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さて、もう壁際にも、通用門にも妖怪は流石にいまいと、そそくさと出たがっていた者達は身支度をして
街の東門を目指していた。
とりあえず……『妖怪』は本当に退治したのだから、この街に被害はあるまい。
しかし、あの後、「あえてここに留まる」と宣言したゆっくりが8体いた。
引き留めるものもあったが、決意は固かったようだ。『妖怪』達をなおも警戒しての行動だろう
本当に適当に、知り合ったゆっくり達に挨拶だけしていたら、どうやら出るのが一番遅くなってしまった。
「みょんさーん…… お風呂入りたーい」
「……そちらがそれを言うでござるか」
「こっちが最終兵器作ったんだから、向こう3年は何でも命令したって罰当たらないんじゃない?」
「こんな所3年もいるつもりはないでござる!」
色々終わってしまえば、恐ろしさも残る。
結局は地下だし。
お菓子は美味しかったし、民宿もどこも居心地は良かったので、観光したい気持ちもあったが、『妖怪』と
遭遇したくないので、みょんはボロボロの体を押して走った。
「ああ、ただ彼方殿のバウムクーヘン焼きの師匠方には挨拶したい所でござるな……」
「―――え?誰だっけ」
恩知らずにも程がある……と思ったが……歩を止めずに街の外れまで行く内、みょん自身実はそこまで
この街の思い出もそれほどない事に気が付いた。
確かに、印象は良いし、実質仲間集めと妖怪退治に明け暮れていたのだが、もう少し何かあってもよさそうなのに……
「む。それだけ充実していたという事でござるか……?しかし……」
「まあ、菓子剣も出来た事だし良かったじゃない」
一際大きな「東門」に到着した2人。
9日間は、長いようだが、実際短い。
密度は濃かったはずだが、何だか泡風呂の中に居た様な感覚がして、二人は少し怖くなった。
とは言え、振り返れば思い出深い土地になるかもしれない。
改めて振り返った。
覚りの怪がいた。
「あ、どうもお疲れ様です」
あの少女の姿でだった。
ただし――――顔半分は、「余計に親と一緒に見られない」といった状態になっていた。
「結論から言って、『妖怪』は殺すことができない」 とのアリスの言が解った気がした。
なのに、いつも以上に快活に話しかけてくる
「う………あ……あ…」
「え……何あのその…………」
「素晴らしかったですわ~ 最後の大集合」
「あ~………」
「何もできないけど、力に少しでもなりたいと、しおらしくお菓子を習得するヒロイン」
「わ、私っすかあ……」
「それに応えて、新しい最新兵器で悪をなぎ倒す主人公」
「そ、そりゃどうも……」
笑っているのだろう。肩が小刻みに震えている。
「それしても、 重剣『芭宇夢 玖雨変』よかったですよ~」
「は、はあ………」
「いやはや、彼方さんの想いが如実にでてきた剣でしたね。いつも使っていた宝剣が、短くて曲がってて
使い辛い―――に呼応したのでしょう」
「ええ………」
「――――でも今回しか使えないっぽいですねえ………」
「――…うっさい 覚り妖怪」
あ、私、本名は歩命寺智と申します―――と、恭しく『妖怪』のまとめ役は挨拶した。
「―――……結局、何? 何しに来たの……?」
「ここまでやって、倒せない奴の相手なんかもうしたくないみょん……」
「いえいえ。単なる挨拶ですよ。もう街を出て行かれるのでしょう?」
止めるつもりはないのか?
食べたりはしないのか?
「まだ事態を知らないゆっくりもいるでござろうが、こんな事が起これば、滞在者達はいなくなるで
ござるよ」
――となると、住人達を今以上に襲うようになるのか?
「まあ、人間やゆっくりなんて、その気になれば無理して食べなくても大丈夫ですし」
「……………」
「それにこのシステムを知った上で、この街に残ってくれるゆっくりがいるんですよ」
両手の指を使って示す。
8人ですよ、8人も!
「それは………」
「何だかんだで、この街を気に入ってくれて、あの最後の決戦が忘れられないって」
「まあ、解らなくもないみょん」
「まあ、ある意味これで、この街も『完成』したのかもしれませんね……」
「「…………」」
「襲って、戦って、退治されて、また襲う たまにこっちも勝つ ―――ああ、何て素晴らしい……」
グルグルグルグル…・・…
感慨深げに、歩命寺は呟く。
――――こいつは、今まで相当な数の人間やゆっくりを食べてきたはずで、みょん達にとっては生き物として
敵のはずなのだ。
しかし、二人は、ちょっと怒る気が失せた。
「最後に聞きたいでござるが、おぬしは他者の心を読無ことができるのでござろう」
「いかにも」
「されば」
あの最後の決戦時、たくさんのゆっくり達が控えていた事を何故、見抜かなかった?
