紅魔館の日常(食事編)

※東方原作キャラが出てきます
※独自設定あります
※お嬢様が姉御口調です
※今回はライトな話です








↓大丈夫ならどうぞ









紅魔館の日常(食事編)









霧の湖の畔に建つ悪魔が棲む館、紅魔館。
そしてここはその紅魔館のダイニングルーム。
一人の少女がダイニングテーブルに付いてある一際豪華な椅子に腰かけている。

少女のその小さな背中には一対の黒い翼が生えている。
この少女こそが紅魔館の主であるレミリア・スカーレットだった。
少女にしか見えない外見とは裏腹に、淑女のような気品さ、悪魔のような威圧感、そして一般大衆を魅了させるカリスマを感じさせる。

『彼女こそがこの館の主だ』

誰もがそれを納得させるような空気を彼女は放っていた。



ダイニングルームの扉からノックの音が聞こえる。
そして、その直後に切れ味鋭いナイフのように真っ直ぐな、かつ澄んだ声が室内に響く。

「お嬢様、朝食をお持ちいたしました」
「入りなさい」

レミリアが許可を出すと、扉はゆっくりと開かれる。
入ってきたのは、いくつかの食器が乗ったワゴンを押す銀髪のメイド。
彼女は紅魔館のメイド長である十六夜咲夜だった。
そう、この時間は紅魔館の主であるレミリア・スカーレットの朝食の時間であった。

「咲夜。フランは?」
「妹様はまだお休みになられております」

咲夜はワゴンの上に乗っている食器を主の前に並べながら質問に答える。
まさしくその姿は瀟洒と言う言葉に相応しかった。

ちなみに、フランというのは主であるレミリアの妹だ。
館内では妹様の呼称で親しまれている。

かつては地下室に籠り気味だった彼女も、ある事件を切っ掛けに館内の住人とも会話をするようになった。
さらに、現在は自分から外出する機会も増えてきた。
その事に関して一番胸を撫で下ろしているのは姉であるレミリアだ。
レミリアは妹であるフランについて何百年も悩んできたのだから。
フランの変化が一番嬉しかったのは間違いなく彼女だろう。

「はぁ…あの子もそろそろ寝坊癖が治るといいんだけどねえ…」
「妹様も徐々にお嬢様の生活に合わせておいでですわ」
「だと良いんだけど」

この2人が言うように、フランは地下室に引きこもっていた頃の睡眠時間がなかなか改善されない。
酷い時には今でも3日以上部屋から出てこない時もある。
レミリアが新たに彼女の部屋を用意し、フランの生活は劇的に変わったが、睡眠時間まではすぐに改善とまではいかなかった。
それでも咲夜の言うように徐々には改善されてはいるのだが。

少々呆れている顔のレミリアに苦笑しながらの咲夜。
この紅魔館はまさに平和だった。
そんな2人の耳に

「う~…」

唸るような声が聞こえた。



「あら、あんた居たの?」
「れみぃはさくやといっしょにおへやにはいってきたぞぉ!!」
「小さすぎて気付かなかったねぇ」
「う~!!」

両手を挙げながら不機嫌そうな顔をする一人の少女。
その姿は館の主であるレミリアに酷似していた。
酷似と言ってもレミリアより身長は低く、その分を横に広げたようなふとましい体型ではあったが。

その姿からはレミリアと違い気品やカリスマはまるで感じられない。
可愛い、という言葉の方が似合うだろう。

その少女の名前はれみりゃ。
館内の住民からはれみりゃ様と呼ばれ親しまれている。

見た目は幼女にしか見えないが、実は手足が付いた動く肉まんである。
彼女の種属名は『ゆっくり』と言い、最近幻想郷に大量発生した饅頭の一種である。
咲夜がある日どこからか拾ってきて以来、紅魔館の住民の一人となっていた。


レミリアもれみりゃが咲夜と一緒にダイニングルームに入ってきたことは当然気付いていた。
気付いていた上で気付いていない振りをしたのだ。
それは何故かと言うと…

「分かりやすくなるようにもう少し大きくなってくれないとねぇ」
「う~!!れみぃはさくやのあまあまぷっでぃんたくさんたべてるもん!いっぱいゆっくりしてるもん!おっきくなるもん!」
「いつの話になるのかしらねぇ」
「う~!!」

レミリアにとってれみりゃは弄りの対象だったからだ。
元々サディストの傾向がある彼女にとって、れみりゃは良いターゲットとなった。
すぐ泣き、すぐ怒り、すぐ笑う。
レミリアにとってれみりゃと接することは長い時間を生きて行く中の良い暇つぶしとなっていたのだ。

