常闇の妖怪は前言撤回してノロケを覚える

東方キャラ登場注意。

ゆっくりSS  『常闇の妖怪は前言撤回してノロケを覚える』



博麗神社は、何の用事もないのにちょくちょく妖怪が遊びに来ることに定評がある、
神社として致命的な構造的問題があるとしか思えない神社である。

「ここが博麗神社よ」
『ほー、さよかー』

そんな神社に今日も一人の妖怪が訪れる。
黒い衣服に映える金髪に、真っ赤なリボンを結んだ少女。常闇の妖怪、ルーミアである。

「ほら、ちょっと探せばあんたの仲間があちこち居るのが見えるでしょ?」
『うわぁ、これだけちょこまか居ると逆に気色悪いね』
「お前がそれを言うのか」

ついでにこの神社には、どういう理由か分からないが妖怪だけでなくゆっくりも集める性質を持っているようで、
軒下裏や木の上、茂みの中など、探せばけっこうな数のゆっくりが見つかることにも定評がある場所である。
特にその神社の巫女と良く似た顔の、ゆっくりれいむと呼ばれるゆっくりが多く集っているようだ。

『これだけ数がそろうとさ、流石にアイデンティティーの希薄さを覚えるってもんだよ』
「お前ら存在そのものがそういうものとは無縁だろうがよ」

そして、先ほどからルーミアと会話をしている、彼女の腕に抱き抱えられているモノもまた、
ゆっくりれいむと呼ばれるゆっくりであった。
バスケットボール程の大きさの、能天気な顔をして笑う、良く分からない生きもの。
だが、ルーミアの側で跳ねているそれは、他のゆっくりれいむと呼ばれるモノ達と、決定的な差異が一つだけあった。

“全面黒焦げ”

ふてぶてしい表情や、首筋、裏面まで、同じようにびっしりと黒い焦げ跡に包まれている。
人間なら間違いなく致命傷だが、生物と同時に食物としての性質も併せ持つゆっくり故に、生命活動に大した影響はないようだ。

「取りあえず、こんだけ仲間がいりゃ生活に困ることはないでしょ」
『まぁねぇ。でも、どうしてもここでお別れしなきゃ駄目かな?』
「お前の安全が保障される場所“まで”は、一緒に居てやるって約束でしょ。
 確かに、お前の“姉”を食べてしまったのはこっちの落ち度だけど、それ以上の面倒は見れないよ」
『どうしても?』
「どうしてもだよ。言ったでしょ。私、“ゆっくりれいむ”は好きじゃない」
『そっか‥』

寂しそうな顔で俯く焦げれいむを見て、ルーミアは若干の良心の呵責を覚えたが、
それでもやはり、この饅頭モドキとこれ以上一緒に居る気にはなれなかった。

(しょうがないでしょ。“れいむ”なんて、私と‥私なんかと釣り合いが取れるはずがないし‥)

「これで、本当にお別れだよ。何処に降りる?」
『それじゃ、あの神社の縁側の‥』


「あら、神社に妖怪がコソコソ侵入とは、良い度胸じゃない」


突然背後から聞こえた声に、ルーミアの心臓が跳ね上がり、全身がこそばゆい痺れと緊張に包まれた。

(こ、こ、この声って‥!)

ここは博麗神社だ。
“彼女”が居るのは当然のことだし、ルーミアもそのことを予想していなかった訳ではない。
むしろ、期待していた節もある。
だが、唐突に現れた彼女に対し、柔軟に対応できるほどの覚悟はまだ固めていなかった。
覚悟を固めないままに、妖怪少女はおっかなびっくりと、焦げれいむを抱えたまま振り返る。

「あんたは‥、あれね。ルーミアだっけ? 闇の妖怪の」
「う、うん。ひ、ひ、久しぶり!」
『むぎゅぅ』

ルーミアが振り返ると、思った通りの姿がそこに居た。
紅白の巫女服を着た、しっかりとした印象の少女。博麗神社の巫女、博麗霊夢。
ちなみに『むぎゅぅ』とは、緊張したルーミアが力一杯抱きしめた結果、焦げれいむから漏れた苦しそうな呻きである。

「それが一体何の用? わざわざ喧嘩でも売りに来たのかしら?」
「ち、ちが‥! ちがうの! わ、私はただ、こいつを‥!!」
『むぎゅぎゅぎゅ』
「こいつ‥?」

霊夢はルーミアに抱かれた黒焦げた物体を見て一時眉をひそめたが、それが“ゆっくり”であると気付くと、
合点がいったように、なるほどと一人頷いた。

「なるほどね、ゆっくりを」
「そ、そうなの!ゆっくりを‥!」

そこまで言いかけて、どこまでも緊張の一途を辿っているルーミアの頭で、一つの心配事が頭をよぎった。
(あれ‥? そういえば、ここに“ゆっくりを放しに来た”って言ったら、もしかして怒られる?)
もともとこれだけゆっくりの居る場所、一匹や二匹増えたところで大差はないだろうと思っていたが、
霊夢自身が『これ以上はもううんざり』と思っている可能性も‥。

