「霊夢~あけましておめでと~。姫はじめしないかい~」
「お年玉だったらどうぞ、ほれ受け取れ陰陽玉」
「じゃいろっ!?」
年明け早々の昼下がり、博麗神社の縁側。
ピッチャー博麗霊夢の無駄に曲がる陰陽玉を顔面に受けるのは地獄の火車こと火焔猫燐であった。
「あいててて……新年早々酷くないかい霊夢ぅ……」
「新年早々下ネタを振ってくるアンタが言うなや――って、アンタひょっとして酔っ払ってない?」
「あ? わかる? 来る前にちょっと一杯引っ掛けてきた。昼間っから堂々とお酒を飲めるのってお正月の特権だよね」
「あ~確かに。普段は昼間に暇でもお酒なんて飲む気がしないからね~」
「何でだろうね~。お正月特有のあの大らかさ」
そういうとお燐は縁側から室内の様子を伺う。
霊夢は炬燵の中に座っていて、彼女の座っていない三方もそれぞれ少女達がすやすやと、風邪を引くこともお構い無しに炬燵の魔力から逃れられずに捕われていた。
そして室内には人に妖怪に種族を問わずたくさんの少女達がいて、その皆が皆ぐったりとした様子で畳や布団に転がって酔いつぶれている。
ようするに皆さんぐでんぐでんである。
「あ~酷いもんだこりゃ、うっわ鬼まで酔いつぶれてるじゃん。どんだけ飲んだのさ」
「大晦日から飲みっぱなしよ。年越しそばに焼酎ってやたら合うわよね~。ところでアンタ大晦日はどうしてたの? さとり達は?」
「ん、あたいは仕事だった。交代制だからさっき終わったとこ。さとり様達は今寝ているところさ」
「それじゃあアンタ徹夜でわざわざこっちに来たってわけ?」
「ま~ね~。もうちょっとしたら地霊殿の方に帰るよ」
「ありゃりゃ、新年早々お疲れ様~。あけましておめでとう、お燐」
「どういたしまして~。あけましておめでとう、霊夢。後でまたさとり様と一緒に挨拶に来るよ」
深々とお辞儀をする二人。
何はともあれ新年の挨拶は大事だ。
「あれっ? そういえば霊夢、あいつも寝てるの?」
「あいつってどいつ?」
「ほら、誰かが来たらすぐに挨拶してくる――」
もぞもぞ、もぞもぞ。
来客の気配を感じ取ったか現れるは博麗神社の居候。
炬燵の中より這い出てくるのは霊夢のゆっくりことゆっくり霊夢である。
『あけおめ! ゆっくりしていってね!』
「おーゆっくり、あけましておめでとう。まさか炬燵の中から出てくるとはねぇ」
『上手に焼けました~♪』
微妙に焦げ目がついていて妙に美味しそうなゆっくりである。
『さぁさぁゆっくりしていきんしゃれ!』
「わかった、んじゃ早速……」
そう言うが早くお燐は炬燵の中に体を潜り込ませた。霊夢のいる面に、霊夢の隣に。
「ちょっと!? アンタなんでこっちの方に来るのよ! 狭いじゃない!」
「ま~固いことは言いっこなしさ。引っ付いた方があったかいじゃん」
「暑苦しいのよ!」
「あ~やっぱいいわ~炬燵っ♪ 炬燵を存分に楽しめるとは人間って素晴らしい♪」
くぅ~と、人類の英知の結晶たる至高の暖房器具こと炬燵を堪能するお燐。
当然聞く耳なんて持っていない。
霊夢は「う~……」と唸って自分の領地を主張したが、やがて「もうっ」と唸って諦める。
しめしめ、お燐は内心ほくそ笑んだ。
『ゆっゆっゆ~♪ ゆゆゆっゆ~♪』
お燐は炬燵の中に下半身を潜らせながらゆっくり霊夢と陰陽玉で遊ぶ。
丸いものに意識がいってしまう辺りはこの両者同レベルであろう。
それがゆっくりへの褒め言葉なのかお燐への貶しなのか、それともその逆なのかは置いておく。
「私ずっと疑問なんだけどさ~。猫は炬燵で丸くなるって言うのに、丸くなってるところ見たこと無いのよね」
そんな折の事だった、霊夢がふとそのようなことを言い出した。
彼女は純粋に疑問だったようで、猫系の妖怪であるお燐に対して聞いてくる。