勿論、レミリアもれみりゃのことが嫌いで弄っている訳ではない。
これは彼女なりの愛情表現でもあるのだ。
本人は間違いなく否定するだろうが。


そんな2人の会話を目の前で聞いている咲夜は…

「(お嬢様とおぜうさま…2人とも可愛いわね…おっと鼻血が)」

彼女も彼女なりにこの状況を楽しんでいた。
最も、外見上はポーカーフェイスのままであるのだが。
鼻血が出そうになっても決してそれを主に見せることはない。
まさに瀟洒なメイドと呼ばれるに相応しかった。






「れみぃもおなかぺこぺこだっぞぉ♪さくやぁ♪れみぃにもぷっでぃんちょ~だ~い♪」

れみりゃがレミリアのすぐ間近にある椅子に座る。
レミリアはそのことに関して不満に思うこともない。
いつものことだからだ。

「本日のおぜうさまの朝食はイチゴのバルサミコ酢和えアイスクリーム添えでございます」

そう言って咲夜はれみりゃの前にれみりゃ用の食事を並べる。
ちなみに、咲夜はレミリアのことをお嬢様、れみりゃのことをおぜうさまと呼んでいる。
レミリアも特に気にする素振りを見せなかったので、そのまま定着してしまった。

「うっう~♪れみぃはあまあまいちごもあいすくり~むもだいすきだっぞぉ♪」
「こちらはおぜうさまの大好きな果汁100%のオレンジジュースでございます」
「うっう~♪あまあまじゅーすでゆっくりするぞぉ♪うぁうぁ♪」
「それと…」

咲夜は一瞬ニヤリを口元を歪ませてれみりゃの前に一つの食器を置く。

「野菜サラダでございます」

色とりどりの野菜が乗った皿を見て、れみりゃは露骨に顔を歪ませる。

「うぁ!れみぃおやさいいらないぞぉ!さくやぁ♪おやさいはいやぁ~ん♪」

れみりゃは咲夜の元に近づき、体をすりよせておねだりをする。
それはとても微笑ましい光景だった。
れみりゃは野菜を食べたくなくて結構必死だったりするのだが。

そして一方の咲夜は…

「(おぜうさま可愛いわね…抱きしめたい…)」

興奮していた。
しかし、そのような感情を表に出すことはない。
彼女はポーカーフェイスのままだ。
紅魔館のメイド長は瀟洒なのだから。

「あら…野菜も食べないと大きくなれないんだよ?知らないの?」
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

れみりゃはレミリアの言葉にショックを受けたのか突然叫び出す。
目と口は大きく見開かれており、両手を頭上に上げ、体全体を後ろに大きく逸らしている。
このオーバーリアクションもレミリアにとっては堪らなく面白い物であった。

ちなみにレミリアのこの言葉も数え切れないほどれみりゃに言ってきたことである。
この言葉を出す度にれみりゃはオーバーリアクションをするので、レミリアはこの言葉を言う時を密かに楽しみにしていたりもする。

「本当だよ?ねえ、咲夜?」
「さくやぁ~…おやさいたべなくてもれみぃおっきくなれるよねぇ?」

レミリアとれみりゃが同時に咲夜に視線を向ける。
この時の咲夜は…

「(ああ…お嬢様とおぜうさまが潤んだ瞳で私を同時に…私はどちらの想いに応えれば…)」

全く関係ないことを考えていた。
しかし、彼女は当然のごとくポーカーフェイスだ。
瀟洒なのだから。

「そうですね…」

咲夜は苦笑しながら迷ったような素振りを見せる。
最初から言うことは決まっているのだが。
咲夜はその場にしゃがみ、れみりゃの視線と自分の顔の高さを合わせて彼女に告げる。
彼女にとっては非常に残酷な言葉を。

「おぜうさま、お野菜を食べなければ大きくなれませんよ?」
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

本日二度目のオーバーリアクション。
この瞬間、レミリアと咲夜はとてもゆっくり出来ていた。
紅魔館は今日も平和だった。





「いただきます」
「いただきま~すだっぞぉ♪」
「どうぞお召し上がり下さい」

それらの言葉を合図に食事を開始する。
ちなみに、れみりゃは常に食事の際には咲夜に肩掛けのナプキンを付けてもらっていた。
そうしないと洋服が汚れ放題だからである。

「う~…」

しかし、れみりゃは食事に手を付けない。
レミリアの方を唸りながら睨んでいる。
何かが気になっているようだ。

一方のレミリアは器用に箸を使いながら、食器の中を何やら混ぜている。
れみりゃの視線など全く気にしていない。

「う~…」

そんな時間がしばし過ぎると、ついにれみりゃが立ち上がった。

「おね~さんのそれぇ!くしゃいくしゃいだっぞぉ!」

れみりゃはレミリアの食器の中の物が気に入らないようだ。
何やら臭いがするらしい。

「美味しいと思うんだけどねぇ」

レミリアが箸を宙に上げると、その箸に粘着上のねばぁ~っとした物が纏わりついている。
そう、彼女の朝食は納豆御飯だった。
彼女は西洋の生まれのはずだが、実は納豆が大好物なのである。

