これまでの、ゆっくらいだーディケイネは!
みょんな事から、てんこが(どちらかと言うと、しょうが)失くした緋想の剣を探す事になった一行。ナズーリンの導きにより山へとたどり着き、そこにあった洞窟を捜索している最中、物言わぬ影に襲われる。絶体絶命の状況で、れいむは声高に叫んだ。
『アプリボワゼ』と。
「颯爽登場ッ!銀河!美饅頭(うまんじゅう)!レイ・ムーン!」
ゆっくらいだーディケイネ外伝『ヒーロの剣 -MAKEN BREAKER-』
「途中までは本当だからタチが悪いわ」
「…何の話です?」
紅里はボヤきながら、声のしたほうにたいまつを向ける。そこには…誰も、いなかった。
「あ、逆です」
「え?あっ」
声に従い、逆方向にたいまつを向ける。後ろの方で2人分(れいむとまりさ)の、『ぷっ』と吹き出す声が聞こえ、紅里は恥ずかしさで少し紅くなった。紅里なだけに(上手い)。
たいまつで照らされたそこには、一人の男が仰向けに倒れていた。そして、その腹には刀が刺さり昆虫の標本のようになっており、しかし一滴の血も流れていない。
「やっぱり、てんこだったんですね…」
「あんたの知り合い?」
「違うよ!」
「えっ!?」
男はその後も必死にてんこに訴えかけたが、てんこはまるで聞く耳を持たず、知らぬ存ぜぬを貫いている。
「だから…ああもう、どう言ったらわかってくれるのかな…そうだ、てんこ」
「?」
「綺羅星!」
「綺羅星!…お兄さんどうしたの!?」
「それでいいのあんたら」
まあ、いいか。
「誤解が解けた(?)ところで、質問があるわ。どうしてこんな状態になってるの?」
「話せば長くなるのですが…」
「お決まりの文句だね!」
「こう言っておいて実は凄く短いっていうパターンのギャグだぜ。見切ったぜ」
「私が刀剣の研究を行っているのは、おそらくてんこから既に聞かれていることと思います。最近は刀剣の中でもゆっくりたちの使う菓子剣というものを研究しておりまして、菓子剣の入手に遠方まで旅に出たり、また近くを訪れた行商人から譲ってもらったりしていたのですが、ある日行商人から『珍しい菓子剣を格安で買わないか』という話を持ちかけられました。提示された価格が妙に安かったので話ばかりの三流品かとも思ったのですが、実際見せてもらったところ確かに今までに見たことの無い、珍しい菓子剣でした。良い品にめぐり合えたと思い購入したはいいのですが、調べてみたところそれは『堕菓子剣』という妖刀の類でした。情けない話なのですが、それが分かったときには既に遅く、私はこの堕菓子剣…昏き影の兵士を作り出す負剣『昏兵刀』に肉体と魂を分けられ、魂のみここに縫い付けられてしまったのです」
「…まりさの負けだぜ」
「…うん、大体分かった」
ここに来る途中で戦ったあの影は、この剣によって作られたもののようだ。そして、暗闇でよく分からなかったが、照らしてみると彼の姿はぼんやりと透けている。血が出ていないのも、肉体ではないからだろう。
「で、その肉体の方はどうしてるの?」
「昏兵刀に操られ、この地に眠るもう一つの負剣、病を撒き散らす刀『恨病刀』の修復を行っているはずです。ここにある多くの刀剣はそのための資料として集められたようです…」
「だからてんこの剣もここにあったのね…」
「…お兄さん!」
突然、てんこが大声をあげる。無理も無い。親しかった人間がこのような姿にされてしまっていたのでは…。
「これがてんこの緋想の剣だよ!すごいでしょ!」
「こんな時に自慢か!」
「これは、確かに…すさまじい力を感じますね」
「あんたも結構いい神経してるわね」
この非常時にも普段と変わらない(と思われる)2人にあきれつつも、紅里は彼の魂を縫い付けている負剣を見やった。
「ともあれ、要はこれを何とかしたらいいんでしょ?とりあえず引っこ抜いて…」
