季節はもう冬になったのであろう。
窓の外でははらりはらりと雪が舞い、灰色の都会をゆっくり、ゆっくりと白に染め上げていく。
そんな静かであろう外とは裏腹に、ここ文矢新聞社は年末の仕事納めで随分と騒がしくなっていた。
「でも僕の仕事は一段落したしー、みんなが頑張る姿をコーヒー啜りながら眺めてよーっと」
「おお、そうはいきませんよ、編集長」
そう言って編集の一人であるきめぇ丸が僕の机に無数の紙を載せていく。
片付き始めた僕の机はあっという間に紙きれでごちゃごちゃになり、その光景に思わず憂鬱になってしまった。
「……なんだこれ、スペルカードか?」
「ちがいますよぉ、わすれたんですか?先月応募したゆっくり俳句コンテストの応募用紙です」
忙しくてすっかり忘れていた。
ゆっくりによるゆっくりのための俳句を集めようと、すいかと一緒に飲んだ酒のノリで言っちゃったんだよな。
となると、これからの僕のすべきことは自明だ。
この無数の紙の中から優秀作品を選べ、というのだろう。灰色の都会人らしく余計に憂鬱になる。
「これでも形になってないものとかちゃんときりすてましたよぉ、あとはがんばってください」
そう無情に言い切ってきめぇ丸は自分の仕事に戻っていった。
それでも100枚以上ありそうな俳句の中から良いものを一つ選ぶというのは少々骨の折れそうな仕事である。
とりあえずため息をついて僕は手に取った数枚の応募用紙に目を通した。
ほっこりと ゆっくり染まる りんごほほ
夕焼けに 赤く溶け行く ちるのちゃん
イチョウの葉 頭に載せて ZUN帽に
一面に 広がる落ち葉は カーペット
「む、中々面白いものがそろってるじゃないか」
てっきり全然俳句の意味を理解してなかったり、季語が入ってなかったり
ゆっくりと言う字で埋め尽くされているものだと思っていた。
一次選考をしたと言うのも確かな話だろう。きちんと仕事してくれる部下を持って僕は嬉しい。
興味が湧き始め僕は続けて他の紙に目を通していった。
境内の 落ち葉を掃いてく れいむさん
焼き芋を むーしゃむーしゃで ぽかぽかだ
秋ナスは えーりん食べるな しゃくれるぞ
………………………………ん?
なんか読んでくうちに妙な違和感が湧き始めた。
確かに5・7・5にはなっている。確かに季語は入ってる。
でも、何か、何か偏ってるような気がするのは気のせいか?
「おーい、きめぇ丸君」
「なんですか?編集長」
「一次選考の担当って誰だ?」
「しずはさんです」
ああ納得。
そんなに冬が嫌いか。
それに誰だあいつを選考委員に選んだ奴は!
- 実は俳句を書いたのもしずはだったりして -- 名無しさん (2011-12-20 14:27:15)
最終更新:2011年12月20日 14:27