※ちょっとだけグロテスクかもしれないシーンあり
とあるゆっくり達がゆっくりと静かに暮らす、ゆっくりの森。
その一角にある、ゆっくりアリスの美容室に、閉店も間際にやってきたのはゆっくりゆかりだった。
律儀に入口から入ってくるわ、特に話しかけてくることもないわ、陰鬱な面持ちで髪を預けてくる。
かえって不安に思いながら注文を聞いた。
「――――”鶯の谷渡り”で」
「………ええっ!!?」
「どうしたの?きこえなかったのかしら? ”鶯の谷渡り”をおねがいね」
しばらく絶句した。
あまりにもらしくない。
ゆかりは確かに奇抜な印象を受ける事はあるが、それは時代に迎合し人口に膾炙し、若年層におもねる
様なセンスとは程遠いと思っていた。
「鶯の谷渡り」など、メジャーぶりを通り越し、そろそろ軟弱者や軽佻浮薄の代名詞となりかけている
最新のスタイル。
実際に、この美容室にもいまだ連日この注文をしに訪れるゆっくりはいるのだが………
「かしこまりましたー」
しかし仕事は仕事。
驚きながらも、気は進まずとも、注文はこなす。
ややうつむき加減のゆかりの表情を、正確に読み取ることはできなかった。
―――そして30分後
「こんなところでどう?」
「………ちょっとちがうわね」
「え………」
「ごねんなさいね。今から”獅子舞い絞り”に変更できない?」
声も出なかった。
これはもう、ミーハーだの流行だのの問題ではなく、ゆかりに合わないにも程がある。
安倍川餅に、ココアでも浸すようなものである。
「だから、”獅子舞い絞り”よ! 文句があるなら他のところを…・・・」
「や、やるわよ!!!」
その後も、「雁が首」や「首引恋慕」などにゆかりは注文をつけた。
流石に辟易したが、ありすは怒る気になれなかった。
作業中、うつむき加減のゆかりの目には軽くうるんだものが溜り、結局「こたつかがり」に行き着いた時には、
ポロポロと滴るものがあったのだった。
「どうしたの……」
「これじゃだめね………」
閉店作業を素早く終え、購入したココアを淹れて渡すと、ゆかりは悲しそうに啜った。
人も妖怪も億劫にさせる、寒い夜。しばらく、二人で無言で切り株に座って月を眺めた。
飲み干してやや経ってっから、帽子にしまっていたらしい本を、ゆかりは取り出して見せた。
「ん? どれどれ………」
――『ゆっくりは見た目が9割』――― 天本裕著(2006.シルバーナイト社)
「古すぎるわ! なんだこんなもん」
バリバリ
「やめて!」
本を破くのには抵抗があったが、そもそも内容自体が薄く、タイトルだけで話題を呼んだにすぎないと悪評ばかりの、
4年も前のベストセラーである。
「結局、見た目が全てなのよ…… イメージだけで、全て判断されるんなら私は何だって……」
「まあ、何に悩んでいたのか大体わかるわね。―――だからって、髪型から下らないブームにおもねるなんて、ぐの骨頂」
「………」
最後にか細く言った。
―――私より、良い見た目の可愛いゆっくりはたくさんいるだろうに―――と
どうにも今日は気弱すぎる。
嘆息しつつ、ぽよぽよと付近を跳ね回りながらありすは言った。
「例えばそう―――れいむが、ゆっくりするばかりで金銭に汚く薄情で周りのゆっくりをゆっくりとも思わず単なる食料
扱いしかしないゆっくりだとしたら、そんな相手とゆっくりしたいと思う?」
「そんなゆっくり相手じゃ、ゆっくりしていられないし、最初から好きにならないわね―――いや、実際れいむはそんな
感じだけど」
「でしょう? 本当に見た目だけで判断してるなら、そんなにれいむの事も気にならないし、テルヨフやもこたん辺りがもっと
圧倒的に人気があってもいいのよ」
「ふむ…」
確かに外見や視覚への訴えは、大きい。
しかし、ゆっくりはそこまで愚かではないのだ。みんな見ていないようで、きちんと見るべきところを見ている
目に見えるものだけがすべてではない。
いや、本当に大切なものは目に見えない
「ありがとう」
「いえいえ。皆悩みは同じね……」
そう言って、ゆかりはありすの店を後にした。 ―――――「こたつかがり」のまま………
翌日の仕事は順調だった。
相変わらず忙しかったが、てきぱきと片付け、午後9時には早くも帰宅できそうだった。
ゆかりの髪型は「こたつかがり」だったので、相方のれいむも最初は極端にひいていたが、そのうち気にならなくなっていた。
「疲れたわあ……」
「そうだね……」
こてり、と座布団の上で傾いたれいむに、そっとゆかりも寄り添う。
最初は多少驚いて恥ずかしがるれいむだが、抵抗は一切無し。
そして、いつしか全身を預けていた。
「ゆふふ……… ゆかりは何だか暖かくてやわらかくて気持ちがいいね……」
「あらそう。光栄だわ」
何度か言われたことがあったのだ。
こうして、ここまで二人でゆっくりするのは久しぶり。
最後の時は、「おかあさんをおもいだすよ!」と言われたものだ
「何か、匂いもちょっとちがうし………」
「…………この匂いは、嫌い?」
「ううん。いつもよりすきだよ!!! --―何だかおなかまですいてきちゃった」
その言葉だけで、ゆかりは報われた気がした。
そして、改めてありすに心の中で礼を言う。
そして改めて思い出す
――――――外側だけじゃない―――
ゆっくりは中身で勝負!!!
