『ゆっくり絵日記』
7月20日
「あっつー………」
太陽が無駄なハッスルをしてギンギラギンと輝き、日本中の生き物からやる気を根こそぎ奪い去っていたこの日。
私は友達と海に行くため、駅への道を歩いていた。
「にゃあ」
猫の鳴き声がした。少し意外だった。連中、こんなアホみたいに暑い日には持ち前の特殊能力で涼しい場所を見つけ出し、
日がな一日無言でぐっていりしてるものだと思っていた。そう思いながら何気なく声のした方を向くと、そこにいたのは
ゆっくりもみじだった。
「………」
私の視線に気づいたもみじは、にたにたと気持ち悪い笑みを浮かべた。してやったり、といった感じの顔だ。ムカつく。
というか、あいつの白い毛が日光を反射してちょっとまぶしい。あまりに腹が立ったので蹴っ飛ばしてやろうかと思ったが、やめた。
以前そうしようとしたらあっさりとかわされ、体中にあのもふ毛をこすりつけられて死ぬほど暑くなったのを思い出したからだ。
私が「そこはせめてちぇんとかおりんだろ!」とツッコみもせず無言で立ち去る選択を採ったのがワカったのか、もみじの表情が
残念そうなものに変わった。それにしても暑くないのだろうか。
「ゆっくりしていってね!」
そのまま歩いていると、向かいから来たゆっくりに挨拶された。赤い髪に黒い羽、猫耳猫尻尾のゆっくりだ。私の頭上にクエスチョンマークが浮かぶ。
こんなゆっくりは知り合いにいない。とはいえ、相手はゆっくりだ。知っていようがいまいがおかまいなしにゆっくりしていってねと言って
きても何ら不思議ではない。そういうことなのか?と少し返事に困っていると。
「あーちゃん!わたしわたし、わたしだよわたし!」
と、詐欺業者のような言葉を発した。あーちゃん、というのは私の愛称だ。私のクラスでは大抵、名前の上2文字+ちゃんで呼び合って
いるのだが、私の場合それだと「あかちゃん」になってしまいベイビー扱いされてしまうので一週間に及ぶ激論の末「あーちゃん」と
呼ばれることが決まった。その呼び名で私を呼ぶということは、少なくとも私の知り合いである可能性が…あ。
「めーちゃん?」
「そうだよ!ゆっくりしていってね!」
そのゆっくりは、同じクラスのゆっくりめーりん、通称めーちゃんだった。
「ごめん、帽子ないしいろいろ付いてるから気づかなかった…っていうかそれ何?」
「おしゃれだよ!かわいいでしょ!」
おしゃれ。
彼女はこの奇抜な格好をおしゃれだと言う。
人間基準で言うとこれはおしゃれというよりコスプレである。かつて電気街だったところとか、よくは知らないがお盆あたりの有明らへんで
すべき格好である。それよりこんなふわふわしたものを身に着けて暑くないのだろうか。この陽射しの中いつもの帽子を被らないというのは
半ば自殺行為に等しいのではないだろうか。などといろいろ考えたが、当人は平気な顔をしている。そしてこんな暑い中でゆっくりしていたら
私の方がヤバいので
「うん、傾いててかわいいよ」
「ゆっへん!」
てきとうに返しておいた。その後特に何か話すわけでもなく、お互い用事があるようなのでじゃあねと別れた。
ゆっくりは暑さに強いのだろうか。そんな事を考えながら駅に着くと、一緒に海に行く友達6人のうちゆっくり3人が汗だらっだらで待っていた。
深く考えると夏を楽しめなくなさそうなので追求するのはやめておいた。
駅構内と電車内の冷房、そして外気を交互に浴びるという必殺烈風正拳突き改を喰らうがごとき思いをして海についた私たちを待っていたのは、
またもや異様な光景だった。
なんだか変な生き物がいる。そしてその傍らでゆっくりれいむが号泣している。
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「何だろ、あれ…」
「私に聞かないでよ…」
友達の一人が当然の疑問を口にしたが、私にだってわからない。知るはずもない。みんなを見回すと私を含む人間組4人はみんな同じのようだ。
だが、ゆっくり3人はあそこにいるれいむと同じような顔で泣いている。
「えっ…どうしたの?」
そう問いかけると、3人のうち1人がくるりとこっちを向いてその理由を明かしてくれた。
「くらげがいるー…」
人間4人が一斉にゆっくり達の視線の先を確認する。…うん、『アレ』だ。
