【2012年企画】雲居一輪の北極探検


   _,,....,,_  _人人人人人人人人人人人人人人人_
-''":::::::::::::`''>一輪さん人気投票74位おめでとう!<
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::::::rー''7コ-‐'"´    ;  ', `ヽ/`7 ,'==─-      -─==', i
r-'ァ'"´/  /! ハ  ハ  !  iヾ_ノ i イ iゝ、イ人レ/_ルヽイ i |
!イ´ ,' | /__,.!/ V 、!__ハ  ,' ,ゝ レリイi (ヒ_]     ヒ_ン ).| .|、i .||
`!  !/レi' (ヒ_]     ヒ_ン レ'i ノ   !Y!""  ,___,   "" 「 !ノ i |
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,.ヘ,)、  )>,、 _____, ,.イ  ハ    レ ル` ー--─ ´ルレ レ´

と、そいつらは相変わらずのうざ可愛い顔で私、雲居一輪にそう言ってきた。
姉さんを始め、命蓮寺の人たちは私を除いて用事で外出。
残された私は雲山と一緒に縁側でノンビリしようとしたら
庭先にゆっくりが居た訳である。


「…あの、人気投票って何よ。」


私は一番に思い浮かんだ疑問をそいつらに投げかけた。


「人気投票は人気投票だよ。」

「キャラがどれだけ愛されているかが試されるパロメータだぜ。」


「いや、それはわかるんだけど。」

そんなもん何時の間に行われていたのだ。
人里や妖怪の山でもそんな事やっている雰囲気はなかったけど。
そんな私の疑問を無視してゆっくり達は話を続ける。


「いやぁ、一輪さん、前回からガクッと下がったね。」

「まぁ、初登場の時から下がりっぱなしだけどな。」

「そうだね、オリキャラ扱いの秋姉妹や秋サンドされたお燐でさえ這い上がったのに、
 一輪さんは下がりっぱなし!」

「ある意味、不動の不人気キャラだぜ!」


…こいつら、不人気とか下がりっぱなしとか、そういう事を本人の前で言うな、
私が仏門に入っていなかったら叩きのめしているところだぞ!


「…おっと、一輪さんがブチ切れ寸前だね。」

「きっと私が仏門に入って居なかったらまりさ達をぶちのめしている所だとか思ってるぜ、おぉ、こわい怖い。」


…こいつら、何で私の考え読めるんだ、地霊殿の主みたいな力でも持ってるのか。


「まぁ、口授で設定が掘り下げられたし、来年はもしかしたら人気上がるかもな。」

「そうだね!よかったね!元人間さん!」


「…訳の分からないこと言ってる暇があったらさっさと帰ってくれないかしら。
 私は縁側でのんびりしたいんですけど。」


「おっと、まりさ達は別に一輪さんをおちょくりに来たんじゃないんだぜ。」

「そうそう、人気投票で落ちるところまで落ちてしまった一輪さんに
 慰めもかねてちょっとした旅行をプレゼントしようと思って。」

そう言うと同時に庭の向こう側から何かがガラガラと音を立ててやってきた。
確か、あれはホワイドボードとかいう代物ではなかったか、守屋神社で神様がこれを使っているのを見たことあるぞ。
ホワイトボードには地図のようなものが張り付けられている。
これはナズーリンが見せてくれたことがある、確か「世界地図」という代物だったか。


「さ、これをどうぞ。」


と、リボンをつけている方のゆっくりが私に近づいてくる。
その頭の上には手で持てそうなサイズの小さな矢が。
ただし、先の方は尖っているのではなく、吸盤のようなものがついている。


「…どうしろと。」

「あそこに投げて投げて、行き先を決めるから。」


そう言ってリボンのゆっくりはホワイトボードの方へと視線を投げかける。
…要するにこの小さな矢をあのホワイトボードに投げつけろと言うのか。

…ゆっくり達は羨望のまなざしでこっちを見ている。
…まぁ、こいつをアレに投げつけることで満足して帰ってくれるならそれはそれでありがたい。

「…解ったわよ、でもこれを投げたらとっとと帰ってもらうわよ。」

私はそういうと小さな矢を手に持ち、狙いを澄まし。
実に適当にホワイトボードに向けて投げつけた。


~☆~



次の瞬間、私の体を襲ったのはあり得ないほどの冷気。


「え?え?」


私は自分の身に何が起こったのか、瞬時に理解できなかった。
明るかった空は真っ暗になり、さっきまであった寺もどこかに消え。
周りの景色はどこまでも続く凍りついた大地へと変貌したのだ。
変わってないのは私自身と。

