※オリジナルの舞台設定アリ(幻想郷における週の概念、文化レベルが現代日本と殆ど変わらないことなど)
近年、幻想郷に週の概念が幻想入りしてきた。
外の世界において休日出勤が増えて休日という存在の意義が薄れ、
その結果休日が幻想入りしたが故に“逆に”平日という概念が生まれた。
人々と一部の妖怪は月曜日から金曜日、時には土曜日まで仕事に励み、そして日曜日を謳歌するようになった。
この話はそんな中の一幕である。
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「ふ~、今週もフィーバーしましたよ」
充実しきった顔で自分の家(2LDKの安借家)の玄関を跨ぐ永江衣玖。
今日は土曜日。
衣玖にとって週一度の特別な日である。
衣玖は毎週土曜日の夜に人里のダンスバーにて遮二無二にダンスを踊って気晴らしする。
幻想郷最高神の龍神の部下であり、故に最近色々と頭痛の種が増えている彼女のストレス解消法がそれだ。
今は丁度そのダンスを終えて自宅に帰ってきたところなのである。
「らん♪ らん♪ らん♪ ら♪――(※黒い海に紅く ~ Legendary Fish」)」
自らのテーマソングを歌いながら一風呂浴びて運動による充実した汗を洗い流す。
趣味で思う存分体を動かし終えた後の疲労感の心地良さは筆舌に尽くしがたい。
それを踏まえた上で温かい風呂に入り凝り固まった体を解すと、芯まで緩んだようにリラックスする。
「ぷはーっ♪」
仕上げとして風呂上りに冷たい牛乳を一杯飲んだときの、湯上りで火照った体にひんやりとした快楽が染み渡ることの心地よさ。
幸せとはこういうことを示すのだと衣玖は常々思っている。
「さて今日はこれぐらいで、あとは早く寝て明日のニチアサを満喫することにしますか」
時計を見ればすでに22時30分を回っている。
夕食は外で済ませてきたので後は寝るだけだ。
明日は朝7時に起きる予定なので、そろそろ寝ないと8時間睡眠が取れないのだ。
睡眠時間はキッチリ8時間と吉良○影も言っている。
体を解すストレッチを20分行い、つい先ほど冷やした体を温める為のホットミルクを飲む。
そして今日の衣玖には夜の睡眠における楽しみもある。
「さて、完璧です。そして今日はついに、ついにこの子が手に入ったんです。」
衣玖はうきうきとした顔で【それ】の中に入り込んだ。
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. うー!! / | | :| | ::::::::::⌒ ,___, ⌒/ | |
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今夜はいい夢が見れそうだね ─ ⌒ ̄ヽ / / | |
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うー毛布団。
それは布団の姿をした新手のゆっくりだ。
羽毛ではなくうー毛。
うーで出来たうー毛の布団で、その寝心地と言ったら天にも昇るようであると言われている。
妖怪にも睡眠は重要な項目である。
一日の三分の一を睡眠時間が占める人間に対し、妖怪は魔法使いのように睡眠を必要としない種族も多い。
けれども妖怪にとって大事な精神面の休養の為にはもってこいなので睡眠を好む妖怪もこれまた多い。
充実した睡眠は充実した生活を送る為に必須なのだ。
何よりも睡眠の心地良さというものは、必要ないからと言って無視するにはあまりにも勿体ない。
故に衣玖はその布団を使い、最高の睡眠を得ようとしていた。
「どんな寝心地なのかちょっと失礼――うわぁ……やわっこ~い…………。なにこれふかふかでぽかぽかぁ……とりょけりゅう…………」
『うー♪』
「うー……♪」
『うー♪』
横になった瞬間骨抜きになり、癖になってしまっている敬語が抜けてしまうほどの圧倒的な快楽。
まるで高級なウールで出来た毛布のように外気の冷たさを通さず温かさを保っておきながら、
夏の掛け布団よりも軽くて体へと負担を掛けないそれは羽で出来ているのではないかと思うほど。
肌触りはふんわりと滑らかで思わず頬を擦り付けてしまう。
いつまでも惰眠を貪りたいあまりいくら寝ても寝たりないような、悪魔の寝具。
全身を包み込むうー毛布団の、母の羊水の中のような居心地の良さを一身に感じ、
衣玖は瞬く間に眠気に襲われた。
「明日は……何しよっ…………かな~……」
休日である日曜日だからこそ、朝早くに起きて一日を長く感じることが重要である。
衣玖は落ちる様に眠りに付いた。
◆
「……あれ?」
目覚まし時計を見ると正午を回っている。
もはやブランチ通り越してランチの時間帯だ。
「あれ? あれ? あれれ?」
5秒、10秒。
衣玖は衣玖は青ざめた顔で固まったまま動かない。
これは夢なんじゃないか、そうだこれは夢だ、起きる夢を見ているなんて珍しい
衣玖はそう思いながら自らのほっぺたを抓る。
痛かった。
「うわあああああああああああああっ!! 寝過ごしタァァァァ!!」
幻想入りしたハッキョーセットもかくやの如く壁にガンガンと頭を打ちつけながら嘆く衣玖。
スーパーヒーロータイムもプリキュアもワンピもドラゴンボールも全部全部見逃した。
日曜朝の朝食を食べながらの、食後のコーヒーを飲みながらの視聴という優雅な一時は帰ってこない。
録画? そんなもんしてねぇよ! リアルタイムで実況しながら見るのが楽しいんだよ!
