以下本文と見せかけた駄文。
「さて皆さん、今日は私、世界でも珍しい生き物を見せてくれるというのでこちら、ゆっくり自然保護区へとやってまいりました~」
私に向かって話しかけているのは、一人の老人だ。
髪はもう既に真っ白で、相当の年齢という印象を受ける。
だが、その足腰は未だ壮健で、自然そのものに近い公園内をすいすいと案内役に付いて歩いている。
「私も色々なゆっくりを見てきましたけれど、これを直接触るのは初めてなんです。いやぁ~、どんなものなのか楽しみですねぇ~」
息を弾ませつつも目を輝かせ、その瞬間が待ち遠しくてしょうがないというようなその様は、まるで遠足前の子供だ。
やがて老人の前に、自然保護区の名には似つかわしくない鉄製の檻が見えてきた。
案内役の男が老人に2・3話しかける。檻に入るに当たっての注意をしているらしい。
「皆さん、ようやく着きました。ここに居るというんですよ、あの幻のゆっくりが……」
生き物の居る場所に近づいたからか、やや息を潜めて老人は続ける。
「警戒心が強い上に、目撃数も非常に少ない個体です。いやぁ、それじゃ行ってきますね~」
老人は、もう待ちきれないと、だが中のゆっくりを驚かさないように檻へと入っていく。
その檻の片隅、ほぼ隅に近い木の陰に、老人の今回の目的がいた。
ゆっくりだ。
ゆっくりれみりゃに似た髪と目の色をしているが、それぞれ微妙に色合いが違う。
また、その表情も常に笑顔のれみりゃとは違って(ゆっくりにしては)キツい目つきだ。
ゆっくり特有の頭の装飾品は、ゆっくりれいむとはまた模様の違った赤と白のリボン。
ゆっくりもこう。
幻ともされているゆっくりだ。
生息地はおそらく竹林のどこか。
そして、他のゆっくり種とは大きく違う特徴が幾つかあった。
それが、今回の取材の私の目的だ。
「ぁぁ~~~~、見てください、ゆっくりもこうです。これがあのゆっくりもこうなんですねぇ~……」
はぁ~~、と深い息を一つつくと、老人は何をするでもなくじっともこうを眺め続ける。
10分もしたろうか、思い出したように老人は私に振り返る。
「いや、初めて見ました。あの真白な髪もそうですが、本当に澄んだ綺麗な目をしていますね~」
そう言って眼鏡を外して綺麗に拭くと、またもこうをじっと見つめる。
「それでですね、ゆっくりもこうは、他のゆっくり種とは明らかに違う特徴を備えています。それを今から確かめてみたいと思います」
老人は、案内役が何かを手渡そうとするのを断ると、ゆっくりともこうに近づいていく。
「とらうまになるよ! とらうまになるよ!!」
老人のその行動に、ゆっくりもこうが威嚇の声を上げる。
とは言えまぁ、そこら辺はゆっくりである。人間には大した威嚇効果にならない。が。
老人が近づき、触ろうと手を伸ばした瞬間だ。
「あちちちちっ!!」
老人が慌てて手を押さえその場にうずくまる。
案内役が慌てて近寄ると、何事かを強い口調で言った。
老人はそれに手を振って応えると、こちらに戻ってくる。
「見ましたか、今の。火ですよ。火を出しましたねぇ~、おぉ~、熱っ」
笑いながらその指先を見せる。
その指には大きな水ぶくれが出来上がっていた。
「あれがゆっくりもこうの特徴なんです。他のゆっくりにはこんな事が出来るのは今の所いないですねぇ~、いやいや……」
だがこの老人、指先を火傷したというのにそんな事など気にしていないように満面の笑みを浮かべている。
「それでですね。ここからが本番なんです。今のは、ゆっくりもこうが見せる不思議の一つに過ぎません。本当に凄いのはここからあとなんですよ」
そう言って、そこら辺にあった木の枝を取ると、ゆっくりもこうを軽くつつき始めた。
「とらうまー! とらうまー!!!」
ゆっくりもこうは火を出して必死に抵抗するが、それでも届かない所からの攻撃にはどうしようもない。
さらに老人は攻撃を続けていく。軽く、木の枝でとは言え、少しづつゆっくりもこうの皮が削れていく。
その時だ。
不意にもこうの動きがぴたりと止まると、その体を今まで以上の炎が一気に包み込んだ!