「おめでとう一輪さん!」

「北極に当たったから北極にご招待だぜ!」

相変わらずのドヤ顔で話しかけてくるゆっくり二人。


「って何処ですかここはぁああああああ!」

「北極だってさっき言ったでしょ?」

「いや、だから北極ってなんだ、何処なんだ!」

「北極ってのは北の果てにある凄く寒い所だぜ!」

「そんなところに何故私が連れてこられたんですか!」

「一輪さんがダーツを北極にあてたから。」

…あまりの理不尽さに私は軽くめまいを覚える。
まさかあの行為の所為でこんな所に連れてこられるとは…。
こいつら、スキマ妖怪並にたちの悪い事をしてくれる。


びゅううううう…。


うう、とにかくここは寒い、寒すぎる!
雲山を体にまとって寒さをしのがなければ!


「いでよ!雲山!」


…しかし、いつものように雲山を呼ぼうとしても、誰も出てこない。
「…あれ?」
何度も雲山を呼ぼうとするが、出てくる気配は全くない。


「…何で雲山でてこないの?」


「ああ、北極には一輪だけ連れてきたからなぁ。」

「雲山は幻想郷に置いてけぼりだぜ。」

「ここまで離れると、さすがに一輪の力で呼び出すのは無理じゃないの?」


…ゆっくりどもは恐ろしい事をドヤ顔で言ってくれました。


周りは見渡す限りの氷河。
人の気配は無し、
しかもお供は何が何だかよくわからん生首二人。


「この絶望的状況を打破するためには…。」


私は考え、そして結論を出した。
私は、果てしなく続く氷の荒野に足を踏み入れた。


「?どうしたの一輪さん。」

「人を探しに行くのよ!こんな寒い所、何時までも入れたもんじゃないしね!」


とにかく何でもいい、人の居るところを探すのだ!
私が歩き出すと、ゆっくり達もピョンピョン後をついていく。


「まったく、せっかくの旅行なんだからゆっくりすればいいのに。」

「こんな状況でゆっくりできるか!」


私は後ろからついてくるゆっくりに向かってそう怒鳴りつけた。


北極は・・・寒い、冗談抜きで、
その極限の寒さを肌で感じながら、私、雲居一輪は氷の大地を歩いていた。
視界に入るのは、地平線まで続く白い大地と青い空。
私は思う、自分が歩くこの道の先には手はあるのだろうか。
いや、実際ないと困る。つーかあってくださいお願いします!


「う、うう…何で私、こんなところ歩いているんだろう…。」


私は鳴きそうな声で…いや、実際涙目でそんな事を考えた。


「まりさー、かき氷の準備できたよ~!」

「おぉ!ようやくできたか待ちくたびれたぜ!」

「いやぁ、案外氷って固いんだね、北極の大地から削り出すのは一苦労だったよ。」


…と、歩いている自分の横でそんな独特の棒読みボイスが聞こえる。
見ると、私がこんな所を歩いている原因を作り出したゆっくり二人が何かを作っている。
あのゆっくり二人の間にあるのは…確か、かき氷機を自動で作る機械じゃなかったか?(守屋神社で使っているのを見たことがある。)
と、ゆっくりれいむが機械の氷を入れるところに、氷の塊を入れた。


ウィイイイイイン…。


かき氷機のモーター音がうなりをあげて、かき氷を作り出す。


「はい、まりさ。」


「待ってました!」


ゆっくりまりさはかき氷を受け取ると、凄い勢いでかき氷を食べ始めた。
一気にかき氷を掻きこんだまりさは、顔をしかめっ面にする。


「くうーっ!来た来た!こめかみにキーンってきた!

「かき氷の醍醐味だね!」


かき氷をあらかた食べた後、ゆっくり二人は急に私の方を向いてこう言った。


「一輪さんは練乳といちごシロップのどっちが好き?」

「食べないわよ!」


私はきっぱりとそう言い放った。


「え~せっかく北極来たのにかき氷食べ無いの?」

「北極でかき氷食べ放題は誰もが夢見る行為だぜ。」

「そんなの初めて聞いたんですけど!」


こんなやり取りを繰り広げれば繰り広げるほど、私は体に疲れがたまっていくのを感じていた。
まったく、本当なら妙蓮寺の境内で雲山とのんびりして居た筈なのに、何でこんな事に…!