「いや、アレがくらげなわけないでしょ!」
「くらげだよ!」
「どう見たって違うよ!なんでアレがくらげなの!?」
「インターネットで見た」
「ネットの情報を鵜呑みにするんじゃありません!」
こんな感じでしばらくの間くらげだ、くらげじゃない、間違いない、そういえば最近長井なんとかさん見ないね、それは単に筆者がアニメと
ガキの使いしか見てないからじゃないか、などと言い争いが続いたが、意外なところからの一声でそれは一気に終息した。
「にゃあ」
『アレ』が、そう鳴いたのである。
「なんだ!猫か!」
「猫なら問題ないね!」
くらげ派が猫派になった。同時にくらげじゃない派も猫じゃない派になったのだが、さすがにこれ以上不毛な言い争いはごめんだし、さっさと
海で遊びたかった。誰に言われるとでもなく私達は空気を読んだのである。
そう、私は――――
私達は――――――
日本人なのだ!
それにしても、やたらと猫モドキに縁のある一日だった。
おわり。
7月26日
今日は、みんなでさなえちゃんちで宿題をやる事になっていた。
しかし、その日は宿題どころではなくなった。
さなえちゃんちに着くなり、異様な光景を目の当たりにした。
「ちょwwwwwwwwwwwすwwwっわwwwwこwwwwさwwwまwwww」
さなえちゃんと同居している、高学年のすわこさんの身体が本になっていた。
「さなちゃん、これどうしたの?」
「wwwwマジウケルwwwwwwwwwwwwパネェwwwwwwwwwww」
埒が明かないので、すわこさんと同級生のかなこさんに事情を聞いてみた。
「話せば長くなるんだけど」
かなこさんはそう前置きして、語りだした。
「すわこがさ、読書感想文を書くとか言ってえっちな小説を読み出したんだ。そしたらなんか、その本が呪われてたらしくて
身体が本になっちゃったんだよ」
意外と短かった。
「ゆっくりした結果がこれだよ!ワンクリック詐欺だよ!」
すわこさんは嘆いている。どこをクリックしたのだろう。
その後に到着した友達と、しばらく後にようやく笑いやんださなちゃん、そして「こんなの読むからだよ!自業自得だよ!」と言っていた
かなこさんと一緒に元に戻る方法を探し、激辛カレーを食べてもらったり、鍋焼きうどんをイッキしてもらったり、左右のほっぺたを
掃除機で吸ったりいろいろ試した挙句、ダメもとで頭の上にPSPを乗っけてみたら元に戻った。持ってて良かったPSP。
けどそのころにはすっかり陽も傾いていて、結局宿題は出来ずに解散になった。しかしみっちゃん(ゆっくりみのりこ)だけはみんなが
ガンバっている脇で一人黙々と宿題をやっていたようだった。そんなだから人気が (何故か日記がここで途切れている)
8月2日
「さあ、第37回大口大会もいよいよ決勝!両者白熱したバトルが続きます!」
会場は熱気に包まれていた。ゆっくり達の誇りと名誉、そんなものは全く懸けていないがなんか意地で続いてしまっているゆっくり大口大会。
ルールはシンプル。より大きく口を開け、審査員の判定を多く獲得した者が勝ち。シンプルなのだが、意味はわからない。誰が得をするのだろう。
「あーっと、れいむ選手一気に勝負に出たーーッ!」
同じくらい大きな口を開けていたれいむとまりさ。しかしれいむが最後の力を振り絞り、その口を大きく、倍近く開いた。
いったい何のために。何が彼女をそこまでさせるのだろう。
それは誰にもわからない。やってる本人もきっとわからない。わかりたくもない。
「これは…れいむ選手の優勝できめりでしょうか!?」
「あなた実況なのにかまないでくださいよ…しかし見て下し亜。しないんのらんさんがれいむ選手の大口にビビって泣いていしまいました」
「あなただってかんでるじゃないですか。それにしてもれいむ選手、頑張りが裏目に出ましたね。らんさんまりさ選手に入れますよ、これは」
「『入れる』とか、いやらしい。しかし審査員のゆかりさんはれいむさんの口の中をうっとりとした表情で見ています」
「のどの奥のあれを見て興奮しているんでしょう、いやらしい。そうなると勝負を決めるのは…」
「常にカメラ目線を送り続けているちぇんさんですね。判定する気あるんでしょうか」
そして、全てを決める判定の時―――――!