しかし、その幸せも長くは続かなかった。
「甘い! 甘すぎですよ!! 今からセンター試験でどうにかなると思ってるくらい甘い!」
「何ですって!?」
「結局外側に頼ってるじゃないですか。全く何が中身で勝負ですか。笑ってしまいそうです!
あーーーっはっはっはっは!」
戸口に立っていたのは、ゆっくりさなえさんだった。
「わらってるじゃん…………」
「れいむさん、お腹が減ってるって言ってましたね。一口いかがです?」
「え? いいの?」
夕飯はまだ食べていない。
そっと覗き込んださなえさんに、特にためらうことなくれいむはかじりついた。
「どうです?」
「むーしゃ むーしゃ。 ん~…… やっぱり鶯餡はおいしいね!!!」
彩りも美しく、栄養価も高いエメラルドの様な鶯餡。空腹時の甘い物は、多少腹にこたえるが、
何者にも代えがたい満足感を与えてくれる。
さなえさんの中身は、ちょっと珍しい緑の餡子なのだった。
勝ち誇った笑顔で、楽しげなれいむとゆかりを見下すが…… ゆかりは物怖じもしていない。
「れいむ。本当はお仕事が全部終わってからにしようと思っていたけど、私もちょっと食べてみなさい」
「えー」
「あらあらいいんですか? 中身が出ちゃいますよ?」
「いいから。なんならあなたも食べなさいな」
れいむは左側から、さなえさんは右側から、そっとかじりつく。
「むーしゃ むーしゃ…… ゆ…甘い物の後の、辛い物もおいしいよね! ちょっといつもと違う
カレーライスだけど…………」
「あら、割とおいしい。納豆……ひき割り納豆ですね! 練梅としらすも入って贅沢な」
「ゆ……ゆゆっ!!?」
「え………?」
別々の中身………?
「そんなはずは……」
もう一口深めに食べて、二人は気が付いた
「こ、これは納豆カレー!!?」
「す、すごい!!!」
「Coco壱番屋でも、店舗によっては不動の一位の人気を誇るという、あの……!」
「ふん。甘いわね。紀州みかんを武器に海軍に戦いを挑むくらい甘いわ。
ちょっと風味と色の違う鶯餡? それだけで一歩先を進んだ気持ちになってるなんてさらさら可笑しいわ
中身が一つだなんて誰が決めたの? カレーか納豆かなんてたいした問題じゃないわ。
結局安直な答えしか出せずに、単純なものに固執して全く何が中身で勝負ですか。笑ってしまいそう!
あーーーっはっはっはっは!」
それは勝者の笑顔だった。
しかし、その時
「それは、こちらの中身も試してから言ってもらおうか!!!」
戸口に立っていたのは、ゆっくりれみりあと、ゆっくりふらんだった(なぜか妹は浮かない顔)
「さっきから聞いていれば、鶯餡だの、納豆カレーだのどいつもこいつも単調なことこの上ないな!」
「ど、どういう意味よ!!?」
「肉まん二人が何しにきたの!?」
「うー☆ れいむ、ちょっと食べてみてね!!!」
「むーしゃむーしゃ」
一口かじり、おいしそうなそぶりは見せたが、れいむは首をかしげた。
「おいしいけど……ソフトクリーム?」
「ん?」
「馬鹿な……」
「うぅうー☆ 分からないなら、ふらんも食べてね!!!」
気乗りしないふらんもかじる。
その時、ものすごい音がした!