「う~!!そんなのぽいっしてぇ!ゆっくりできないぞぉ!!」

れみりゃはとにかく納豆の臭いが気に入らない。
ダイニングルームは広いのでレミリアから離れた場所で食べれば良いだけの話なのだが、その選択肢は彼女の頭の中になかったようだ。
一方のレミリアはれみりゃの叫びも我関せずと無視して、箸に纏わりつく粘膜ごと豆を口の中に入れる。

「うん、美味しい。咲夜の作る納豆ご飯は最高ね」
「お褒めに預かり光栄でございます」

咲夜はその場で頭を下げる。
無視されているれみりゃはそんなレミリアの姿が気に入らない。

「う~!!そんなのたべてたらゆっくりできなくなるぞぉ!!おね~さんゆっくりできてないぞぉ!!」

れみりゃにとって、ゆっくり出来ていないという言葉は全否定を意味する。
つまり、れみりゃは納豆とその納豆を食べるレミリアを全否定したのだ。

普段のレミリアとれみりゃは決して仲が悪い訳ではない。
むしろ先程のやりとりを見る限りでは至って良好だろう。
そんなレミリアをれみりゃは否定したのだ。
れみりゃにとってそれくらい納豆は嫌だった。

ここで初めてレミリアが憤慨しているれみりゃに視線を向ける。
悪戯を思い付いたかのように少しだけ口元を歪ませながら。

「あんたも食べてみればいいじゃない。きっと気に入るよ」
「…う?」

れみりゃにはレミリアが何を言っているのか理解できなかった。
自分が?
食べる?
何を?
れみりゃの頭の中に疑問符で埋め尽くされた。

「ほら、私が食べさせてあげるから」
「うっ!うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

レミリアが納豆を持った箸をれみりゃに近付けると、れみりゃは立ったままの咲夜の背後まで一直線に逃げ出した。
すでに涙目となっている。
どうしようもなく嫌だったらしい。

そんなれみりゃの姿を見て、レミリアがニヤリと口元を歪ませる。
どうやら彼女のサディスト魂が刺激されたようだ。

「美味しいって、ほらほら」
「うぁぁぁぁぁぁ!!!こっちこないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

レミリアは納豆が入った食器と納豆が付いたままの箸を持ちながら、立ち上がって咲夜の背後にいるれみりゃの元へ近づいて行く。
当然れみりゃは一直線に逃げ出す。
そんな姿もまた、レミリアのサディスト魂が刺激された。

「ほ~らほ~ら♪」
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!くしゃいくしゃいだぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

レミリアは逃げるれみりゃを笑いながら追いかけて行く。
れみりゃはそんなレミリアから悲鳴を上げながら逃げて行く。
ダイニングルームを舞台にした追いかけっこの始まりだった。
れみりゃの動きは非常にのたのたしていたので、追いかけっこと言っても非常にゆっくりした追いかけっこではあるのだが。
レミリアにもれみりゃに追いつこうという気はなく、れみりゃの走る速度に合わせて走っている。

本来、食事中に立ち上がるなどやってはいけないことのはずなのだ。
瀟洒なメイド長から見ればはしたないことだ。
主といえども注意されてもおかしくない振る舞いだった。
そんな主達の姿を見て咲夜は…

「(サディストなお嬢様と悲鳴を上げながら逃げるおぜうさま…ハァハァ…)」

とっても興奮していた。
しかしそれでもポーカーフェイスのままだ。
彼女は瀟洒なのだから。

「納豆食べないと大きくなれないよ~?」
「なっとぉだけはぜったいいやだぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

紅魔館は今日も平和だった。





            ,.-─- 、
        ∧_,,∧\書/
   /\  ( e'ω'a)∩‐  
   | 後 ⊂     /
   ヽ/ r‐'   /
      `""ヽ_ノ


最近暗い話ばかりだったのでたまには明るめの話を。
私の中のお嬢様は基本姉御口調です。

ゆっくり冒険記の番外編にしても良かったのですが、何となく短編に。
冒険記のお嬢様とミリィもこのような関係と設定しております。

ちなみに、私も納豆は食べられません。
臭いも嫌ですが、味自体も好きになれません。


  • 納豆美味しいよ!咲夜さん瀟洒過ぎて素敵でした -- 名無しさん (2011-02-13 21:08:04)
  • 納豆美味しいぜ、それを理解しているお嬢様も素敵だぁ


    (邪道だが納豆チーズカレーの美味しさは異常) -- 名無しさん (2011-02-14 02:15:53)
  • ゆっくりゆかりんにあげたら? -- 名無しさん (2011-02-15 15:13:39)
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最終更新:2011年02月15日 15:13