節分での攻防

ここは吸血鬼の住む館 紅魔館。
当然この館には吸血鬼が済んでいる。幼くも恐ろしい吸血鬼姉妹が。
そして二月に入って間もない今日。吸血鬼姉妹が何をしていたのかというと。



カタカタカタカタカタカタ……。



ベッドの上で震えていた。
ふかふかのシーツの上で、吸血鬼姉妹はフルフル震えていた。
その表情は何かに怯えているようだ。

そして姉妹の居るベッド周りも尋常じゃないことになっていた。

ベッドを囲むように何重にも張られた光の輪。
これは吸血鬼姉妹と親しい中にある魔女が張った結界だ。
並の力では破ることも難しい結界は、吸血鬼姉妹を守るためのモノである。
そして、彼女を守っているのはこれだけじゃない。
その結界の周りを、武装した妖精メイドが守っているのだ。
決界と妖精メイド、二つの力が合わさって姉妹の居るベッドは一種の要塞のごとき守りを手に入れていた。

そして、姉妹の守りはこれだけではなかった。


「いいか!?何としても奴の魔の手からお嬢様達をお守りするのだ!」


一列に並ぶ武装した妖精メイド達。
彼女達の前で演説するのは、今回の件を一手に引き受けた紅魔館の門番、紅美鈴。
吸血鬼姉妹が居る部屋の前で、彼等はこれから始まる戦いに向けて士気を上げている最中であった。


「…あいつら、あんな所で何やってるんだ?」


その様子を遠巻きに見ている、普通の魔法使いが一人。
霧雨魔理沙はバウムクーヘンを頬張りながら、そんな事を呟いた。
ちなみに今回は普通にお茶会に呼ばれて来ました。

「気にしないで、毎年の事だから。」

そんな事を良いながらパチュリー=ノーレッジがいつの間にか隣に立っていた。
バウムクーヘンを頬張りながら喋るその姿はマリサにとって見慣れたモノだ。
しかしその背後に立っているものには、流石のマリサも驚きを隠せない。


「あいつらも毎年毎年、飽きないものだ。」



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そこに居たのは、パチュリーとは似て非なるモノだった。
髪型と帽子こそパチュリーを報沸とさせるが顔付きはデフォルメされたそれである。
しかも、首から下は完全にマッチョである。
そんな異様な出で立ちの何者かが、まるで丸太をそのまんま輪切りにしたような
バウムクーヘンを丸かじりしているその姿は化け物以外の何者でもない


「…何だ、お前も居たのかよ。」

「心外だな、私がどこにいても良いだろうに。」


しかし、その異様な生き物もマリサにとっては見慣れた存在だった。
常識の通用しない幻想卿の中に置いてもっとも非常識な存在、『ゆっくり』。
このパチュリーもどきもその仲間である。通称はマチョリー。


「その様子だとお前も知ってるみたいだな、一体何のためにあんな事をしてるんだ?」


魔理沙はやたらと気合いを入れまくる美鈴を指差しながら、マチョリーとパチュリーにそう問い掛ける。


「…今日は何月何日だ?」


返ってきたのはそんな返事。
言われた魔理沙は思い出してみる事にする。

「ああ、そう言う事か。」

そして全てを理解した。

「ずいぶん冷静だな。あれはお前の所にきてもおかしくないと言うのに。」

「まぁ私の場合たいした事にならないからな。毎年の事だし慣れてしまった。」

「まぁ、貴方の場合はそうでしょうね。でもレミィにとっては死活問題よ。
 生きてる桁は違うし、何より吸血鬼だから。」

「そういえばメイドは?あいつが一番レミリアを守らなくちゃいけない立場だろ?」

「氷とか湿布とか買いに人里に向かってる。」

「ああ、もう端から諦めてる訳か。」


魔理沙、パチュリー、そしてマチョリーの3人はバウムクーヘンを頬張りながら
そんなやり取りを繰り広げている。


「良いなぁ、そのバウムクーヘン頂戴!」


と、そんな3人に呼び掛ける謎の声。
三人とも、辺りを見回してみるが、近くに人影らしきモノは見当たらない。


「な、何だ?今の声は?」


戸惑う魔理沙の耳にまた声が聞こえてくる。


「まぁ、聞かれる前に勝手に貰って行くけど!」


言うやいなや、魔理沙の持ってたバウムクーヘンのカケラが勝手に宙に舞う。
次に目に入るのは己の目を疑う光景。
宙に浮いたバウムクーヘンのカケラはバクバクという音とともにどんどん小さくなって行くではないか。

「な、何だ。何が起きている?」

未練がましく取り戻そうと、バウムクーヘンのカケラに手を延ばす魔理沙はそんな事を呟いた。
マチョリーはバウムクーヘンのカケラをじっと見つめてこう言った。

「どうやら来たみたいだな。」

数間離れた蝿の動きさえ見通すことが出来るマチョリーの視力は捕らえていた。
バウムクーヘンのカケラに摂りついた小さな丸を。
質量保存の法則を無視した食事を繰り広げている、その存在を。
そして、バウムクーヘンは完全に消滅してしまう。


