【2011年夏企画】コドクにイキル 第一部『開幕シアイ』

???日目。

ついに、私は地獄から抜け出すことができた。
あの苦痛と苦悶と苦行をその文字の意味する所のまま体現したかのような忌むべきあの空間から、抜け出すことが出来た。

私は、私の命を持ったまま、私のまま生還することができたのだ。
死ぬことも、自我が崩壊することも、魂を溶かす程の穢れに飲み込まれることもなく。

私は私、
“ゆっくりあや”そのままの姿で元の世界へ戻ることができたのだ。

「アハハハハハ、アハハハハッハッハハハハ」

自然に、乾いたような笑い声が咽から零れる。
そうだ。笑うべきだ。

私は抜け出せたのだから。
地獄から解放されたのだから。

だから、笑うべきなのだ。

その行為に、

何の、
何の、
何の、
何の、
何の、
何の、

「アハハハハハハハハハハッハッハハハハハ!!!ヒヒハハハハハッハアハハハハハハハアハハハハハ!!!」

何の意味がないと分かっていても。

今の私にできることなんて、笑う事しかないのだから。

「なぁ?そうだろ、きめぇ丸」
だったもの。

私は、ともに生還した、もう一人、いや、もう一つに笑い声を向けた。

『グギャェバガババッッ!!』

それは、既に生き物だとは思えない声で、私の方に顔を向けた。
尤も、それの姿は既に地球上のあらゆる生き物の姿から懸け離れていたので、
本当に私が話しかけた部分が顔なのかどうか、確かめる術はなかったのだが。

だが、確かに言えることは一つ。

それが顔かどうかは判別不可能だが、そこがどうやらものを“食べる”為の器官であることには間違いがなさそうだ、ということ。

それは、もはや動く気概さえ失くした私を、滝のように透明色の分泌液が流れ落ちる空孔へと誘う。

食すために。
私という存在を、私という魂を、魄を、
そのまま喰らって、自らの呪と一つとするために。

そう、生還したところで意味なんてなかった。
あの地獄を地獄たらしめた地獄まで、私と一緒に生還してしまったのだから。

だから、何も変わらない。

地獄があの空間から出たのなら、今度はこの外の世界がそのまま地獄に変わるだけなのだから。

そして私は、この世界の終りの光景を、眺める間もなく一足先に消えて逝く。






2011年夏企画】 『コドクにイキル』







そもそもの事の原因は、『きめぇ丸 VS ゆっくりあや ~本物はどっちだ!世紀の十番勝負!』というふざけたタイトルの勝負が開かれることになったから、

ではなく。

「でも10本も勝負内容考えるの面倒だよね。全部ありきたりな勝負じゃつまらないし」
「他のゆっくりに聞いてみようか」
「外の風を入れることで勝負のバリエーションを豊かにするんですね」

その主催者サイドが、そんな大事な勝負の勝負方法に、こともあろうに何の関係もない他人の意見を取り入れたことが、全ての原因だった。

という訳で、まずは一人目。
人の消える道在住。
歌って舞われる系のゆっくり。ゆっくりみすちーさん(独身)。

「うーん、みすちー勝負ごとについては良く分からないから、そういうのに詳しい友達を紹介するね」

元より『ゆっくり』とは勝負事と無縁なゆっくりとした存在(だと思う)。こういう意見を集めるのには最初から向いてなかったのかもしれない。

そういう訳で紹介された二人目、三人目。
永遠亭在住。
永遠と須臾の罪人。蓬莱山輝夜さん(既婚)。
輝夜の嫁。蓬莱山妹紅さん(ツッコミ不要)。

「えー?決着をつける相応しい勝負?」
「ていうと、やっぱりあれか」

「「殺しアイ」」

「やっぱり、限界まで自分と相手の身体を文字通り削り貪り暴き出すことで、初めて見えてくるものってあるわよね!」
「モツとか骨とか脳髄とかね!」
「妹紅の心臓、とっても綺麗だったよ‥。トクン、トクンって小さく波打っててさ‥」
「よしてよ、照れるじゃない‥!まぁ、その後私の心臓ニタニタ笑って握りつぶしてくれちゃった時は、本当もうこいつマジ殺してやるって思ったけれどね!」
「またまた、本当に殺しに来た癖に」
「フフフフ」
「ハハハハ」