しかも今週のライダーは二話完結のうちの後編である。
肝心なところを見れなかった衣玖は額から血を流さんばかりに壁に向かってヘッドバッドを繰り返す。
「そんなっ!? 何でですか!? 目覚まし時計はきっちりセットしたはずなのに!? 何で!? むしろ日曜は目覚ましが無くても朝起きれるのに! どうしてっ! どうしてぇっ!」
普段の人前における飄々とした優雅な姿など影も形も見られないほど取り乱す衣玖。
たかが見たいTVを見れなかったから大袈裟だろうと人は言うかも知れない。
そう思うのなら録画もネット環境もない状況でアニメを追ってみるといい。
見逃したときの絶望は計り知れない。
そして何よりも、貴重な日曜日を無駄にしてしまった悲しみというものは非常に大きい。
何故ならば衣玖はグータラニート予備軍が多い幻想郷の妖怪達の中では珍しく多忙だ。
近年休日という概念が幻想入りしたことにより平日が出来て、
やることのない野良妖怪達ならともかく龍神の部下という責任ある立場である衣玖はそのお鉢が回ってきた。
無駄な会議に使うかわからない資料の作製、夜は空気を読む程度の能力によって酒の席や会議での小競り合いの仲裁、平日における衣玖は仕事→帰る→寝る→仕事という生活サイクル。
故に次の日に仕事が無いために思い切りはしゃぎ回れる土曜日とぐーたら出来る日曜日は貴重で貴重で、彼女に無くてはならない存在なのである。
もしも今休めなければ、また6日間(土曜日は半ドン)の仕事地獄が待っているのだ。
絶望する衣玖のすぐ傍でうー毛布団が『うー♪』と無邪気に笑っていた。
◆
「うああああああああっ! ひっぐっ! うぅぅ……ひっぐぅっ!」
「え~と、大体のことはわかったから、お願いだから泣き止んでよ……人前でアンタみたいな大人っぽい姿の女が泣き喚いていると目立つのよ……」
その週の水曜日の午前、小腹がすく時間帯、人里の喫茶店にて天子は衣玖に向かって辟易とした顔で言った。
衣玖はすこぶる容姿がいい。
整った顔立ちに白い肌、何よりもプロポーションはバツグン。
彼女の種族は竜宮の遣いという妖怪なのだが、天女と間違える者が多いのも頷ける。
そんな女が人前で大泣きしていたら嫌でも目立つことこの上ない。
「ぐすっ……すいません……ですが……ですがぁ…………思い出すと…………」
「ほらハンカチ。ったく皮肉も何も無いアンタと一緒にいると調子狂うのよ」
衣玖は天子から受け取ったハンカチで涙を拭う。
それを見届けて、天子が話を切り出した。
「――で、あの布団で眠るようになってから朝寝過ごすようになったと」
「うぅ……そういうことなんです。ニチアサも見逃すわ、仕事に遅刻ばかりするようになるわ、散々なんです……」
「その布団捨てろ」
はい問題解決Q、E、D。
天子はバッサリと切り捨てた。
「嫌ですよぉっ、せっかく高いお金を出して買った布団なのに、そしてなによりもあの『うー』が可愛いというか情が移ったというか」
「めんどくせー……」
あのうー毛布団で眠るようになってからというもの、衣玖は寝坊するようになった。
今日、本来忙しいはずの水曜日なのに上司に無理を言って休みを貰った。
正確に言うとあれから月、火、水と三日連続で仕事を昼過ぎまで寝過ごすようになってしまい、
上司(龍神)から「あ、うんいいよ。疲れているんだろうねー。そうだこのままこれからも寝過ごすようだったら長期休暇とってみたら?(副音声:クビにすんぞ)」と言われ、今日は休まされたのだ。
「あぁ……上司の目が怖い……養豚場の豚を見るような目で見られました…………」
「衣玖の一番上の上司って龍神だっけ? あまり人前に出ないらしいし、実は私見たこと無いのよね。どんな神様なの?」
「そうですね、ドラゴンボールで例えるなら――」
「神様? 界王様? あぁでも龍神っていうんだから神龍かポルンガみたいな感じ?」
「純粋ブゥです」
「悪そのものかよ!? いきなり地球ぶっ壊すじゃん!」
それはもはや邪神と呼ぶのではないかと天子は思った。
せめてフリーザ位の人格レベルはあって欲しい。