というところで目が覚めた。わけのわからない夢だったが、夢なんて往々にしてそんなものだ。夢オチ禁止?何の話?
変な夢を見てなんとなくもやもやした目覚めを迎えた私は、朝食のシリアルを用意しながらテレビをつけた。天気予報をやっていた。
どうせ晴れでしょ。見ればわかるよ。
「次は全国のお天気です」
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全国版に変わったのと同時になんとなく画面を見たら、アナウンサーのはたてがおもっくそ北海道とカブっていた。
「今日は北海道を除いて全国的に晴れ模様です」
しかもCG処理がバグっているのか、あごのあたりから下が途切れてまるで北海道がはたてになってしまったように見える。
「日中の最高気温は北海道を除いて前日と同じくらいです」
北海道の天気なんてぜんぜん関係ないのだが、こうも隠されてはなんだか気になってしょうがない。
「昨日発生した台風は沖縄に上陸した後、海上を通って日本海に向かう動きを見せています。北海道には来ません」
それにしてもやたらと北海道を連呼する。ひょっとしたらわざとやってるんじゃないだろうか。
「それでは皆さん、今日も一日北海道!…あ、お元気でお過ごしください!」
わざとだ。間違いない。そういえば長井…まあいいや。
こんなふざけた報道をして苦情とか来ないんだろうか。とか思いながら見ていると、次の番組が始まった。
新世紀エヴァンゲリオン(再)。夏休みにアニメの再放送するのはいいが、もう少しモノは選んだ方がいいと思う。
(8/3追記:天気予報の担当がにとりになっていた。降ろされたらしい)
特にする事もないのでぼんやりと眺めていた。
「エヴァ初号機、発進!」
初号機がものすごい勢いでレール上を移送され、地上に向かう。あれってどのくらいGかかるんだろうとか考えながら見てると、
視界の隅…庭においてある朝顔のプランターがカタカタと振動していた。
…いや、そもそもうちの庭にあんなものあったっけ?
