彼女が見た幻想VD

始めに言っておく。
バレンタインに好きな異性にチョコを贈るとか、お菓子会社の策略で作られた風習だから。
本来そんな決まりはどこにもない全ては資本主義の手の平の上的なアレだから!
バレンタインデイに下駄箱にチョコ入ってるとか、机の中にチョコ入ってるとか、体育館裏に呼び出されるとか、

全部幻想だから、それ!


ということで、幻想郷にバレンタインデイは存在する。



ゆっくりSS『彼女が見た幻想VD』




―とある年の2月14日、昼過ぎあたり。

冥界 白玉楼。
厨房にて。


「ふふふ~ふふふふ、ふっふふふふぅん♪」

楽しそうに鼻歌を歌いながらチョコレート作りに没頭する乙女が一人。
背中に左右非対称の奇っ怪な翼を生やし、ドレスのようなふっくらとした和装の上に純白のエプロンを着こんだ少女。
夜雀の怪、ミスティア・ローレライ。

「非道現人チョコをくれ~♪ それがダメならぁ鬼道減人チョコまみれ~♪」
「あなたの歌は歌詞がついた途端いろいろ台無しですね」

少々呆れながらミスティアに苦笑いを送ったのは、この館に勤める半霊半人の少女。魂魄妖夢である。
ミスティアと同じように淡青色のエプロンを着こみ、彼女の調理を手伝っているようだ。

本日はバレンタインデイ、ということで、
幽々子に贈るバレンタインプレゼントを作りに白玉楼を訪ねたミスティアなのであった、というのがこの物語の大体のあらすじである。
ちなみに、【幽々子→(両想い)←ミスティア】という相関図はこの世界の摂理である。ツッコミ不要である。

「違うわよ、歌詞が付いて初めて完璧なの。ありのままの姿なのよ。歌詞がついてない歌なんて串がついてない蒲焼みたいなものよ」
「それってつまり、無くったって美味しく食べられるってことでしょ?」
「無かったら蒲焼が焼けない。いつまで経っても完成しないわ」
「完成したら取ってもいいのよね‥?」

妖夢は呆れ顔でやれやれと首を振りながら、妖夢はミスティアが調理している最中の、チョコレートが入った鉄鍋を見下ろし、

「まぁそんな話は置いといて、こっちの方は本当に完成のようですね」

満足したような笑みでうんうんと首を縦に振った。

「うんうん!思ったより時間かからなかったわね」

ミスティアの方も片手で鉄鍋を掻き混ぜつつ、ご機嫌にもう片方の手を自身の頬に当てる。
ちなみに完成したのはチョコレートではなく、熱したチョコレートに生クリームやブランデーを混ぜ合わせたチョコレートフォンデュ。
多様なフルーツやクッキー菓子を液状のチョコレートに浸して食べる料理である。
この調理法なら一口二口で終わってしまう固形状のチョコレートと違い、幽々子も長く満腹になるまで楽しめるだろうという考えの元での料理だ。
ちなみに本当にたくさん食べるだろうなと確信しているので鍋一杯作ってあります。

「しかし、屋台を経営しているだけあって流石に手馴れてましたね。この調子だと私の手伝いは要らなかったかな」
「いやいや、妖夢が居てくれて助かったよ? 私この台所のこと、食器とか調理器具の配置とか完全には把握してないし。まぁ今日のでもう大体わかったけど」
「ふふ、それじゃ、将来的にあなたがここに住むことになったら、私も色々楽が出来そうですね」
「な!? なによそれ! ど、どういう意味よ!!」
「ふふ、さぁてね」

妖夢はからかうようにニヤニヤとした笑みを浮かべながら、ミスティアの頭をワシャワシャと撫でる。

「家事を手伝ってくれる子だったら、居候でも養子でも嫁でも大歓迎ってだけです」
「よ!? よ よ よ よ よ う おうようよよおよゆ‥嫁ぇ!? な な にゃな なに言ってるのよ!」
「ペットでも可です」
「それは怒るよ!」

顔を真っ赤にして掴みかかるミスティアを適当にあしらいつつ、妖夢は何か調理のやり忘れはないかと厨房を眺め、
この場に何かに気づいた。

「あれ? そういえばあなたのゆっくりは何処行ったんでしょうか?」
「ふぇ? アイツ‥? そういえばさっきから姿が見えないね」

ミスティアといつも一緒にいるアイツ、サッカーボールくらいの大きさの丸い謎の生もの、
通称ゆっくりみすちーが、厨房から姿を消していた。
つい寸刻前までは、確かに厨房にいて、彼女たちのお菓子作りを手伝わずとも見守っていたのだが‥。

「飽きて他の部屋に行っちゃったんでしょうか?」
「もうすぐ完成って時に? アイツの性格なら最後まで見続けそうなもんだけど」
「まぁ、チョコを運ぶ前に居間を軽く片づけちゃおうと思ってたところです。ついでに探してきますよ」
「うん、お願い」

