※ゆっくりの出番がかなり少ないです(後半に登場)
※ペットの一種という設定ですが、あまりそこは深く考え無い方が楽しめます
疲れた。今日も辛かった。
しかし、ノルマは達成できていない。
この事が重く両肩に圧し掛かる。
休憩にと入った喫茶店で、体によくないとは思いつつ、アイスティーか何かで
済ませればよいものを、わざわざキャラメル味のラテなんてものを頼み、深く
ソファーに腰をかけた。
ネクタイを少し緩めると楽になったが、汗の仄かな匂いがやや不快だった。
全身が重い。
時刻はまだ夕方前。
それにしても、何という人通りだろう。
(俺はこの仕事、向いてないのかな?)
この仕事はやはり行動力が命と、現場に赴き、足を棒にして担当区を駆け回り、
時には範囲を広げ、まず見込みのなさそうな場所にも顔を出す。
これは、と思ったターゲットが見つかってからは、、それこそ休憩時間も残業云々の
概念ももなく研究し、張り付きチャンスをうかがう。
ここからは粘り強さの勝負だ。2.3日家に帰れないなどという事はざらにある。
―――それでも上手く行くとは限らない。
いや、上手く行かない事の方が多いか?
そもそもいい相手すら見つかっていない。
それ位の気持ちがなければ勤まらないのかもしれないが、上司は容赦なく、建前では
なく怒る。
ノルマを達成できないのも、仕事をとってこられなかった事も恥ずかしいし、ソレ相応の
ペナルティーも帰って来る。が、仕事上の焦りによるミスや――――その他、最も恐ろしい
目にあうのが、規定を犯した時だ。
世間一般じゃ、我々程裏で何をしでかしているか、等と思い込む輩もいるらしいが、
そんなものは幼稚な子ども向けの戯画の中にしか登場しまい。
コンプライアンスという単語も大分浸透してきただろう。
一定のルールも守れない様では、生き残ってはいけまい。
(けどさ)
却ってこの厳しさこそが、私を苦しめる根源なのではないだろうか?
―――もっと昔は本当に自由だったじゃないか!――― そう喚く同僚もいる。
私はキャラメルラテの残りを呷った。
美味かった。
いや、本当に美味い。
美味いの語源は「甘い」だそうなのだが、納得できる。
もしも――――あらゆる人間が生み出した料理の中で、あまねく老若男女、人種や民族を
問わず、「美味い」といわせられる普遍的な料理があるとしたら
それはきっと甘い味がするはずだろう。
このキャラメル味は若干癖もあって、やや鈍い尖り方をした甘さを感じるが、もっともっと優しい
味のはずだ。
(もう、これでいいじゃないか)
これに比べれば、私が必死に供給しようとしているものなんて――――
そもそも、私の仕事なんて本来なら無くったって構わないはずだ。無くったって別に死にはしないんだ。
必要だとは思う。
求める連中はごまんといる。
しかし。
皆、身近なものだけで満足してればいいじゃないか。
馴れ合いでいいじゃないか。
(そう言っちゃって、上にどやされたっけ)
――――馬鹿。最悪本当に死ぬ奴が出るんだよ と。
もっと自分の仕事に誇りを持てと――――
「世の中そうなっているんだ」
そういう風にできている。
私は重い足を引きずって、店を後にした。
ここにいる連中も、多かれ少なかれ私と同じ気持ちでいるだろう。
人込みの中には、 親子連れもいた。
子供を見ていると、無性に昔の事が思い起こされて、少し前向きだった気持ちがまた沈む
(どうしてこんな仕事についちまったんだろう?)
着たくもないこんな堅苦しい服を着て、自分を偽って、無理やり周りに合わせて愛想笑いを振りまいて―――
最初の頃の夢は何処へ行っただろう?
飯さえ食えればそれだけでいいという程志は低くなかった。
求めていたのは――――そう、強さ。
所謂英雄と呼ばれるような方向性ではなかったが、とにかく今のような境遇じゃない。
しかし、一体どれ程の者が、自分の望んだ身分にそのままなる事が敵うというのだろう?
「仕事しよう」
ところが。
改めて立て直した前向きな思いと――――先程一端封じ込めた疑問・そして―――「子供」「昔」という
キーワードが全て噛み合った。
それは―――無意識に避けていた事だったのだろう。
(別にいいか?)
ルールを破っても。
そこには、最低限の倫理というより、上が決めたよく解らないプライドのようなものが1/9程と、残りの8/9は、
「バランス」「秩序」のため、という名目で構成されている。
「パイを奪い合う」という言葉があるが、実際は有る程度ギリギリの部分でお互いに自重しあっているのが
現状だ。
そして、私の上司も一番上も、「今の現状はやはりベスト」と公言している。
それはそうだろう。本気で全力の奪い合いがルールもなく始まったらならば、こちらに勝ち目があるかないか
どころか、お互いが全滅しかねない。
百害あって一利無し とはまさにこのこと。
その秩序と現状を裏で守っているのが、実は我々ではないだろうか?
