優しい鼠の悦ばせ方

久々に直接投下~
東方キャラ登場注意とかいつも通りです。
今回はゆっくりに裏方に回ってもらいました。い、いつも通りとか言わないでください><


ゆっくりSS 『優しい鼠の悦ばせ方』

ある暖かな昼下がり。
人里近くに居を構える妖怪たちのサンクチュアリ、命蓮寺と呼ばれるお寺。
その境内の日当たりの良い一画にて。

「おい、鼠!それに星!こっち来て見てみなさいよ!面白いからさ」

快活な少女の呼び声が境内に響く。
少女の名前は雲居一輪。尼さんのような格好をした命蓮寺の信徒の一人であり、巨大な雲入道を操る妖怪だ。

「そんな大声で呼ばなくても聞こえるているよ。私に何か用かい、入道使い?」

一方、気だるげな返事で呼び声に答え、寺の中から表れたのは、大きな鼠耳を持つ妖怪少女。
鼠の妖怪変化、名前はナズーリン。

「ちょっと、私には一輪ていう可愛い名前があるのだけど?」
「君は知らないかもしれないが、私だって名前は“鼠”じゃないのだが?」

面倒くさそうに鼠、もといナズーリンは一輪の言葉に答える。
言葉とは裏腹に名前を直接呼ばれないことに怒っているという様子はない。相手のことそのものに関心がないといった態度だ。

「はいはい、ナズーリンさんナズーリンさん。まぁそんなことはどうでもいっか。ところで星は?」
「どうでもいい名前のナズーリンを今後はお忘れなく、一輪さん。ご主人様なら朝から聖のお使いに出かけてるよ」
「あぁ、そうだったか‥。ならあんただけでいいわ。これ見てみなよ」

一輪は年相応の少女のような笑みで、境内の中に植えられている神木のうち一本を指差した。
その木の根元には、何だろうか、怪しげな生物‥らしきものが二匹いた。

『ゆ!』
『ゆゆ!』

丸い顔だけの身体を持つ、饅頭型の謎生命体。
ゆっくり、それが二匹、神木の下でじゃれ合っていた。
といっても、この命蓮寺ではさほど珍しい光景ではない。
寺の創始者である聖白蓮は、妖怪等の奇々怪々な存在を尊敬し、自ら人間と妖怪の平等を訴えるような奇特な思想を持つ魔女であり、
妖怪と同じくらい奇々怪々な存在であるゆっくりについても、強く保護を推奨していたからだ。
つまり物凄い人外フェチな人なのである。

「君が見せたいものって、ゆっくり‥かい?」
「ええ、しかも‥。見ての通り、あなたと星のゆっくりよ」

そう、一輪がわざわざナズーリンを呼んだ理由はここにあった。
その神木の下で戯れているゆっくり達は、彼女と、その主人である虎の妖怪変化、虎丸星によく似た顔をしていたのだ。

それが二匹仲良さそうに『キャッキャキャッキャ』と楽しそうに笑顔で笑いあい、
お互いの身体をポヨンポヨンとぶつけ合ったり、
お互いのほっぺをくっつけて、すりすりと擦りあわせていたり、
神木の周りを『ころころ~』と、声を出しながら転がっていたり、
『ゆっくりしていってね!!』と意味なく掛け声を掛け合ったりしていたのだ。

「‥、何の冗談だい?これは」
「ぷ‥フフフ‥、何って、とても面白い冗談でしょう? 
 良いわよね、これ。仲良きことは素晴らしき哉って奴かしら? フヒヒヒ!」

ゆっくり達がはしゃぐ様子に、頭痛そうに額を抑えるナズーリンと、
可笑しくてしょうがないという風な笑いを懸命に堪えている一輪。
そう、一輪はこの仲睦まじいゆっくり達の姿を本人たちに見せてその反応を楽しむために、ナズーリンをこの場に呼んだである。

「ねぇ、そっくりでしょ? あなたと星に。本当ラブラブで見てるこっちが恥ずかしいくらい。
 あー、私もこういう恋人が欲ーしーいーなー!」
「じょ、冗談も大概にしてくれ!私とご主人様はそんな爛れた関係じゃない!」

ナズーリンはらしくもなく感情を表に出して口調を荒め、一輪に訴えた。
冷静沈着な態度を常としている彼女の、こういう反応は本当に珍しい。
二匹のゆっくりが、ただこうやって仲良く遊びあっている“だけ”なら、
彼女はここまで激高することなく、彼女ははまだ気持ちに余裕を見せることができただろう。
しかし、そのゆっくり達は黙ってはしゃぎ回っていた訳ではなく‥、


