5じゅうーの塔


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│      __________     .│ 「5じゅうーの塔」
│     /      /      /|   ....│ 初めて目にしたのは、どんな本の中でだっただろう?
│   /      /      /  |   ....│
│   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|  ..|   ....│ それは幼い頃の思い出。
│   |             . .|  ..|   ....│ 一見何の変哲もない普通の塔なのに、彼女はその写真を一目見ただけで
│   |    ⌒ ,___, ⌒      |  ..|   ....│心を奪われた。
│   |  /// ヽ_ ノ ///     ..|  ..|     .│
│   |                 .|  /|    .│ 理由は解らない。
│   |__________|/ |     .│ が、
│   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|  ..|   ....│
│   |             . .|  ..|   ....│
│   |    ⌒ ,___, ⌒      |  ..|   ....│  ――その内部に入りたい
│   |  /// ヽ_ ノ ///     ..|  ..|     .│  ――口の形をした窓と思われる部分から顔を出したい
│   |                 .|  /|    .│  ――そして屋上に上り詰め、周りの景色を見晴らしたい――――
│   |__________|/ |     .│
│   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|  ..|   ....│
│   |             . .|  ..|   ....│ その場で両親に訴えたものだったが、そうやすやすと何事も思い通りに
│   |    ⌒ ,___, ⌒      |  ..|   ....│なる幼少期は普通は無い。
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  【シギショアラにて 1978年撮影】
                            両親は優しかったが、当時住んでいた村上市からは遠すぎた。


 ――大抵の夢と同じく、成長を重ねると同時に彼女もその塔への憧れは薄れていった。


 70年も経った今、それが突然引きずり出されたのは、何の因果だろう?
 シギショアラへの出張が決まった時に、何かが胸にひっかかったのだが、その正体にすぐに気がつけなかった。
 仕事を終え、ルーマニアから帰国する前日、そろそろ日も暮れる頃に散歩していた彼女の目に、それは、飛び込んだ。
 晴天の霹靂とはまさにこの事。
 ホテルに戻るにもまだ時間はある。


 彼女は、反射的に駆け出していた。
 そして、気がつくと70年を経て、ついに会うことの出来た本物の塔の麓に立っていた。



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   |__________|/ |      : 'ヽi  ')ヽ oOo ノ /{ V}
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   ;"ヾ;   ;"ヾ ;"     ;:;:.;:ヾ     : / '' ' -' 'ヽ__ノ.-:'':: ' ヽ. :
  ;"ヾ  ;":;:.;:ヾノ)) " ;";  "     : 、_/.::'' r  '{::{ \..  ':. ヽ {ヽ :
                       ' -{./ /::  人::::ヽヽ::ヽヽヽ} (:':ノ : 高すぎです・・・
                      ノ( (:(:: ノ --)ノ '')/''--:、ノ:ノ: 入 :
                       : ノノ>)::::) ( >//////< )ヽ:) < :
                        : ノノi:::|'' | | ,___, | ||:: 入 ) :
                        : )/'''人 | | 'ー⌒ー' | | 人V '' :
                           : ノ>.、____ ,.イヽ :

正式名称は「50の塔」なのだろうか?



 16世紀に建立されたそうで、日本の大阪城の様にエレベーター等は当然の様に無い。

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   |__________|/ |   ← この部分が一階分だと思っていたが
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   |             . .|  ..|
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   |  /// ヽ_ ノ ///     ..|  ..|
   |                 .|  /|
   |__________|

  特にそのように区切られている訳ではないらしい。  ヽ_ ノ の部分は窓ではなく、ただのペイントだった。
  というか、窓は一切無い。
  入館料を払って入ると、電気もしっかりと通っている訳ではないので、中はどこも薄暗かった。
  部屋の本当に中央に階段があって、それが延々と続いている。
  一応部屋の中は各階見渡したが、特に目に付くものは無い。
  いくつかソファがあって、ゆっくり達が乗っていかにも疲れたようにゆっくりしているだけだった。

  しかし実際には丁度50階まであると、受付係のゆっくりめーりんが言っていた。

 「行ける所までがんばってくださいねー」
 「あ、頑張ります」



                      ,ヽ/{   }ヽノヽ
                      ノ ノ' ヽ / )  } ,   13階ー
                     'ヽi )ヽoOo ノ /{ V}    14階ー
                     < ''V'o. '''' .oノ ノ ノ     15階ー
                    /.''-' ' ヽ__ノ.-:'':: ' ヽ.
                 、_/.::'' r '{:{ \..  ':. ヽ {ヽ
                 ' -{./ /:: 人::ヽ ヽ::ヽヽヽ:} } (':ノ
                  ノ( (:(::( --)ノ '')/''--:、ノ: ノ: 入
                  ノノ>)::i (ヒ_]     ヒ_ン )ヽ).:) :<   ――………
                   ノノi:|'"   ,___,  "' |:ノ 入 )
───────┐      )/'人         ,イノV ''    あれ? 何階登ったか、感覚がわからなくなってきました・・・
          .│         >.、____ ,.イ       でももうすぐ頂上ですね
          .└────┐
                  │        \
                  └────┐  \  /⌒ヽ
                         .│   ∨    ヽ
                         .└────┐  丶  /⌒ヽ
                                 │   ∨    ヽ
                                 └────┐   ヽ /⌒ヽ
                                        .│    ∨
                                        .└────┐
                                               │



 しかし、恐らくだが30階を過ぎた辺りで、階段は途切れ、そこに置かれた受付にはゆっくりさくやさんが
座っていた。

 「あの、屋上へはどうやって……」
 「残念ですが、屋上へは行けない造りになっているんですよ」
 「??」
 「元々の建立の理由は不明ですが、先に外側の箱を作ったのはいいものの、かなりの財政難だったらしく・・・」



