の前ではかなり口が回るようになったのに、何故、この場面で言えないのか。
 実際にもう壁すらないのに

 「――――そうねえ」

 花の様な口から吐息を漏らしつつ、困った様な笑を浮かべて言う。
 何だからしくなかった

 「私は、何にもあんまり興味がないのよ。悪人だろうが善人だろうが、神様も妖怪も人間も、大して………ね」
 「―――本当に全部が全部?」
 「まあね」

 それじゃあ………

 「私自身も、今まであなたに面会してきた連中も、そこら辺の虫けらや石っころと同じにしか見ていないってことですか?」
 「――――ああ、そこを指摘されたのは2回目」

 ―――あれは誰だったかなあ、と、少女は考え込んでいるが、もう彼は視界から弾き飛ばされた事を痛感した。


 壁なんて関係なかった――――――



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 ―――― という内容の夢を


 「――全然見ることができないんです」
 「…………それは気の毒だね」

 初めて、向こうの悲しそうな声を聞けた。
 最近では、れいむが多少動揺するだけで嬉しくなる。
 困ったものだ

 「――――ついに夢に出てきたか………」
 「いや、だから出てこないんですよ」
 「は?」
 「そんな感じの、れいむさんの夢を見て多少満足したいんですが、それすらできないんです」

 鋼鉄の箱が、心なしか振動している。

 「笑ってます?」
 「いや別に。重症だと思って」

 こんな関係が続いて、どれくらい経つだろう?
 最近、段々とれいむの声が小さくなってきた。
 彼女? についての知識や反応が理解できれな理解できるほど、相手が物理的に遠くなっていく様な気がした。
 その分楽しそうだった。



 ―――― 私について考えるのはやめなさい


 ―――― 理解はできない


 ―――― 何だかよくわからないのが、私なのだから



 途中で何度か言われた言葉だった。
 それでも、彼は、何とか毎日やってきては話し続けた。
 恐怖はもう既に無かった。
 ある時話した

 「そういえば最強なんですよね?」
 「最強だよー?」
 「仮に、一番近い存在で、あなたと同じくらい強い相手がいるとすると?」
 「『この世界』には…………いないね。 いや、いるか。遠くにだけど.キングジョーとかナースとかゼットンとか強そう」
 「??」
 「一度くらい、この世界のためにまともに本気出すのもいいかもしれいないな」
 「あんたと、あの娘のために」



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 翌日、牢の扉が開いていた。
 否―――――扉が出来ていた。今までそんなものなかったのに。
 入ってくださいといわんばかりに開け放されている。

 入ってみると、箱には札などが全て剥されていた。

 永遠に開く事はないと思っていたのに、蓋が外れていた。


 丁寧に、手紙がその下にある。




  ―――― 今までありがとう。色々考えも変わってきたので、地球でも守りに行こうと思う ――――




 何を馬鹿げた事を………… と、手紙を怒りに任せてクシャクシャに丸めようとしたが、その時にはもう
手の上から消えいてた。


 「来るの早いよー」
 「えっ何です?」
 「まだ準備終わってないのにー」


 箱の中から。
 思わず拾い上げようとすると、後ろから違う声に思い切り怒鳴られた。


 「勝手に入って何をしてる?」
 「―――――今まで誰と話していたんですか?」


 所長と、あまり話す機会もなかった職員の一人。


 「開け放してたのは謝りますが、入られちゃ困りますな」
 「いや、ここは……………」
 「独り言ばかり言ってるので驚きましたよー」

 恐る恐る聞いてみた

 「ここに入ってた囚人ってどうなりました?」
 「そりゃあんたも知ってるでしょう。 ―――――取り壊そうにも取り壊せないんですが、ここに入った奴は、
  30年間一人もいませんよ」
 「酷かったなあれは……………入ってたのは確かにろくでなしでしたけど、自分で壁に頭ぶつけて自殺して。
  以来、相当気持ち悪い幽霊が見えるってんで、職員だって近づきたがりません」
 「饅頭は…………」
 「饅頭? おなかでも減ってるんですか?」


 ――――そういえばそうだったか?


 扉から、今まで見えていなかったが、黒い帽子を被った、銀髪巻き毛の、異様に不自然に背の低い少女が出て行くのが
見えた気がしたが、そんな事はどうでもよかった。


 「―――――これか」


 箱の中には、赤と白の色合いの饅頭が入っていた。大体この時期を最初に、日本では食べるらしい。
 不気味だったが、実際に食べると、それは美味しかった。
 本当に涙が出るほど美味しかった。


 おかげで、彼は自分が泣いている事にきがつかなかった。




                                              了

  • 箱の中に入っていたのは‥、いやそもそも最初から何も入っていなかったのか。
    シュレーディンガーの猫しかり、パンドラボックスしかり、箱の中には不思議がたくさんというお話ですね、違うか。
    不思議な後読感でした -- 名無しさん (2010-01-11 00:03:24)
  • このれいむ、微妙にレクター博士っぽいところがあっていて、それなのに可愛い面もある面白いキャラしてました。
    人間と人間じゃないものの奇妙な友情って切なくていいね。 -- 名無しさん (2010-01-13 13:57:54)
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最終更新:2010年01月13日 13:57