『ゆ~、ご主人様~!』
『おお、よしよし、なずーりんは良い娘だなぁ!』
『ご主人様、ご主人様ぁ! 私の頭、もっと、もっと撫でてください!』
『やれやれ、この甘えん坊さんめ。びしゃもんてんの弟子である私の部下がそんな“ていたらく”でどうするのです』
『うぅ、ごめんなさい‥。でも!ご主人様に頭撫でられるのすごく気持ちが良いから‥!
 ご主人様がいけないんです。なずなずの頭をこんなに気持ちよく撫でてくれるご主人様がいけないんです!』
『まったく、自分の甘え癖を私のせいにするなんて、しょうがない子だね』
『すみません‥、ダメですか、ナズナズのこういうところ‥』
『いいえ、私はナズーリンのそういうところ、とても可愛いと思っています。ほら、おいで』
『わーい!それでこそナズナズのご主人様です! いっぱいなでなでしてくださいね!』
『まったく、調子良いんだから‥、はい、なでなで~』
『きゃわ~ん』


そう、二匹のゆっくりは、だいたいそんな感じの、
ベリーにスイートでマジカルすとろべりぃな会話を、
会話というか子芝居を、
はしゃぎながらずっと口に出していたのだ。

「キャハハ、ハハハハッハアハハ!!!! 最高過ぎるよ!可愛い、可愛いよナズナズ!
 萌え萌えにも程があるわ!! 良い、こういう恋人関係とか本当に憧れちゃうよね、全乙女の夢よね!」

一輪。ついに堪えられなくなり大爆笑。
尼の格好をしているのにかかわらず、まるで子供のように腹を抑えて涙を流しながら甲高い声で笑い転げている。
一方、ナズーリンは顔をうつむかせ、量の拳を握りプルプルと震わしていた。

「こいつら‥」
「おっと、いけないよ。しもべを使ってこの子達をここから追い出そうとしちゃ。
 命蓮寺はいつ誰の来訪も受け入れるんだから。この子達みたいに純粋な存在ならなおさらね」
「うるさい、名誉棄損で訴えてやる! こんな、あることないこと! 人の顔を勝手に借りて喋りまわりやがって!!」

ナズーリンは顔を真っ赤に染め上げ、手に持ったダウジング・ロッドをぶんぶん振り回すほどに興奮している。
恥ずかしさでこの世から消えてしまいそう、という心境はきっとこういうものを言うのだろう。

「アハハはは、幻想郷にそんな法律ないって!
 にしても、この子達本当面白いよね。こういう会話、いったいどこで覚えてくんだろ?」
「知らないよ、そんなこと!私の知ったこっちゃない!」
「あなたも、逆にこの子達のマネやってみたら?逆にさ。 『ナズナズ~』って奴。星には案外受けるかもしれないわよ」
「そのふざけた口を閉ざさないと、私が独断でお前を私刑に掛けて差し上げるが?」
「おお、怖い、怖いわよ鼠。そんなんじゃ、ご主人様に可愛がってもらえないゾ!」
「その大安売りの喧嘩買ってやる、即金前払いでな!」

今にも、境内で弾幕勝負が始まりそうな雰囲気の中、

「コラコラ、こんな所で叫ばない、暴れない、喧嘩しない」

寺内から出された流水のように透き通ったような声が、二人の間の喧騒に割って入った。

「二人とも聖に言いつけちゃいますよ?」

二人とも、仕方ない、今はお預けだ、と言った風な顔で一瞬目を合わせ、
声のした方に顔を向けた。

「勘弁してほしいわね、ムラサ。ちょっとした戯れくらい見逃してくれなちゃ」
「私たちに何か用かい?船長さん」

二人の喧嘩を止めたのは、海兵服を身にまとったやけに肌が白い少女、船幽霊の怪、キャプテン・ムラサ。
ムラサは首を小さく振って、ナズーリンの疑問に答える。

「いいえ、用があるのは一輪だけ。それに用があるのも私ではありません。聖が買い物頼みたいって」
「へぇ、姐さんが。私にそういう役が回ってくるなんて珍しいわね」
「今度の買い物は少し大きいらしくて‥。雲山の力じゃないと運べないものだそうです」
「そういうことなら、仕方ないか」

首をこきこき鳴らして、一輪はムラサに導かれるまま、寺内へと歩を進める。
途中、ナズーリンの方へ振り向いて。

「悪かったわね、ちょっとからかい過ぎた、かも‥」

小さく笑って、申し訳程度に頭を下げた。
一輪のそんな態度に、ナズーリンは一瞬顔をしかめたが、

「‥ああ、いいよ。私も少し大人げなかったな」

そっぽを向いて、小さな声でそれに応えた。

「まったく‥、うちのクルーはみんな優しい娘ばかりだね」

そんな様子を見てクスクスと笑いながら、ムラサは寺内へと一輪を導いていった。

こうして境内に残されたのはナズーリンと、

『ご主人様♪ ご・主・人・様!!』
『はいはい、よしよし、よしよし』

無駄に叫んではしゃぎまわる、二匹のゆっくりだけになった。
ナズーリンは今一度大きな大きなため息を目一杯つくと、
それまで人間の少女と同じように怒ったり、照れていたりしたその瞳を、

“ギラリ”と光る、人外の持つそれへと変化させた。

(入道使いの奴は運良く撒けたし、本題はここからだ)

