紅いリボンに藍色の髪を束ねて二本差し。大股に歩く少女は烏丸彼方。
その足元の先をぽいんぽいんと跳ねる白髪の生きた饅頭、ゆっくりみょん。
今日も今日とて覇剣を直す刀鍛冶の村へと向かう旅道中。
しかし歩きづめでは体が持たぬ、時にはゆっくりする事も必要です。
そんなこんなで街道の茶屋にたどり着いた彼方とみょん。
茶屋に着くなり彼方が勢い良く注文する。
「お姉さ~ん、お団子と羊羹と梅ヶ枝餅とお茶ちょうだ~い!」
「は、無しにしてお茶2杯だけお願いするでござる。」
「え?」
「は~い」
茶屋の和服を着たみすちー、おかみすちーが注文を受けて奥に引っ込むと彼方が
「ちょっと!なんで勝手に注文取り消すの!」と抗議をします。
するとみょんが「・・・路銀が無いでござる」と返す。
「は?」
「路銀が無いでござる!」
「えええええ!なんでええ!」
「彼方殿が一番心当たりがあるでござろう!毎日毎日の暴飲暴食!それだけでなく長炎刀とか言う高価な物まで買い物して!」
「うう・・・」
「おかげでみょんの財布はスッカラカンでござる!このままでは旅が続けられなくなるから以下の事を守って欲しいでござる!」
そう言うとみょんは紙に何かを書いてトンと彼方の前に立てた。
"暴飲暴食はやめよう"
"無駄な買い物はやめよう"
"下を向いて歩いて食べられる野草を探そう"
えいき~♪
「何よ最後のジングルは。そんな事より下を向いて歩こうって後ろ向きすぎじゃない!」
「もはや休息のためのお茶以外は自給自足しないと路銀が持たないでござる!先祖たちは野草を食べて生きていたんだからたいしたことが無いでござる!」
「あの~」茶屋の娘さんが話に割って入った。
「そんなにお金にお困りならあんなのもありますよ。」
そう言っておかみすちーが指差した先には一枚の張り紙があった。
「I want you」
まるで南北戦争の兵士募集のポスターのようにこちらをもみあげでビシッと指差したゆっくりさくやの張り紙にはこう書いてあった。
"おぜうさまに飲ませる美味しいお茶募集! 採用者には賞金一万銭差し上ます。 メイド長サクヤ"
「みょおおおおおおおおん!」
「これだああああああああ!」
「これさえあれば路銀不足は解消できるでござる!不肖このみょん、お茶には結構自信があるでござる!」
「ゆっくりしてる場合じゃないわ!さっそく茶葉を買いにいかなくちゃ!」
場面変わって茶葉問屋。どうせ彼方は飲み食い専門で茶道の事などわかりはしないだろうからみょんは一人で茶会に使う茶葉を吟味していた。
「お茶の葉はこれで良しと・・・次は茶碗だみょ・・・ん?」
「うっめ!これめっちゃうっめ!」
「彼方殿おおおおおお!一体なにを食べてるでござるかあああ!」
「ああこれ?どうせお茶会で勝てば賞金が入るんだしお茶っ葉は買ったんでしょ?」
「茶葉は買ったけど器はどうするみょん!お茶には器も大切なんでござるよ!」
「ああ~!」
さて当日
「う~彼方のせいで準備に手間がかかってほとんど寝てないでござる。」
そんなこんなでたどり着いた紅魔屋敷。紅い瓦が異彩を放つがそれ以上にところどころに配置された鬼瓦ならぬうー瓦が見る物を和ませる。
その門の前に人民帽を被ったゆっくりめーりんが鎮座していた。
「ZZzZUN・・・」
「みょおおおおおおん!ネタバレが寝ているでござる!排除しないといけないでござる!」
「ちょ、ちょっと!あれはゆっくりめーりんよ!寝ぼけてないでゆっくり目を覚まして!」
「みょみょみょ・・・」
「シエスタの最中よ、起こしてはいけない。そろ~りそろ~り。」
こうして屋敷の中に入った二人はメイド饅頭にメイド長の元へ案内された。
「みなさんこんにちは。メイド長のサクヤです。」
「さくやですって言われても…どう見てもヨコハマサクヤよねえ。」
「彼方殿、本当の事だからこそ言ってはいけない事もあるのでござる。」
「聞こえてますよ。ちゃんと張り紙にはメイド長サクヤと書いてあったでしょう。」
「あ、そういえば…でもあの張り紙の絵は普通のゆっくりさくやにしか見えなかったけど。」
「彼方殿、似顔絵という物は本物より美化して描くのが常識」
「さっきからみんな聞こえてますよ。そんな事より今日はあなたたち以外にももう一人応募者がいるわ。」