とても百合百合しく微笑ましいお二人の意見だが(棒)、参考にならなすぎる、ていうか参考にしたら死ぬという理由で却下。
代わりの人を紹介してもらった。

という流れで4人目。
月の頭脳。八意永琳さん(姑)。

今回の事情を話してみると、彼女は快く協力を承諾してくれた。

「あなた方の事情はよく分かりました。私が誰の目から見ても公正で正々堂々、後腐れのないスポーツマンシップに則った勝負を提案してさしあげますわ」

何でも最近手のかかる子が家庭を持って落ち着いてきたので、暇な時間が有り余っているらしい。
わざわざ対決当日スタジオまで来て、会場のセッティングまでの準備を請け負うことまで約束してくれた。
GENSOKYOの名だたる賢人の協力を得ることができて、スタッフ一同もこれで一安心。
この勝負のことは彼女に任せ、また他の対決方法の思案に戻ることになった。

という事情があって、

試合当日。

「という訳で、次の対戦種目は『蠱毒』です!」

今世紀最悪最害の勝負の幕が開いてしまったのであった。





第一部 『開幕シアイ』


一日目。

「それでは、企画立案者、兼、本勝負の特別責任者である八意永琳さんに、勝負についての細かいルールを説明して頂きたいと思います」

司会の一人である緑髪の少女、東風谷早苗の明るい声と共に、会場前報の主賓席と書かれた席に座っている、
赤と青とで彩られた奇妙な洋服とナースキャップで着飾る一人の少女、八意永琳へとマイクが渡された。

「えー、ご紹介にあずからせて頂いた八意永琳です。今日はこのような貴重な実験場‥、いえ、栄誉ある闘いの場に御招き頂き誠に有難うございます」

ペコリ、とまずは丁寧に頭を下げて笑顔で挨拶。

「では、永琳さん。まずお尋ねしたいんですけど、蠱毒<コドク>とは、いったいどんな対決方法なのでしょうか。恐らく、会場の皆さんもそれが一番気になっていることだと思うので」
「はい、では簡単に説明致しましょう。蠱毒とは‥」

蠱毒 –コドク–
犬を使用した呪術である犬神、猫を使用した呪術である猫鬼などと並ぶ、動物を使った呪術の一種である。
「器の中に多数の虫を入れて互いに食い合わせ、最後に生き残った最も生命力の強い一匹を用いて呪いをする」という術式が知られる。(この場合の「虫」は昆虫だけではなく、クモ・ムカデ・サソリなどの節足動物、ヘビ・トカゲなどの爬虫類、カエルなどの両生類も含む。)
―Wikipediaより引用

「という呪術ですね」
「つまり、毒のある虫を何匹も一つの容器に閉じ込めて、最後の一匹まで共食いさせる呪術、という訳ですか?」
「基本的に複数の種類の毒蟲を使うので“共食い”にはなりませんけど、概ねその認識で間違いないでしょう」
「それで、最後に残った一匹の毒蟲はどうなってしまうんですか?」
「最後に残ったのが、一番強くて、一番生に執着のある一匹ですからね。非常に強力な呪いの源になります。これの魂魄を対象に憑依させ呪い殺す、という呪法が日本では一般的ですが、他にも磨り潰して粉末にしたものを対象に飲ませる、対象の家宅の軒下等に放して棲まわす、等の使い道が挙げられます」
「汎用性がとても高いのですね」
「ええ、その上に強力ですからね。日本では厭魅、いわゆる『丑の刻参り』に代表される人型を用いた呪術と並び『蠱毒厭魅』として恐れられ、これを行ったものは厳しく罰せられたそうです」
「そんな恐れ多い呪術を現代に復活させてしまうなんて、永琳さんて意外と茶目っ気溢れてるんですね」
「いえいえ。もちろん危険な呪術ですから今回の勝負は形だけ。あくまで蠱毒の呪術を模倣しただけの、危険性のない安全で楽しいゲームで勝負をして頂きます」
「それでは永琳さん。引き続いて勝負のルールをお願いします」

