夜雀たちの歌 その後の後 エピローグ

その後の後のエピローグ 夜雀かく締めり








そして、

あの地獄のように凄惨で、
子供の喧嘩ぐらい馬鹿馬鹿しい、
この白玉楼で起こった、この世界の実力者どもの争いごとは、
私の眼が覚めた時には綺麗さっぱり何もかも散り一つ残さず片付いていた。



 冥界、白玉楼。
 夜時。


「あ‥ あ‥ わぁ‥」

「ぁ‥私の歌を聞けぇぇぇ」

私、夜雀ミスティア・ローレライの、
目覚めの第一声はそんな感じだったらしい。
どんな夢を見ていたのかはさっぱり覚えてないが、
うむ‥、極めて私らしい素晴らしい一言だと自画自賛せざる得ない。

「あら、起きたのね。良かった」
「ぇぇ‥へ‥?」

そして、一番最初に目にしたのは、
この邸の主人、ピンクの髪でとぼけた顔した女亡霊。
その、暖かい笑みだった。

「ゅ‥ ゆゆ‥  ぼうれい‥?」
「はい、お早う御座います」
「な、なんであんたがここに?」
「だってここが私のおうちですもの」
「あれ? そっか、私は‥」

会話しているうちに、段々と気絶する前の記憶が覚醒していく。
地獄のような弾幕バトル、
焦がれるほど熱いライブ会場、
そして、止められなくなる私のビート&シャウト、

そして‥、そこからの記憶がない。

「取り敢えず、もう怪我は治ったみたいね、安心したわ」
「怪我‥?」

確かに、身体の隅々がじんわりと痛む。目の前の亡霊の言うとおり、治りかけているのは確かだが。

「何で私が怪我してんの?」
「ほら、気絶する前うちの中庭に飛び出していったでしょ」
「うん」
「その時にあなたは撃たれたのよ」
「え? なんで? 私歌いにいっただけだよ? 撃たれてないよ?」
「でも、歌うことはできなかったでしょう? それは撃たれたからなの」
「歌えなかったからって撃たれたってこと‥? 歌わないと撃たれるの?じゃ歌えば撃たれないってことなの?
 それじゃやっぱり私歌いに行ったんだから撃たれないはず‥、あれ? 撃たう? 歌れる?歌撃つ? あれ?」

混乱してきた。撃つ撃たれるってなんだっけ?

「あの時のショックでまだ頭が錯乱してるのね、御可愛そうに‥」
「な、撫でないでよ!恥ずか」

そして、ふと気付いた。
やっと気付いた。
眼が覚めて、すぐ目の前にこの亡霊の顔があったってことは‥、
そして、今現在、私の頭の下に敷いてあるこの柔らかい感触は、
今、私が寝ているのは、

「しい‥ あれ?」

さわさわと、両手を使って自分が枕に使ってる物体の感触を確かめる。

「きゃ、くすぐったいわ」

ああ、これ。
この亡霊の膝だ。
つまり、今の私はひざまくら‥


「にぃいあぁああああ」
「ほらまだ動いちゃ駄目ですよ?」

ガシ、と頭を掴まれて動けない。

「は、放して、放してぇぇ!!」

急に恥ずかしくなってきた。急に恥ずかしくなってきた。
寝ぼけて気付かなかったけど、顔が近い。
眼が、鼻が、頬が、唇が、
私の顔と凄く近い。
私がもうちょっと頑張れば、互いの唇が当たっちゃうくらい近い!
危ない危ないよ、この位置?

だって唇同士の位置がこんなに近いから‥

いや‥、頑張らないよ!? 頑張らないからね!? 何考えてんの、私?

「にぃゃぁあああああ!!」
「あぁん」

精一杯頭を動かし、亡霊の手を解いて、ごろごろと畳に転がり込む。

「よし、はずれた!」
「あーあ、もう少し寝てていいのにぃ」
「うっさい、馬鹿!!」

フー、と猫のように威嚇しつつ、私は亡霊を睨みつける。
まったくとんでもない亡霊だ。本当にとんでもない亡霊だ。

「膝枕してあげてただけなのに」

それがとんでもない事だってのに。それがどんでもない事だってのに。
本当にこの亡霊は何も分かってない、何も分かってない。

「それが余計だっての!!  て‥あれ、もう夜か」

そこで、辺りを見渡して初めて気付く。
この部屋から見える外の景色は、すっかり太陽が沈みきり黒ずんでいた。
そして、ワンテンポ遅れ、

「え? なにこの惨状?」

別に障子が開きっぱなしという訳でもないのに、外の様子が丸見えである、その違和感に初めて気が付いた。
障子が、既に障子としての機能を発揮しなくなっている。
つまり、ズタボロに破れている。
そして、その向こうに見える中庭は、
焦げ跡とか斬撃とか巨人が残したような巨大な足跡とかで、とにかく無茶苦茶に酷い有様となっている。
雅な和の荘厳美観な空間が、爆撃直後の焼け野原のような異空間に劇的ビフォーアフターだ。

また、夜でも眼が利く私だから気付けることだが、灯りがろくについてないこの部屋も、
そこらに割れた皿が散っていたり、お酒が零れていたり、散々な状況だ。つまり、汚い。


