【2011年春企画】緩慢刀物語 多分章

 昔、世界は大きく3つに分かれていた。
天界と魔界、そして地上界。
天界と魔界は数億年の長き年月争い続けた。だがその争いが地上に影響を及ぼすと知った神は、
天界魔界から強力な戦士を8人集め1000年に一度双方の代表として争うことを取り決めたのだ。
 その戦士達を人々は四破天使、四天魔族と呼ぶ。果たして彼らが何を思い何を感じて戦うのか……それは知る由もない。
「で、それが私達となんの関係があるの?」
「特に関係は無い」
 ですよね。緩慢刀な短編始まります。




回剣「眼足」 緩慢刀物語 例えお笑い芸人からでも得るものはある。多分章 元海藻「心太」



「この歯ごたえ……爽快感、そして何よりもほのかな甘み!今まで出会ったところてんの中で一番おいしいみょん!」
「味うっす……」
 もはや恒例となった茶店でのお菓子道楽。
いつものようにみょんはお菓子に腹鼓を打ち、彼方は白けた顔をしていつものようにがぶがぶお茶を飲んでいた。
「そんなお菓子ばっか食べて、どうして太らないのさ」
「へん、ゆっくりしてるからでござるよ」
「……どうして太らない、の?」
「消費量が違うんだみょん!!」
 最後のところてんを頬張り、みょんは満足げな表情を浮かべる。
まさに天国状態といったところであろうか、ふてぶてしい顔が余計にウザくなる。
「それは菓子剣にしないの?」
「ところてんを菓子剣にしてどうするのでござるか……」
 プルプルして全く使えなさそうだ。大根の方がまだマシに思える。
みょんはお菓子の余韻に浸りながら自分のお茶をすするがその瞬間みょんの表情が引き攣った。
「………ッ!!!」
 みょんはその表情を彼方に悟られまいとすぐに顔を元に戻すが、時すでに遅く彼方は訝しげにみょんの顔を見つめていた。
知られてはならない。この娘に弱みを見せてはいけない!見せたら骨の髄までしゃぶられる!いやらしい。
「……みょんさん、まさか」
「い、いやいやいや、そんなわけないみょん!全くかなた殿ったら人の心配を」
「前々から甘い物の食べ過ぎだとは思ったよ。そのツケがようやく来たんだね」
「だから!みょんは至って健康みょん!!健康優良と言ったらその人ありと」
「えい」
 彼方はみょんの頬を何気なく突いてみた。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
 ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアア
 アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああアアアアアアアアアアアアァァァァァァ!!!!」
「ぎょええええええええええ!!!」
「ヒギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
 アアアアアアアアアアアアアアアアアアアグギャギャギャギャアアアアアギャギャギャギャギャアアアアギャギャギャギャギャギャギャギャギャ
 ギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャアアアアアギャギャギャギャギャギャ
 ギャギャギャギャギャギャアアアアアアアアアアアああああアアアアああああああああアガガガガガガガガガァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!」
 みょんの地獄の雄叫びのような悲鳴によって辺りは騒然となる。
どれだけの苦痛を味わえばこんな悲鳴を出せると言うのだ。彼方でさえも何も考えることが出来ずみょんの頬から指を放すことも忘れてしまった。
「ガッババババババババババァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!ヤメロォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!
 ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
「ハナセェェェェェェェェェェェェェェ!!!ソノテヲ、ソノテヲハナセェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!!!!!!!!!」
 地獄の底からひねり出したような必死の叫びにより彼方はようやく指を放し、それとともにみょんの悲鳴も止まった。
「ハァ…………ハァ………ハァ………お、おのれ………なんて恐ろしい事を………」
「ご、ごめん、まさかそんな痛がるとは思ってなくて」
 しかしこれで確定的だ。みょんはどこかに虫歯を患っている。
流石にみょんもこれ以上否定する気は無いらしくしゅんと心惜しそうにうなだれてしまった。
「……ふっ、西行に刃有りと呼ばれたこの真名身四も……病気には勝てないでござるな」
「だからお菓子の食べすぎだって。そんな虫歯で大丈夫?」
「大丈夫だ、問題無いってギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!ツツクナァァァァァァァァ!!!!!」
 全然大丈夫ではない。少し触られてこんなに叫ぶなら旅なんて続けられないだろう。
戦いだって歯に力を入れなければ全力が出せないはず。このまま放置するのはかなり危険だ。
「仕方ないなぁ、じゃあ引っこ抜くからちょっと口開けて」
「え?抜くのでござるか?」
「大丈夫、慣れっこ慣れっこ、妹分の歯だって何本か抜いたことあるし」
 喧嘩の際に、とみょんに聞こえない程度の声で呟き彼方はみょんの口の中を覗き込む。
しかしあまり明るくないためかどこにあるか分からず、思い切って頭をみょんの口の中に入れた。
「ガブリ」
 噛まれた。割と本気で、アマガミですらない。キミキスでもない。
「イデェェェェェェェェェ!!!!な、なにをしてるんじゃああああああああああああ!!!」
「ふがーーー!!ふがーーーーー!!!」
 頭上半分をマミられそうになってしまったが彼方は持ち前のど根性でみょんの歯を外す。
そしてそのまま流れるようにみょんをつい反射的に地面に叩きつけてしまった。
「うっぎゃーーー!!」
「び、びっくりした……なんでいきなり噛むのさ!殺すつもりか!いきなり鬱展開にするつもりか!」
「いでで……いやぁそのみょんの口は嘘吐きが頭を入れると噛むようにできてるんだみょん」
 どこの観光名所だ。というか誰が嘘吐きだ。
「じゃあ自己紹介するみょん」
「私の名前は烏丸彼方!頭脳明晰!容姿端麗!純情可憐!温厚篤実!風華国一の戦国美少女とは私の事よ!」
 ダウト。傍若無人とか豪放磊落とか入れたほうが良いんじゃないかって思う。
気を害した彼方によって結構いいチョップを喰らってしまったがみょんは何事も無かったかのようにふぅと溜息を一つついた。
「どうしたらいいのかみょん……どっかに医者がいればいいんだけどみょん」
「医者、ねぇ」
「つまりあなたはこう言いたいのでしょう。『イシャはどこだ!!』」
 突然背後の方から声が掛けられ二人は反射的に振り向く。
そこにはスパナを持ったこーりんがいた。なんでスパナを持っているのかはよく分からん。
「医者がどこかにあるのか知っているのかみょん?」
「ああ、つい最近開業したらしくてね。その町を出たすぐそばにあるから行ってみたらどうだい?」
 それはありがたい、と言うことでみょん達はさっさとお代を払いその医者とやらがいる場所にへと足を向ける。
それがまさかあんな羽目になるなんて、希望を持たなければ絶望することも無かったのに。そうこーりんは二人の背後で呟いた。
「勝手なナレーションを入れるな!!」


