【2011年春企画】緩慢刀物語 永夜章志位 後々篇

 このお話は作者鬱なすが西尾維新作『刀語』にインスピレーションを受けて書いた作品。まぁ酷く悪く言えばパクリです。
それでも良いという人はどうぞ。




『ナラバ、ソノ頭ゴト切リ裂イテヤロウカァァァ!!!』
「!!!!!!!!!」
 突如背後からあの空気に響く様な無機質な声が聞こえみょんはすかさず彼方の腕から降り突身弾護を構える。
どこに潜んでいたのかは知らないがあの狂鎧がまだ生きていたのか。
だが完全に元に戻ることは出来なかったらしく、その姿はもう鎧ではなく単なるアームと結晶が付いたがらくたの寄せ集めのようなものであった。
「貴様!生きていたのかみょん!」
『ヨクモ、ヨクモヤッテクレタ喃……貴様ノセイデ計画ハ台無シダ!!』
「な、なにあのヘンテコなガラクタ……」
「かなた殿!引くでござる!!」
 あれらの攻撃は自分がゆっくりだからこそかわし続けられたのであって表面積が広い人間である彼方では避けるのは難しいだろう。
いくら相手が満身創痍だからって油断をすればあっという間に命なんか削られる。相手は曲りなりとも月の剣であるのだから。
『主君ヲナクシ、目的ヲ失ッタ私ニハモハヤ仇討シカ手段ハ残サレテオラヌ!!死ネィ!!』
 狂鎧は今にももげそうなアームを振り回しそれをみょんに向かって突き立てる。
速度は以前よりも格段に遅かったが万が一ということを考えてみょんは突身弾護で防御しようとした。
「!!!?」
 しかし制御がうまくいっていないのかアームはみょんの真横を通り抜けていく。
その機に乗じみょんは構えるのを止めそのまま中心核である水晶の方へと突撃していった。
「今だッ!!」
『バカメッ!!』
 そのアームはさらに減速したかと思うとみょんの真後ろで旋回してみょんの周りに取り囲んでいく。
移動中だったためか思うように回避することが出来ず結果みょんはそのアームに縛られてしまった。
「ぐ、ぐあぁぁ!!!」
『爆ゼロ!潰レロ!死ンデシマエエエエエ!!!!!』
 出力が出ていないため一瞬で絞め殺されるようなことは出来ないものの逆にそれがみょんの苦しみを増大させる。
みょんの力では外すこともできず抜け出す隙間もない。刀の憎悪はただみょんを殺す為だけに己の力のすべてを使っていた。
『痛イカ?苦シイカ!?月ノ民ハコノ苦シミヲズット味ワッテキタノダ!!』
「みょ、みょんさんを放せぇぇ!!!」
『ヌッ!?』
 流石にみょんの危機を黙って見過ごす彼方ではなく即座に覇剣を鞘から抜いてみょんを縛るアームを切りつける。
みょんにとってそれはまさに救いのよう、しかしそれと同時に彼方を危険に晒すようなことにしてしまった。
『ナ、オ、オレノ腕ガァァ!!!!!』
「よしっ!このままいくぞぉぉぉ!!!!」
 覇剣の斬撃により金属で作られているはずのアームは千切れ飛びなんとかみょんは体の自由を取り戻す。
みょんはすぐに下がれと彼方に言おうとしたが、その前に彼方は調子に乗って狂鎧の方へと向かっていってしまったのだ。
狂鎧があの無音斬撃砲の発射口を向けていたとも知らず。
「か、かなた殿!!!逃げるでござッ!!!」
「あの紅い水晶だなッ!!あそこが弱点のはず!いっけええええええええええええ!!
 と思ったらずっこけたーーー!!後頭部いってええええ!!!!なんじゃこれ!急に後ろにずっこけた!!?
 まさか相手の能力!?ええい!この!お、起き上がれない!!ちくしょう!折角覇剣が直ったってのにあんまりだぜ!!!」

 相変わらずバカみたいに叫ぶ彼方であったがみょんは、そして狂鎧でさえも声を出すことが出来なかった。
なにせ、"頭だけ"が地面に落ちていたのだから。無音斬撃で切断されたであろう首の断面からはどくどくと血が溢れている。
「ううっ!手と足が動くが何故か立ち上がれない!どういうこっちゃ!」
「………か、かなた殿」
 なぜ、何故この子は生首になっても言葉を発し続けているのだ?
今彼女の胴体の手には命の剣である覇剣が握られている。だがそれだと首の方が生きている理由にはならない。
そもそも人間は肺の空気を使って声を発している。生首である彼女が言葉を発することが出来るはずないのだ。
『ナ、ナンダ……ナンダオ前………』
「ヤバい!みょんさん!なんか起き上がれないから起こして!」
「え………いや、その」
 みょんも生首だが彼女は人間、人間の生首が喋るなんてまるで妖怪ではないか。明らかに異常だ。
今も元気そうに叫び続けている彼方をみて、みょんはただただ得体のしれない恐怖を覚えるしかなかった。
『ソ、ソウカ……地上ノ者メ……月ノ民ト同ジ"幽体生命体"ニナッタトイウノカ!!!
 穢レタ民ガ月ノ民ヲ真似ルナドオコガマシイ!!!』
「ゆ、幽体……生命体……」
「幽体?それって幽霊ってことだよね、一体誰が死んでるっつうのさ!!」
『キサマダ!!亡霊メ………』
 その瞬間、みょんは全ての違和感を払拭してしまい体を震わせる。
この子は気づいていなかったんだ。覇剣のせいで、命の刀のせいでそうであると思い込んでしまっていたのだ。
気付かせてはいけない。そう思ったみょんは己の感情のままに月の刀の口を封じようと突身弾護を構えて特攻していった。
「う、うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
『ナッ!!!』
 斬撃砲もアームも即座に動かすことが出来ず再び狂鎧の赤い結晶は突身弾護によって貫かれていく。
みょんは二度と再生できないように念入りに抉り、赤い結晶を粉微塵に砕いた。
 だがみょんは泣いていた。変だとは思っていたけれど、それが現実として突きつけられて戸惑いを隠せない。
「…………ハァ………ハァ」
 狂鎧の体は完全に風に消えみょんはすかさず彼方の胴体の方へと向かう。
あの覇剣を使って繋げれば今ならごまかせる。だが、いつの間にか彼方の瞳はみょんと、自分の胴体の方に向かっていた。
「…………………………………………………なに、あれ」
「かなた殿、かなた殿」
「なんで、何で私の体があっちにあるの?何で私覇剣が刺さってないのにこんな状態で生きてるの?ねぇ、ねぇ」
 彼女はもう覇剣の限界と言うものを知っている。だから今の状況をあまりにも冷静に分析してそして困惑していた。
そんな彼方に説明できるような言葉はなく、ただただみょんは独り言のように呟いた。
「……行くでござるよ、かなた殿」
「……どこに」


「"四つ、死の国参ります" 亡霊の国、西行国へ……………」


 永夜章志位 おわり

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最終更新:2011年06月14日 19:23