「あらあらお恥ずかしい。妖夢が疲れきって寝ちゃってね。これを片付けるのは明日になりそう」
「妖夢?」
「私の従者な庭師よ」
「ああ、あの刀持ってた」

辺りを見渡すと確かに、半人半霊の庭師がこの部屋で寝ているのを見つけることができた。
怪我しているのだろうか、脚や腕にたくさんの包帯を巻きつけて。
ピクリとして動かないところを見ると、完全に熟睡しているようだ。
あと一人、同じく腕や脚に包帯をたくさん巻きつけているメイドが、
庭師に寄り添うように、仲良く寝ている光景が少し気になった。

(あの二人、殺し合ってたような気がしたんだけど‥。本当は仲良いのかな?)

庭師とメイドを見たついでに、もうちょっと周りを見渡すと、
他にも、今日の宴会に参加していた面々が、ぐっすりと眠っている姿で見つかった。

「うー、うひひひ‥ 大きい」「うぅ~ん、放してぇ、掴まないでぇ‥」

吸血鬼は、その小さい身長でスキマ妖怪に抱きつくようにして眠っている。
その所為か、スキマ妖怪の方は若干暑苦しそうだ。
よく見ると、二人とも腕に一頭身の饅頭、もとい、ゆっくりを抱き抱えているようだ。
確かあれは‥、“ゆっくりふらん”と“ゆっくりちぇん”と言っただろうか、蝙蝠と猫のゆっくりだ。

「ウー‥」「にゃー‥」

飼い主に抱かれて幸せなのか、すやすやと、気持ち良さそうに眠っている。
そういえば、あの二人は他にも“ゆっくりれいむ”を連れていたはずだが、
あの二匹は何処に行ったのだろうか。

「ゅゅゅゅゆ」「ゆゅゅゅゅ」

よく見たら居た。
吸血鬼とスキマ妖怪の頭の下。半分以上つぶれている姿で。
どうやら二人の枕になっているようだ。とても苦しそうだが、大丈夫なのだろうか。
まぁ、主人達の枕になっているのだから、本人達も幸せに違いないだろう(憶測)。

「うふぃふぃふぃ‥こまちぃ」「うう、ごめんなさい‥謝りますから、あたい良い娘になりますからぁ‥お仕置きだけはぁ‥」

縁側では、閻魔が死神の膝を枕にして、死神は上半身起こしたまま柱に寄り添って眠っている姿が見つかった。
閻魔は良い夢見ているようだが、死神はその逆らしい。顔を青く染め、ガクガクと震えている。
その膝枕の光景で、自分の先ほどの亡霊との膝枕な情景を思い出して、ちょっと頬が熱くなったけど、
気にしない。気にしない。落ち着け私。

「もう一杯、飲むかい?」「ええ、頂きましょう」

閻魔と死神が眠りこけているその右方、どういう組み合わせか分からないが、狐と鬼が座っていた。
この二人は眠っていない。
杯を満たして、酒を飲んでいるようだ。
鬼はいつも通りだが、狐は今日一番の安らかな表情をしている。
やっと肩の荷が降りたというところだろうか。とても幸せそうである。

「すー‥すー‥」「かぐやかぐやかぐやかぐやぐやぐやぐやぐやぐやぐやぐや‥」

そして、最後に眼に映ったのは、よく知らない髪の長いお姫様っぽい人と、
何やら凄く怖い寝言を連続で呟いている、よく知らない弓持ってた変な帽子の人だった。
姫っぽい人は、弓持ってた人に護られるように、抱きしめられて眠っている。
こういう状況に慣れているのだろうか、耳元の寝言に動じている気配はない。
よく見ると、この姫っぽい人も、スキマ妖怪や吸血鬼のように胸に何かを抱いて寝ている。
あれもゆっくりのようだ。

あれ?

ていうか、あれって‥

「むにゃむにゃ‥ちんちーん‥」

私が一番見慣れてるゆっくりだった。

「っておい、私のだ、返せ!」
「あーうー‥」
「おら、放せ」

なんで、こいつが私のゆっくりを抱いているんだ?
そんな気に入ったのか?そういや昼のときも一番あいつのこと『カワイイ可愛い』って連呼してた気もするけど。

「危ないわよ?」
「ん?」

姫っぽい奴から自分のゆっくりを引き剥がそうとしている最中、
ふと、後ろから亡霊の忠告が聞こえ、

「あによ?」

と亡霊の方へ振り向いた瞬間、

―ザスっ

私の頭のすぐ隣を、鋭い何かが真っ直ぐ高速で通り過ぎ、
ビヨンっ、と、その直線上にあった壁へ真っ直ぐ突き刺さった。。

スッと、自分の頭から血の気が引いていく音がする。

あれは‥、弾‥? いや弓矢?