「あー美味かった!お詫びと言っては何だけどこれをあげるね!」


そう言うと天に向けて延ばしていた魔理沙の手に、ザララという音とともに何かが下りてきた。

「ん?」

何かとおもって手を下ろすとそこに合ったのは10個ちょいの入り豆が。

「さて、腹ごなしも終わったし、そろそろ本番と参りますかねえ!」

マチョリーの目は捕らえていた。
小さな丸がフワフワと美鈴達の方へと向かって行く姿を。

「…今年はどれだけ荒れるかな。」

マチョリーはただそれだけ呟いた。


~☆~


「と、言う訳で私はその時決意したんです。生涯を賭けてお嬢様をお守りすると…ハイソコ!居眠りしない!」

美鈴は居眠りしかけている妖精メイドにそうツッコミを入れた。
演説のネタも尽きた美鈴は自分の身の上話を始めたのだ。

「全く大事な作戦を前に居眠りなんて、気が弛んでいる証拠ですよ!嘆かわしい!」

「確かに嘆かわしいよね。こっちだって腑抜けた軍団を相手にしたって、不満しか残らないし。」

妖精メイドを叱り付けるその横で聞こえてきたその声。
間違いない、その声は宿敵の声だ。
その宿敵は目の前に現れた。
否、宿敵は最初から美鈴の目の前に居たのだ。


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         ,. ´        丶、
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         ゝ、           /
.           ` ー- ___ -‐ ´

「ちっさくても゙大゙豆だぜ!大豆ゆっくり、鬼の節句にここに見斬!」

全長1センチ足らずのそいつはゆっくり特有の得に理由の無いドヤ顔でそう言ってきた。
その史上最小の侵略者を見た美鈴は叫ぶ。


「全員、撃てぇえええ!」


こいつに前置き入らない最初から全力で叩き潰す!
妖精メイド達が銃を構え、引き金を引こうとした次の瞬間。

「あ、引かない方が良いと思うよ、引き金。」

え。その場に居た妖精メイド全員がそう思った。
しかし、本人の意志とは裏腹に、妖精メイド達は既に銃のトリガーに手を掛けていた。


ドゴォオオオオオン!


銃が、暴発した。

「な!?」

妖精メイドの銃が一斉に暴発したことに驚く美鈴。
幸い銃の暴発で怪我をしたモノは居なかった。
しかし、爆発のショックで目を回して居たりパニックに陥っていたりで、
そのまま戦闘に参加出来そうな妖精メイドは一人も居なかった。


「うわぁ、大変だねぇ。私も銃の暴発には気をつけないと。」


「何他人事のような態度をとってるんだ!これ絶対お前の仕業だろ!」


「人聞き悪いなぁ。まぁ、その通りなんだけど!」


大豆ゆっくりがそう言うと銃の残骸から小さな何かが飛び出してきた。
大豆ゆっくりと同じサイズのそれは彼?を中心に周りに集まってくる。
それは彼と同じ、煎った大豆であった。
ただし、こいつには大豆ゆっくりと違い顔が無い。


「そいつを銃の中に仕込んだのか。」

「まぁ、隙だらけだったし。」


美鈴の問い掛けを大豆ゆっくりは否定しなかった。
奴の能力である、『大豆を生み出し、操る程度の能力』。
一見すればしょうもない能力に聞こえるが、使い方次第では自身の小ささも相成って厄介極まりない能力だ。
正に、使い方次第で化ける能力だ。
銃で武装などという小細工では、こいつを止めるなど敵わない。


「見事だ…ならば、こちらも本気で行くしか無いな!」


美鈴はそう言うと構えを取り、呼吸を整えはじめた。
相手が能力を使うなら、こちらも能力を使うまで。
そう、気を使う程度の能力を!

「言うねぇ、じゃあこっちも本気で行かせてもらうよ!」

大豆ゆっくりのその台詞を合図に、周りの炒り大豆達が周り出す。
大豆ゆっくりを中心に回る公転と、大豆そのものが回る自転。
二つの回転が生み出すのは、圧倒的破壊の小宇宙!


「うぉおおおおおお!」


破壊的回転とともに大豆ゆっくりは美鈴に向かって突っ込んで行く!
この回転に巻き込まれれば、美鈴はあっという間にズタズタになるであろう。


「ハァアアアアアアアアア!」


しかし、次の瞬間美鈴はそう叫んで両手を突き出した!


ドオッ!


その瞬間、突き出された両手から気が放出された!
…別にかめはめ波のように気が極太レーザーのように放出されるわけじゃない。
美鈴の目の前一メートル、そこに爆風のような風が吹き荒れただけだ。
しかし、その爆風は美鈴の目前まで迫って来ていた大豆ゆっくり達を吹き飛ばした。
これで十分だった。美鈴にとっては!


「そこだぁああああ!」


散らばった大豆の中に、一つだけ混ざった顔がある奴。
美鈴は全神経を集中してそれを捕らえ、それに向かって拳を突き出した。


ドゴオオオオオオオッ!