厨房を出て行った妖夢を見送りながら、それでも腑に落ちない態度で腕を組んで考え込む。
果たして、ゆっくりみすちーはいつの間にこの場から姿を消してしまったのだろうか。

『チョコまだできないの!?まだできないの!? いやもうマジで美味しそう早く食べたい!食べたい!』

そんなことを言いながら厨房をウザったらしく(ry、いや、元気に飛び回っていたゆっくりみすちー。

『いやまぁ完成したとしても、その味はみすちーより激しく劣るだろうから別にどーでもいいんだけどねー』

そんなことを言って良く分からない対抗心をウザ(ry、いや、メラメラと燃やしていたゆっくりみすちー。

『ていうか見てるだけなの飽きたよー、ねー、みすちーにも何かやらしてー、やーらーしーてー!』

そんな感じに慢性的にウザかったゆっくりみすちー。

「‥‥‥」

別に見つからなくても良いかなぁ、そんなことをため息混じりに考えていたミスティアだったが、

「完成した!? 完成したのね!?」
「うわぁ!!」

突然現れた後方からの嬌声に、彼女の思考は急遽現実に引き戻された。

「やーん、良いわね。屋敷中に甘い匂いが香ってるわ! 」
「びっくりしたぁ、なんだ幽々子か」

突然現れ満面の笑みで年端の行かない少女のようなはしゃぎようを見せているのは、この屋敷の主人、西行寺幽々子。
どうやら完成したチョコレートフォンデュの匂いに誘われ厨房へやってきてしまったらしい。

「ねーねー、味見して良い!?味見して良いかしら?」
「駄目だよ、妖夢に止められてるし。ていうかもうすぐ食べられるんだからちょっとくらい我慢してよ」
「それが出来ないから、妖夢がここを出ていったタイミングを見計らってやって来たのですわ!ねぇ、お願い!一口だけで良いから!」
「妖夢の苦労がうかがい知れるなー」

ミスティアはまた小さく息を吐き、子供の用に純粋な眼差しでお願いしてくる幽々子の誘惑に抗いながら、

「それじゃ、そこの余ってる材料のチョコなら食べても良いよ」

譲歩案をしぶしぶ出した。

「あらら、完成品はもうちょっとお預けか‥。まぁ良いわ!ありがと、ミスティア!」
「本番食べる前にお腹いっぱいになったらヤダよ! うう、妖夢ごめんね」

元々チョコの量だけは、不足ないよう念入りに調達していたから、鍋一杯分作った後とはいえ、それなりに余りはある。
といっても精々板チョコ10枚ほどしか残っていないし、それ全部平らげとしても幽々子の腹は満たされたりはしないだろうが。

「じゃ、この大きいの頂こうかしら」
「へ?」

“大きいの”?
そこまで大きなチョコの欠片など残っていなかったはず。
そう思い、ミスティアが幽々子の方を見ると、どういう訳だろうか、
サッカーボール大の大きさの球形のチョコの塊が、満面の笑みをした幽々子に抱えられていた。

「‥‥‥あれ? なにあれ? あんな巨大なチョコがどうしてここに‥?」
「こんなに余らしちゃ勿体ないものねぇ。ジュルリジュルリ」

ていうかあの大きさ、形、どこかで、ていうかいつも間近で見ているような‥、
そんな風に考えるミスティアの脳裏に、一閃の記憶が甦る。


~回想~

ゆ『ていうかさー、お姉さん。炭水化物‥、例えばお米とか餅とか饅頭にチョコレートコーティングしたら凄くうまそうじゃないかな!?』
ミ「えー。いやいや、それは流石にないわ。どれもそのままで食べた方が美味しいよ」
ゆ『そんなの試してみなきゃ分からないでしょ! よし、ここは試しに‥』
ミ「自分の身体を使った妙な創作料理はやめて、ていうかやめろ」
ゆ『(´・ω・`)』

~回想終わり~


「‥‥‥‥‥」

物凄く嫌な予感がミスティアの内心をこれでもかというくらい容赦ない勢いで覆い尽くす。
そういえば、確かゆっくりみすちーが消える直前、

ゆ『あ! あんなところに摘み食いしようとしている亡霊が!』
妖「なんですって!」
ミ「またアイツは性懲りもなく!!」
妖「て‥、どこにも幽々子様なんて居ないじゃないですか」
ミ「本当だ、人騒がせな」

なんてことがあって、一瞬二人とも鍋から目を離してしまったような‥。


(まさか‥、本当にあのバカがチョコレートの鍋に突っ込んで、そんで一瞬で鍋から脱出して、
 その後この気温の低さでチョコが固まってたりしたら‥)

ちょうど、今まさに幽々子が大口で食べようとしているような、でっかいチョコの塊のようになるのではないだろうか‥。


「それじゃ、いただきます!」
「待っっっ――」


待って、食べちゃ駄目!それ私の友達ッ―!
そう言おうとしたミスティアは、今まさにチョコの塊を食べようとしている幽々子の姿を見て、

その言葉の無意味さを確信した。


既に、幽々子は口を開き、手に持った食物を顔へ近づけている。
あの臨戦態勢の幽々子に言葉をかけたところで、その反応が返ってくるのは全てを胃袋の中に収めた後だろう。


彼女、西行寺幽々子の世界に『いただきます』という言葉なんて存在しない。
何故なら、『いただきます』と思った時、既に行動は終わっているからだ!
『御馳走様』なら使っていい!


