――――いらっしゃいませ
グランドホテルへようこそ!!!
寒い中お疲れになったでしょう。
お客様は、どちらから?
おや、すると港の方からですか。
もう年の瀬。この時期年をこのホテルで過ごそうとはるばる来られるお客様がおられるのは
本当にありがたい。
去年の4月8日の悪夢がうその様でございます
奇跡の復興を果たしてから早半年――――――――――
さまざまな境界の上に、このホテルは建てられております。
駅の周辺の町は、非常に発展しておりすし、そこからホテルまで徒歩で10分とかかりません。
ですが、その裏手古い地方の家並みや田畑がぽつぽつと。
森が広がって、すぐそばはもう山。
更に、海も近い港町――――お客様が来られたのも船でございましたね。
もともと観光地として栄えた土地でして。
周りの景色はどこも見事なものでしょう。
外国から観光に来られるお客様は昔から多いのですが、近年も増加しているとか。
他の見どころでございますか?
文化としては何があるか?
そうですね――――田畑の脇の地蔵から町中の意匠、果てはシンボルマークの一部にまで
ちりばめられた、「ゆっくり顔」。
ごらんになられましたか?
人間とゆっくりが、古くから触れ合い、作り上げてきた文化があることが解るでしょう。
海と陸地
平地と山
農村と都市
自然と人工物
住民と異人
人間とゆっくり
そして―――原因は解明されていないのですが、明らかに異常な濃度で、定期的にホテルの周辺を
山から覆い尽くす霧。
この前、この霧をくぐって来られたお客様の一人は、”現実に生きている気がしなかった”とまで
言っておられました。
また、何年か前に、異様に霧が色づいていた、という噂や、夜中に霧の中、うっかり外出して、
その中にとても奇妙なものを見た、という観光客の話はつきません。
現実と幻想
常識と非常識
―――そう
お客様は、大抵駅の方面か、港から来られるのですが、ごくまれに、山の方や後ろの村の方から来られる
方もいるのです。
それは、大抵霧の出ている晩でして。
こちらとしては、人間でもゆっくりでも―――”他の何か”でも、大事なお客様には変わりありません。
最高級の御持て成しは勿論お約束しております。
元々外国の方用に、境界の上に建てられたホテル
背後の街並みとは明らかに異質な、巨大な赤い洋館。
誰が来られてもおかしくはござません。
窓が少ない、というのが難点ではございますが。
ほお、それはパンフレットですね。
階数: 地下1階、地上11階
客室数: 196室(310名収容)
スカイレストラン・【NIGHT SPARROW】 11階 ※メインダイニング
中国料理・【犬走飯店】 9階 ※香港風
レストラン・【LUNATIC FIREFLY】 1階 ※無国籍料理
和食料理・ 【みどりひげ】 1階
バー: 2箇所 スカイバー・【Harbinger】 11階
ウエディングチャペル: 1箇所
宴会場:3箇所
売店: 1箇所
09年度の赤版ですね。
”版”とは何かと?
いえ実は、このホテル、決まった案内書がございません。
担当者が幾度も変わっているのですが、その度に改定がありまして―――――前任者への
確認? それができないのですね。 皆音信不通になっているのですよ。
まあ、”事実は人の数だけ”なんて詭弁もございますし、肝心の案内書がそれでは……とも
思いますが、その複数のパンフレットを集めるのが趣味だという方もおられるようです。
気になるようでしたら、こちらを。今年の最新版ですから、まず間違いはないでしょう。
「いらっしゃま「ゆっくりしていってね!!!」」
おや、誰かまたお客様が来られたようです。
入口にいるのは―――― 一応人間の新入りと、ゆっくりキスメですね。
……あのキスメ、横の青年が「いらっしゃいま」までを言ったあたりで「ゆっくりしていってね」
を言ってしまうのがクセの様で……後でまた叱っておきましょう
――――ロビーは、掃除だけは行き届いている様ですね。存外人間もゆっくりも少ない中、
皆くつろいでいただいているようで何よりです。従業員達の動きも何だかゆっくり過ぎますが……。
全体的に、作りが丸みを帯び過ぎているですと?
中央の小さな噴水を囲むように作られているためでしょうかね。
―――あの大きな岩は何か?
あれも建立の翌年から置かれた歴史のある岩でして、よく知っている者は殆どおりません。噂としては、
あれに触れると新しい発想が生まれるとかで、創作に行き詰った作家さんや音楽家の人たちがよく訪れます。
ほら、触っている人やゆっくりも多いでしょう。
2年前の、ホテルの全倒壊に何か関わりがあるそうなのですが…
まあ、あくまで途中で生まれた噂ですのでで、ホームページやパンフレットなどの媒体には載せておりません。
受け付けは済まされた様ですが、 係は誰でしたかね?
おお、ぱるすぃでしたか。
いえ、実は当ホテル従業員の中でも一番の人気者の様でして、それは運がいい。
え?
ただ鍵を渡すだけの時にも ::( 0 )ililili( 0 ):: な顔をされた?