ガリっ!
「「「!!!?」」」
「ゆ……ゆううう! 痛い! 痛いけどおいしい!! かむのってたのしい!!」
「うー そうでしょ!!?」
「こ、これは………」
内部を覗き込むと、そこには……
「肉まんがをベースに、蓮根・牛蒡・からすみ・金華ハム・ルーチン(鹿のアキレス腱)・押し豆腐……だと!!?」
対して、れみりあも中身は同じ。
なのに、れいむは「ソフトクリーム」と称した
「まさか………」
「そのまさかさ! ふらんは食感をそのままに、わたしはこの千差万別の歯ごたえをもった食材を、全て蒸して
同じ状態にしてある!」
「なんと!」
「どいつもこいつも、ただ食材をちょっと変えて詰め込めばいいと思考停止している愚か者たちよ! さあれいむ!
もっとお食べなさい!」
「いや……もうおなかいっぱいになりそう……」
しかし、その時
「ならば私の出番だね!!!」
戸口に立っていたのは、ゆっくりすいか
「鬼せんべいがなにしにきた!」
「緒戦は食材という枠から外れられない連中ばかり。嘆かわしい―――――」
「ど、どういう意味!!?」
「れいむ」
すいかは、齧られることもなく、上下に分離した。そしてそこから出てきたのは………
「おお、厚手のタオル!」
「いい生地ね………」
「これは………ゆっくりできる……くやしい……」
鬼なら、酒じゃないかと何人かは思ったが、そんなことはこのタオルの心地よさにしてみればどうでもよかった。
れいむが夢中になってタオルと戯れている。
しかし、その時
「即物的ですね……」
戸口に立っていたのは、ゆっくりもみじ
「紅葉饅頭がなにしにきた!」
「それでいいんだったら―――――私だって!!!」
「ど、どういう意味!!?」
もみじは、齧られることもなく、上下に分離した。そしてそこには………
「おお、なんという精巧な盆栽!」
「盆栽の域じゃないね! これは箱庭…… いや、往年の特撮で見られるミニチュア技術のはるか上を行っている!」
おそらくは、故郷の山の風景なのだろう。
麓の川、森、そして周辺の人家まで、相当緻密な再現がされている事が分かる。
大きさは合わないが、中央にはかわいらしいあしらいの、にとりが将棋盤の前に座っている風景も再現されている
「これは………ゆっくりできる……くやしい……」
「何てことだ……… ゆっくりの中身は無限大……!」
全員もみじの中身から目が離せない。
れいむは、タオルも忘れて夢中になっている。
しかし、その時
「お前らひっこんでいろ!」
戸口に立っていたのは、ゆっくりてんこ
「なにしにきた!」
「―――――おまえらはぬるすぐる」
「ど、どういう意味!!?」
てんこは、齧られることもなく、上下に分離した。そしてそこには………
「あ、買ったんだ」
「うん」
「すげー BOXで」
「ゲゲゲの女房」のDVDボックスだった。
「見るよね?」
「もー仕事なんてどうでもいいよ」
「冷蔵庫にキリンフリーだけあった」
「あーでも、プレイヤーがないわ」
しかし、その時
「そんなこともあろうかと」
戸口に立っていたのは、ゆっくりらんしゃま
「なにしにきた!」
「DVDだけじゃ、ただの円盤ですよ」
「ど、どういう意味!!?」
もみじは、齧られることもなく、上下に分離した。そしてそこにはポータブルプレイヤーが!!!
すいかがまき散らしたタオルをクッション代わりに―――――キリンフリーを飲みながら、西麻布の深夜のオフィスで、
ゆっくり達はのんびりと「ゲゲゲの女房」の鑑賞を楽しみました。
そして、皆確信したのだった。
――――――― ゆっくりは、中身こそ命!!! ―――――――
一か月後、れいむはらんしゃまと婚約しました。 理由は、しっぽがいろいろいい感じだから
終り
- 繰り返しギャグにやられましたwどんどんカオスになっていくというか、中身がDVDプレイヤーの饅頭って最早何なんですかー!!
そして最後のオチが酷いw -- 名無しさん (2010-11-24 13:13:05)
- もう饅頭じゃねーよ!なんなのこれ!面白いわ! -- 名無しさん (2010-11-26 19:24:20)
- 最後のが饅頭と言うより最早ロボットとしか思えない仕様に吹いたwww -- 名無しさん (2010-12-02 01:37:27)
最終更新:2011年07月05日 14:49