…と、そこで私はその場にへたり込む。


「あれ?一輪さんどうしたの?」


心配になったのかれいむとまりさが話しかけてくる。


「…何か怒鳴ったり歩いたりでいろいろ疲れて来たわ…。
 もうすぐ日も暮れそうだし、一体これからどうしたら。」


私はそう言って深いため息をついた。
こんな氷の大地で放り出され、雲山の力も借りれない、
これだけでも絶望的なのだがさらにまずい事に日も暮れ始めてきた。
日が登っている時でもこれだけの寒さだ、日が沈んだらどれだけ寒くなるか…。


「何だかさっきからネガティブな発言が多すぎるぜ一輪さん。」

「いわゆる時差ボケ?」

「そんな訳無いじゃない…。」


ヤバい、怒鳴る気力もわいてこない。
と、そこでれいむの方がドヤ顔協調でこう言った。


「フ、ここはツアーコンダクターのれいむの出番だね!」

「…は?」


私はれいむの姿にないはずの胸をドンと叩いている姿を幻視した。
おかしな幻影が見えるくらいに私は疲れているようだ。


「実は事前に北極圏の調査は済ませてあるのさ!
 この近くに一晩を明かすのに、最適な場所があるんだよ!」

「おぉ!流石はれいむだぜ!」


れいむは自信満々に言って、まりさはそんなれいむを褒め称える。

「…おかしい、北極に来たのは偶然じゃなかったっけ?」

私は彼女の言葉に疑問を覚える。
こんな所に来たのは、最初の的当てで当たった所が、偶々北極と言われる所だったからじゃないか?
それなのに、何でこいつは事前に北極に調査に向かっていたのか。
…ああ駄目だ、寒さと疲れで頭がちゃんと回らない…。


「と、言う訳で案内するからついてきて!」


れいむはそう言って歩き出した。
私はどうしようかと迷ったが、どうせ幾ら考えたって宛は無い。
ほとんど藁にも縋る思いで、私はゆっくりれいむの後について行った。


~☆~

「はい!ここならゆっくりできるでしょ?」

ゆっくり霊夢に案内されて私がたどり着いたところは…。
氷の塊を積んで出来た家、いわゆるかまくらだった。


「…これ、冬に氷精がよく作ってるやつよね?」

「そうだね。」


私はこれを見て深いため息をついた。
こんな所だし、ちゃんとした寝床何て期待してなかったけど、これは酷過ぎるんじゃ…。

「おいおい一輪さん、まさかゆっくりする事に定評のある私達が、
 何の考えもなしにこんな所に案内すると思っているのかい?」

そんな私の考えを読むかのようにまりさがそう話しかけてくる。
そのいつも変わらない表情を見ても何か考えているようには見えない。

「まぁ、騙されたと思って入ってみてよ!」

そして急かすようにゆっくり二人が後ろから私を押してくる。
私は無理やりかまくらの中へ放り込まれてしまう。

…そこで私は初めての感動を味わうことになる。


「…あれ?何だろこれ。」


まず、かまくらに入った私が思ったのはそこが狭い空間だという事だ。
屈んでいないと天井に頭をぶつけてしまうくらいの高さに、
自分とゆっくり二人が入ったらもうそこで定員になってしまうくらいの広さ。
そんな狭い空間の中央にはあらかじめゆっくりが仕込んだであろう、小さなランプが置かれている。
そんな小さな空間で、私は確かに感じた。
どこか懐かしい、温かみというやつを。


「…これは…似てる…雲山にくるまれてる時に感じるあったかさに…。」


そうだ、これは夜寝るときに雲山にくるまれている時に感じる温かさだ。
優しげで、おっさんなのに母性を感じる温かさ。
安らぎを感じることのできる温かさ。


「おお、どうやら一輪さんはかまくらの魅力に取りつかれたみたいだぜ。」

「そうだね、顔がヘブン状態だもんね。」


後から入ってきたゆっくりが私を見てそんな事を言う。
ゆっくり二名が入ってきたせいでさらに狭くなったがそんな事を気にしないほど、
私はかつてない優しさに包まれていた。

幻想郷で氷精が作って住んでいるのを見た時は、あんな所に住むなんて
妖精の考えている事は解らないわね…何て思っていたけど。
実際入ってみればこの快適さ、何て素晴らしい空間なのだ。
そうだ、無事に幻想郷に帰ったら命蓮寺の皆でかまくらを作ろうかな…。