 【50うーの塔 図解】
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│       ↑         │
│       空         │                               : ,ヽ/{   }ヽノヽ :
│       ↓         │                              : ノ ノ ' ヽ / )  } , :    何と言う手抜き工事……
│                  │           _,,.. -─- 、..,,_           : 'ヽi  ')ヽ oOo ノ /{ V}
│────────────│          /   _r'" ̄`Yヽ`ヽ_        : < ''V 'o. '''' .oノ ノ ノ :
│            ??階 │←今ここ   /  r‐'´ >‐-、>‐-く ハ      : / '' ' -' 'ヽ__ノ.-:'':: ' ヽ. :
│────────────│       /   /ヽ/    / ,ハ   Y/   : 、_/.::'' r  '{::{ \..  ':. ヽ {ヽ :
│────────────│       ,'    ∨/ ./_/| / 」__ 八ゝ   ' -{./ /::  人::::ヽヽ::ヽヽヽ} (:':ノ :
│────────────│       |   // ア'___/ レ' _」_イ|  \ ノ( (:(:: ノ --)ノ '')/''--:、ノ:ノ: 入 :
│        ~        │       |. <∠  イヽヒ_i`  ´ヒ_,!7ハ/| ̄  : ノノ>)::::) ( >//////< )ヽ:) < :
│────────────│      /  /(_| ハ'"  ,___,  "'| /     : ノノi:::|'' | | ,___, | ||:: 入 ) :
│────────1階──. │      ,'  ! .∧{メト、  ヽ _ン  ,.イ ハ      : )/'''人 | | 'ー⌒ー' | | 人V '' :
└────────────┘     .〈   |/  {イト>r  -r-く{メ{へ 〉      : ノ>.、____ ,.イヽ :



 「じゃあ、ここは何階なんでしょう? 35階はいったでしょうか?」
 「―――……何階でしたかね・・・? 降りるときに数えるといいですよ」
 「50階建てなんですよね?」
 「…………………… そのはずです」
 「………………?」
 「―――――………………だから『50うーの塔』なんですよ」


 ――二回言うが、この塔に窓は無い。内部は四方を分厚いダンボールに囲まれ、外の情報は一切伝わってこない。
 しかし、時計を見ると、いつの間にか夜の7時。心なしか外の闇が沁み込んできた様で、元々薄暗い証明が更に
か細くなった気がした。
 理屈にあわない恐怖に震えながら、彼女は一気に降りていった。
 下りだから、スムーズに進んでいく。


 改めて、この塔に何階分登ったのか気になって、改めてカウントをしながら………




                                      ,ヽ/{   }ヽノヽ
                                       ノ ノ ' ヽ / )  } ,   11階ー
                                     'ヽi  ')ヽ oOo ノ /{ V}   12階ー
                                     < ''V 'o. '''' .oノ ノ ノ    13階ー
                                    / '' ' -' 'ヽ__ノ.-:'':: ' ヽ
───────┐     \               、_/.::'' r  '{::{ \..  ':. ヽ {ヽ
          .│       \              ' -{./ /::  人::::ヽ ヽ::ヽヽヽ} (:'
          .└────┐ \  /⌒ヽ        ノ( (:(:: ノ --)ノ '')/''--:、ノ:ノ:
                  │  ∨    ヽ       ノノ>)::::) ( ヒ_]     ヒ_ンヽ:)
                  └────┐ 丶  /⌒ヽ  ノノi:::|'""  ,___,  "|:: 入
                         .│  ∨    ヽ )/'''人   ヽ _ン   人V
                         .└────┐      >.、____ ,.イ
                                 │ 
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                                      :,ヽ/{   }ヽノヽ:
                                     :  ノ ノ ' ヽ / )  } :,
                                    : 'ヽi  ')ヽ oOo ノ /{ V} :
                                    : < ''V 'o. '''' .oノ ノ ノ :   55階・・・・・・
                                   : / '' ' -' 'ヽ__ノ.-:'':: ' ヽ:   56階・・・・・・
───────┐     \               :、_/.::'' r  '{::{ \..  ':. ヽ {ヽ:  57階・・・・・・・・・・・・・・・!
          .│       \             : ' -{./ /::  人::::ヽ ヽ::ヽヽヽ} (:' :
          .└────┐ \  /⌒ヽ        :ノ( (:(:: ノ --)ノ '')/''--:、ノ:ノ::
                  │  ∨    ヽ      : ノノ>)::::) ( >//////< )ヽ:) :
                  └────┐ 丶  /⌒ヽ  :ノノi:::|'' | | ,___, | ||:|:: 入:
                         .│  ∨    ヽ: )/'''人| | 'ー⌒ー' | |人V :
                         .└────┐      :>.、____ ,.イ:
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                                               │             【終わり】

真相というかオマケ

      __________
     /      /      /|
   /      /      /  |
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|  ..|  片腕有角の塔
   |   r=;,     r=     |  ..|  茨華仙(茨木華扇)
   |    ヒ_,!::::::::::::::ヒ_,!     .|  ..|
   |   '"  ,___,  "'     .|  ..|
   |       ヽ _ン        |  /|
   |__________|/ |
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|  ..|
   |   r=;,     r=     |  ..|
   |    ヒ_,!::::::::::::::ヒ_,!     .|  ..|
   |   '"  ,___,  "'     .|  ..|
   |       ヽ _ン        |  /|
   |__________|/ |
   | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|  ..|
   |   r=;,     r=     |  ..|
   |    ヒ_,!::::::::::::::ヒ_,!     .|  ..|

  • ポンポン跳ねる星ちゃんが可愛いw
    泣くのも無理ないなこれはw -- 名無しさん (2010-10-16 23:51:43)
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最終更新:2010年10月20日 20:16