捕らえた。大豆ゆっくりごと壁にめり込んだ拳を見て、美鈴はそう確信する。
しかし、拳を壁から抜いた美鈴は、驚愕の表情になる。

「馬鹿な…。」

拳を抜いた壁には、確かに一粒の大豆がめり込んでいた。
勿論、その大豆には顔もあった。
問題は、その顔がサインペンで描かれたモノであったこと。


「に、偽物!?」


美鈴はまさかと思い、足元を見る。
足元に転がる無数の大豆。
その幾つかに、サインペンで顔が描かれている。


「や、やられた!」


引っ掛かった。大豆ゆっくりの仕掛けたトラップに彼女は引っ掛かったのだ。
奴は何処に、そう考えて美鈴はお嬢様の居る扉を見る。
扉は僅かながら空いていた。あのサイズなら余裕で抜けられる隙間が。
美鈴は扉を開けて中を覗く。
そこで彼女が目撃したのは。


目を回して倒れている妖精メイドと、


あっさり破れてる結界と、


ひたすら怯える姉に、大豆ゆっくりと睨み合う妹だった。


「どうやら今年も私の勝ちって事で良いのかな?」


大豆ゆっくりは勝ち誇った態度で吸血鬼姉妹にそう問い掛ける。
それに対して吸血鬼妹はきっと睨み付ける。


「何よ!何もかも思い通りに行くと思ったら大間違いなんだから。」


そう言うと妹は手を開く。
物体の要である【目】を自分の手元に引き寄せ、砕いてしまう。
これぞ、彼女の持つ【ありとあらゆるモノを破壊する能力】である。


「キュッとして…。」


しかし、妹が正にその目を握り絞めようとした次の瞬間。
大豆ゆっくりはその手に向けて、大豆を数粒ほうり込んだ。


「どっかー…うわっちゃぁああああああああ!?」


手の平に走る灼熱の痛みに妹は、思わず悶え混んでしまった。
煎った大豆は吸血鬼の弱点の一つである。
それを思いっきり握り閉めれば火傷は必至。当然の結果である。


「ヤレヤレ、相変わらずワンパターンだね学習能力が無いの?」


大豆ゆっくりは呆れ顔でそう吸血鬼姉妹に問い掛ける。
もっとも、どっちも話を聞ける状態ではないが。


「さて、そんな姉妹に私からのささやかな贈り物だよ!」


言うや否や大豆ゆっくりはすごい勢いで増殖を始めた。
それは、正に細胞分裂のネズミ算。
とてつもない数の炒り豆がスカーレット姉妹の目の前に出来上がった。


「さぁ!歳の数だけお食べなさい!」


その無数の豆が、スカーレット姉妹に一斉に降り懸かる。
直ぐさま美鈴は姉妹の救助に向かおうとするが。

「おっと、忘れてた!君にも歳の数だけ豆をプレゼント!」

彼女の元にも無数の大豆が降り懸かって来るのであった。



~☆~



扉の向こうから、三人のすごい悲鳴と大豆の流れる音が響き渡る。
その音を聞きながら。魔理沙は貰った炒り豆をポリポリ食べていた。


「しっかし、相変わらず凄い音だな。」


「確か、姉の方は500で、妹の方が495か?」


「合計1000近い数の炒り豆を浴びることになるのね。吸血鬼で無くてもキッツイわね…。」


「まぁ、それが彼女の節分に置ける仕事だ、仕方ないさ。」


「まぁ、終わったら私も火傷に聞く薬を調合しなくちゃね。」


「それ、私も手伝うぜ。」



幻想卿では節分の日には大豆ゆっくりが歳の数だけ豆を配るのが恒例行事になっている。
しかし、ここは外の世界より遥かに高齢化が進んでいる幻想卿。
あちこちで1000桁台の豆を浴びることになって、悲惨な悲鳴をあげる妖怪も少なくない。
大豆ゆっくりと妖怪の攻防は、幻想卿における節分の代名詞になっているのである。



「所で、一つ気になることがあるんだが。」

ふと、魔理沙が二人の方を向いた。


「ん?」

「何かしら?」


「お前ら、何でバウムクーヘンなんか食ってるんだ?」


魔理沙は二人が頬張るバウムクーヘンを指差しながらそう問い掛けた。


「ああこれ?節分の日に恵方巻を食べると良いことあるって言うでしょ?」

「だが生憎恵方巻がどういうものか解らなくてな。
 代わりに似たような形状のこれを食べていると言う訳だ。」

「なるほどな。」

説明を聞いて納得する魔理沙。

「と、言う訳でこんなモノを用意してみた。お前も一緒に丸かじりしてみるか?」

そう言ってマチョリーが用意したのは、丸太かオンバシラかと見間違うほどの、でかくて太いバウムクーヘン。

「やだ。」

勿論、マリサは実に良い笑顔で断った。

  • 魔理沙って日本に近い文化圏の生まれじゃ?まあいいか -- 名無しさん (2014-04-05 13:44:22)
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最終更新:2014年04月05日 13:44