そんな事を考えながら夢現になりかけたその時。



ドンっ、




私は何かとぶつかった。
最初、ゆっくりとぶつかったかと思ったがゆっくりは二人とも私の目の前にいる。
じゃあいったい何とぶつかったのか?
暗くてよく見えなかったそれを私は明りで照らしてみる。


それは、人だった。
それも氷漬けで、文字通り冷たくなっている。


「ぎゃあああああああああ!」


私は悲鳴を上げて思いっきり後ずさる。


「一輪さん、あまり大声あげないでよ?」

「そうだぜ、狭い空間だから響くんだよ…。」


完全にビビってる私に対して、滅茶苦茶冷静なゆっくり二人。
死体を見て驚かないのは、こんなふざけている生命体もれっきとした幻想郷の住人という事か。


「な、七奈々七何これ…!?」


完全に上ずった声をあげて私は死体を指さした。


「それ?かまくらの先住民だよ。」

「多分これ作って寒さをしのごうとしたけど、完成して中に入ってところで力尽きたんじゃね?」


ゆっくり達はさらりといつもの顔で説明する。
予想以上にドライな生き物だよ、ゆっくり。

「そ、そうなの…。」

それを聞いた私は改めて死体を見つめる。
寝袋にくるまれて凍り付いているその死体の表情は、実に安らかだ。
おそらく苦しまずに安らかにあの世に行けただろうその死体を見て、私はとりあえず手を合わせた。
私も一応は仏に使える身、死体の来世が安らかであるよう、必死に祈っていると…。


「よっこいしょ。」


一連の動作を見ていたゆっくり達がいきなりかまくらから外に出ていく。


「チョット、あなた達なんでかまくらから出てるのよ?」


私はゆっくり達にそう問いかけると、こんな答えが返ってきた。


「あ~さすがにグロなカニバリズムは見たくないんで。」

「まりさ達は外に出てるんで妖怪の本性丸出しで遠慮なくどうぞ。」


「食べないわよ!」

私は思わずそう返していた。


「え?だって手を合わせてたじゃん、いただきますって。」

「ご冥福を祈ってただけよ!」


私は元人間として、仏に属するものとして人食いだけはしないと心に決めているの!
…それ以外の戒律は…まぁ割と破ってるけど。

「そんな事より手伝って!これ埋葬するから!」

私はゆっくり達に向かってそう言った。
野ざらしはちゃんと埋葬してあげる、これも仏に使える身としての義務であると思う。


「え?埋葬って…うめるの?地面に。」

「そりゃそうでしょ。」

「…地面、数メートルもある氷の下なんだけど。」

「それでもやるの!」


結局、2メートル氷を削っても地面にぶち当たらないので、あきらめて氷の穴に死体を入れて
削った氷で埋めてあげました。


~☆~


かまくらで一晩明かした後、私はすぐに出発した。
予想以上にかまくらはとても暖かくて寝心地がよかったが、何時までもあそこにいる訳にもいかない。
私が求める温もりはかまくらの温もりではなく、命蓮寺の皆の温もりなのだ。


「…それにしても、一向に何も見えないわね。」


昨日の分の含めて結構歩いた気がするのだが、
目に映る景色は相変わらず白い景色だけだ。
いや、それだけじゃない。
どんどん強い風と共に雪まで降ってきている、吹雪いてきたのだ。