紅里が剣を抜こうと手を伸ばしたのと同時に、負剣は自ら抜け、そのままどこかへ飛んでいってしまった。
「あれ?」
「…いけない!皆さん早く逃げてください!」
彼が叫んだ次の瞬間、洞窟内が大きく揺れた。
「何!?」
「崩れます!急いで!」
「くっ…行くわよみんな!」
「言われなくても!」
「スタコラサッサだぜ!」
一行は、崩れ行く洞窟から大急ぎで逃げ出した。
洞窟だった場所は崩落し、土砂や瓦礫がその入り口を埋めていた。立て看板もぼっきりと折られ、そこらに破片を撒き散らしている。
『スペルライドゥ!』
静寂と静止が支配する空間に、不意に声が響き渡る。
『国符「三種の神器・剣」!』
瓦礫が内側から吹き飛ばされ、中からディケイネが姿を見せた。
「ふー、間一髪…で、アウト。死ぬかと思った」
変身を解き、一息つく。結局紅里たちは脱出に一歩間に合わず、入り口付近で崩落に巻き込まれてしまったのだ。
「他のみんなは…」
「こっちです!」
声のしたほうを見ると、あの男…の霊体が手を振っていた。
「無事だったの?ええと…」
「そういえばまだ名乗っていませんでしたね。私は近藤平といいます。霊体ですから、物理的な干渉は受けないんです」
「ある意味便利ね…私は床次紅里」
「よろしくお願いします。ところで紅里さん、物理的な干渉を受けない代わりに、私からも物理的な干渉を行えないもので…」
「うん」
「お願いできますか?」
「うん?…あっ」
近藤が指差したところには、奇妙なものがあった。人間、というより手足の長さとかつくりのいい加減さを見るとゆっくりのようだが、首から下の部分が瓦礫から逆さまに生えている。
と言うか、てんこだ。
「なんであんたこんな器用な埋まり方してんのよ!っていうか前回もこんな埋まり方してたわよね、癖なの?」
紅里はてんこの足をぐいぐい引っ張り、引っこ抜いた。その手にはちゃんと緋想の剣を持っている。
「これをなくしたら一大事だからね!」
「ところで、床次さんのお連れのゆっくりは…」
「ああ、あいつらならどうせ大丈夫でしょ…」
そう言って振り向いた紅里の目の前を
れいむとまりさが颯爽と走り抜けていった。
「…想像以上の大丈夫っぷりだったわ」
あの2人の無事を確認し(と言っても、元から心配などしていなかったが)、紅里はふと負剣のことを思い出した。
「そういえば、あの飛んで行った負剣は…」
「床次さん、てんこ…2人とも、逃げてください」
「は?」
近藤がみょんな事を言った。崩落は終わったのに何故逃げるのか。
「おそらく、恨病刀が復活したのでしょう。あの負剣は、昏兵刀と2つ揃える事でさらに力を増します。二つの負剣によって撒き散らされる災厄は計り知れません。ですから…」
「はー…」
急いで説明する近藤に対し、紅里はやれやれといった感じでため息をついた。
「そんな話聞いたら、ますます逃げるわけにいかないじゃない」
「まさか…」
紅里はふっと苦笑する。
「そんな『ゆっくりできない』事態、放っておけないでしょ?」
「それに、あの剣があったらお兄さんは元に戻れないんだよね」
「てんこまで…」
「止めても無駄っぽいわよ?そっちのてんこはあんたの身体を取り戻す気満々みたいだしね。まぁ、止めようと思っても霊体のまんまじゃ無理でしょうけど」
近藤は2人の目を見た。決意と覚悟を秘めた、力強い目。たとえ肉体があったとしても、この2人を止める事など出来ないだろう。
その眼差しを向けたまま、紅里が口を開く。
「それで…どこ行きゃいいの?」
近藤の話では、廃鉱は山を貫くような形で掘られており、もう一つの負剣・恨病刀は紅里たちの入ってきた場所の反対側にあるという。
「一番面倒な掘り方してくれちゃって…!」
おかげで紅里とてんこは山をぐるりと半周する羽目になった。
「ちょっ…………止まっ…………休憩……………」
「うん……………そうしよ………………」
