赤い館のアカい主義者達

『赤い館のアカい主義者達』

「……なに、これ」
悪魔の妹こと、フランドール・スカーレットは、なにやらシャブカを被り、トネリコのような角を生やした奇妙な丸いもの、に、同じような形の星形の角を持ち、同じ帽子をかぶった、生物とも何とも形容しがたい、曰く言い難い物体を目に留め、思わず呟く。
「同志すいかよ、見つかってしまったな」
「同志ゆうぎ、反革命分子、ぶるじょわじーの家に潜入して酒を飲むという秘密任務は失敗だ」
 どこかで見たような、という奇妙な既視感は抜けないものの、二人で総括だ、総括が必要だ、などと騒いでいるのを見て、フランドールは何か苛立ちめいたものを覚える。
 第一、なんで酒を飲むのに私の部屋に入ってくるのか、といいたくてたまらない。
「ちょっと、人の部屋に勝手に入って、なに勝手に騒いでるのよ……」
「おお、これは失礼した。おみやげのウォッカです」
 萃香と勇儀の丸っこい体から、にゅっとどこからともなく腕が飛び出たかと思うと、スタルカ、と書かれた琥珀色の液体がちゃぷちゃぷと揺れる瓶が二つ飛び出す。
フランはああどうも、と反射的に受け取ってしまうが、萃香と呼ばれた丸っこいのはなぜかそわそわしている。
「ひょっとして……飲みたいの?」
「うむ」
 勇儀と呼ばれた側は、それを見咎め、歯をかっとむき出しにし、目を見開いて青筋を立てるが、丸っこいうえ、よだれが垂れているため、どこかちぐはぐだ。
「同志すいか、贈り物を飲むのは反革命的ではないかね?」
「ぶるじょわの酒を飲むのだ、同志ゆうぎ」
「なるほど、それならば革命的だ」
 二人とも喜色満面でこちらの持っている瓶を見つめている。何だ、結局自分たちが飲みたいだけなのか、とフランドールは半ば呆れるものの、しかしウォッカというのは無色透明なはずで、こんな色のウォッカは見たことがない。どんな味がするのだろう、とフランは興味をひかれる。
 しかし、いくら悪魔といえど、さすがにラッパ飲みははばかられるし、ティーセットに入れて飲むのも、キッチンドランカー風でよろしくない。
 ならば、妖精メイドを捕まえて、ショットグラスを三つ持ってこさせよう。後は氷でよく冷やしてやればおいしいとも聞く。というより、裏書きに書いてあった。ならば、氷も持ってこさせよう。霧の湖の氷精を引っ張ってくるかもしれないのが難であるが。

「あ、あ、あたいをどうすんのさ!」
 ああ、本当に氷精を引っ張ってくるとは。さすがというか、何というか、という感想をフランは頭痛と破壊衝動をこらえつつうめく。妖精メイドではなく、例のメイド長、十六夜咲夜を捕まえてしまったのである。確かに氷が欲しいと言ったが、産地を直送してくれとは言っていない。
「君はウォッカを飲むかね、ええっと、反革命的な色彩の妖精」
「チルノ! なにさ、反革命的とか訳わかんないこと言っちゃってさ!」
 そう氷精が言うと、にわかに二人のまん丸いのが色めき立つ。おのれシベリア送りにしてくれよう、いやしかし同志よ、彼女は喜びそうではないかもなどと密談している。
よりによって氷の精にシベリアで木を数える仕事でもやらせるつもりなのか、こいつらは、と考えるが、なるほどロシア出身なのだろうかも彼らは。ひょっとして万単位でシベリアに送られた人民の怨念が形を取って現れたのが彼らなのだろうか、とフランは埒もないことを考える。
 しかし、シャブカのまるっこいのが話し合いをしている間に送られた頭痛をこらえきれないフランのところに、チルノが何すりゃ良いの、と聞いているため、酒瓶を渡し、抱えてて、とお願いする。
「え、たったこんだけ?」
「……ん」
 まずい、何を話して良いかわからない。妖精メイドよろしくでぞんざいに扱っても良いかもしれないが、例の忠犬に引っ張ってこられた以上、いかんともしがたい。
「……うちで働く?」
「やだ、めんどくさい。メイド服はかわいいけどやだ」
「へー、かわいいんだ、あれ。着て見よっかな」
 チルノからは、ふーん、という気のない返事が返ってくる。酒瓶のスクリューの上に顎を載せてごろごろとやりながら、しまいには大股を広げて、ごろん、と寝転がる。
「……そろそろ飲み頃だと思うが」
 ずい、と眼前にうきうきした様子の二人組が目を見開いてあらわれる。寄るな、濃ゆい。しかも押しのけたらなおさらニヤニヤし始めている。感触がいいのがしゃくに障るが、枕にはちょうど良さそうな感触である。
「飲むけど、要る?」
「あたいはいいや。なんか眠い」
 そういうと、ベッドに勝手に上がり込み、氷精は寝息を立て始める。肝が太いというか、呑気というか、という感想をフランにすら抱かせた。

「ん……?」
 チルノはゴシゴシと目をこすりながら起きあがる、そこには、酷い光景が広がっていた。
「同志フランドール、ぶるじょわじーは打倒されるべきだ、そう思わないかね?」
「同志すいか、同志ゆうぎ、特に私の姉のごとき存在は逆さにつるされるのがお似合いだ!」
「よく言った! ならば世界をアカく染めるためにまずここを赤化する!」
 なんか例の毛皮の帽子が増えてる。という感想をチルノは抱く。というかもともと花崗岩のごとき色合いだった部屋が真っ赤になっていて、ハンマーと鎌のマークが描かれた旗が飾られている。
 わあわあと騒ぎながら、酒臭い集団が出て行ったと考える暇もなく、チルノは思わず呟く。
「なんだこれ」







 これが、後の第一次共産主義幻想入り異変であった。第二次はなぜかパンチパーマのジャージっぽい服の男がやらかしたと言うが、定かではない。 

あとがき

※ていうかもちろんネタです

Written by ゆっくりと動物の人

  • フランドール、戻って来い! -- かに (2010-04-10 00:36:45)
  • 幻想郷最狂の妹が、共産主義の手に落ちただと!酒怖え!アルコール怖え! -- 名無しさん (2010-04-10 01:21:25)
  • 元締めはゆっくりなずーりん -- 名無しさん (2010-11-27 22:30:13)
  • アルコールによる洗脳? -- 名無しさん (2012-06-29 01:02:53)
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最終更新:2012年06月29日 01:02