「うう、寒い、前が見えない…!」


もはや痛いレベルの寒さに加えて、視界までもが遮られ、まっすぐ進んでいるのかどうかさえ分からなくなる。
きつい、これはきつすぎる。


「おぉ~凄い、口を開けているだけでかき氷が自動的に口に入ってくるぜ!」

「シロップを口に含むのも忘れないでね!まりさ!」


…その隣でゆっくり二人がシロップを頭に載せて口を開け、飛んでくる行くを口の中に入れている。


「…あれだけかき氷を食ってよく飽きないわねアンタたち…。」


私は呆れた顔でゆっくり二人にそうツッコミを入れた。


「一輪さんもよく飽きずに歩くことが出来るよね、こんなに吹雪いているのに。」


とりあえず、こんな猛吹雪の中かき氷の事しか考えてない二人に言われたくない。


「…とりあえず、人里が見つかるまで歩くのをやめる訳にはいかないでしょ!」

「…え?」


私は荒立っていたこともあって割ととげとげしい口調でそう返す。
…すると、それを聞いたゆっくり二人の目が点になった。


「…ちょっと、何よあんた達そのリアクションは。」


何だか嫌な予感がする、いやな予感がするがそれでも聞かなくちゃいけない気がした。
ゆっくり達は非常に言いにくそうな表情で口を開いた。

「…あの、とても言いにくいんだけど。」

「…北極に人は住んでいないんだぜ。」



「…はい?今なんと?」


私はゆっくりの発言に耳を疑い、そう言ってしまっていた。


「だから、北極に人は住んでいないんだぜ、基本的に。」

「外から調査のために人が来るくらいで、その人達も北極の奥の方に行くことはないと思うし。」


とてつもなく衝撃的な事をしゃべるゆっくり達。


「じゃ、じゃあ人が住んでいる所を探して大陸の内側を突き進んでいた
 私の行為って…。」


答えを聞くのも恐ろしい事を私はゆっくりに問いかける。


「無駄じゃね?」


ゆっくりはその答えをあっさり言ってのけた。


「いやあああああああああああ!」


頭の中で色々なモノが崩れ落ちた私は次の瞬間絶叫して地にその身を伏せていた。

「う、うわ、予想以上に大ショック受けてるよ!」

「一輪さんがまるで自分の周りだけ界王星みたいな環境になったかのようになってるよ!

私のリアクションを見たゆっくり達はかなり慌てている。
ここまでショックを受けるとは思っていなかったのだろう。


「…あ、あのさ、まりさ達だってその辺は最初に説明しようとしたよ?
 でも一輪さん、説明する前に動き出すからさ…!」

「と、とりあえず人の居る所行きたいなられいむ達が案内するから!ね!」


ゆっくり二人が私を励ますように話しかけてくる。
…正直、生首二人に励まされたら余計に悲しくなる。
とりあえず立ち上がろうとしたその時。



ゴォァアアアアアアアアッ!



一瞬、吹雪が爆弾の様に強くなった!

「き、きゃ!」

私は強い風で吹き飛びそうになり、慌てて身を伏せ、吹き飛ばされまいと踏ん張る。


『うわぁああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………。』


その瞬間、私は彼方に消えていくゆっくりの叫びを聞いた。
何、今の叫び声、まさか…。
いやな予感が頭をよぎった私は顔を上げる。


…そこにあったのはゆっくりまりさの帽子だけだった。



~☆~


ああ、ここはホントにどこだろう。
ゆっくりとはぐれた私はあてもなく氷の大地をさまよう。
どこを向いても白い大地しかないこの場所では、もはやどこを歩いているのかさえもわからない。

妖怪である私は物理的な寒さなんてどうって事はない。

…が、精神的な寒さはどうしようもない。

一人ぼっちで寒い所にいると、色々な意味で精神的にやばい。
色々とネガティブな事を考えて、先に進む気力がなえていってしまう。
こんな気持ちには、あのゆっくり達にツッコミを入れてるときには全くならなかった。
あんなウザい饅頭的な何かですら、こんな過酷な大地での心の支えになっていたという事だろうか。
まぁ、こんな目に合っているのはその饅頭に連れてこられたからだけど。



「…命蓮寺の皆、どうしてるんだろう。」



私はだんだんと重くなってくる足を引きずりながらそんな事を呟いていた。

姐さん、ムラサ、ナズーリン、星、ぬえ、マミゾウ、響子、そして雲山。

命蓮寺に居る筈の私の仲間達は今一体何してるんだろうか。



「ねえ聖!タコ焼き買って来たよ!一緒に食べよう!」

「あらあら、じゃあみんなで食べましょうか。」



…ああ、なんだかおかしなものが見える。
人里かどこかのお祭りで、楽しそうに遊ぶ命蓮寺の面々、
もしやこれが走馬灯というやつだろうか。
…いや、それにしちゃ妙にリアルな気がするし、記憶の中というのならこの光景に私がいないのはおかしい。
まさか、極限の精神状態に追い込まれた私は遠くの光景を観察する能力に目覚めたのだろうか?

聖たちはどこかの屋台で勝ってきたたこ焼きを全員で一個ずつ食べている。
たこ焼きは八個入りでその場にいるのは姐さん、ムラサ、ナズーリン、星、ぬえ、マミゾウ、響子の7人、必然的にたこ焼きは一個余る。