アレで意外と部下には優しいのだ(部下ごと惑星べジータを滅ぼしたのは置いておく)。
「最近は機嫌がいいようなのでまだ大丈夫ですけど……」
「……まぁ、そんな上司をもって気の毒なことね」
やれやれと天子はため息を吐いた。
「――てか何でよりにもよって相談するのが私なのよ。衣玖は交友関係が広いんだから他に相談できる相手が沢山いるじゃないの」
「いえ、平日ですから皆忙しいかな~って。だから天人の総領娘様に頼もうかなと。天人の仕事って食っちゃね食っちゃねしながら遊ぶことですし暇そうですから」
「しばくよマジで」
「ご注文の品持って来ましたー」
「「は~い♪」」
二人の注文したデザートをウェイトレスが持ってきた。
天子はてんこ盛りのフルーツパフェを、衣玖はアイスの乗ったホットケーキをぱくぱくと食べて話を一時中断する。
それを平らげた後、天子は食後のお茶を啜りながら衣玖に対して告げる。
「私いい考えを思いついたわ。ちょっとその布団のところに案内して」
ついさっき険悪な空気を漂わせることはしたものの、何だかんだで衣玖と天子は付き合いが長い。
故に天子は普段から衣玖には世話になっているのだ。
こういうときに少しぐらい恩を返そうと天子は意気込んだ。
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「寝るなー! 寝るんじゃねー!」
「んにゃ?」
衣玖は自宅に帰るなりうー毛布団にダイブし、のび太君の如く瞬時に眠りに陥った。
天子はうー毛布団をひっぱり上げて衣玖を無理矢理布団の外に放り出す。
「いやいや衣玖これ絶対ヤバイよ!? このゆっくり本気でヤバイって! もう催眠とか洗脳とかそんなレベルじゃん! 絶対に衣玖から養分を吸い取ってるよこいつ! 寝床って言うか苗床だよ布団の子供を産む布団製造工場にされるって!」
「ん~……」
寝惚け眼でうつらうつらと舟を漕ぐ衣玖に天子の往復ビンタ。
寝るなー寝るんじゃねー寝たらゆめくい食らうぞー。
「いたた……ちょっとお昼寝をしようかなって……」
「人が尋ねている時にお昼寝するって発想の時点でまずおかしいっての!」
天子は頬がヒリヒリと赤く染まっている衣玖をギロリと睨んだ。
それを尻目にうー毛布団は『うー♪』と相変わらず能天気に微笑んでいる。
「こんなヤバイ奴を野放しにしている事自体信じられないわ……」
「いえ、私も先日このうー毛布団を自分の制御下におけるように調教しようとしたんです。努力はしたんです」
「……具体的にはどうやって?」
「まずは百叩きです。この先の広がった叩き易い棒でひたすら殴りつけました」
ていっ、ていっと衣玖はベランダでうー毛布団を叩き続ける。
「次に日の光の下に長時間放置しました」
チリチリと日の光がうー毛布団の体を焼き尽くす。
「仕上げは暗くならないうちに家の中に拉致しました。どうですか?」
「それはただの布団干しよ!」
どや顔の衣玖と『うー♪』とご満悦のうー毛布団。
天子は頭痛がしてきた。
「……はぁ、どうやら重症のようね。このままだとアンタうー毛布団と結婚する以外に道が残ってないわよ」
「ちょっ、布団と結婚って」
「朝から晩まで一日中うー毛布団と家でネチョネチョネッチョネッチョ。裸でうー毛布団に包まって朝から晩までぐーたらするような駄目な大学生みたいな生活する未来が見えるわ」
「いやそれただの引きこもりですから」
「まぁそれは置いといて、そんな衣玖のために私が秘密兵器を持ってきたわ」
天子はどこから取り出したか抱えるほど大きな荷物の入った風呂敷をどんと床に置く。
衣玖がこれは一体なんだろうと頭の上に疑問符を浮かべる中、天子はするするとその風呂敷を解いた。
『ゆっくりしていってね!』
「これは……おさとうゆっくり!?」
大根に足が生えたようなデザインにゆっくりフェイス。
口を動かさずに「ゆっくりしていってね!」を唱えるそれはおさとうゆっくり。
ご丁寧に天子をモデルにしたタイプのおさとうゆっくりだ。
「これを枕にするといいわ」
モモォンと妙な存在感を発揮するおさとうゆっくりてんし。
略しておさゆくてんし。