振り向くと神経質そうな男が座っていた。
「山尾樫太郎さん、本職の茶道家です。今日はふた組と言う事で買った方のお茶を採用したいと思います。審査員は私、ありす、すわこの三人です。それでは始め!」
山尾の方は持ち込みの茶道具を取り出した。それには茶道には全く興味の無い彼方にも高価な物と理解できた。それに引き換え・・・
「おやおや、あなた達の茶道具は貧相ですねえ。そんな安物で人をもてなす事ができるんですか?」
「うっさい!」彼方が言い返すそばでみょんが茶碗を取り出すと山尾の目がキラリと光った。
「・・・器はかなりの物のようですね。」
みょん達がマキで火を起こすのを横目に山尾は持ち込みの茶釜であっという間に湯を沸かし熱々のお茶を淹れ始めた。」
「ちょっとみょん!食べ物ならともかく飲み物勝負ならのどが渇いている先攻のほうが有利よ!」
そう言われてもみょんは悠然として「あわてないあわてない、ゆっくりゆっくり。」と言って取り合わない。
「さあ、熱いうちにどうぞ。」と言って山尾がお茶を差し出すと今度はみょんの目がキラリと光った。
「ふう~ふう~・・・ズズズ・・・うまいっ!」すわこの顔が輝く。
「とってもとかいはな味ね!」ありすも絶賛だ。
「これは瀟洒なお茶ですね、素晴らしいわ。」サクヤの顔もほころぶ。
「えらい評判がいいじゃない!こっちも早くしないと!」
しかしみょんはお茶を淹れ終ってもまだゆっくりしている。みょんがお茶を出したのは三人が完全に飲み終わってからだった。
「それでは今度はみょんのお茶をどうぞ。」
「ご~くご~く」
「ご~くご~く」
「ご~くご~く・・・」
「「「ゆふぅ~。」」」
「なんだか微妙な反応じゃない!ゆっくりした結果がこれだよ!」
「それでは判定に入ります。皆さんがゆっくりできたと思う方に札を上げてください。」
一斉に札が上がった。三つとも同じ札だった。名前は・・・みょんの札だった!
「そんなバカな!さっきは俺のお茶をうまいうまいって飲んでたじゃないか!」
「確かに山尾さんのお茶はとかいはだったけどみょんさんのお茶の方がゆっくりできたわ。」ありすが言うと
「じゃあ器か!器の差なのか!」
「器は彼方殿が路銀を使い込んだせいでみょんがゆっくりひなのろくろですりすりしながら作ったみょん。ちなみに材料は紙粘土だみょん。」
「そんな馬鹿なあああああ!」
「おお、どおりで何とも艶めかしい曲線、WAMハアハア。」(WAM=ウエット&メッシーの略。泥汚れや濡れた服や水着に対するフェチのこと。)
「あなたは黙ってなさい。」サクヤがすわこをたしなめる。
「しかし勝負を決めたのはお茶の温度でござる。」
「茶の温度?もしかしてある戦国武将が喉の渇きに応じて茶の温度を変えて出したと言うあれか?
しかしあれは喉が乾いていたからぬるい茶をゴクゴク飲んでいた!しかし先に俺の茶を飲んでいたから渇きは治まっていたはずだ!」
「お茶と言う物は熱い温度で淹れるとカフェインが活性化され興奮作用が増すでござる。
反面ぬるい温度で淹れると甘みがまし、リラックス効果が得られるでござる。」
「ああっ!それって!」彼方が叫んだ。
「そう、ゆっくりは基本的に甘党。そしてリラックス効果が得られると言う事は・・・」
「ゆっくりできると言う事だわ!」
「山尾さん、確かにお茶はあなたの方が美味しかったわ。でも茶道の真髄は相手にゆっくりして欲しいという心遣いなのよ。」
サクヤに諭されると山尾はガックリと肩を落とした。
「まさに"茶道とはゆっくりする事とみたり"という事でござるな。」
「さあ、これは賞金です。ゆっくりしたひと時をありがとう。」
「やったっ!これでまたおいしいものをいっぱいたべられるのね!」
「彼方殿、倹約はいまだ続行中でござる。」
「え~。」
「しかし・・・」
「しかし?」
「”下を向いて歩こう”というのはやめにするでござる。これからは前を向いてゆっくり歩いていくでござる!」
「うん!」
二人は再び歩み始めた。
- 勉強になったわ -- 名無しさん (2011-04-16 22:48:29)
- みょんのさわやかなところが出ていてグッドです。 -- 名無しさん (2011-05-01 23:52:38)
最終更新:2011年05月01日 23:52