「…あ、たこ焼き一個余った、もーらい!」


余った一個を手に取ろうと、村紗が手を伸ばす。
「待った!これは私がもらう!」
しかし、それをぬえが阻止する。

「ちょっとぬえ!たこ焼き横取りしないでよ!」

「うるさい!幻想郷でちゃんとタコの入っているタコがどれだけ貴重かわかってるの!?」

そう言ってたこ焼き争奪戦を始める村紗とぬえ。
ああ、そういえば幻想郷に海が無いからタコは基本的に貴重品なんだっけ。


「こらこら、二人ともやめなさい。」

「ぬえ、後でワシと一緒に外の世界にたこ焼きを買いに行こう、な。」


聖とマミゾウが二人の喧嘩を仲裁する。
二人は頬を膨らませながらも喧嘩をやめる。
さすが年長者二人組、私はおぼろげな意識の中で感心するばかりだ。

そして、たこ焼きは聖の手に一つだけ残される。

「ひじり―そのたこ焼きどうするの?」

響子が聖にそう問いかけてきた。

「そうね…このたこ焼きは命蓮寺で待ってる雲山にお土産として持っていきましょう。」

おお!流石姐さん!その慈悲の心に私は心打たれます!
…と、ここで私は何か違和感を覚える。


「あ、そっか今雲山命蓮寺でお留守番してるんでしたね。」


「さすが聖!雲山の事も忘れない気配りは素敵です!」


「そっか、雲山の事すっかり忘れてた…。」


「まったく、食べ物にかまけて忘れていたなど、雲山が聞いたら起こるのではないか?」



ねぇ….。


ちょっと待ってよ、みんな…。


まさかと、まさかとは思うけど…。


「じゃあ皆、そろそろ命蓮寺に戻りましょう、「雲山」が首を長くして待ってますよ。」




「すみませーん!命蓮寺のみなさーん!私の、私の名前を呼んで―――――!」



そう叫んで私はガバリと起き上がった。

「…あれ?」

私は辺りを見渡し、ここが何処かの室内であることを理解する。
そして考える、何故私はここに居るのか。

さっきまで私は氷の大地をさまよっていなかったか?
まさか北極とやらの出来事は私の見ていた夢だったのではないかと思ったが、
それなら命蓮寺かそうでなくてもはどこか知っている所で目覚めるべきだろう。
こんな床も天井も家具も真っ白の部屋は私は知らない。


そして私は視線を横に落として固まってしまう。


…なんか畑でたまにとれる足が二股に分かれた大根のような形状の何かが横になっていた。
顔つきはどこかゆっくりに似ているが、まるで悟ったかのように穏やかだ。


いや、問題そんな謎の生物が私の横に居る事じゃない。


そんな謎の生物の横に居る私がほぼ全裸だという事だ。


頭巾以外、来ていた服は横にかかっている。


「…ちょっと―!何で私、謎の家で謎の生物と朝チュンしなくちゃいけないのよー!」


私は全力で絶叫した。

「…五月蠅いわねー。さっきから叫びすぎなのよ。」

…と、そこで部屋の出入り口から誰かの声が聞こえてくる。
そして、その出入り口から女性が一人入ってきた。

「…どなたですか?」

全体的に寒色系でふくよかな印象のその女性に私は話しかける。

「私?私はレティ=ホワイトロック、冬の妖怪よ。」

私は驚いた、その名前に聞き覚えがあったからだ。
幻想郷では冬限定で現れる妖怪がいると聞いたことがある。
その妖怪の名がレティ=ホワイトロック。
それがなぜ、目の前に居て、コーヒーを差し出しているのだ?


「…あの、ここは何処なんですか?」


とりあえず私は差し出されたコーヒーを飲みながら目の前に居るレティという妖怪にそう問いかけてみた。


「ここは私の別荘みたいなところよ、冬は幻想郷に居るんだけど、
 それ以外の季節は北極にあるこの別荘で暮らしてるの。」


レティは笑いながらそう答を返す。
ふと窓の外を見てみると、氷の大地と青い空が見える。
つまり、ここはまだ北極で、ゆっくりに連れられて散々な目に合った記憶も夢ではないという事だ。
…何とも複雑な気持ちだが、そこで新たな疑問が生まれる。


