もの書きとゆっくりの一日

※これはゆっくりできるねと同設定の話です。
※おさとう式ゆっくり、たにたけし先生のおさゆく設定を入れております。
※それでもよい、という方はお読み下さい。


もの書きとゆっくりの一日


『はい、腕をあげて大きく背伸びー』
「よっ…っと」
「ゆぅぅぅー」
十時。俺にとって習慣となっている某国民健康体操が始まる。
小説家といえども、いや小説家だからこそ体が資本になる。
自分の頭と体を使って飯の種を掴むのだから普段から健康に気をつかうようにしてきた。
先輩や担当の薦めもあってか、時間がある時は散歩を兼ねてネタを拾うようにしてきている。

横でもウチの同居人(?)のれいむが必死に伸びをしている。
いや、単に生首が伸びをしているから首が上を必死に向いているだけに見えるんだが……。

そして、れいむのその隣、おさとう式さなえ略しておさなえはもっとすごい。
「……」
お前は仮想空間に侵入して黒服とアクション繰り広げる、
どこぞの救世主かと言わんばかりの逆U字を描いて反りかえってる。


このおさなえ、無駄に運動神経はよい。
脚は俺より早いし、柔軟性もある。この前もれいむとの散歩行っていたというので、
どこにいったか聴いてみると
人の家の屋根を登って歩いていたそうな。
さすがにそれはイカンので、二匹に説教したのは言うまでもない。
つか、どうやって登ったんだお前ら。
唯一劣るのは細い腕で、通常の胴つきゆっくりより腕力はない。
「『かよわいおとめですから』だって」
とれいむ通訳によるとそんなに本人(?)は気にしていないらしい。
まぁ、それでも自分の食器ぐらいは持ってこれるので充分だと思う。


普段よりかは遅めの執筆作業に入る。今回はゆとりもあるので、れいむやおさなえも仕事部屋に入るのを許可した。
二匹は自分達が上げたゲーム実況動画がランキング入りしているかをチェックしている。
「こんかいは、あんまりのびなかったねー…」
「……」
おさなえがれいむを慰めるように頭を撫ででいた。
「うん、次はげーむのくらいまっくすのしーんだし、がんばろうね」
おさなえも心無しか表情があかるくなり、か細い腕を振り上げている。
……まぁ、こっそりまた宣伝でもしておくか。
後、二匹にはここに入ってもらったのは他に手伝いもある。
「れいむー、さなえー」
「ゆ?」
「ちょいここ、立って。さなえ、テキトーに戦うポーズ」
おさなえが脚を軽く広げ、腕でファイティングポーズを取る。
「れいむは…そだな」
俺は適当に辞書や本棚を積み上げた。
「上に乗っかって何かエラそうに悪役の真似してみて」
「ゆっ!」
れいむは器用に辞書の上に飛び上がりのび上がる。
おさなえも視点をれいむに合わせ見上げるようにする。
れいむは頂上に登ると急にごう慢になり
「ふははははは、このれいむさまにいどもうなどと、
 おろかなゆっくりもいたものよのう」
おい、いきなり小ネタ始めるんじゃない。おさなえもドヤ顔きめんじゃねぇ。
「ふ。うんどうしんけいにすぐれただけの、おさとうしきゆっくりなど、
 このれいむさまにとってはまんじゅうのかけらにすぎぬわー」
「お前も、饅頭の一種だろが」
と、ツッコミデコピンを入れる。
「ゆ!…いけないいけない。また、やくにはまっちゃったよ」
苦笑を浮かべるれいむ。
今、やってもらった通り、たまにこの二匹にシーンを再現してもらい文章に起こす。
そうすると頭で描いていたものと実際に見た時のシーンのギャップがあるので、
自分の文章に何か足りないものが明確に浮かんで来るのだ。
まぁ、たまに欠点はれいむが役にハマりすぎる事と
「……」
「さなえ?」
おさなえが、役とは言えちょっとした言葉に傷つく事だろう。
おそらく『運動神経に優れただけ』とか言われたのが、癪にさわったのだろう。
ため息をついて、おさなえの頭に手を置く。
「悪かったな。役とは言え、嫌な思いをさせて。すまなかった」
「そうだよ!やくであんなこといっちゃったけど、れいむはちゃんとさなえがだいすきだよ!」
「……まぁ、それでもれいむ。お前もちょいと悪ノリが過ぎたんじゃないのか?」
「ゆぅ、ごめんなさい」
おさなえに頭を下げるれいむ。
「……」
小さく手旗信号のように手を素早く動かすさなえ。
「何だって?」
「『おわびにおおきなスイカがたべたいです』だって」
「わーった。今までのギャラ代わりだ。晩飯食ったら出してやる」
さなえが急に大きく手を振り上げバンザイのポーズを取る。
「『じゃぁ、ゆるしてあげます!』だって!!よかったね!」
「あぁ、よかったよ」
アクロバティックなダンスを披露するおさなえの頭にのり、れいむも歌を歌う。
少し食費がかさむがいいかと、幸せそうな二匹に俺は苦笑を浮かべた。