「大体どこで丸くなるの? 炬燵の中? 炬燵の上?」
「炬燵の上だよ」
お燐は即答した。けれど霊夢はそれが納得できない様子である。
「何それ? つまりテーブルの上でしょ? それって暖かいどころか寒い、むしろ冷たいじゃない」
「それはだね、昔の炬燵は土台の上に布団を直置きで、その上にテーブルになる板を置かなかったんだよ」
「…………あ~、なるほど」
「つまり昔の猫は熱を受けて温まった炬燵布団でぬくぬくと丸くなっていたというわけさ。地熱による岩盤浴なんかが例えとしては近いかな?」
霊夢は更に得心を得たようにほうほうと頷く。
「更に昔の炬燵は熱源が木炭によるものが主流だった。そんなもので暖められた炬燵の中に入ろうものならお陀仏だ」
一酸化炭素中毒の恐ろしさは火を扱う仕事をしているお燐はよくわかっている様子だ。
「つまり今の炬燵だと、人間の姿じゃないとその温かさを楽しめないってことさ。あたいは人間に化けることが出来て二番目に良かったと思えることは、炬燵を思う存分堪能できるようになったという事だよ」
一番は聞くまでも無いだろう。彼女の主人の役に立てるようになったこと、なのだろうから。
『体を作って炬燵の中に入ればそんなに気持ちいいのけ?』
「あぁ、勿論さ。下半身は炬燵の中でその温かさを感じながら、テーブルの上にある蜜柑で水分と糖分を補給、更にTVで正月特有のつまらない番組を見る。これぞ炬燵の醍醐味だよ」
『でもゆっくりには体が無いよ! どしよ?』
頭の上にクエスチョンマークを乗せるゆっくりである。
そして数秒、何かを思いついたようでぴょ~んと霊夢目掛けて飛びかかってくる。
『体よこせ! どっちか首落としてよ!』
「ざけんなおばか」
霊夢はそう言うとゆっくりのほっぺたを摘んでうにょんとのばし、その中にぽいと蜜柑を放り込む。
外気によって冷やされた蜜柑はほんのり甘酸っぱく、ゆっくりは先ほどまでの物騒な発言もどこへやら『あま~い♪』と唸ってそれに舌鼓を打つ。
そんなゆっくりを見てお燐は苦笑しながら助言する。
「そうだ、アンタだって化ければいいじゃないか」
『無茶ゆーな! 妖怪風情が!』
「んじゃ体を生やすぐらいは出来るだろ?」
『容易いことだ!』
「出来るんかい!? 冗談だったのに!?」
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'r ´ ヽ、ン、-、 どうよ
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し' L| l
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「「炬燵の中で触手は辞めろ」」
結局ゆっくりは蜜柑ごと直接炬燵の中に放り込むことにしました。
でめたし!
遅くなりましたがあけましておめでとうございます
新年ということで生存報告代わりにひとまず投下です
6スレ目pkhYNX2g0
- 触手とは誰得 -- かに (2012-01-07 04:23:07)
- 相変わらずゆっくりでなければ成立しないこの可愛さとちょっとした気まずさ
新年良いものを見せてもらいました
そして霊夢とお燐のやりとりは毎回いいなあ -- 名無しさん (2012-01-07 09:27:26)
- 新年早々和ませて頂きました。霊夢は誰と一緒に寛いでも夫婦っぽくなる不思議。
正月早々触手というのもアリだと思います -- 名無しさん (2012-01-07 10:20:48)
- そろそろこたつでゆっくりできる季節。触手の熱伝導率ってどうなのかな? -- 名無しさん (2012-10-25 08:18:03)
最終更新:2012年10月25日 08:18