実質使っていたのは、単体での戦闘時と、滞在ゆっくり達の素性を調べる事だけだったのだろう。
一瞬、何故質問したのかが解らない、といった具合に歩命寺は間を開けたが、すぐに嬉しそうに、しかし意地
悪く言った。
「―――『冒険心』や『平和とゆっくりを愛する心』を利用され、偽りの運命の中、敵の手の上で延々と戦わ
される武士たち
―――そんな時、その真実に気づき、真の強大な最強の黒幕に、全員で立ち向かう
―――こんな、ここまで美味しい相手達と、戦いたくない妖怪がいるはずないじゃないですか」
――退治されるのに?
「おや、みょんな事を仰る。これだから、すぐに死んでしまう、限りが早く来てしまう人間もゆっくりも…」
ホホホ、と大層嫌な笑い方をされた。
しかし、みょんは、今ならはっきりと、あの悪魔の事を理解できる気がした。
また、人間の家畜化計画が失敗に終わった理由も、橋姫を始め、戦う前に心底嬉しそうな顔をしていたことも。
「行こうよ」
「そうでござるな」
「あ、肝心な事を言い忘れてました。 大体後付設定でしたけど、『四破天使』と『四天魔族』って括りだけ
は本当です」
「え………?」
「本当に集まってたんですねー あるんですよこういう事」
地上への道は、またしてもきちんと舗装されていた。
二人は振り返る事は無かった。
道中、みょんは彼方に聞こえるように一人ごちた。
「終りは、『実は無い』と聞いた事があるでござる」
「……………」
「ただ、目まぐるしく、気づかない始りが、連続して起こっているだけだと………」
数刻歩いて、割かしすぐに、地上の明りが見えた。
彼方は、ぼそりと言った。
「かっこつけるな―――――『緋銀6大弟子』の一人………」
自分でも信じられないほどの恥ずかしさが、全身を襲った
「そ、それを言うなあああああああああああ!」
「あれ? 『四大庭師衆』だっけ? それとも『怪盗双破童子』?」
「うがああああああああああああああ!!!!」
「『西行国若武者部隊』…… おっと、これはお父上だったねえ。うししししし」
「た、多分それも後付のはずみょん!!!!」
「『隠し砦の9ゆっくり……』」
「もうやめてええ~~」
出た所は、原っぱだったが、すぐ近くに森があった。。
久々に浴びた陽光は気持ちよかったが、変に自然な所で気持ちよくなり過ぎるのは十分危険な事だと、二人は
わきまえていた。
良く見ると、そこまで大きく迷うはずも無いような森だ。
そして、やたらと暗い。
「考えてみれば、白頭大鷲がこんな所にいる訳がない……」
「赤斑大獺なんて、現実にいないしね…… ましてや双頭の狸なんて…………」
「思えば、ここから始まったのでござるかな」
地下から続いて、あの森そのものが妖怪なのだと――――
「ありきたりな………」
「実は、俺達を取り巻いてるこの社会こそが、本当の妖怪・悪魔・魑魅魍魎じゃないか!」なんて、年頃の少し背伸びをしたいまっすぐな子供が言いそうなことだ。
これを、何という病というのだっただろうか?
「しかし、まるで誰かが描いた小説の中にでも入りこんでいたかのよう……」
「あ、その感覚だけは、何故か解る」
しばらく歩いた二人は、振り返るつもりも無かったのに、もう一度森を見てしまった。
そして言った。
――――「 幻惑の森 よ さらば!!!」
その時。
森の上空に、覆い尽くすほど巨大だが、何かを執筆している優しそうな人間女性と、ゆっくりリグルを、
二人は見た様な気がした。
気のせいだろうが、一瞬ぞっとして、二人は次の目的地へと向かった。
了
「からかっちゃいけませんぜ、お侍様」
あの森から、そうは離れていないはずの村の茶店にて
二人は、店員に食い下がった。
「本当でござるよ?」
「8日間もあそこにいたのになあ………」
「お客様方、その地底に入ったのはいつ頃?」
「ちょっと待って………ほら」
「ふむ。時間は確かに経っているみょん!」
新しい菓子剣(役立つかは微妙だが)もあれば、おりんりんとむらさとケロちゃんと交換した「記念竹輪」
もある。「四破天使」の証である「ゆ」の字の痣も、頭の見えにくい部分に残っている。
何より、二人は最後の決戦だけはしっかりと覚えている。
――――……それ以外の民宿の生活などが、少しずつ薄れていく気はしたが……
「地下には確かに街があったでござる! そこで妖怪と激闘を……」
「へえ…… 確かに、何人かそうした事を仰るお客さんもおられましたがねえ……」
「何故に疑う」
「地下に、そんな明るい街が出来る訳ないじゃないですか」
それはそうだが。
「確かに、100年近く前に、博霊国の隔離所ができていたのは事実ですが……」
『できていた』?