さすがにそんな距離を走るとバテる。紅里とてんこは、あと少しというところで足を止め、休憩をとった。
「…なんか見るからに毒々しい空気を撒いてるわね…あれが恨病刀とやらの力?」
山の反対側には紺色の空気があたりに漂っていた。幸い風上にいるためこちら側は安全だが、迂闊に飛び込んでいけば何らかの影響を受ける事は間違いないだろう。
「さて、どうするか…風上をキープするしかないのかなぁ」
「あ、あれ!」
てんこが何かを見つけ、指差す。見ると既に、一人の少女と一人のゆっくりが兵士たちと交戦していた。不思議な事に、その2人の周囲は、まるで彼女らを避けるように毒気が晴れている。
「先客ってワケ…?でもなんかヤバい感じね」
2人はかなり強いらしく、兵士たちを一撃で屠り、解体していく。しかし、近藤の言っていた『2つ揃えば強くなる』という負剣の性質からか、破壊と等速、下手をすればそれ以上の速度で兵士が生産されており、このままでは押し切られるのは目に見えている。
紅里は息を整えるため深呼吸し、てんこに問いかける。
「準備はOK?」
「GONGを鳴らすよ!」
2人は同時に、戦いの中へと飛び込んでいった。
「やばっ…!」
先に交戦していた少女が、鞘に納めたまま振り回していた剣を落とした。
「覇剣が…」
「彼方殿!」
「え…」
剣を拾おうとした少女の首元に、兵士の一人が剣を振り下ろす。
「はぁっ!」
「!」
何とか間に合った紅里は、その兵士の胴体を駆け抜けた勢いのまま蹴り飛ばす。兵士の鎧はバラバラになり、霧散する。
振り向くと、突然の乱入者に呆然としている少女とゆっくり、そしてゆっくりに襲い掛かろうとする兵士と。
「葬らん!」
「みょん!?」
その兵士を切り伏せるてんこの姿があった。
「ボーッとしないでね、私にあっさり勝ったゆっくりが」
「お前は……!」
てんこの口ぶりからすると、あのゆっくりは話にあった『お侍っぽいゆっくりみょん』らしい。
「どちら様でしたかみょん?」
「てんこだよ!もう忘れたの!?」
(あれ、違うのかな)
みょんと呼ばれたゆっくりようむは、てんこの顔をじーっと見て、『ああ!』といった顔をした。随分忘れっぽいゆっくりだなと思ったが、よく考えればゆっくりとは大体そういうものだった。
「状況が状況だから、手短に言うわよ。そこのてんこの知り合いが、負剣とやらに身体を乗っ取られて…ああ、あそこにいるあれね。なんかとても迷惑な存在になってるらしいから、なんとか身体を傷つけずに剣だけどうにかしたい、ってのがこっちの都合」
紅里は自分たちの状況を説明した。
「そうだったんだ、やべーやべー」
「?」
「…彼方殿は、あの男に銃をぶっ放そうとしてたのでござる」
「そっちの意味でもギリギリセーフだったってわけね」
紅里は苦笑を浮かべる。この少女、思いのほか過激なようだ。
「こっちは…あの近藤さんが操られてる、って事以外はだいたいそっちと同じ。近くの村で、この病気でゆっくりたちが苦しみだしたから、なんとかしようと辿ってきたらこうなっちゃった」
病気とは、おそらくこの紺色の気体のことだろう。近藤(霊)から聞いた恨病刀の性質、そして近藤(体)が持っている、昏兵刀ではない方の刀から噴出されている事を考えると間違いあるまい。
「なんであんた達の周りだけその、病気が避けてあるの?」
「おそらく、彼方殿のもつ覇剣の力でござろう」
「覇剣?」
「悪を根こそぎ断ち切って、善なる命を再生させる、一振りで戦局を変えるほどの力をもつ覇剣、あ!その名も!『舞・星・命・伝』!」
気持ちよさそうに見得を切りながら、鞘に納めたまま兵士をぶっ叩く。
「折れているでござるがな」
「なるほど、抜刀しないのはそういう理由なのね」
4人は背中を合わせて集まる。
「策は?」
「無い。そっちは?」
「同じく」
「頼もしい限りみょん」
「そういえば、名前をまだ聞いてなかったわね。私は床次紅里、こっちはてんこ」