それをバシーンと叩いて、天子は得意気に無い胸を張った。
「……え~と、まず何故その発想に至ったのか教えてください」
「ふっふっふ、それはこういうことよ」
『………………』
得意気な天子の隣にいるおさゆくてんこは、衣玖に対して目覚めのコーヒーをスッと差し出した。
「あ、どうも」
「これよ。衣玖、あんたが朝起きれないのは一人暮らしで起こしてくれる人がいないから。一番の目覚まし時計は朝起こしに来てくれるお母さんよ。ゆっくりにはゆっくり。世話好きで気配り上手なおさゆく達ならこの事態を打破できるわ!」
「……ん~……そういわれてみると……」
確かに突拍子もない発想だが、言っていることは間違いじゃない。
一人暮らしをするようになった人間が寝坊するようになってしまうのは、親元を離れて起こしてくれる人が居なくなる為だと聞く。
目覚まし時計のような機会ではなく血肉の通った生き物が起こしに来てくれるだけでもだいぶ違うのだ。
それならば寝坊しなくなるので衣玖としても願ったり叶ったりだ。
「ん~じゃあせっかくですしありがたくお世話になりますか。よろしくお願いしますね」
「感謝しなさいよねっ、今度私と一緒に新しく出来たお寿司屋さんで甘エビ入りの特上寿司でも奢りなさい」
「はいはい、わかりましたよ」
『…………(モーン)』
嬉しそうな天子にふふっと笑う衣玖。
間に入るおさゆくてんしは二人をじっと眺めていた。
◆
「…………今度は安眠できなくなりました」
「そんな顔してるわね」
土曜日の昼下がり、今日のいくは半ドンだ。
前回と同じ喫茶店にて天子といくは向かい合って座っていた。
いくは前回のようにわんわんと泣き喚いてこそいないものの、
頬がこけてすっかりとやつれたように見える。
その隣ではおさゆくてんしが無言ながらも妙なプレッシャーを醸し出していた。
「おさゆくを枕にして眠ると夢の中におさゆくが溢れてきて眠れなくなるんです……。ドドドドドドって感じで追っかけまわて世界がおさゆくで満たされる的な――」
「じゃあ不服だったの? “私の”おさゆくが? だったら何で今も使ってるのよ」
「いえ、この子ときたら気配り上手の世話上手で凄く助かるんです。総領娘様と違って……」
「一言多いっての」
「うー毛布団を立てれば寝過ごして、おさゆくを立てれば安眠できない。どうすればいいんでしょう……」
「普通の布団と枕使え、はい解決」
うぅ……と頭を抱える衣玖とおいおいと苦笑いする天子。
二人の横でドリンクバーから天子にはお茶を、衣玖にはコーヒーを入れたおさゆくてんしが戻ってくる。
二人は軽く礼を言うとそれを受け取った。
「例えるならうどんに七味唐辛子を入れたら蓋が外れて辛くなりすぎて、それを中和する為に砂糖を入れたら今度は甘くなりすぎた的な感じです」
「いやそれわけわかんないわよ何人の発想よ」
「今度は何が足りないのでしょうか?」
「知らないっての。そうやって変な味になったら別の調味料を入れる料理法って大抵失敗するのよマジで」
「そうですねぇ、あと足りないのは……ん~……」
「聞いてないし」
数秒むむむと考えた後衣玖はぱっと何かをひらめいたかのように眼を見開き、次いで天子をじっと見つめた。
「――抱き枕?」
「ふぇっ?」
――後日
「どうしてこうなった……」
エプロン姿の天子が台所から朝食を作りながら呟いた。
朝、寝惚け眼でテーブルに着く衣玖、優雅にコーヒーを飲みながら新聞を眺めているおさゆくてんし。
日干しされご満悦のうー毛布団。
今朝はご飯に味噌汁に焼き魚、天子手作りの純和風の朝食だ。
今日も幻想郷は平和である。
あとがき
普段ssなどであまり出番が無いゆっくり達を出してみました。
幻想板で土曜日に出没するうー毛布団、イラストで大人気のおさとうゆっくり、
それぞれ独特の魅力があって可愛いです。
- タイトルwww 自重して‥、いや、もっとやってください! -- 名無しさん (2011-11-19 22:40:38)
- うー毛布団の子供・・・欲しい! -- 名無しさん (2012-10-27 10:00:10)
最終更新:2012年10月27日 10:00