「…で、なんで私は目覚めたらあなたの家に居る訳?」


その問いかけにレティはコービーを優雅に飲みながらこう返した。

「それはこいつらに頼まれた私があなたを助けたからよ。」

そう言ってレティは私は窓の外を指さした。
さっきは気付かなかったが、私は窓の外に誰かがいる事に気付いた。


「れいむ!新発見だぜ!かき氷にコーヒーをかけるとさらに三倍いける!」


「ほう、そうか!ならばれいむも試さなくてはいけないな!」


窓の外ではゆっくりれいむとまりさが何かに取りつかれたようにかき氷をむさぼっていた。
ちなみにまりさの方はトレードマークのは帽子をかぶっていない。


「あの二人に頼まれて…?」


私は窓の外に居るゆっくり二人の無事より、その事実の方に驚いていた。
頼まれたら動いてくれるほど、ゆっくりとレティの仲がいいとは思わなかったのだ。


「あなた、ゆっくりとどういう関係なの?」

「北極にいるときに、いろいろ生活支援してもらってるのよ。」


…生活支援…

具体的にどんなことしてもらってるのかちょっと想像できない私がここに居た。


「広い北極の大地からあなたを探し出すのは大変だったのよ、
 見つけたら見つけたで、体が冷え切って危なかったからおさとうゆっくりで温めたり…。」

「おさとうゆっくり?」

「今あんたが抱き枕にしているのがそれ。
 この家、暖房がないからそれであっためるしか無かったのよ。」

レティはそう言って私の横にいる謎の形状のゆっくりを指さした。
「こ、これおさとうゆっくりって言うんだ…。」

「そうよ、こうみて抱き枕に最適なのよ。
 ちょっと嫌な夢見るけど。」

確かにいやな夢を見た気がする。
内容はよく覚えてないけど、夢であって欲しいと思うような悪夢を。


「いやぁ、第一回かき氷祭りを堪能したぜ。」

「明日第二回を開くから、その前にシロップを買い足さなくちゃ!」


と、そこで外でかき氷大会を堪能していたゆっくり二人が戻ってきた。
戻ってきたゆっくり二人と私の視線が交差する。


「…あー一輪さん目を覚ましたのか!」

「ホント、なかなか目を覚まさないからすっごく心配したんだよ!」


嘘つけ!かき氷に集中するあまり私の事なんてすっかり忘れてただろ!
私は心の中でそう悪態づいた。


「…ホント、あんた達の所為で散々な目に合ったわ…。」


そして私は深いため息をついた。


「…なんか思っている以上に疲れ切っているな一輪さん。」

「こういう時はバカ食いしていやな事を忘れた方がいいよ!
 今ならかき氷食い放題だけどどうする?」

ゆっくり達はそう言ってかき氷の器を私に差し出した。

「…遠慮しておくわ。」

即答だった。
そして私も聞きたいことがある。


「それよりいい加減命蓮寺に帰りたいんだけど、いつ帰る予定なの?」


そう、旅行である以上、いつかは命蓮寺に帰る時が来るはずだ。
と、言うか帰りたい、できる事なら今すぐ帰りたい。


「あ~帰る予定ね、ちょっと待ってね。」


ゆっくりれいむはそう言って手帳を取り出し、ペラペラとページを読み始めた。
一通り見た後、ゆっくりれいむは私にこう告げる。


「予定じゃあレティさんと一緒に帰る予定だから、最低でも半年待ちだね!」

「今すぐ帰りたいんだけど!」


脊髄反射的に私はそう叫んでいた。
こんな所で半年過ごせなんて冗談じゃない!


「えーまだまだいろいろ予定組んでるんだけど。」

「そうだよ、かき氷ラリーとかかき氷オリエンテーリングとかかき氷トライアスロンとか。」


…とりあえずここから今すぐ離れないとかき氷攻めは確実なようだ。

「とにかく今すぐ命蓮寺に帰しなさい!」

私は鬼の形相で睨みつけながらそう言った。

「…とりあえず服着た方がいいんじゃないかしら?傍から見たら全裸で生首に話しかける姿なんて
 かなり間抜けに見えるわよ。」

…と、そこでレティに突っ込まれて私は未だに全裸であることに気が付いた。


「…わああああああ!?」


あわてて私はベッドのそばに置いてあった服を着る。
乱れを軽く治して一安心。


「そう言えば何で私は全裸だったのよ!」

「あら、人肌で温めるんなら裸で抱き合わなくちゃいけないでしょ。」

「そして何で頭巾はそのままだった訳!?」

「それはゆっくり達が「唯一の個性はとっちゃダメ!」というからよ。」


唯一の個性ってなんだ!これが無くても個性くらいはある!
…と思いたいが人前で頭巾を外したことが無いのでそう言い切れる自信が無い。
ここは黙っておこう。

「えーと、とりあえず話を戻していいかな。」

「一輪さんはもう命蓮寺に帰りたいって事で良いのかな、一応。」

…なんか、気が付けばゆっくりが話を仕切り始めてるし、
「ええそうよ、できれば今すぐに!」
私はそう言うと、ゆっくり二人は難しい顔をする。

「ん~でもこの時期は混んでるからなぁ。」

「この時期北極にかき氷を食いに行くやつは沢山居るんだよね。」

「帰りの飛行機のチケット取れるかなぁ…。」

何だそれ、どれだけブームなんだよ北極 IN THE かき氷!
とにかくこいつら曰く、今の時期に幻想郷に戻るのは難しいらしい。
冗談じゃない、こちとら寺の皆に挨拶もなしにこんな所に来ているのだ、
何日もあけているから雲山も心配するだろうし、他の皆だって…


…あれ?おかしいな、誰も心配しないんじゃないかって気がしてきた。
何か涙も出て来たし、おかしいな…?