テレビの中では地上のシャッターが開き、レールが突き出して初号機がその姿を現した。それと同時に
「ゆっくりしていってね!」
「ぶっ!」
プランターの中かられーちゃん(ゆっくりれいむ)がいきなり現れた。あまりにタイミングがピッタリだったので口に含んでいた
麦茶を噴出してしまった。
「ゆゅ!あーちゃん汚いよ!」
「げほっ!ごほっ!」
「どうしたの?炎のにおいでも染み付いたの?」
「れーちゃん…今の、なに?」
「エヴァごっこだよ!もう一回見る?」
れーちゃんが新しい特技を身に付けたらしい。髪の毛がうねうねしてるところを見るとエヴァというより使徒っぽいが。
「いや、いい…十分びっくりした…」
「じゃあ今度はゆうちゃんちに行くよ!」
それを知人全員に見せに回っているらしい。一瞬ゆうちゃんに電話して予め伝えておこうかと思ったが、なんか癪なので
やめておいた。ゆうちゃんは犠牲になったのだ。
それにしてもれーちゃんのワザには毎回毎回驚かされる。同じクラスに必死で他人を驚かせようとして全くできていないこがちゃん
(こがさ)がいるあたり、神様というのは残酷なものだ。
「あ、そうだれーちゃん。優勝できた?」
「なんの話?」
「…ううん、なんでもない。気にしないで」
寝起き一時間でやたらと疲れた気がしたので、とりあえず北海道の天気を調べてから一休みする事にした。
8月14日
公園でみんなと遊んでいたら、なっちゃんが噴水に落っこちた。みんなで助けたけど、当のなっちゃんは
「冷たくて気持ちいー!」
とご満悦だった。夏の陽射しにやられたらしい。とはいえ私も他人のことは言えない。その後みんなでノリで噴水に入って
遊んだからだ。
しばらく遊んで、休憩している時に気づいた。みんなの服が濡れたせいで、少し透けている。
「いやらしい!」
ということになって、一度解散して着替えてくることになった。薄手のワンピースとかを着ていたみんなと違って私は紺の
甚平を着ており、そんなにいやらしくならなかったのでこのまま待っておくことにした。帰ってまた来るのめんどくさいし。
軽く端を絞って、そのへんをうろうろしていると
「あーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
と、叫び声が聞こえた。
「あ、間違えた。ゆーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
叫びなおさなくてもいいのに、と思いながら声のした方へと向かった。その声には聞き覚えがあった。
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そこにいたのは、驚愕の表情を浮かべるれーちゃんだった。
「れーちゃん、どうしたの?」
「あ、あれ…」
れーちゃんの視線の先には、やたらと不機嫌そうなゆっくりルーミアを抱えたゆっくりゆかりがいた。
「…?ごめん、よくわかんない」
「私もよくわからないわ」
私とゆかりの頭上にはクエスチョンマークが浮かんでいる。ルーミアは相変わらずだ。
「そのルーミアは…撫でた手を離すと爆発するルーミア、略して撫でた手を離すと爆発すルーミアなんだよ!」
「「ええっ!?」」
どうやらゆかりは爆発するということに驚いたらしいが、私はむしろ略したとか言いつつ一文字しか減っていないことに驚いた。
「あぶない!」
びっくりして、撫でた手を(略)ルーミアの頭から離れたゆかりの手を、れーちゃんが慌てて元に戻した。
「あれ、今離れたけど爆発しなかったよね」
「3秒離すと爆発するんだよ!正しくは撫でた手を離したまま3秒間たつと爆発するルーミア、略して」
「いや、いい」
その先は言われなくてもわかる。
「爆発を止める方法はないの?」
「山の上にある『爆発しなさ草』っていう草を食べさせればふつうのルーミアになるんだけど…」
「そーなのかー」
「いま普通のルーミアにならなかった?」
「気のせいだよ。でも山は危険だから、一人で行くのは…」
れーちゃんはそう言いながら、ちらちらと近くにいた小さいレミリアを見ている。