そこまで考えたが、霊夢の言葉はルーミアが思っていたものとまったく違うものだった。

「あんたも、うちの“ゆっくり”と戯れに来た口ね」
「へ? え?」
「最近多いのよ。妖精にも人間にも妖怪にも。“気持ち良さそうだから触らせろ”って奴が。
 うちにたくさん集るもんだからさ。まるで観光名所扱いよ。ゆっくりの名産地とでも思われているのかしらね。
 あれ? でもうちにそんな焦げた奴居たっけかな? 居てもおかしくないような奴らだけど‥」
『むぎゅー!』

どうやら、霊夢はルーミアの持ってきた焦げれいむのことを、自分の敷地に居たゆっくりれいむの一匹だと勘違いしているようだ。
それで、ルーミアのことも、そのゆっくりと遊ぶ目的でやってきた妖怪の一人だと思われてしまったらしい。
もちろん、真相はまったく逆なのだが‥。

「ええと、これは、その違くて‥」
「いいの、いいのよ。別に怒ったりしないから。見ての通り、あいつらはたくさん居るし。なんなら持ち帰ったて構わないわ」
「いや、でも‥、だから」
「あ、そうだ、あんた! 何が一番好き?」
「へ?」

他人の話もロクに聞かず、霊夢は顔をルーミアの間近によせ真剣な顔で突然聞いてきた。

「ゆっくりの中でよ! ほら、色々たくさん居るでしょ? 私に似た奴だけじゃなくて、
 魔理沙‥、白黒の魔法使いみたいな面した奴とか、吸血鬼の面した奴らとか。
 全部のゆっくりの中で何が一番好き? 正直に答えなさい!」
「あ、あの、えっと‥。えっとぉ‥」
『む!ぎゅぎゅ!ぎゅむぎゅぎゅぐ!!』

霊夢は問い詰めるようにグングンとルーミアに顔を近づけるが、
その所為でルーミアの頭からまともな思考力がどんどん失われていく。
ちなみに焦げれいむの顔からはどんどん血の色が失われていったりしている。

(き、聞いてない!? いきなりこんなに接近できるなんて展開、全然聞いてないよ!!
 近い、近い、やだ、霊夢の顔が近い。目が逸らせない‥
 あぅ、良い匂い‥、落ち着いた緑茶みたいな‥ とか考えてる場合じゃないぃぃぃい!!)

「さぁ、どうなの! 何が一番好き?」
「あ、あの‥その、わたしは‥私はぁぁ!」

(好き‥ 好きって。 好きなのは 私が好きなのわぁわぁ‥!)

「れ、霊夢が好き‥です」

顔を真っ赤に染め、搾り出すようにルーミアは目の前の彼女にそう告げた。

(って、何ぶっちゃけてんだ私はぁああああああ!!!!!)

ルーミアの思考をとてつもない量の後悔の海が埋め尽くす。
だが、そんな彼女の真意を知る由もなく、ただ“れいむ”との回答を受け取った霊夢は、

「そうよね!!わたしのゆっくりが一番よね!あんな吸血鬼もどきや白黒なんかに負けるはずがないわ!!」

満足そうに一回大きく頷いて、目の前の小さな妖怪を、全身でぎゅっと抱きしめた。

ぎゅっ、と。

柔らかい感触で、ルーミアの全身が包まれる。
ルーミアの全身から力が抜ける。

『いで!!』

焦げれいむ、やっとルーミアの腕から解放されて地面に落ちる。無限に続くかと思われた地獄からの脱出を遂げた瞬間である。
が、そんなことにも気付かないほど、ルーミアの脳内は幸せという幸せで包まれた。
できることなら、自分からも相手のことを抱きしめたい心地なのに、不思議なほど腕に力が入らない。
ルーミアがこれまで体験したことないほどの充実した不思議で気持ちの良い感覚。

「そうだ、お茶でも入れてあげるから、飲んでいったらいいわ。ついでにお賽銭でも入れてってくれたらもっと嬉しい」
「あ、ありがとう‥ございます」

霊夢は抱擁を解き、嬉しそうに鼻歌を歌いながら神社の方へ向かっていった。
残されたルーミアは、力なくペタンとその場に女の子座りをして、

(あ、暖かい。凄く暖かかったなぁ)

夢心地で、まだ霊夢のぬくもりが残る自分の全身を、いとおしむようにぎゅっと抱きしめた。
そして、近場に転がり、呆れたようにこっちを見ている焦げれいむの方に視線を向ける。

「や、やっぱり一緒に暮らしてあげても良いよ、ゆっくり」
『‥‥‥‥ さっきと言ってることが違う件』
「取り消す。さっきの言葉はやっぱ無し」

ルーミアは、今まで焦げれいむが見たことない程の、天使のように純粋無垢な笑顔を浮かべて言った。

「私、れいむのこと大好き‥!」

言葉に出すだけで、また先ほどの幸せで心が包まれるような心地のよさを感じることが出来た。

「れいむのこと、大、大、大好きだから!」

言葉に出すたびに、何度も、何度でも。
それだけ、少女は幸せになれるのだ。




   ~fin~

早い話が前日談です。byかぐもこジャスティス

  • 砂糖吹いた -- 名無しさん (2010-08-06 17:40:59)
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最終更新:2010年08月06日 17:40