はい分かりました、と永琳はマイクを持ったまま立ち上がり、会場へ向けて腕をかざす。
そこには高さ幅ともに10メートルは越そうかと思われる巨大な壺が置かれている。

「決戦の舞台はあちらの特設ステージ、見ての通り巨大な壺の中で行ってもらいます。選手を呑みこむよう大口を開け天を眺める様から名付けて『蛇口(クチナワ)』。見た目は1000立方メートル程ですが、その中は特別な結界を施しているため、外観の10倍程のスペースが確保されています。参加して頂く参加者の定員は、ゆっくりあやさん、きめぇ丸さん合わせて20名です」
「つまり、変則的ですが、あやさんのチームと、きめぇ丸さんのチームで分かれて、団体戦を行ってもらうということですね」

早苗の合いの手に、永琳はコクリと頷く。

「はい、そうなります。そして、先ほど説明した蠱毒のルールに則り、壺に入ったモノ同士で競い合って頂きます。戦闘を行う上で特に制約は設けません。けれど武器の持ち込みは禁止なので、己の身体のみを使った血風弾け飛ぶ凄惨な骨肉の削り合いになることは容易に想像がつきますね。そして、なんやかんやで、最後に壺に残った一匹が勝利という形になります。単純な力の強弱だけでなく、如何に仲間と協力し相手を殲滅していくかが勝利のカギと言えるでしょう」
「なるほど、至ってシンプルな勝利条件ですね」
「その分、一人一人の生きる力が試されますね。こういった互いの生存を懸けた戦いを閉所で行うということは、場の陰の気をこの上なく強め高めることになるので、呪術的材料を作る効果的な手段の一つなんですよ」

月の賢人が最後にニコリと笑って話を締める。これから始まる試合が楽しみで仕方ないという年甲斐もなくウキウキした感情が溢れ出ている、とても良い笑顔だった。

「それでは、続いて選手の紹介に移りたいと思います。イズン様、お願いします」
「はい、こちらイズンです」

そうしてマイクを引き継いだのは、本来この世界に存在しないはずの神、黄金の林檎の管理人、女神イズン。

「それではまず、選手きめぇ丸さん。試合前に一言お願いします」
「厳しい勝負になりそうですが、頑張ります」
「「「上記に同じくです」」」

いつもと同じ奇妙だか剽軽なんだか判別つかない表情で、10人のきめぇ丸達は同じ回答を放った。
他人のこと言えた義理ではないが、同じ顔がこうもづらづらと並んでいるのは、見ていて居心地の良いものではない。

「はい、シンプルながらも勝負に対する意気込みが伝わる一言でしたね。では、続いて‥」

「選手ゆっくりあやさん。何か一言お願いします」

スポットライトが一人のゆっくりを照らし出した。

「‥‥‥‥」
「おや、どうしました?ゆっくりあやさん。緊張しているのですか?」
「‥‥‥‥‥‥」
「何でも良いので取りあえず一言頂きたいのですが‥」
「ええと、あのですね‥」

そして、選手ゆっくりあやは、

つまり、私は、

これまでの司会進行を茫然としながら聞くことしかできなかった、私は、

ここで初めて自分自身の感情を思い切り吐き出すことにした。


「悪魔か貴様らぁああああああああああああああああ、どぅるあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッ!!!」


イズン神「いいえ、神です」
早苗「いいえ、現人神です」
永琳「元ネタは神です」

私「うるせぇっ!ならこの世に神も仏も無ぇわ!!!『最後の一人まで』って、味方同士で殺し合うことも前提のルールだよね!?お前ら何テレビ実況で凄惨な殺し合い映そうとしてんの!?ここはデッドマン・ワンダーランドじゃねぇぇんだぞ!!?あと、最初の説明何でウィキペディアから引用してんだッ!?てめぇは大学生か!!このヤブ医者ッ!!!!!」

永琳「安心してください。殺し合いというより、生きる上で必要な生存競争を、勇気・友情・生きることの素晴らしさといった目線でドキュメンタリー風に放送する感じです。どうぶつ奇想天外のアフリカ特集的なノリですね」

