私か?今追いかけられて忙しいんだから手短に説明してやる、私は鬼人正邪、見ての通り絶賛指名手配中の天邪鬼さ
少名針妙丸をそそのかし、打ち出の小槌の力を使って幻想郷を弱者の為の世界としてひっくりかえしてやろうと思ったら
お決まりの通りに博麗の巫女その他に阻まれて大失敗、今では巫女が針妙丸に構っている隙に身を隠し
たった一人で幻想郷に反逆してやろうと日々幻想郷の有象無象と追いかけっこをしているって所だ
今日は不幸にも赤蛮奇というろくろ首に見つかってな、何とかここに隠れて一休みって所だよ
さて、ここにいればしばらくは持つとは思うが…何とかあいつらに目にもの見せておかないと
私はただの弱者で終わってしまう、何か…何かあいつらに一矢報いるための反則アイテムを選別しなくては…
「ゆっくりしている場合じゃねぇ!!!」
うわっ!なんだコイツ!…なんだ…ゆっくりか?
ゆっくりと呼ばれる何か、こいつら、幻想郷に昔からいる弱者なんだかそうじゃないんだか
よくわからん妙な奴らなんだが…頭から生えた二本の角、所々が白く、前髪にて存在を主張する赤い髪…
そして野心に満ち溢れた(自己申告)赤い眼…これどう見ても私だよな?
「そうだ!せいじゃはゆっくりだよ!でもゆっくりしないよ!!!」
…まさか私を模したゆっくりもいたなんてな…どうやら私を模しているだけあってゆっくりするつもりはないらしい
いや、ゆっくりしたいのか?それともゆっくりしたくないのか?クソッ…考えたら訳わかんなくなってきた
「そこにいたのか、そろそろお縄についてもらうよ天邪鬼!」
うわっ、放せ!そんな汚い手で私に触れるんじゃねぇ!…まずい、考え事をしていたらろくろ首に捕まってしまった
このままでは反則アイテムを選ぶ暇もなくやられてしまう!…そうだ、こいつをつかってみるか!
私は何とかろくろ首を引き離し、手元にあったそいつをろくろ首の頭に投げつけた!
「うわッ!私の身体になんてことすんのよ!返しなさい!」
「やなこった!きょうからこのからだはせいじゃのものだ!かんしゃするんだね!!!」
「わっ…痛ぁい!!」
投げつけたせいじゃは見事にろくろ首の頭とすり替わり、ろくろ首の頭から逃げ出し…いや向かって正面衝突!
見事にろくろ首をノックアウトしやがった!今なら簡単に逃げ切れるぞ、どうだざまあみろ!
私は脇目も振らずにその場から離れ、まんまと逃げおおせる事に成功した
まあろくろ首の身体を乗っ取った(?)せいじゃは取り押さえられている頃だろうがまあ気にすることもないだろう
さて…ちょうどいい洞穴もあるし今晩はここで野宿するとして…
「ゆっくりしている場合じゃねぇ!!!」
ッ!?…馬鹿な…確かに私はあの時あのゆっくりを見捨てて逃げ出したはずだぞ!?
晩飯の焼き魚をかじりながらも振り向けば…
「せいじゃをぎせいににげられるとおもったの?おめでたいな!!!」
あんの野郎…どうしたのかわからんがあの場から逃げおおせて私を見つけ出したらしい
私は野宿する事をやめ、その場を離れる事にした、せいじゃが幻想郷の有象無象と繋がっている可能性を否定できない
「ゆっくりしている場合じゃねぇ!!!」
それから数日間…私はせいじゃを利用し、次々と追っ手を振り切っていたが
せいじゃの言葉に急かされていると思ったのか、野宿することもなく、最低限の仮眠と食事のみをとりつつ逃げていた
日が経つごとに私の足取りは重くなり、眠気に苛まれるようになり、せいじゃの表情もふでぶでしいものから
いつしか私を心配するような表情になってきていた、だが私を急かすかのような「ゆっくりしている場合じゃねぇ!!!」の
一言だけは変わることはなかった、私は休むことなく、追っ手を撒きつづけた…そして…
離せ!まだ私は屈していないんだ!離せ!離せよ!いたッ!
「もう暴れる体力すら残ってないじゃない…そろそろ観念しなさい」
「正邪…もういいんだよ、もう…休もう?」
「ゆっくりしている場合じゃねぇ!!!」
私はここ数日の無理が祟ったのか、ついに力尽きてしまい、巫女に捕まった
眠気か疲れか巫女の陰陽玉で殴られたショックからか、まったく定まらない視界には
心配そうに私を覗く針妙丸の姿と今にも泣きそうな表情のせいじゃがそこにいた
「あんたも無茶するわね、目の下も黒いし服もぼろぼろだし、少しは休んだらどうなの?」
んの野郎…休んでる暇なんか…ま…待てよ…思えばせいじゃと出会ってからというもの
まったく休む時間をとれていなかった気がする、ひょっとしてあのせいじゃの一言が私を突き動かし続けたのか?
それとも…
「ゆっくりしている場合じゃ…ゆっくりしていってね!!!」
ああ、私はドの付く阿呆だったらしい、最初からせいじゃは「ゆっくりしていってね!!!」と言っていたのだ
態々天邪鬼である私に合わせて「ゆっくりしている場合じゃねぇ!!!」と言い換えていてくれていたのだ
ちくしょう、こんなゆっくりにまで気遣われていたなんて…もっと素直にゆっくりしとけば……良かったのかな…
「…寝付いたわね、こいつどんだけ逃げ回っていたのよ…でもこれで一件落着かしら」
「ねぇ霊夢…」
「ええ、わかってるわ、とりあえず紫たちもこいつで遊んでいただけみたいだし、そこまで酷い目には遭わないでしょ」
「ならいいけど…」
「ほらせいじゃも来なさい、こいつを休める場所に連れてくから」
「…やなこった!!!」
「もう、せいじゃも意地張らないの、あんたも正邪が心配でしょ?付いてきなさい」
一つの異変が終わった、一人の天邪鬼が起こした異変、それに乗じたスキマ妖怪の戯れは天邪鬼が倒れる事により幕を閉じた
今もその天邪鬼は懲りることなく周囲への反逆を続けているだろう
その傍らには天邪鬼を模したゆっくりと時折やってくる小人の姫の姿もあったという
ありすアリスの人
最終更新:2015年06月23日 15:06