何時の間にか、変な帽子を被ってる人が、仰向けのままこちらに向けて真っ直ぐ弓を構えていた。
仰向けのまま、というか、眠ったまま。

「どうやら自動防衛装置が働いてるみたいね。流石月の頭脳、最新技術の塊だわ」
「いや怖いよ」

亡霊の制止がなかったら、あの弓矢が私の頭に刺さっていたかもしれない。
いや、間違いなく突き刺さっていただろう。
そりゃもうぐっさりと。
その光景が容易く現実感ありありに目に浮かぶので、笑えもしない話だ。

「起きてから‥、返してもらおう」
「それがいいですわ」

済まぬ、友よ。
いくらあんたの為とはいえ、頭に弓矢を貫通させたくない。
許せ。



「結局、殆どみんな寝ちゃってるのね‥」
「ええ、皆様年甲斐もなく全力で遊んでましたからねぇ」

その結果があの中庭の惨状なのだろう。
本気出しちゃいけない奴がみんな纏めて本気出すとどうなるか、それの良い見本だ。
世の中には、本当に私の理解の及ばないほど強い奴がたくさんいるんだと今日で何回も実感できた。
でも、その中でも、私が一番恐ろしいと思う奴は、
今、私の隣に座っているこいつに違いない。

「それでも結局、あんたの一人勝ちだったんでしょ?」
「あら?」
「そうなんでしょ? この中で、一番綺麗な身体してんのはあんただもん」

そう、他の妖怪達が大小の傷を負ったまま眠りこけているのに対し、
この亡霊の肌は、絹のように美しいまま。
もしかしたら着物に覆われた、身体の見えない箇所に怪我を負っているのかもしれないが、
どちらにせよ、目に見える傷を負ってない時点で、この中の誰よりも攻撃を受けていないということになる。

「まぁ、そういうことになるかしらね、結果としては」
「ふぅん、やっぱりそうなんだ」
「でも、必ずしも実力差で勝った訳ではなくってよ?」
「ふん、勝者の余裕って訳?」
「いえいえ、私に有利な要素が多かったってことよ。
 そもそも、この場所は私のホームグランドだし、私の味方になる幽霊もたくさん住んでいます。
 それだけで、地の利と数の利の上では、私は圧倒的有利な立場に立っていました。
 それだけでなく、一番最後に戦いに参加したことも大きいですわ。
 他の皆様がある程度疲れてるところに、少しも疲れていない私が飛び入りしたのですもの。
 それも不意打ちに近い形で。何もできずに撃ちのめされた方も居ましたわ。
 あと、私も珍しく、やる気が‥、ていうか殺る気‥? そういう感情がたくさん沸いていましたしね」

亡霊は自分が勝った要因らしいことを、すらすらと饒舌に並べていく。

「そんな長ったらしいこと言われても全然分からない‥」
「あらあら、そうよね、鳥頭だものね。ごめんなさい」
「そこで謝られても逆に腹立つな~」
「つまり‥、あなたのお陰で私は勝ったってこと」
「?」

突然この亡霊は何を言っているのだろうか?
私は別にこの亡霊に何かした覚えはまるでないのに‥。

「ああ‥、いいのよ。あなたは分からなくても別にいいの。私が分かっていれば」
「いやいや、だから全然分からないてば」
「だから‥それでいいの」

亡霊は、ポンと、私の頭の上に手の平を乗せて、
優しく撫でた。

「ありがとう、ミスティア」
「ぬあ‥」

嫌がって頭を振ってその手を振りどこうとする私の素振りなんか、気にすることなどないように、
亡霊は、優しい手の平で、ただ私の頭を撫で続けた。


まるで、私が本当は嫌がってないのが見透かされているみたいで、
私はそれが本当に腹が立って、
ずっと、怒った顔を浮かべていられるよう努力した。



















「しかし、妖夢が起きるまでの、当面の問題は‥アレね」
「‥なに?」

『―グゥゥゥウゥウゥウ―』

※馬の嘶きに聞こえたかもしれないが、れっきとした腹の音である。

「‥お腹‥空いたよぅ~‥」
「あんたね‥」
「ねぇ、ミスティア? 食べて良い?」
「よ、よくないよ、馬鹿!!」
「えー」
「もう、まったくしょうがないなぁ!ちょっと待ってて!」
「?」
「ちょっと、うちの屋台からヤツメウナギ持って来る!ストック結構あるんだから‥!
 その後、ここの台所借りるけど、構わないよね?」
「本当!? ありがとう、とても助かるわ!!」
「嬉しいからって、ひっつくなぁぁぁ」



「それじゃ、すぐ戻るから。 ええと‥ゆ‥ ゆ‥」
「行ってらっしゃい、すぐ戻ってきてね、ミスティア」
「う‥、うん、行ってくる。 ゅ、幽々子‥」




なんでだろう。
たったこれだけのやり取りなのに、


身体のあちこちが、凄く‥、くすぐったいや。














~fin~



追記、その後行われた二次会も色々大変でした。

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    ネット通販っていう手もあるよ! -- 名無しさん (2010-05-22 12:46:04)
  • 最後悶えた! -- 名無しさん (2010-05-24 11:13:14)
  • わっふるわっふる! -- 名無しさん (2010-05-30 18:00:45)
  • 実はウナギでかえって精力がついたというオチとかw -- 名無しさん (2012-03-23 13:26:54)
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最終更新:2012年03月23日 13:26