「しあわせ~」
「……!」
晩飯も終わり、約束通りデザートのスイカを出す。
れいむは口元を緩め、笑顔になり、おさなえは無表情だが、心なしか顔が明るく腕の動きは激しい。相当喜んでいるようだ。
「うまいか?」
「とっても!」
おさなえもアクロバティックにのけぞる。
「『ことしいちばんのびみです!!』っていってるよ」
「そうか」
俺も、一口スイカを食う。甘さが口に広がり、とてもゆっくりとした気分になった。
今年最後の夏のスイカになるだろうがよい思い出が出来たのでよしとしよう。

深夜
「おじさん、ねないの?」
「そうだな、ちょっとこのままだと『ゆっくりできそうにない』んでな」
「そっか……じゃ、さきにねてるけどはやくゆっくりできるといいね」
「ありがとな。お前らもゲームばっかせずに早く寝ろよ」
「うん、おやすみ!」
れいむとおさなえは自室に戻る。本来なら、俺も寝るはずだったが、別の短編の仕事が残っていた。
新ジャンルの挑戦でもあるのでもう少し取り組みたいという思いもあった。
『ゆっくりできない』=『仕事が忙しい』
という事で分ってくれる二匹が電気を消すのを見届けると俺は仕事部屋に戻り、原稿にとりかかる。


???
これは夢なのだろうか、いや夢だろう。
新人賞以来になるだろうか、俺は何かの記念式典で表彰状を受け取ろうとしていた。
今まで、作品は何度か出してきたが、この場所に立つのは数年ぶりになる。
審査員には俺がこの道に進むきっかけとなった―今ではお亡くなりになった先生がいて。
その隣には、初めて俺にゆっくりを教えてくれた―どすまりさとびぐれいむ夫妻がいる。
後ろでは担当が珍しく微笑みを浮かべて拍手をしてくれた。

「よかったね、おじさん!」
「おめでとうございます!!」
れいむもいる。口を聞けないはずのおさなえも祝福してくれる。
会場には今まで世話になったダチもいれば、そのダチと一緒に住んでいるゆっくり達もいた。
皆が祝ってくれる。
―幸せだな、俺は。
改めて幸せを噛みしめると表彰状を受け取る。そこには


『ゆっくり児童文学どすまりさ大賞』
と書かれていた。



「なんっじゃそりゃぁぁぁっ!!?」
大声で突っ込みを入れると気が付くと回りは朝になっていた。
窓の向こうにはオレンジ色の光がゆっくりと昇ろうとしている。
「朝か……」
どうやら、眠ってしまったらしい。変な夢を見たと頭を振ると、頭の位置におさなえがいた。
目を開けているが、まだ眠っているらしい。
「またか……」
おさなえの習性で何故か、俺がうたた寝をしていると枕になろうとしてくれる。
そんな時に限って疲れからなのか、それともこいつのせいなのか変な夢を見る時が多い。
「枕としては最適なんだがな……」
ひとりつぶやくと、PCの横でもまた一匹、れいむが寝ていた。
「ゆふ、ゆへへへへ……」
奇妙な寝言を呟いているがそこには既にぬるくなってしまったお茶と湿ってしまったせんべい、
そしてれいむの字だろう、汚くも大きな字で
「たまにはゆっくりしていってね!!」
と書かれていた。

思わず、苦笑が浮かぶ。
俺は、れいむを軽くなでてハンカチを布団代わりにかけた。
せんべいは既に湿っていたがしょうゆの味は濃く、うまい。
茶で流し込むと、PCを消して、またおさなえを枕に眠る。
おさなえの負担が減るか分らないが、頭を置くところにはタオルを置いておいた。

今日ぐらいは昼までゆっくりするか。

そう思うと、あっという間に俺は、眠りについた。


  • ノーマルゆっくりとおさとうゆっくりの違いが出ていていいですね
    そしてお互いいいコンビになってる
    でもおさゆくって細腕でも力は弱くないようなw -- 名無しさん (2012-09-06 19:00:40)
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最終更新:2012年09月06日 19:00