「要するにあなた、幻想郷に帰りたいのよね?」


と、後ろからレティが話しかけてきた。
なぜか出てきそうな涙をこらえながら私はレティの方へと振り向いた。


「…それなら今すぐ幻想郷に帰る方法が有るんだけど、どう、使ってみる?」


レティは私にそんな事を言ってきた。
幻想郷に帰る?そんな方法があるならすぐに実行したい。
しかし、私は返事に戸惑った。
理由?私とレティの話を聞いていたゆっくり達が驚いた顔で。


「え?まさかレティさんあの手を使う気なの?」

「レティさん!あれはゆっくり専用で一輪さんが使うにはかなり辛い気がするんだぜ!」


こんな事を言ってきたからだ。

「あら、この人一応妖怪でしょ?多少の無茶なら耐えられるわよ。」

さらにレティの言葉が私の不安に追い打ちをかけた。


「…さて、決めるのはあなたよ、どうする?」


レティはまるで私を試すように問いかけてくる。
正直、あの多少では驚きもしないゆっくり達が戸惑っているのだ、かなり無茶な方法には違いない。
しかし、私には。


帰るべき場所があり。

ともに歩む仲間がいて、

それに、何より大切な相棒である雲山が待っている。



私は、ほとんど迷わなかった。




~☆~



「ちるのちゃん!レティさんから何か届いたよ!」


湖のほとりでカエルを凍らせて遊んでいたアタイは大ちゃんがそう言うのを聞いて思わず振り向いた。
この時期には北極に住んでいるレティ。
そのレティが北極から何か送ってくるなんて珍しい?
最初は大ちゃんがアタイをからかおうとして居るんじゃないかと思ったが、上空からこっちに向かって下りてくるあいつを見て
大ちゃんの言ってることは本当だと、アタイは確信した。


「う~☆う~☆」


笑顔と羽が付いた変な箱、
うーぱっくと呼ばれるゆっくり。
レティがアタイに何か贈り物をするときによく使うゆっくりだ。


「この時期にレティから贈り物って、一体何なんだろ?」


アタイは地面に降りたうーぱっくの蓋を開けてみた。


「ゆっくりしていってね!!!」


…中から出て来たのはあの巫女と魔法使いに何となく似ている変な顔だった。

「…レティも変なモノ送ってこないでよ。」

こんなもん送られてもアタイはリアクションに困るだけだ。
アタイはがっかりと肩を落としていると。


「あ~れいむ達は別に君への贈り物じゃないよ。」

「レティさんが幻想郷の住所ここしか知らないからここに送っただけなんだぜ。」


変な顔達はそんな事を言ってきた。
…なんだ、アタイ宛じゃないのか、ますます興味がなくなるところだったが
じゃあレティはいったい何を送って来たんだ?という疑問が出てくる。
と、そこではこの中を見ていた巫女の生首がこんな事を言い出した。


「まりさ、早い所出した方が良いんじゃない?色々ヤバい事になってる。」

「解ってるぜれいむ。」


そう言って魔法使いの方の生首が箱の中に飛び込む。
次の瞬間、箱の口から明らかにうーぱっくよりおっきな奴が現れた。
まぁ、デカいやつが現れたことにアタイが驚く理由はない。
もっとでかい氷漬けの生物(レティ曰くマンモスというらしい)が出て来た時があったし。

で、とにかく箱の中から出て来たのは。

「…さ、寒い…箱詰めはとにかく何でかき氷づけにされなくちゃいけないのよ…。」

なぜか大量のかき氷の中に埋められた頭巾をかぶった知らない人だった。
唇まで紫色になってカチカチ言っているその人にアタイはこう問いかける。


「…あんた誰?」


「…一輪です。」


とりあえずその変な人はそのまま生首二人に運ばれていきました。












GW企画、終わり。


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最終更新:2012年06月10日 23:44