「烏丸彼方。とりまるでもかたなでもないからね、間違えたら怒るよ。こっちはみょんさん」
「真名身四妖夢みょん!」
話している間にも兵士たちを倒してはいたが、やはり倒したそばから再生産されてくる。4人は包囲され、四面楚歌の状態にあった。
「さて、自己紹介も済んだところで、そろそろマジで行くわよ」
紅里はメダルを取り出し、ロケットのカバーを開ける。
「?何それ…」
「変身!」
『ユックライドゥ!ディケイネ!』
見慣れぬ道具にみょんな目を向ける彼方たちをよそに、紅里はディケイネに変身した。
「「えええええええ!?」」
紅里の変身に、彼方とみょんは驚いていたようだが、
「「…世の中にはいろんな人がいるんだなぁ(でござるなぁ)」」
なんか納得してくれた。話が早くて助かる。
『スペルライドゥ!産霊「ファーストピラミッド」!』
ディケイネは弾幕を展開し、複数の兵士を一度に消滅させる。
「おお、すげー!」
「対集団は紅里殿の方が向いているようでござるな…とはいえ!」
ディケイネの背後、弾幕の範囲外から接近してきた兵士を、彼方とみょん、てんこが叩きのめした。
「流石に全方位は無理っぽいね」
「と言うか、全方位に撃ったらみょんたちにも当たるみょん」
「あ、そっか」
ディケイネの放つ弾幕が兵士を次々となぎ倒していく。弱点となる背面は、てんこや彼方たちがガードしてくれている。状況は徐々に好転しつつあった。
「これなら…」
「いける…と、思ったか?」
「「「「!」」」」
瓦礫の上から戦況を見つめていた近藤が、両の刀を重ね、思い切り振り払った。
「なっ…!」
その瞬間、今までとは比べ物にならない数の兵士たちが湧き立ち、なだれ込むように4人に襲い掛かる。
(ヤバっ…)
数に任せて弾幕を押し切られる。ディケイネは弾幕の制御に集中していたため、攻撃をモロに受ける事になってしまった。
そして、緋想の剣を持っているとはいえ、ただのゆっくりであるてんこもまた、数の力に押し負ける。
「うっ…!」
「がぁっ!」
「紅里さん!」
「てんこ殿!」
ディケイネはその場に組み伏せられ、てんこは覇剣の力の範囲外…病気が充満する空間に放り投げられた。
「みょんさん、てんこを!」
「承知!」
彼方がディケイネの、みょんがてんこの救出に向かう。
「どけぇぇぇぇ!」
覇剣を一閃し、紅里の周りにいた兵士たちを薙ぎ払う。しかし、あまりにも数が違いすぎる。
「ぐ…!この、雑魚のくせにッ!」
突き出された剣が、槍が、彼方の服をずたずたに引き裂き、その下の肌に、肉にいくつもの赤い線を刻み込む。
「うおおおおおおおおおおおおっ!」
彼方は力の限り暴れ、次々と兵士を倒していくが、雑な動きにより薄まった防御の穴を突かれ、背中を強打され地に組み伏せられる。
「くっそ!離せ!」
「う…!」
「みょんさん!」
彼方の目の前に、みょんが転がされてきた。
「無念でござる…!せめて菓子剣が使えれば…!」
てんこの救出に向かったみょんだが、彼方と同じく数の力、そして一時的に覇剣の守護範囲を抜けた事により病気にあてられ、返り討ちに遭っていた。
「くくっ…はははははははは!数が増えていい気になったか!?だがなァ、2つ揃った負剣に対して、封じられた菓子剣と!折れた覇剣で!勝てるわけが無いだろうが!!!」
近藤の高笑いと共に、兵士たちは武器をゆっくりと振り上げる。身動きのとれないディケイネは、それを睨みつけるくらいしか出来ない。
しかし、ディケイネたちにトドメを刺そうと振り下ろされた武器は、その役割を果たす前に、突如放射された紅い力の奔流に呑まれ、兵士ごと消滅していった。
拘束を解かれたディケイネは、紅い力が放射された方を見た。
「はー……っ……はー……っ……はー……っ……はー……っ……」
そこには、病気に侵され、息も絶え絶えに立つてんこの姿があった。
「てんこ…」