 その医者の住む屋敷の前へと辿り着いた二人であったがその異様な雰囲気に思わずおののいてしまう。
なにせ屋敷と言うよりはどちらかと言うと悪の研究所のような外見であったからだ。いつの間にか空も雲が覆って雷まで鳴っている。
「……行くの?」
「背に腹は代えられぬ」
 僅かな勇気を出してみょんは玄関と思われるところからその研究所に入っていく。
すぐ傍に貼られていた紙によるとどうやら今の時間帯はしっかりと営業しているようだった。
「失礼しますみょん」
「いらっしゃ~~~い」
「ゆおおおおおっ!!!」
 突然話しかけられて思わず刀を出しそうになったが虫歯に当たり悶絶してしまう。
落ち着いて見てみるとその話しかけた人はどうやらゆっくりえーりんのようであった。顔についている傷が特徴的である。
「ひさしぶりの患者ね、いったいどこをけがしたのかしら、わたしが全部なおしてあげるわ」
「あ、いや、そのあなたは一体………」
「わたし?わたしのなまえは若論えーりんって言うわ。割とゆうめいだとおもうけど?」
「若論えーりん!?もしかしてあの悪名高いジャック黒えーりんでござるか!?」
「知っているの!?みょんさん!!」
「ああ、天才的な外科の腕を持っているが自分より若い患者には法外な治療費とお菓子を請求することで有名なゆっくりでござる!
 みょ、みょん達は今そんな持ち合わせは無いでござる!これにてご免!!」
 あれだけのお金を払ったら即座に破産だと考えさっさと逃げようとするみょんであったがえーりんはそんなみょんの先回りをする。
そしてみょんの体をまじまじと見つめふてぶてしい笑顔でこうつぶやいた。
「あら、どうやら虫歯をわずらっているみたいね……おもしろそう」
「だから!今お金は無いでござる!それにあんたは外科医でござろう!」
「たしかにね、でもわたしの弟子はちょうど歯科医をやっているのよ。もちろんなみの治療費にさせるわ。どう?」
「……むむぅ」
 このえーりんの弟子と言うのなら一応腕は確かだろう。
治療費も普通になると言うのなら問題はあるまい。そう思ったみょんはさっさと虫歯を治したい気持ちを優先させえーりんについていった。
「さて、ここに座って」
 明らかに人間を改造させるような雰囲気の部屋に連れてこまれたがみょんは言われるがままゆっくり用のいすに座る。
そしてえーりんは机から一つの紙を取り出して何か書き連ねた。
「いまからアンケートをおこないます。それによってあなたにあった医者がえらばれることになりますのでちゃんとおこたえください」
「ちょっと待って、そんなに歯医者がいるのかみょん?」
「ええ、けっこういるわ。それでは第一問。あなたはアイマスで一体誰が好き?」
「……あふぅ」
「第二問。アイマス2では誰が好き?」
「2はやってない」
「第三問。ドリクラでは誰が好き?」
「マリリン」
「第四問。メガネをかけているほむらちゃんとメガネをかけてないほむらちゃん、どちらが好き?」
「眼鏡ありの方が……大人しそうで好きみょん」
 そんな益体もなさそうなアンケートが20問ほど続き、最後に『えーてるとかぐもこはどちらがジャスティス?』という質問を答えようやくアンケートは終わった。
ちなみに彼方は他の椅子に座って洒落本なんか読んでいた。割と結構な頻度で爆笑している。
「わかりました。ちなみにさっきのえーてるはえーきさまとてるよの略です」
「は、嵌められた!!」
「それではあなたにあった歯医者は、このかたです!」
 なんか地面から煙が立ち上り奥の方の扉が物々しく開かれる。
そこから一人のゆっくりうどんげがなんかけたけた笑いながら入ってきたのだ。
「ししょお………こいつが狂のクランケ(実験台)ですかぁ………?」
「紹介しましょう、これこそわが病院NO、16!サイコドクターうどんげいんよ」
 歯医者なのにその肩書はどうなんだ。雰囲気も頭についている反射鏡以外ぜんぜん歯医者らしくない。
「だ、大丈夫でござるか?」
「ゆふふ、みためはなんありだけどもんだいないわよ。なにせこのこは波紋法をしゅとくしていてそれでいたみをなくすことができるの」
 なんと、あの波紋法を取得していると言うのか。なんで歯医者がそんな技術に精通しているか分からないがこれで安心して治療できるだろう。
「なるほどぉ……こいつが、ですか……ゲラゲラゲラゲラ!!!!」
「それじゃあ治療を始めるわ。なるほどここのいちに虫歯が……あとはよろしくサイコドクターうどんげいん」
「ゲラゲラゲラゲラゲラ!!!お任せ下さいぃぃぃ!ししょーーーー!!!」
 なんか叫んでいるがちゃんと波紋とやらをかけてくれたようで全身の感覚が無くなる。
後はゆっくりしててもよさそうだ。そう思ってみょんは長旅の疲れを癒すように目を瞑った。
「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ」
 しかしうどんげの笑い声がうっさい。その上何かみょんな音がしてどうも気が散る。
これではゆっくり出来ないとみょんは何となく目を開いた。