さっき普通に『いただきます』って言ってた気がするが、そんな些細なことはどうでもいい。
もう、幽々子が食事という行動を始めてしまった以上、もう何者もそれを止めることはできない!

ならば力尽くで止めるか? いや、それも無理だろう。
食事を邪魔された時の西行寺幽々子の戦闘力は、G級の真ラージャン激昂状態に匹敵する。
いわゆる超戦闘民族を超えた超戦闘民族である。Ⅱって奴だ。
下手に手を出したらその時点で即刻マミる。

つまり!今の幽々子を止めるにはっ―

目の前のチョコ以上に美味しそうなものを、速攻で用意するしかない。

ならばっ―


バシャ、


ミスティアの決断から行動までの時間は短かった。
彼女は、鍋にかかったお玉を手に取ると、それを使って自分の身体にチョコレートフォンデュを、

ぶっかけた!

「熱っ!」

ちなみに良い子はマネしてはいけない。熱いで済んでるのは妖怪だからです。

突然のミスティアの奇行に、さすがの幽々子も一瞬その手を止め、ミスティアのことを凝視する。
気が付けば、隣に立っていた少女が、
その頬に、首筋に、うなじに、胸元に、その艶やかな肢体に、
チョコをコーティングさせて立っていたのだから、流石の亡霊の親玉も頬を赤らめ混乱するしかない。

「あ、あのね!その! そのチョコを食べる前に!」

まさかこんなタイミングでこの台詞を言う羽目に陥るとは‥、
そうも思ったが、彼女にはこれ以外に幽々子の蛮行を止める手立てが思い浮かばない。

「わ、わ、私を食べて!!」


これしか思い浮かばない時点で、ミスティアの脳内も随分アレな状態になっていたことが伺える。


その後は、説明するまでもなく、

子猫が猫じゃらしにとびかかるように、
飢えたライオンがヌーの群れにとびかかるように、
魔女Charlotteが皆のトラウマを創り出す寸前のように、

西行寺幽々子は、ミスティアに、襲いかかった。












「ふー、ちょっと片づけるつもりが、けっこう時間かかっちゃったなぁ。ミスティア、もうチョコ運んでも、大丈夫‥」

そんなことを言いながら、厨房に帰ってきた妖夢が最初に目にしたものは、


ペロペロぺロぺロぺロペロペロぺロぺロぺロペロペロぺロぺロぺロペロペロぺロぺロぺロペロペロぺロぺロぺロペロペロぺロぺロぺロペロペロぺロぺロぺロペロペロぺロぺロぺロペロペロぺロぺロぺロペロペロぺロぺロぺロペロペロぺロぺロぺロペロペロぺロぺロぺロペロペロぺロぺロぺロペロペロぺロぺロぺロペロペロぺロぺロぺロペロペロぺロぺロぺロ

「ひ、ひぃぃん! や、やめ、うぅ、 服の中までぇ入ってこないでぇ!」


艶めかしく衣服が乱れた夜雀の少女と、

彼女を押し倒し、お互いの掌と指を絡ませ合い、、
更に片膝でミスティアの股下のスカートを抑えつけることで彼女の抵抗を完全に止めて
首筋から衣服の中まで舐めたおしているペロリストの姿であった。

「ふふ、良いわよ。美味しい、凄く美味しいわ、ミスティア」
「だ、駄目なのにぃ、 そんなに触られたらぁ駄目になっちゃうかぁぁぁ!! よしてよ!幽々子ぉ」


「‥‥‥‥‥」



「だからこんな時間にこんな場所で何やってんですかぁ!?アホお嬢様はぁあああああ!!!!」


―ズッザァアアアアアアアアアアンンン!!


魂魄妖夢の『未来永劫斬』こうげき!

いちげきひっさつ!









『今日も妖夢おねーさんは大変だーねー』

ちなみに、騒ぎに乗じて部屋に戻ってきたゆっくりみすちーは、
ミスティアと妖夢に内緒で作っていたチョコレートコーティングライスボール(でっかい丸いオニギリに、チョコをコーティングしたもの)をムシャムシャと食べながら、
庭師に惨殺される亡霊と、亡霊を惨殺する庭師と、身体の敏感な部分を存分にペロペロされて色々出来上がっちゃってる夜雀を見つめながら、

『流石にご飯とチョコは合わないかー。食べられない程じゃないけどね~』

そんなことを呑気に呟いていた。


~fin~

  • ミスティアと妖夢の会話の掛け合いの最初の方が東方原作テイストでいいね
    会話と地の文が笑えるw -- 名無しさん (2011-02-20 17:18:39)
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最終更新:2011年02月20日 17:18