「貴様…何故まだ立ち上がれる!」
近藤の口を借り、負剣が怒鳴る。恨病刀は堕菓子剣。その力はゆっくりに対して最も効果を発揮する。2つの負剣が揃い、この近距離で発生させた濃度の病気を吸い込んだゆっくりが未だ立てるなど、彼には信じられなかった。
「約束………したから……」
覇剣の守護範囲に入り、少し症状が軽くなったてんこがうわごとのように呟く。
「とっておきの緋想の剣を見せてあげるって…二人でまたゆっくりするって………!」
「………ふっ」
その言葉に、ディケイネの口元に笑みが浮かぶ。てんこの、この『ゆっくりさせたい』という思い。これがあれば、勝機はある。
「来たわね…!」
ポシェットから、3枚のメダルが飛び出した。
「ふん…最後の最後でひと足掻きしてくれたようだが、所詮それもここまでだ」
近藤が再び剣を振るうと、昏き兵士の軍団が再び湧き上がり、4人を囲みこんだ。
「…彼方殿、紅里殿、てんこ殿。みょんに一つ策があるでござる」
みょんはどこからともなく取り出した金平糖の上に金鍔をのせ、金槌でぶっ叩く。すると、そこには一振りの刀が出来上がっていた。
「えええええええ!?」
菓子から刀を作り出すその光景に、一度はすげえびっくりしたディケイネだったが、
「…世の中にはいろんなゆっくりがいるのね」
こんな変身をする自分自身のことを考えると、それで納得せざるを得なかった。
「この刀を使えば、あの堕菓子剣を封印する事が出来るでござる。ただ、2つほど問題が…」
1つは、昏い兵士たちに阻まれ現状のままでは到底近藤のところまで到達できそうに無い事。
もう1つは、仮にたどり着けたとしても、あちらの負剣は2つ。単純にパワー負けしてしまう事。
「彼方殿の覇剣を使えば、恨病刀の方は弱体化させられるはずみょん」
「じゃあ、私たちは昏兵刀の弱体化と、兵士の掃除をしたらいいのね」
「出来るの?」
「てんこの力を借りれば、ね」
「…やるよ。お兄さんを取り戻すためにも!」
「そういうわけだから、こっちは任せて。その代わり、そっちは任せるわ」
「任されたでござる」
作戦はまとまった。
「じゃ、私たちが先鋒ね。てんこ、行ける?」
「大丈夫、問題ないよ!」
ディケイネとてんこが一歩前に進み出る。それに対し、近藤は冷ややかな声で語りかける。
「そうか、お前たちから死にたいか」
「冗談。その名の通り、負けるのは負剣、あんたらの方よ!」
ディケイネは先ほど手に入れたメダルのうち、2枚を取り出し、1枚をロケットに挿し込む。
「またあの光弾か!しかしこれほどの数、倒しきれまい!」
『ファイナルフォームライドゥ!ててててんこ!』
声と共に、てんこ自身が巨大な一振りの緋想の剣へと姿を変える。
「何ッ!?」
「ここからどうなるか…さっき見てたんだから分かるわよね!」
『フルパワーでいくよ!』
剣を構え、もう1枚のメダルを挿し込む。
『ラストスペルライドゥ!ててててんこ!』
「 全 人 類 の 緋 想 天 」
「『おおおおおおおおおおおおおおっ!」』
緋想の剣から、紅い光が放射される。ディケイネは剣を振り回し、昏き軍勢を病気ごと根こそぎ薙ぎ払う。
「ぐ…!」
昏き軍勢を殲滅した、巨大な紅い光の剣はそのまま近藤に襲い掛かる。近藤は2つの負剣でそれを受け止める。
「負剣の力を…甘く見るな!」
兵士たちを殲滅した事で力の大半を失っていたのか、紅い剣はやがて細くなり、そして消滅する。
同時に、てんこと紅里の変身も解け、その場に倒れた。
「う………!」
作戦のため、彼方は近藤の所へ駆けていった。当然、覇剣の守護は得られなくなり、紅里とてんこは病気に晒される事になった。頭痛、悪寒、吐き気、倦怠感、筋肉痛、腹痛、呼吸不全…様々な症状が2人にのしかかった。
(これ…思った以上に、キツい…!でも、まあ…)
紅里は残された力を振り絞って体を動かし、近藤の方を見る。鍔迫り合いをしていた彼方が倒れ、みょんがあの刀を打ち下ろすのが見えた。