「正式な記録で、3年後には皆死に絶えたって話でごぜえやすよ」
「まあ、最初っからそのつもりだったんでしょうかねえ。酷い話ですよう ホントに」
それでは
「いやいやいやいや………そんな」
「嘘ついてどうすんです」
「実際、倒壊した施設とかが発掘されたそうですよ。一応跡地として一部が今じゃ森の中に残ってるそうなん
で行ってみなさるかね?」
「―――……遠慮しとく…………」
「ああ。ただ」
店主は、少し顔を顰めて言った。
「たまにあそこ、行った人が戻ってこないとか、無いはずの、舶来物とか古美術品とかが見つかるとか
色々噂がありますからねえ」
「実は、住人の死体は殆ど見つからなかったとか、あったのは先に探索してた連中の骨だけだったとか」
「今でも何かが周りを動いてるとか………」
「―――………もういい。本当にわかったみょん」
「まあ、実際に街が少し移動した所で残ってるって説も根強くありますぜ」
仮に事情を知らない地元民に生まれていたとしても、その説を好きになれる自信が、みょんも彼方もあった。
「地底生活なんて無理っぽいけどねえ」
「そりゃあ、魔法やら神通力で何とかするくらいじゃなけりゃ無理でしょうよ」
人知の及ばざる不思議な力か。
そんなものは………
「ああ、いたみょん………そんなやつらがうじゃうじゃと」
「寧ろそれがあの街の全て……?」
しかし、そいつらが街の維持に力を使っていたとすれば……
「それこそ『神様』――――ではござらぬか」
「やだそれこわい」
「彼方殿…………段々本気であの8日間は嘘だった気がしてきたみょん………」
「私もだよ………どうしよう」
「とりあえず、証拠にバウムクーヘンを作ってはどうでござろう?」
「無理。あれ、専用の器具があるの」
そこらでは手に入らない、国内ではおそらく製造できないかもと・・・・・
「そう言えば、バウムクーヘン職人とはどんな連中でござったか?」
「あ…………」
やはり――――、何だか思い出せないのか。
「まさか、半透明だったとか、そういう訳ではござらぬな!?」
「それは………そうだった はず。ごめん。何だか半透明だった気がしてきた」
「…………」
本当に、みょん達は9日間地底で過ごし、妖怪退治と、バウムクーヘン作りに明け暮れたのか?
「何だかお客さん達の話って怖いなー」
「でも、そういうのがここの貴重なネタになるんでガスよ」
店員達に紹介され、二人が向かったのは―――――芝居小屋だった。
実に盛況で、他国からもわざわざ見に来る者がいたようで……
「―――……って、これ幼少時に見た事がある気がするみょん…………」
「へ、へえ………」
実際は、原型が無いほど解釈が多岐に渡り、2次どころか5次創作にさしかかろうかというシリーズ
だが…・・
「発祥の地はここでござったか………?」
派手な看板の題目には、達筆でこう記されていた。
[ 大決戦!!! 超ゆっくり8傑 対 謎の地輪城 ]
中からは、講釈師の快活な声が聞こえる
――― 狐狸妖怪・悪鬼羅刹・魑魅魍魎おわします地底にそびえるは、謎の地輪城!!!
カカンッ!
――― 虎視眈々と地上の民を狙う、地底に封じられし8人の悪魔達!!!
タターッン!
――― 気づかぬうちに迫りくる魔の手!!! そこへ颯爽と立ち向かうは あっ
イヨオゥオオーーーーーオッ
――― 我らが英雄 れいむ衛門と、まりさ次郎 !!!
ココココンッ!!
――― 共に戦いしは、それぞれ3体のゆっくり守護者たち!!!!