先程、お客様の中にもゆっくりパルスィさんがおられたためでしょう。ゆっくりパルスィのお客さまと会うと
決まって嫉妬比べをするもので…
「ゆっくりしていってね………」
癖でしょうね。人間の従業員も言っているのが当ホテルの特徴の一つでございます。
「お運びしまーす」
ベルボーイのゆっくりおりんです。
手押し車にお荷物をどうぞ。
構わない?
何か嫌な予感がする?
まあそう仰らず。
―――こちらはお土産物屋でございます。
何やら騒がしいようですが……
「いや………もう帰らないわ!」
あらあら、ゆっくりにとりが携帯電話で……
「だから! 診断されたの! あと2か月の命だって!」
随分年をとられたゆっくりにも見えますが………悲しいというより、単純に電話先の相手の呑み込みの悪さに
イライラしているご様子ですね。
これは おお重い重い。
「今までの分、楽しませてもらうよ! このグランドホテルでね! いいところだよ~ ここ!」
まあ、ゆっくり泊まっていくご予定の様子。
どこかでまた会えるでしょう。
あら、ゆっくりアリスさんも、携帯電話を持ってお困りの様で。
「ええ…… ですが、あの娘は疲れ切っていまして……… とても今お話しできる状態じゃございません!
今晩までには必ず間に合わせます! ですから………」
実はあの方…………さる有名な舞台女優さん―――あ、ゆっくりぱちぇさんですが―――のマネージャーさんでして。
随分長く滞在されていますが、こうしてホテルにいる間くらいはゆっくりしていってほしものですけれど、どうにも
状況は悪化しているようですねえ。
「夕飯どうよ?」
「いや、お断り状態です」
向こうの踊り場で、ゆっくりあやさん(きめぇ丸ではないのを見るのは久しぶり)を口説いているらしい、まりささんも、
長い事こちらにおられるお客様です。
非常に気さくで良い方ですよ?
手癖が悪いなんて噂する方もおられますが、「侯爵」と呼ばれ、親しまれておられます。
あやさんの方も、表情だけはまんざらではない様で――――
「いいじゃないの。カツ丼がなかなかいけるのぜ」
「いや、一日一食なんで一人でゆっくりがっつりと………」
「減量中?」
「そう見える?」
「節約中か………」
「おお、ひもじいひもじい……」
「あやさん、 お入りになって?」
あのお客様は―――流石にご存知でしょう。(株)Border の社長さんです。彼女の書いたビジネス本が一時ヒットし、
私も勉強がてら読ませていただきました。
あやさんは取材に来られているのですね。
お部屋に行かれますか?
え
それよりも先に飲みたい?
――――もちろんでございますとも。
それではどうぞこちらへ。
1階にもBarがございます。
「大体そんなおかしな事や、刺激的なことなんてそうそう起こるものじゃないよ!!!。それをこんなホテルに
期待しちゃう男の人って……」
「いや、私は女です。それに期待はしていないですが………」
――――先客がいるようですね
「その何もない日常を、このホテルで楽しめばいい」
「『ホテルとは、人生の縮図』ね」
ここがあなたの宿泊室?思えるほど、足しげく通ってくださいますゆっくりこいしさん。
横には―――――確かに人間が二人ですが―――――あのお客様の一人、もの凄くゆっくりこがさに似ておられますね……
サングラスをかけているからわかりませんが、あれでオッドアイでしたら完璧。
何故なら、紫色で、先端が黒い、本当に茄子の様な傘がそこに………
「でも、ここって『非日常』の塊よね」
「……………」
「そんな、いつもと違う生活が190近くも重なるんだから、何が起こってもおかしくないと思うんだけど」
「そういえば、霧が出る時には何かが起こるって言いますよね」
「最近は、夜中にはかなりの頻度で出るけど、そんな怪異は聞かないけどね!」
―――神隠しとか
―――「何か」に出会ったとか
―――「何か」が部屋で起こったとか
「いわくつきの日なんて、365日いつでもそうよ」
「案外、宿泊客全員に何かが起こってたりして」
小傘似のお客様は興味津々といった様子
「――――宿泊客全員ねえ」
―――考えなくても、何かしらの異変が始まる要素はいくらでもございます。
―――そもそもホテルとはそういう場所。
そうそう。
忘れてはおられないと思いますが、本日はクリスマス。
このホテルに泊まる事で、大きな幸運を手にした、永遠に変わらぬ愛を手に入れた――――という伝説は、
まあ全くございませんが、掛け値なしに楽しめる日のはず。
「運命が変わってしまった気がする」とは、常連さんからたまに寄せられる感想でございます。
おや……… また山の方から、たくさんの方々が今年も来られた様ですね……
「『ホテルとは人生の縮図』『ホテルとは非日常の塊』………」
相反する概念ですが、お客様にとってはどちらでしょう?
それでは、楽しいグランドホテルライフを!!!
最終更新:2011年02月02日 22:35