「…うー、れみぃは太陽の光が苦手だから帰るよ…」
レミリアはそう言ってぱたぱたと飛び去っていった。あんた、今の今まで日向でにやにやしながら見てたでしょうに。
とはいえその気持ちもわかる。つい同情してついていったら面倒なことになりそうだ。私もさっさと退散しよう。
「…あー、私も一回帰って着替えなきゃいけないから、帰るね」
ヤマと聞いては黙っているわけにはいかない。私はれーちゃんと一緒に山に登る決意を固めた。
「なんか地の文が私の気持ちを無視してる…」
「ゆ?どうしたの?」
「いや、もういいや。それにしても…暑い…」
濡れた服はすっかり乾き、周り中から聞こえる蝉の声が暑さを倍増させていた。
だいぶ陽が落ちてきたから陽射しはマシになっているものの、暑いことに変わりはない。
「そうだね…あ、あれいいな」
「あれ?」
「あれ」
れーちゃんの視線を追ったその先には。
「ごぼごぽぱぁぐぽぽぽぽぽぽ」
「がぽぽぽぽぽぽぽぎゃぽんぽぽぽっぽぽぁ」
なみなみと水の入った水槽を載せたスィー、そしてその中に水没しているゆっくりゆーぎ&パルスィ。
「…涼しそうなのは認めるけど、水没するのはやだなぁ。ゆっくりって水中で息できるの?」
「すいちゅうこきゅうマテリアがあればできるよ」
「それはガセだから信じちゃダメ」
そんな事を話しながら私達は山の上を目指した。スィーに乗っている二人は、あっちはあっちで話しているらしくこちらには
気づいていない様子だ。目的地が違うのか、そのまま通り過ぎてどこかへ行ってしまった。
それから後は特に誰とも出会わず、私達は暑さにくじけそうになりながらひたすらに山を登っていった。やがて…
「あった!」
「これが…」
私達は、目的のものを見つけた。
「そうだよ、これが『爆発しなさ草』だよ!」
「ヨモギじゃない」
どう見てもヨモギです。
「違うよ!『爆発しなさ草』だよ!」
「はいはい…じゃあぱぱっと摘んでとっとと帰ろ」
私はヨモギ、もといとってつけたような名前の『爆発しなさ草』に手を伸ばした。
その時…周囲に轟音が響き渡った。
「何!?…!れーちゃん、伏せて!」
「どうやって!?」
そういえばれーちゃんは頭しかなかった。伏せるも何もないじゃないか、とは思いながらも私も伏せなければヤバい。
何かよくわからないが近くで爆発があったようで、その衝撃で巻き上がった土砂やら瓦礫やらが降ってきたのだ。
「…………べっ!口にちょっと砂入っちゃった…れーちゃん大丈夫?」
「ふー、間一髪だったよ!」
髪と服についた土を払い落とし、れーちゃんの姿を確認した。
「ギリギリセーフだったよ!」
「アウトだよ!」そう言いたい気持ちを必死で押さえた。
「…なんかやたらと疲れた。もう帰ろう」
「待って、まだヨモギをとってないよ!」
「いまヨモギって言ったよね」
「言ってないよ!『爆発しなさ草』だよ!」
「はいはい…あ、ちょっと離れて。先端がぶつかって痛いから」
「何の話?」
「なんでもない。なんでもないからちょっと離れて」
8月31日
「どうしよう…」
りんちゃん(ゆっくりおりん)は、焦っていた。
「まさか、こんな事になるなんて…」
「まあまあ、落ち着きなって」
その後ろではきっちゃん(ゆっくりキスメ)が、にやにやとした笑いを浮かべながらりんちゃんをたしなめている。
「起こっちゃったものはしょうがないんだから、後はこの場をどうやって切り抜けるか…でしょ?」
軽く言ってくれる。それはそうだろう。所詮、他人事なのだから。
「そんな事言ったって!」
取り返しのつかないことをしてしまった。りんちゃんの顔がそう物語っている。
「そんな大きな声出すと、起きちゃうよ?」
きっちゃんの言葉にはっと気づいて、りんちゃんは慌てて口をふさぐ。セーフ、どうやら起きてはいないようだ。
「でも、でも…」
りんちゃんは相当焦っている様子だ。
「取り返しのつかないことしちゃったし…もうすぐ目を覚ましちゃうし…締め切り今日中なのにいま23時16分だし…」
「最後のは何?」