その炎の中、ゆっくりもこうは自分自身の出した火に焼かれてどんどん黒く焦げていく。
数分も燃え続けて、ようやくその炎が消えたとき、ゆっくりもこうは我々の目の前で完全な炭の固まりになってしまっていた。
火が完全に消えたのを確認すると、老人はそっとその炭の塊をつつく。
ぽろぽろと、触った部分が崩れていく。
「いや、完全に炭化しちゃってますね。これはさすがに……本当に大丈夫なんでしょうか……」
いままであれほどもこうに好奇の視線を向けていたのだが、一体どうしてしまったのだろうか。
私は老人のその突然の行いについていけず、どうしたものかと取材メモ帳にあごを乗せる。
その困惑を感じ取ったのか、老人は先程までとは違い、やや硬質さを持った声で応じる。
「いや、とりあえず第一段階はこれでいいんです。さて、許可は取ってあるのでここで今日は一泊しようと思います」
そういうと、さっさとゆっくりもこうの横に寝袋を敷き、横になってしまった。
今日の取材はここまでらしい。
一応メモに目を通してから、私もさっさと休む事にした。
翌朝、早朝。
私は日が上る寸前、夜が白み始めた時分に老人に揺り起こされた。
急いでいるのか、若干力が強かったのが気に入らないが、取材対象に動きがあったと聞かされては起きぬ訳にもいくまい。
「見て下さい、ここ。分かりますかねぇ」
そういって老人が指差した先、昨日燃え尽きてしまったゆっくりもこうの死体。
だが、よく見るとその炭の塊に白い部分が現れている。
一体何が起こっているのか。
老人もただその様子をじっと見つめている。
一度目が合うと、「もう少しです、もう少しだけ待ってて下さい」と言われた。
それから、早い朝食を取りつつもこうをじっと観察する。
白い部分が徐々に増えてきている。それも、肉眼で分かるような速度でだ。
やがて、太陽が完全に姿を現した頃。
それは唐突に、
「りざれくしょんーー!!!」
という素っ頓狂な声と共に炭の中から飛び上がった。
なんと。燃え尽きたはずのゆっくりもこうが、傷一つ無い真白な体で飛び出したのだ。
「いやぁ~、不思議ですね。自分の目で見ていますが、それでも信じられませんねぇ~、いやぁ~~~……」
老人は感慨深げにため息を吐いた。
事態を飲み込めない私に老人が説明してくれる。
「これがゆっくりもこうのもう一つの特徴です。大雑把に言えば、生き返るんですねぇ~」
そんなバカな。私の知っている人物に、確かにそういう人物は居る。と言うか、この名前のモデルだ。
しかしこいつら所詮はゆっくりなのだ。にわかには信じがたいが……
「外敵に襲われて逃げ切れないと悟ると、ああやって一旦自分で自分を燃やして死んでしまうんですね。あそこまで炭になってしまえば、まぁ食べようとする動物はまずいないでしょうから」
なるほど。確かに昨日のアレは完全に炭だった。
「で、しばらくしてから今のように生き返る。こうやって生き延びてきたんでしょう」
はぁ。……なんつー非常識なゆっくりですか。
「いやぁ、命って本当に不思議ですね。時として常識では測りきれないような進化をする事があるんです」
いやはや全く。ていうかゆっくりのくせにと思わないでも無いですが。
「火が出せるから再生できる様になったのか、再生できるからから火を出す事を身につけたのか……どっちが先かはわかりませんが、いや本当、生き物って言うのはよくできていますねぇ…………」
復活したゆっくりもこうを見る目は、命に対する敬意を一心に込めた眼差しであった。
私たち妖怪には、今ひとつ理解しきれない感覚なのかもしれない。
ともあれ。これで私の今回の取材は終わりだ。
発見! 秘境の奥に幻の生物を見た!!
ま、ネタとしては十分でしょう。
さて。では私は早速原稿を書きに帰りたいと思いますが……あなたはどうします?
「いえ。私はここに来た一番の目的を果たしたいと思います」
うん? ゆっくりもこうの復活を見に来たのでは?
「いえいえ、そうじゃないんです。復活は見たかったですが、私の目的に必要な事だったからやったんですよ」
ほほう。復活を見る以上の目的ですか。そりゃまた一体?
「それはですね……」
老人は復活してすっきりしたのかゆっくりしているもこうに今度は素早く近づくと、一気に捕まえ頬擦りし始めた。
「ああ~~~~~幸せですねぇ~~~~~~~私死ぬ前に一度で良いからこれがしてみたかったんですよぉ~~~~~~~」
…………えーと、あの?
「普段のもこうはあの通り火傷しちゃいますから。復活には体力なりを使うのか、復活したらしばらくは火は出せないそうなんですねぇ~~~~ああ~~~~~~」
そう言って頬擦りする老人の表情はもはや昇天寸前のそれだ。
もこうが怒って噛み付きにかかっているがそんなの全く気にしちゃいない。
それどころか「痛くないですねぇ可愛いですねぇ~~~」とか言いながら指をわざわざ噛ませたりする始末だ。
……まぁ、いいか。
仮にもう一度火傷したとしても、あの老人は本望だとばかりに大喜びするのだろう。
さて、それじゃあ私は帰るとしますか。
こうして私は一つのネタを手に、我らが天狗の山へと帰るのだった。
「んん~~~、ちゅっ、ぶちゅ~~~っ! ああ~~~~、かわいいでちゅねぇ~~~~~!!!」
「とらうまーーーー! とらうみゃ~~~~~~~~~~~!!!!!(大泣き)」
続いたり続かなかったり。
作・話の長い人
- この老人、ムツゴ・・いやなんでもない。
老人の声が脳内で再生されましたよ!! -- 名無しさん (2009-02-06 00:04:16)
- どう考えてもムツゴ……
ゆっくりしていってね!!! -- 名無しさん (2009-07-14 22:35:10)
- ゆツゴロウさんシリーズ化希望 -- 名無しさん (2009-08-15 16:37:27)
- 劣化した東方キャラって感じ
個性がない -- 名無しさん (2010-01-22 02:05:03)
- もっこもこだ -- 名無しさん (2010-11-27 13:38:34)
- とらうみゃーって、
あっ、鼻血出てきた -- 名無しさん (2012-08-10 22:42:21)
- むーつーごー・・・あ、
・・・。げーらげーらげらげらげら(汗) -- 名無しさん (2012-08-11 10:25:11)
- これ文視点なのかw -- 名無しさん (2013-09-24 23:19:43)
最終更新:2013年09月24日 23:19