そして、彼女は膝をかがめ、それまで見下ろしていたゆっくり達と目線を合わせた。

「おい、君ら」
『ゆ?』『ゆゆ?』

二匹のゆっくりは突然呼び止められたことで、それまで掛け合いをやめ、揃ってナズーリンの方に向き合った。

「聞きたいことが一つあるのだが‥」
『なぁに?』『なぁに、お姉さん』
「私としても非常に聞きづらいことだが、素直に答えてくれることに期待する」
『?』『??』
「いや、質問自体はとても簡単なものだ‥。 なぁ、君たちは‥」


「どこで聞いてた?」

『何を?』『何をー?』

「とぼけなくていい。さっき君たちが話していた“会話”そのものをだよ」
『ゆ?』『ゆー?』
「仲良く首をかしげるな! 良いから早く言ってくれ!周りに誰もいない今しかチャンスはないんだよ!
 どうして知っているんだ!? ていうか本来なら君らのような小さい生き物でも知ってるはずはないんだよ!
 ああいうことするときはいつだって私の部下のネズミ達に周囲360°四方八方見張らせているんだから!
 誰かが聞き耳立てていたとしても絶対私が気づくハズなんだよ、例えどんなに小さい生き物だろうと報告がくるはずなんだ!
 なのにどうして知ってるんだよ!しかも私の台詞もご主人様の台詞も一言一句間違えずにパーフェクトにだ!」
『ゆ‥ゆぅぅ』『ゆぇ~』
「泣くな、これくらいで泣きそうになるな!頼むから答えてくれ!ネズミを使って脅しをかけてやることも可能なんだぞ!
 最悪の場合君らごと亡き者にしてでも‥」

「あら、ナズーリン。何をやっているのですか?」

「うげ‥」

先のムラサと同じように、ナズーリンとゆっくり達の会話に割り込んできた、透き通った声が一つ。
ナズーリンが恐る恐る振り返ると、そこにはナズーリンが予想したのと同じ人物が立っていた。

「ゆっくりとそんなに真剣に話し込んで、どうしたというのです? ゆっくりたちも今にも泣きそうな顔をしているじゃないですか?」
「えっとですね、聖‥、これは、その‥」

黒を基調とした衣で身をまとった、神々しいオーラを纏った少女、聖白蓮。
この命蓮寺の創始者の聖女、或いは魔女である。

『ゆわ!お姉さん!!』『ゆわーい!』

二匹のゆっくりはさっきまでの泣き顔が嘘だったように、嬉しそうな声をあげて聖の胸へと飛び込んだ。
聖の方も慈母のように慈しみに溢れた笑みでそれを受け止める。

「えっと、聖。さっきの、私の話‥、聞こえました?」
「よしよし、良い子良い子‥。 
 そして、ナズーリン、あなたの質問には一応“はい”と応えるのが望ましいということになるのでしょうか。
 あなたとこの子たちの会話が聞こえただけで、どういった内容かは聞き取れませんでしたが」
「そ、そうですか‥」

首の皮一枚でつながったような心地で、ナズーリンはほっと胸を撫で下ろした。

「いったい何を話していたのです?この子達は小さいのだから、あまり高圧的な態度をとってはいけませんよ。
 特に、あなたはその小さい身体に、見た目以上の大きな力を伴っているのですから。
 正義を持たない力の行使は、過ちへの第一歩となり得ます」
「はい、心に留めておきます」
「良い返事ですね。私は嬉しいです」

ニコリと聖は笑って、ナズーリンの頭を優しく撫でた。
ナズーリンは顔を赤らめながらも、

(ご主人様ほどじゃないが、優しい撫で方だな‥ とか考えてる場合じゃない‥。
 しかし、あのゆっくり達は聖のお気に入りか‥。力づくで事を解決することは、できそうにないな‥)

そんなことを考えていた。

「それでは、私は寺内へと戻ります。この子達にもお菓子をあげたいですし‥。
 ナズーリンはどうします?」
「いえ、私はここで待機しております。今、寺内は主だった弟子達が外に出ているようですし」
「幻想郷でそういった見張りは必要ないと思いますが、あなたがそういうなら任せましょう。
 よろしくの願いしますね、ナズーリン」
「はい」
『ゆー!お菓子ー!』『お菓子お菓子ー!』

ゆっくりを抱いたまま寺内へ歩いていく聖を尻目に、
結局、あのゆっくり達という情報源は失ってしまったな、これから先どうしたものか、
と思案を巡らせるナズーリンであった。





「お菓子を食べながら、またお話でもしましょうか」
『お話だ!お話ー!』『今度はどんなお話?』
「そーですねー、どんなお話がいいかなー?」
『どんなお話でも良いよ!』『お姉さんのお話大好き!』
「そーねー、それじゃ」


「今度はツンデレな鵺っていう妖怪のお話でもしましょうか」
『ゆわーい!』『主従愛の話の次はツンデレなんだね!』









「犯人はお前かぁあああああああああ!!」








境内に、ナズーリンの慟哭が響いて渡った。

命蓮寺は、今日も平和である。






~終わり~    書いた人:かぐもこジャスティス

  • 命蓮寺は今日も平和だな -- 名無しさん (2010-11-27 04:44:51)
  • 真実はいつもひとつ! -- バーロー (2012-08-08 19:18:37)
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最終更新:2012年08月08日 19:18