 回転ノコギリが目の前にあった。
「うぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
 みょんは全身が麻痺しながらも全力で動き椅子の下に転げ落ちる。
危なかった。もし後3秒反応が遅れていたら気付かないうちに輪切りにされていたことだろう。
「チィッ!逃げられた!」
「ど、ど、ど、どういうことでござるか!!殺されると思ったみょん!!」
「いや、このこかいてんノコギリで歯をちりょうするって聞かないのよ。
 ほら、反射鏡とかいてんのこぎりって形がにてるらしいし、めたるまーん」
「治療の前に死ぬわ!」
 ホルマリン漬けにされてチームの仲間に送られるってのか!
そう憤るとえーりんは舌打ちをしてそのままうどんげを元の場所に返していった。
「チッ、それじゃああなたと適性のあるもうひとりの歯医者をよういします」
「ちゃんとまともなやつを頼むみょん……」
 そんなみょんをよそに彼方の方はと言うと洒落本を積み上げて一気に読破しているようだった。仲間の危機になんてことしてるんだよ。
「それではつぎのかたどうぞ」
 明らかにやる気の無くなったえーりんの掛け声により再び扉の奥から新たな医者が現れる。
そいつはなにかうんさくさそうなナマズ髭を携えたてゐであった。てゐにはあまりいい思い出は無い。
「紹介しましょう、彼女こそわが病棟のNO,179、薬塗りのてゐです」
「医者の数多すぎじゃないかみょん」
「おお、ダンナ旦那。虫歯で苦しんでいるようですね。そんな時はあっしの開発したこの薬をお使いください」
「医者じゃねーじゃねーか」
 まぁえーりんの弟子としては薬剤師で合っているのかもしれない。
てゐはやたら胡散臭そうな壺を台の中から取り出し、その中の胡散臭い薬らしきものをみょんに差し出した。
「これを患部に塗れば虫歯なんてちょちょいのちょい……さぁダンナ、これを口の中へ」
「薬で治るのかみょん?なんか胡散臭いでござるな」
「いやいや、何せこれはあの永夜で作ったと言われる薬でございます。ご安心ください」
 仕方ない、と思ってみょんはその薬が塗ってある薬さじを頬張る。
その瞬間、みょんの脳裏になにかが弾けると同時に閃光が走った。
「こ、これは……まろやかな触感、あえて薄く彩られた味………そして口いっぱいに広がる甘み!
 こんな、こんな水飴は初めてギャバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
 アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
 当たり前のようだが水飴が虫歯に染みたようだ。
かつてない激痛を前にみょんも思わずそこら中を転げ回る。
「やりましたね!ヘーイ!」
「ヘーイ!」
「アババババババババババババ……デ、デメェラァァァ!!!流石にまじめにやらんと殺すぞォォォォ!!!」
 これにはみょんの堪忍袋も切れたようで羊羹剣をてゐとえーりんに向ける。
未遂とはいえ一度殺されかけたのだ。さっきの時点で取り出してもおかしくは無い。
「あ、そ、そんな堪忍なぁ……ちゃんと本物あるから」
「ナラサッサトヤレェェェェェェ……」
 かつてない全てを呪うような表情をしてみょんは再び椅子の上に乗る。
今度失敗したら命は無いと思ったのかてゐもびくびく怯えながらみょんの口の中に薬を塗り込もうとした。
「ん、なにかあったの?」
 と、そこで彼方はようやくみょんの方へと向く。
今てゐはしっかりと薬をぬろうとみょんの口の中に体をいれ込もうとしている。
そう言えば、嘘吐きが入ると勝手に閉じるってみょんな設定があったなぁと彼方はふと思い出した。
「がぶり」
 やっぱり噛まれた。



