「ただいまー・・・」
あるアパートの一室に疲れた青年の声が響く。その声に答えるものは居ないと思われたが、
「・・・!・・・!」
何か物音が聞こえてくる。
青年は一人暮らしであり、同棲しているような恋人もいない。つまり今その一室の中には誰もいるはずがない。
疲れた体に喝を入れ、声のする方にそろり、そろりと音を立てないように奥の部屋へと向かう。
そして今日遅刻ギリギリだった為に半開きになったままのドアから中の様子をうかがうと・・・
きめぇ丸がテーブルの上のお菓子をモソモソと食べていた。
玄関は閉まっているのにどうやって中へ?と思ったが空いている窓を見ると解決した。洗濯物を干した時に少し開いたままになってたんだな・・・不用心なことだ・・・
とりあえずこの不法侵入のきめぇ丸をどうしてくれようか。と思いつつ、そっとアパートを出て外から窓をしっかり閉める。
それからまた部屋の中に入り、とうとうご対面。
「やぁ、きめぇ丸」
「おぉ、これはこれは。おじゃましています」
特に逃げる様子もないきめぇ丸。少し拍子抜けする。
「きめぇ丸はなんでここにいるんだい?」
「かってにはいってすいません。まどからいいにおいがしたのでついついと。しかしいいにおいのしょうたいがわかりません」
「良い匂いの正体を探していたけど途中でお腹が空いたからお菓子を食べた、ってところかな?」
「かってにたべてすいません。おいしかったです」
申し訳なさそうな顔だが若干頬は緩んでいる。本当においしかったんだろうな。
「しかしおにいさん。このにおいはなんなんでしょう?」
「あぁ、これはね。多分これの匂いだよ」
そう言って僕は黒の密閉容器からとあるものを取り出した。
「おぉ、このにおいこのにおい。これはまめ、ですか?」
「やっぱりそうか。そうだよ。豆は豆でも珈琲豆。これを粉にすると香りが広がるんだよ。君はこの匂いに釣られてやってきたんだね」
「こーひーとはなんでしょう」
「飲み物だよ。きめぇ丸、飲んでみるかい?」
「いただきましょう」
そして僕は珈琲を淹れてあげた。せっかく出すからには機械ではなく自分の手で淹れてあげる。
豆をミルで挽き、ドリッパーにはフィルターペーパーをセットして粉を入れ、一度沸騰させて少し冷ましたお湯でドリップする。
ゆっくりはきめぇ丸といっても苦いものはあまり好きではないだろうからガムシロップとフォームドミルクで甘いカプチーノを作る。
ドリップする時にお湯で広がる香りにきめぇ丸が
「おぉ、おぉ」
と反応するのにクスリと笑ってしまった。
そして出来上がったカプチーノをきめぇ丸に出す。
「さぁどうぞ。味については感想を聞かせてね?」
「いただきます」
器用にカップを傾けて一口飲む。そしてカップをテーブルに置く、と同時にきめぇ丸が激しく体を左右に振り出した。
「どうした?!まさか口には合わなかったか?」
「おぉ、おぉ」
それから少し間をおいて・・・
「おいしい!おいしい!」
普段のきめぇ丸からは想像も出来ないほど声を荒げて「おいしい」と言ってくれた。
「そうか!それはよかった!君においしいって言ってくれて僕も嬉しいよ!」
それからクッキーを戸棚から出してきて一人と一匹でのんびりとカフェタイムを満喫した。
そして珈琲も飲み終わり、きめぇ丸もそろそろここを出る素振りを見せる。
「きめぇ丸」
「なんでしょう」
「君はこれからどこへ行くの?」
「わたしはいえをもっていません。うまれてからはずっとたびをしてきました」
「そうか。よかったらさ。また珈琲を飲みに来てよ。いつでも歓迎するよ」
「おぉ、かんしゃかんしゃ。どうもごちそうさまでした。またまいります。」
そう言って開けてやった窓からきめぇ丸は飛び立っていった。
「きっとだぞー!」
ご近所の迷惑も考えずに大声で飛び立っていくきめぇ丸に叫んだ。
あのきめぇ丸はまた来てくれる気がする。予感というより確信に近いものを青年は感じた。
そして翌朝。目を覚まし、窓を開けて目覚めの一杯のコーヒーを淹れていると窓から丸い物体が飛び込んできた。
「おはようございます。きよくただしいきめぇまるでございます」
まさか翌朝に来るとは思わなかった。
- さすがきめぇ丸www -- 名無しさん (2010-03-19 18:10:47)
- ちwゃwっwかwりw!wきwめwぇw丸wwwwwww -- 名無しさん (2010-07-07 16:33:18)
- もう一緒に暮せよww -- 名無しさん (2011-01-06 12:28:14)
最終更新:2011年01月06日 12:28