早苗「あ、私あの番組好きでした。いつ終わっちゃったんでしたっけ?」

イズン「2009年の3月一杯までですね」

私「どうでもいいわぁああああああああああッッ。これならまだ最初に蓬莱人が提案した殺し合いの方が100倍はマシだわ!!死ぬのが一人で済むからな!被害者が20分の1まで減るからな!!『後腐れのない勝負』ってあれか!?当事者は一人しか残らないから勝負後のわだかまりなんて塵一つ残らないとかそういう意味でか!!?」

永琳「ちなみに、ちょっと放送が難しそうなところは謎の光線や湯気で良い感じに隠すので安心してください」

早苗「ちなみにこちら、Blu-ray、DVD版では修正前の映像をご覧になることができます。気になる方は是非ご購入くださいね」

私「スナッフビデオを深夜アニメのブルーレイみたいなノリで売り出すなぁああああ!!!ていうか前情報じゃ『危険性のない安全で楽しいゲームで勝負』とか言ってたじゃん!!なんで勝負内容が蠱毒のwiki説明とまんま同じなバトルロワイヤルなんだよ!!ちょっとは捻れよ!!安全性という言葉が何処探しても見当たらないよ!!」

永琳「今回の勝負に使用される壺には特殊な結界が施されているので、術者である私や観客の皆様に危険が及ぶことは一切ありません(微笑)」

私「参加者の安全性は本当に一欠片も考慮されてねぇのな!!?ていうかお前さっき術者って言ったな!?やっぱこれ蠱毒じゃねーか!!禁忌されまくった邪悪な呪法そのまんまじゃねーか!!それに皆聞き流してたけど、お前最初にこの会場のこと、『実験場』とか言ってたろ!!個人的趣味で私達利用する気満々じゃねぇぇかッッ!!!」

永琳「フ‥。この宇宙に存在するあらゆる空間は、神が万物に起こりうる一切の事象を観察するために創り給うた実験場なのよ。そしてそれは、人にとっても同じことよ‥!」

私「何となくカッコイイ言葉で流せば許されると思うなよッ!!言っとくけど、その言葉全然響かないからな!誰の人生にも僅かな影響も与えねーからな!!」

早苗「‥‥。フ、所詮宇宙なんて神様にとってはフラスコの底に溜まった土埃と水滴が起こした化学反応に過ぎないと、そういう訳ですね‥!そしてそれは、人にとっても同じことなんです!」

私「お前したり顔で何か良いこと言ってる気になってるのかもしれねーけど、さっきのヤブ医者以上に何言ってるか訳分からんからな!?最後にそれっぽいフレーズつければ何でも格言になると思うなよ!?」

イズン「戦い続ける勇気さえあれば、いつか倒すことができるはずです。フレイヤ。フルングニルはいつか再びあなたの前に現れるでしょう。それは、人にとっても同じことです」

私「お前に至っては最早単語レベルから何言ってるか全然分かりませんけど!?」

イズン「それでは、ゆっくりあやさん。お話有難うございました」

私「勝手に締めるんじゃねぇええええッ!!!問題はまだ一つも解決してねぇぇんだよ!!」

永琳「こんな理不尽な戦いで死んでたまるかという意気込みが感じられましたね。呪術に最も適した魂魄の形の一つですよ。きっと試合でも良い健闘を見せてくれるモルモットになるでしょう」

私「とうとう本音隠さなくなってきたよ!?潔すぎて逆に腹立つんだけど!!!?」

早苗「ということで、会場の皆様お待たせしました。これよりいよいよ試合開始です」

私「うわああああああああああああああああああああああ!!!離せ!離せオマエラぁああああああああああああ!!!」


きめぇ丸 VS ゆっくりあや、
十番勝負が一つ『蠱毒』。
戦場は特殊結界が張り巡らされた巨大壺内、通称『蛇口(クチナワ)』。
参加者合計二十名。
勝者は一人。
生き残る為の強制大殺生。

勝負の幕が、今開く。

「開かれてたまるかぁああアアアッ!!!!!」





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最終更新:2011年08月21日 21:09