「いや、すまぬ。その設定絶対次回から使わないと思ってたから忘れてたみょん」
「……もうあなたと相性のいい歯医者はいません。こまりましたね……」
 てゐは全治二週間、うどんげもいつの間にか傷害事件で逮捕されてしまった。
だからってえーりんに頼んでしまっては莫大な治療費を払うこととなる。仕方なくみょんは他の病院に行くまで歯の痛みを我慢しようとした。
「まってください、まだ、まだひとりいるかもしれません」
「……今度こそまともな歯医者でござろうな」
「ええ、腕はたしかです。それでは椅子に乗ってください」
 深いため息をついてみょんは再び椅子に乗る。
しかしそれでも不安が無くならず、思い切ってその歯医者について尋ねてみることにした。
「その歯医者ってどんな奴みょん?」
「そうですね……そう言えばけっこうむかしT○Sの番組でピンクいろの戦士がたたかうアニメあったでしょう?」
 確かにやっていたが、一体それがなんだと言うのだろうか。訳が分からない。
「2年くらいやっててわりと社会風刺のないようがおおかったんですよね。その中に虫歯についてのはなしがあったんです」
「……確かにあったでござるな。今のみょんと同じような感じみょん」
「で、まいどおなじみのこあくとうの大王は歯医者いくのをいやがって歯医者がたの魔物を取り寄せるんです。
 でも麻酔なしと言うことでいやがってその大王はピンクいろの戦士にその魔物をたおさせちゃうんですよ」
 だから何が言いたい。さっきから全く要領を得ないではないか。
「わたしはあの魔物が可哀そうでなりませんでした。まもののなかではそれほどわるさしてないうえに、主人公のゆうじんのむしばをただで治すといういいやつでもあったんです。
 それなのに倒されちゃって………もうたまりません」
「…………」
 なんだか嫌な予感がする。
「……で、いったいどういうことみょん?」
「と言うわけで、その魔獣作っちゃいました」
『チーリョー!!』
 轟音とともに何故か壁が破られ、そこから妙な生物が現れる。
まるで歯医者の椅子をそのまま生物にしたようだ。電灯のような一つ目がみょんの事をじぃっと獲物を狩るように見つめている。
「……そう言えば……さっき麻酔なしって」
『チリョーカイシ!!!』
 その愉快な謎生物は早速みょんをアームで捕まえ自分の台座に載せる。
そして備え付けられてあった溝がついている巨大な棘を回転させながらみょんの口の中を狙っていった。
「ヤ、ヤメロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!麻酔なしだけは!麻酔なしだけはぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「みょんさーーーーーーーーーーーーーん!!!」
 この異常事態に気付いたようで彼方はみょんに向かって叫ぶ。
ああ、自分が戦えない時こそあなたが頑張る番よ彼方。早速この謎生物を倒してちょうだい。
「吸い込みよーーーーーーーーーーーー!!!」
「そんなことできるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 同じ一頭身だけど出来ない物はどうしたって出来ない。
ゆゆこなら出来るかもしれないが自分はしがないみょんだ。無茶ぶりにもほどがある。
そして回転棘はみょんの虫歯を的確にえぐりみょんの悲痛の叫びがこの国全土に響き渡った。