(これで……なんとかなった、かな…)
負剣が白いコンペイトウに覆われ、その力を封じられる瞬間、紅里は意識を失った。
近藤の振り下ろした鎚が、2つの負剣を叩く。白いコンペイトウでコーティングされた負剣は、音も立てず粉々に崩れ去った。
「封印された菓子剣も元に戻って、堕菓子剣も破壊した。これで、ようやく全部終わりでござるな」
「この度は申し訳ありません。私のせいで大変なご迷惑をおかけしてしまい…」
「全くだよ」
「彼方殿!もうちょっと気を遣うでござる!」
空気の読めない彼方の発言にツッコむみょんを脇目に、紅里はちらりと後ろを振り向いた。そこにあるのは、紅里たちが廃屋だと思い込んでいたボロ屋。なんとここが近藤の家だったらしい。結果としてれいむ達の言った通り不法侵入をしてしまっていたようだが、とりあえず黙っておいたので問題は無い。イカサマはバレなければ良いと、昔の人も言っている。
「それじゃ、みょんたちはそろそろ行くでござる」
「じゃあ私たちも」
「もう発たれるのですか?」
「そりゃー、せっかく腕のいい鍛冶師ってのを紹介してもらったんだから、早く覇剣直してもらいに行かなきゃ」
「私のほうの目的もたぶん達成されただろうしね。いいものも貰っちゃったし」
紅里の手には、一振りの刀。特に名刀というわけではないのだが、戦国時代に作られた、本物の刀だ。女の子が貰って嬉しいものでもないだろうが、彼女は少しセンスがおかしいところがあるので、その報酬を大いに喜んだ。
「あ、でも無許可で所持ってのも銃刀法違反だっけ」
「ゆっくり逮捕されていってね!」
「まりさが責任をもって通報するぜ…」
「するな」
言いながら、紅里はまりさを踏んづけた。だが、想像以上の弾力で押し返され、バランスを崩して倒れてしまった。きゃっきゃとはしゃぐ2人から目をそらすように彼方を見ると、手紙のようなものを大事そうに抱えている。鍛冶師の紹介がどうのという話をしていたから、おそらく紹介状だろう。
「では、旅の無事と、覇剣の修復が叶うことを心よりお祈りさせていただきます」
「近藤殿も達者で。またいつか近くに来たときには立ち寄って、新しく手に入れた菓子剣を披露するでござる」
「『自慢する』の間違いでしょ」
「てんこも、近藤さんと末永くね」
「べ、別に私とお兄さんはそういうんじゃないんだからねっ!」
2人に見送られ、紅里たちは下山した。
「じゃ、私たちはここで」
「あ、うん。縁があったらまた会おうね」
そして山の麓、ちょうどあの洞窟跡…戦いの決着がついた場所で、紅里たちは彼方たちと別れた。
しばらく歩いた後、振り返って山頂を仰ぐ。
刀剣研究家・近藤とゆっくりてんこ。
今回は負剣という邪魔が入ったが、それを打ち倒した今、2人は安心してゆっくりすることが出来るだろう。
┌──────────────────────┐ │ こうして、れいむとまりさの大活躍により、 │ │ また一つ世界にゆっくりがもたらされたのだった │  ̄ ̄ ̄\/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\/ ̄ ̄ _,,....,,_ -''":::::::::::::`''ヾ ヽ::::::::::::::::::::::::::::\ |::::::;ノ´ ̄\:::::::::::\_,. -‐ァ __ _____ ______ |::::ノ ヽ、ヽr-r'"´ (.__ ,´ _,, '-´ ̄ ̄`-ゝ 、_ イ、 _,.!イ_ _,.ヘーァ'二ハ二ヽ、へ,_7 'r ´ ヽ、ン、 ::::::rー''7コ-‐'"´ ; ', `ヽ/`7 ,'==─- -─==', i r-'ァ'"´/ /! ハ ハ ! iヾ_ノ i イ iゝ、イ人レ/_ルヽイ i | !イ´ ,' | /__,.!/ V 、!__ハ ,' ,ゝ レリイi (ヒ_] ヒ_ン ).| .|、i .|| `! !/レi' (ヒ_] ヒ_ン レ'i ノ !Y!"" ,___, "" 「 !ノ i | ,' ノ !'" ,___, "' i .レ' L.',. ヽ _ン L」 ノ| .| ( ,ハ ヽ _ン 人! | ||ヽ、 ,イ| ||イ| / ,.ヘ,)、 )>,、 _____, ,.イ ハ レ ル` ー--─ ´ルレ レ´