オオオオオオオ!!!!!
―――表の看板には、ある町並みの上に浮かぶ、不敵な笑みを浮かべた悪そうな妖怪8体を背に、それに立ち
向かうように並んだ8体のゆっくり武芸者達が、極彩色で描かれていた。
中央左に、ゆっくりれいむ。右にゆっくりまりさ。
れいむ側には、 ゆかり・すいか・きめぇ丸
まりさ側には、 アリス・にとり・パチェさんが
正直とてもかっこよかった。
旅も忘れ、このまま見ていこうと二人は思ったが………
「いや、行くでござる」
「うん。目的地まで近いし」
このお芝居の設定と結末を、二人は元々知っていたのだった。
「これは、みょん達の旅の物語でござる」
「かっこいいねえ、 四破天使が一人…………」
「うっさい かなた殿」
そして、物語は続く。
後書き:
読んでいただきありがとうございます。
改めてリレー企画の重さと楽しさを覚えました。
多くは語りません。
元々かっこいいシリーズなので、熱い話と楽しい話が続いていたので、ちょっと異色と言うか、妙な気持に
なる話が一本あってもいいかな? と考えたのがきっかけでした。
今回、ゆっくり → 東方project に触れて個人的に感じた事・学んだこと、去年末から最近にかけて気づいた
色々な事をできるだけ詰め込んでみました。
何かと戦い続ける話は、やはり楽しく難しいですね。
素晴らしい企画と、機会を作って下さった鬱なす(仮)の人さん。参加された作者の皆さん、そしていつも
読んで下さる創発スレ・wikiの方々 改めてありがとうございました。
以下補足:
•タイトル
「地霊」、じゃそのままなので、 「輪廻」「地巡」「怪季」「異季」など考えた挙句、舞台の「地」とキーワードの
「輪」で。
バウムクーヘンから作られた菓子剣。その性質は多重・または「初見殺し」。
形状は、ゆっくりでは持つこともできず、重量を活かした長剣と見せかけて、中が空洞のため割と軽量。
スカスカと見せかけ、何重もの層でできた刀身と、中央の空間が衝撃を受け流すので打撃にはある程度強い。
その実態は、円刃が幾重にも重なっているため、破損した剣先は、そのまま戦輪として使用できる(回収でき
たり、切り口が綺麗ならば、再利用が可能)
彼方が地下の「妖怪退治」に協力しようと制作した菓子から生まれたため、彼女の当時の忍耐と、みょんが
抱えていたイライラ感が反映されている。
また、彼方自身の付け焼刃の菓子作りで、「妖怪」対策用の剣なので、実戦でどこまで通用するかは未知数。
3つの多重性を見抜かれた後は、多分攻略されやすい。
覚りの怪 という妖怪の討伐のために集められた れいむB・ゆかり・まりさA・アリスA・さくやさんB
・れみりゃA・みょん・ゆゆこA がこの生まれ変わりなのだという。
実際、帽子やリボンの下の目立たない部分に「ゆ」の字の痣があったので、冗談抜きで本当にみょんは生まれ
変わりの一人である。
なお、4対4で代表して戦うのは1000年に一度で、今年はまだ841年目なのであと159年の猶予があり、あまり
会った所で関係は無い。
転生は繰り返しているが、特にそれが1000年に一度の戦いにも、次の生にも、影響は与えない。
記憶は一切引き継がれず、思い出すこともできない。
また、技能・人格・身体能力・知性の育成に、それは全く関係は無い。
生まれ変わりだという事が分かってもその人物の将来や人間関係や実生活には、まったく何の影響もない。
故に、緩慢刀物語の進行には、今後一切関係ない。
なお、みょんは天使側が、れいむ・まりさ・さくやさん・みょん だと思っていたが、実際は ゆかり・まりさ
・みょん・ゆゆこだったという。
- 読み易いが話の筋が判り難く、最後まで読んで途中経過がなんとなくわかる、というのが読み終わった印象でした。
決戦以外の妖怪との戦闘関係がいまいちぼかされていてモヤモヤした感が残るのは、
夢か幻惑されたかのような感じを残したかったからでしょうか?
後書きにちょっと異色、とありますが、テーマの提示があり、ゆっくりの物語であり、彼方の存在も生かされていて、
今までの作品の中では一番緩慢刀物語らしく、尚且つゆっくりSSとしての融合が成立していると思います。 -- 名無しさん (2011-06-05 11:02:30)
最終更新:2011年06月05日 13:57