「何だろう、よくわかんなくなってきた…あああ、汗ふかなきゃ」
「りんちゃん、それハンカチーフじゃなくておパンツ」
「そうだよね、おパンツは被るものだよね」
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く`ー-、 ,' ハ:\
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(相当キてるな…)
りんちゃんはおパンツを被ったまま「どうしようどうしよう」と部屋中をうろついている。
そのうちに何か見つけたようで、動きを止めて少し思案し、きっちゃんの方を振り向いた。
「…一計を案じました」
その顔を見て、きっちゃんは何かを読み取ったようだ。
「これであろう」
差し出したきっちゃんの手のひらにはこう書かれていた。
『火』
「…ううんぜんぜん違う」
「うー!うー!ふらんちゃん起きて、うー!」
すやすやと眠っていたふらんちゃんは、その声によって起こされた。
「…なに?」
彼女を起こしたのは、青い髪に蝙蝠の翼をもつゆっくり。
「うー、うー!ふらんちゃん、うー!お姉ちゃんのために宿題見せてね!うー!」
ふらんちゃんはぼけーっとした目で目の前のゆっくりを見つめると。
「………くぅ」
再び眠りについた。
「うーうー!起きてね!うー!そして宿題見せてね!」
そのふらんちゃんを、慌てて再び起こす。
「…やだよ。なんであんたに宿題見せなきゃいけないの?」
「うー!?お姉ちゃんを見捨てるの!?うー!」
「あんたお姉ちゃんじゃないじゃん…」
「うっ!?」
図星のようで、青い髪のゆっくりに焦りの色が浮かぶ。
「お姉ちゃんは私のことちゃん付けで呼ばないし、そこまでしつこくうーうー言わないし、お姉ちゃん学年違うから私の宿題
見せたって意味いないし、それに…」
ふらんちゃんの視線が、机の隅に向いた。
「…塗料、しまい忘れてるよ。あやちゃん」
「…あーやや、作戦しっぱいですね」
蝙蝠の付け羽の下から現れたのはカラスの羽。帽子はてきとうにあつらえたダミー。ふらんちゃんを起こしたのは、青い塗料で
髪を染めたあやちゃんだった。
「いやホント、宿題見せてくれませんか?後生ですから。自由研究に没頭しすぎてノータッチだったんですよ」
「そんなのペース配分考えなかったあやちゃんが悪いんでしょ。それに自由研究って言ってもいつものあの新聞でしょ?
完全に趣味の世界じゃん。毎回毎回大して面白いこと書いてないし」
ピチューン!という音が聞こえた気がした。あやちゃんは机から落ちて、うつぶせになってしくしく泣いている。
「およよおよよ…心外です、毎号がんばって書いてるのにそんな風に言われるなんて…」
「頑張って書いた結果が一文字10センチくらいの大きさで『特になし』って紙面?あれは無いわ」
「ホントに何も無かったんですよ…」
「じゃあせめて休刊しようよ」
「ジャーナリズム宣言」
「うるさい」
「…こうしている場合ではありません。早く宿題をなんとかしなければ」
なんとかする=他人に頼む。もはやそれしかないあやちゃんはそそくさと部屋を出ようとして、ぴたりと止まった。
「そういえば…」
「ん?」
「なんですか?これ」
あやちゃんが言う『これ』とは、テレビに映っている番組の事だ。
顔面にバナナが突き刺さったゆっくりがたくさんいる光景が映し出されている。
『Mugen地区トーナメント第1回戦、間もなく開始します』
「…だって」
「だってって…見てたんじゃないんですか?」
「知らないよ、私ずっと寝てたし…ちーちゃん(ゆっくりチルノ)が見てたんじゃない?」
「ちーちゃん?」
言われてあやちゃんは机の下を見た。そこにはちーちゃん…らしきものがいる。
だが様子がおかしい。ちーちゃんがいるのにぜんぜん涼しくない。それにピクリとも動かない。
これではまるで…。
「どうしたの?」
「あ、いえちーちゃんも寝てるみたいです」
「そう。それじゃあ消しといて」
「はいはい」
ちーちゃんの疑問を持ったあやちゃんだったが、今優先すべきはそれよりも宿題である。