「勝手なナレーションで締めるな!あんたら今回も何もしてなかったでしょうが!」
「そうは言うけど、れいむたちも大変だったんだよ!」
「まりさなんか、おやつの金平糖を落っことしちゃったんだぜ!」
「いいじゃない金平糖の一つや二つ…」
「よくないよ!」
騒ぎ立てる2人をあしらいながら、紅里は帰路につく。
この世界での目的、てんこたちをゆっくりさせる事については達成できた。しかし、ゆっくらいだーとしての役目が終わったわけではない。
ゆっくりできない世界がある限り、ディケイネはそれを破壊する。この旅はまだまだ続くのだ。
そう
-おしまい-
-おまけ-
紅里「外郎剣『羊羹剣』?」
みょん「知ってるでござるか?」
紅「あー、知ってるというか、前やってた
ゲーム に同じ名前のアイテムが出てきたのよ。もっともアレは『外郎剣』と『羊羹剣』っていう二振りの刀だったけど…」
み「ゲーム?アイテム?」
紅「えーっと、簡単に言うと、物語の中に出てくる道具ってこと」
み「みょんみょん…それで、どんな道具だったでござるか?」
紅「クソの役にも立たなかったわ!」
み「ひでぇ!」
-ここから蛇足-
緩慢とクロスする形で作った本作ですが、「最初から最後まで一緒ではなく、本格的に交わる(←いやらしい)のは最後の方だけ、ただし軽いリンクは入れておく(冒頭の茶店でのシーンとか)」「片方だけ読んでもわかるようにする」「決戦では片方だけ出すぎるようなことにはしない」等の制約のもと作ったので結構苦労しました(実質2本×前後編で4つ作る事になったし)。ちなみにこの構成の元ネタはMOVIE大戦2010(別個の話を進めて、最後でクロスする)です。
片方だけ読んでもとは言いますが、一応「ゆっくらいだーディケイネ外伝」なので、ディケイネはある程度知っている前提で書いてます。そのへんはご了承ください。
以下、こっち側の補足とか設定とか。あんまり無いけど。
最初は『ゆっくらいだーディケイネ外伝 MAKEN BREAKER』がタイトルだったんだけど、緩慢のとこで「マケン」って言葉使っちゃったためにこのままいくとあっちとのリンクが前編タイトルの時点でモロバレでやべえと思って付け直し。
ヒーロは緋色とヒーローの意。MAKEN BREAKERは負剣の破壊者と負けない破壊者(=ディケイネ)の意。
茶店のシーン:彼方たちが「でっか!」と叫んだのを紅里たちも聞いていた
てんこ:みょんがぶっ飛ばしたのを紅里たちが掘り起こした
気まずそうなれいむ:近藤宅を探っているとき、寝ていた彼方たちを見つけて不法侵入してしまったと思った
覇剣:緩慢のおまけ参照
ふと思い立ったネタ。「SSに画像を組み込む」のはグランドホテルでやったので、今回は念願の「SSに動画を組み込む」ネタを。
Flashに音を内蔵させたかったけど著作権的なあれがあるのでやむなく。
ちなみに↓こんなのも用意してランダムで切り替わるようにしようと思ったけど断念しました。せっかくなので載せときます。
奴が出ると色々狂うので…。
書いた人:えーきさまはヤマカワイイ
ただのチンピラかとおもったてんこがキーパーソンとは。 総じてディケイネらしい話で懐かしいですね。 -- 名無しさん (2011-05-22 00:49:43)
最終更新:2011年05月22日 00:49