「むぅ、アニメのようにそう簡単にはちりょうできませんか」
「おまえぇぇ………おまぇぇぇぇ」
 治療は無事終わったようだが麻酔なしの治療は相当堪えたらしく放心しながらみょんは床に転がっている。
これで全て終わったかのように思えたが、その謎生物は落ち着く気配もなく今度は彼方の方に照準を向けたのだ。
「え、何で私の方向いてるのさ。私は虫歯なんてないよ」
『ハーーーデーーー!!!!』
 何をトチ狂ったのかその謎生物は彼方の方へと向かっていく。
突然のことなので彼方もうまく反応出来ず、なすがままにアームに掴まれ台座に乗せられてしまった。
「ちょちょちょ!虫歯が無いのに何を治療するっていうのさ!!」
「えーと、たぶん歯全部抜かれるとおもいます」
「にゃにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!」
 この年で総入れ歯なんてこりごりだ。だが謎生物の拘束の力は以外にも強くどうしても外すことが出来ない。
そして回転する巨大な棘は、ええいもうドリルでいいや、ゆっくりと彼方の口をめがけていった。
「…………っ!!!」
 虫歯ですらないのに、ましてや麻酔なしなんて与えられる痛みはどの程度になるであろうか。
みょんの叫びを思い出すとそれもより恐ろしく感じる。とにかく彼方は動ける限り必死に抵抗した。
「あんまり口とじないほうがいいですよ。くちびるなんかあっという間にきれちゃいますからね」
「さっさと止めろおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
「むりです。ごめんちゃい」
 えーりんに対してかつてないほどの怒りを覚えるがドリルはもう彼方の口の中に入ろうとしている。
もう終わりだ。これから私は歯が無い人生を送るのだ。
だがそんな絶望の中でも彼女は諦めきれない。そしてたったひとつの希望に、自分の全てを賭けた!
「うおりゃああああああああああああああ!!!」
「な、なっ!!歯でドリルをくわえた!?ばかな!そんなことをしたら」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
 回転により彼方の歯は僅かに僅かに削れていくが摩擦によって回転の勢いは衰えていく。
そして全ての歯が削られる前に彼方はドリルの回転を止めることが出来たのだ!!
『ハガッ!?』
「こ、今度はこちらの番だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 彼方は両手でドリルのアームをへし折り、足を振り上げて照明燈の瞳を蹴り飛ばす。
それによってようやく拘束が解け、彼方は謎生物の下にもぐりこみ一気に持ち上げた。
「塔!!橋!!崩落!!!」
 頭を支店に両手に力を加えるとそのまま謎生物の腰関節は曲がらない方向へと曲がり、そのまま絶命する。
なんだか知らんがノリで勝った。虫歯を治すことから始まったこの事件だけどやっぱり勝利の余韻は何よりも清々しかった。
「あ、そう言えば魔獣ってやられたら爆発するんでしたよね」
「へ?」
 呆ける暇もなくえーりんの病院兼研究所は爆炎の炎に包まれていったのであった。


 いつの間にか外はすっかり晴れていて、彼方とみょんの二人は黒焦げのままただただ研究所跡に立ち尽くしていた。
「やっぱり、カトちゃんの言うことはちゃんと聞くべきだったみょん」
「あれ言ってたのってカトちゃんだっけ。よく分かんない」
 まぁ、今回の教訓はあれだ。あれしかない。


『歯ぁ磨けよっ!』



 なし崩しに終わり

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最終更新:2011年05月19日 21:02