『喰らええええ!』
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│ -一 ' / @ ' ,ー- 、 て ,. - ―‐-,.、/ヽ_ Σ^ヘ、_ _,.イ^> ..│
│ ,..::´U _,ゝ-ー‐r―‐'、__ ヽ そ / /ヘ∠ 'ゝr ー'-y' _r´ .│
│ ( ‐く二ゝ'"¨´ ̄ ̄`ー-〈`く / /ヽ ハレ/,イヽ!ハ> _,. - "  ̄ `' ヽiγ´ ....│
│ /`ー<, '´ i __ l 、 ', i レヘl(ヒ],_,ヒン ,l l l ,..'" `ヽ、 │
│ ゝr‐'7´ ;' -iー」_ ハ ハ -ハ ヽ Y i l "ヽ_ン " l i l ,.' 、_, _ __, ノ,_ ! ....│
│ / lハ ∧r!=、 ∨ri=-!l ;' i (.`ルゝ、___,,イヘハレ' 〈 _,ゝ_=ニ-=,ー=-,='- 、ヽ、ノ,イ ..│
│ / ;' l N ' ヒ_ノ:::::::::ヒ_,ノハ i ノ `'<`ゝr'フ\ + ._'ir' λ_,iヽ、!ヽ,ー-ハ、i`ヽi/i + ..│
│ 〈ヽ、 i ;' , -" , --─- 、"!へl ⊂コ二Lフ^´ ノ, /⌒) ゝl ,.イ(ヒ_] ` ヒ_ン ) l |イ/ / i ..│
│ ゝ _N ;'i'´ ノ / i ハ ヽ 三 ⊂l二L7_ / -ゝ-')´ + .i.レ !"" ,___, "".i |Y´ ハ + ..│
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テレビでは、『むげん』とやらの試合が始まったようだ。
「バレーボール?ドッジボール?うーん……おっと、宿題宿題」
あやちゃんはテレビを消して、部屋を出て行った。数々の疑問を抱えたまま…。
…という一部始終を偶然見かけたので日記に書いてみました。始業式の日にぐやちゃん(テルヨフ)が妙に青かったり
ちーちゃんが固まりきっていなかったりしたらそれは多分りんちゃんのせいなので疑ってみてください。
あとあやちゃんの宿題が出来てたら誰かのを見た可能性があるので、そっちも。>先生
9月1日
とまぁ、こんな感じの絵日記を自由研究として提出した。
返却された絵日記には、花マルの横に先生のコメントが添えられていた。
『ゆっくりをテーマにしたたのしい日記、とても面白かったです。
夏の間に起こったゆっくりたちや友達との思い出。おかしかったり、和やかだったり、
冒険したり、おかしかったり、なんか変だったり、わけわからなかったり…そんな出来事が
たくさん詰まった日記でした。
ここまで書けるなんて、床次さんはゆっくりの事、大好きなんですね!』
最後の一文を読み終えた私は、窓の外を見た。陽は落ちかけ空は橙…
「ちぇぇぇぇぇぇん!ちぇぇぇぇぇぇん!」
橙…
「ちぇぇぇぇぇぇん!ちぇぇぇぇぇぇん!」
…オレンジ色に染まり、反対側からは徐々に夜が顔を見せ始めている。帰宅するのであろう、外から聞こえてくる
「ゆっくりしていってね!」という声を聞きながら、私は心の中で先の一文に対する返事を呟いた。
「いや、別にそうでもないです」
-おしまい-
書いた人:えーきさまはヤマカワイイ
鬱なす(仮)の人さん
sumigiさん
多少強引ですがリンクさせてみました。許可していただきありがとうございました。
世界設定等の矛盾は軽やかにスルーしてくれるって私信じてる。
- 「にゃあ」とかいう『アレ』のことを想像してみたらメチャ可愛い -- 名無しさん (2010-08-31 21:00:56)
- 一つ一つの捉え方が面白いw
特に大口大会の理念が恐ろしく無意味さを強調してて笑った
冬企画といい、ヤマカワさんはこういうのを力技に見せて、一つ一つのネタが
実はかなり丁寧に作られてたり、発想自体が他とは違うから凄い -- 名無しさん (2010-09-01 22:03:34)
最終更新:2010年09月01日 22:03