そして、私の同僚は、それはもう沢山で働いて―――
(自分ひとりくらい――――)
中には、明らかに裏でこっそりと汚いやり口でノルマを達成し、成績を上げている奴も中にはいるのだ。
そして、そいつらはのうのうと幅をきかせている。
秩序とか平和とか言う前に
私達だけがこんなに辛い思いをするのは解せない。
「そもそも、こんなにいるじゃないか」
無理に相手を選んでいるからいけないのだ。
選ぶように言われているが、後で何とでも言い訳がきくだろう。
―――私は――――そう、先程の幼児はともかくとして、適当にいかにも騙され易そうで、性質の悪そうな
学生を選んだ。
そんなやつらは存外多い。
適当なカモを見つけてすぐにつけ始めた。
いかにも
何、こちらも何と言ってもて生れたもの。ホイホイ乗って食いついてくるだろう――――と思った矢先。
カモが入ってしまった店がある。
少しやりづらいか――――――と、舌打ちしつつ、私も中に入った。
ペットショップだった。
犬猫といった代表的な連中をかき分けていくと――――あるコーナーで息を飲んだ。
見知った顔が、ずらりと並んでいる。
「おお・・・・・・・・・」
「ゆっくりしていってね!!!」だった。
通称ゆっくり――――その名のとおり、基本的に「ゆっくりしていってね!!!」とだけ言葉を発する、
変な丸みを帯びて独特の生意気そうな顔つきをした、少女の生首の姿をした謎の生物
私はここで、思わず後ずさりせずにはいられない。
ここでこいつらに会うとは・・・・・・
「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」
奴等は無言で私を見つめている。
大抵自然な形で口を開けているのに、ケースの中に入った多種多様なゆっくり達は、皆口をつぐんでいる。
それでも、笑ってはいるのだった。
目は本当に穢れなく、兎に角真っ直ぐ―――――
それは私に降り注いでいた。
まあ、他に客がいないというのもあるのだが。
私はすぐに目を逸らした。
が、振り返ると――――――紅白饅頭と言われるゆっくりれいむを始め、らんしゃま・ゆかりん・れみりゃといった
本当によく知る連中がこぞってこちらをまだ見ている。
「そのメンツは卑怯だろう――――解った、解ったよ。一種の気の迷いさ。そんな真似はしないよ」
そんなズルをやっても、結局はバレるだろう。
――――何せ………私は以前……
「大体、同僚や皆にも迷惑がかかるしな」
日が暮れるまで時間は有る。
―――その頃には、今よりもまた新しい機会が見つかるかもしれない。
私は、ペットショップを後にし、改めてマニュアルに乗っ取って仕事を再開する事を決めた。
事なかれ主義でいいじゃないか。誰が何と言おうと、平和が一番だ。
何も疚しい事はしていない。胸を張ろう
上司も言っていたんだ。 自分の仕事に誇りを持て、と
私は秩序を守っている
まるで心が読めるかのように、ゆっくり達は定番の、しかしどこかで聞きたがっていた台詞を言ってくれた
_人人人人人人人人人人人人人人人_
> ゆっくりしていってね!!! <
 ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^
と――――店員がやってくるのを見計らったように――――
ゆっくりさとりが、にんまりと笑って言った。
「この前は失敗でしたね」
思わず鳥肌が走る。
「ニュースになっちゃいましたから………」
「人間も選ばなきゃだめだよねー 自殺者とか犯罪者とか」
「ほんとほんと」
「そーそー」
これだからゆっくりって奴等は………
何故解ったのだろう!!?
さとりだからか?
実家に帰ってから捌けばよかったのだあれは………大体最近は死肉が嫌だなんて贅沢を言うやつらが多過ぎる。
生け捕りにして持ち帰るのがどれだけ大変か解っているのか!!?
また、ノルマのため、選んだ人間が適当過ぎた事も、こっぴどく怒られた。
「まーほどほどにね」
うるさい。お前のモデルは人間なんだぞ…… とゆっくりれいむに言おうとして、店員が見ているのでやめた。
流石に悟られてはいないだろう。
店を出ながら、思わずぼやいた
「食料調達係も楽じゃない」
「食料調達係」って名前だけは知られていて、かなり重要な仕事のはずですが、あまり描かれる事が無い上に、原作や資料でも
詳しく書かれていないので、思い切って、かなり緩々で甘い解釈で描いてみました。
実際はどうなのかな?
怖くてシビアな解釈をするべきかもしれないけど、ここはこういう捉え方も有る、という事でどうか
これは初期衝動で書かねばと書いたので、その他の設定が多少間違えた所もあるかもしれませんが、そこはどうかご勘弁を!
最後に雰囲気だけ味わい、ジトっとした気分にだけなってもらえれば光栄です。
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最終更新:2011年07月05日 14:16