……風邪を引いた。
体が重く、鼻水は止まらず、熱も高い。
不幸中の幸いといったところか、仕事の原稿は仕上げているからゆっくり休める。
病院で風邪薬ももらったし、寝てれば治るだろう。
だが、こう独り身では少し寂しいのと家事は結局やらなきゃいけないところが辛い。
「おじさぁぁぁぁぁん!」
やかましく戸を開けて二匹の乱入者がやってきた。
そういえば、こいつらがいた。
ゆっくりれいむとおさとうさなえだ。
れいむはさなえの頭から飛び降りると俺の近くに涙目で近づいてきた。
「だいじょうぶ!?おねつさがった!?いきはしてる!?」
「息をしてなかったら、お前と喋れないだろうが」
「ゆっ!そうでした」
れいむが落ちついたところでさなえが細い手を俺の額にあてる。少しあてているとれいむに向かって手をふった。
「ねつがたかいんだね。おじさん」
れいむは先程の涙目とはうってかわって意志の強い顔で俺を見ていた。
「れいむたちがかんびょうするよ!だからおじさんはおふとんにはいってゆっくりしてね!」
「まぁ、気持ちはありがたいんだが……」
俺は二匹を見る。一匹は饅頭の少しでかいの。もう一匹はそれを縦長にして手足をつけたようなもの。
「お前ら…その…できんの?」
「ひどい!」
れいむがショックを受けた顔になり、さなえが顔色を変えてぽこぽこ叩いてきた。
「『しつれいな!おじさんのためならわたし、なんでもできますよ!』っていってる。れいむもおなじだよ!
きょうは、おじさんのためにげーむじっきょうもしないから!」
「お、おう」
こいつが趣味のゲーム実況をしないというのはかなりの本気だろう。ならば、甘えてみるか。
「それじゃ、お前らで買物いってくれないか?」
「おかいものだね。わかったよ」
「とりあえず、インスタントのおかゆと惣菜を買ってきてくれ。
お前らのご飯はパックのご飯あるからそれ買ってこい。お釣りでお菓子を一つぐらいなら買ってきてもいいぞ」
「おかゆとそうざいだね、わかったよ」
念のため、メモ帳に買うものを書き、お金と買物袋を二匹に渡す。
「いつも行ってるスーパー分かるな。あそこならゆっくりも入れるし、分からない事があったら
近くの店員に聴けば分かる」
「りょうかい!それじゃさなえ、いくよ!」
れいむは買い物袋をくわえ、さなえの頭に飛び乗る。
さなえは屈伸を二度ほどすると、すごい勢いで走って行った。
「……お前ら、戸は閉めろよ」
仕方なく布団から出て閉める。気持ち苦しいので少し寝る事にしよう。
俺は布団にまた入りこんで、目をつむった。
「おじさん、おじさん?」
布団の妙な重みで目が覚めた俺はれいむが布団の上ではねているのを見た。
どうやら、買物は無事すませたらしい。
「おかゆ、かってきたよ!」
布団の横にはさなえが買い物袋をかかげている。中には言った通りおかゆと、れいむ達用のご飯。
そしていくつかの惣菜が入っていた。
「よし、ありがとな。後は俺が自分で料理するからお前らは待ってろ」
「だめだよ、おじさん!おりょうりもれいむたちがするからゆっくりしてね!」
布団から起きようとする俺を二匹が止める。
「とはいっても、れいむ。お前じゃ、レンジとかも扱えないだろうが」
「ボタンをおすのはさなえにおねがいするよ。もっていくときだけれいむがもつからだいじょうぶだよ」
さなえもうなづき、細い腕に力こぶらしきものを作る。少々心配はあるが、ここは甘えるとするか。
「分かった。ボタンは『1分』って書いてるところを二回押して『調理』ってとこを押せ。それで分かるな」
「わかったよ。じゃさなえ、おじさんのためにうでをふるうよ!」
二匹は勢いよくおかゆのパックを持っていった。まああいつらは読み書きは出来るし
ボタンを押すぐらいなら、子供でも出来る。
安心だろうと思い、俺は再び目をつむった。
―爆発音が聴こえてきた。
「……」
聴きたくなかった。
このまま意識を手放したいところだが、そうはいかない。俺は重い体をひきずるようにキッチンへと向かう。
「お前ら、今の音は―」
「おじさん、できたよ!」
笑顔のれいむがそこにいた。レンジも別におかしくはなってはいないし、
れいむやさなえが焼き饅頭になってる様子も無い。
ただ、なぜか異様におかゆが湯気をたてている。
「れいむ」
「なに?」
「正直に言え。さっきの爆発音は何だ?」
れいむの顔が一瞬真顔になり、やがて視線をそらした。
「れ、れいむとさなえがだんまくごっこを―」
「
ゲーム一週間禁止にするぞ」
「すいません、おかゆをおいしくなるようおまじないをかけてました」
平謝りする饅頭二匹。
「おまじないってまた……ボタン押し間違えただけでも、あんな音はしないからびっくりしたぞ」
「ご、ごめんなさい。おじさんおかゆたべるだけなら、えいようつかないかなっておもって」
「余計病気になっちまうよ。ほれ、飯にするぞ」
俺は湯気が未ださめないおかゆを持ち、二匹を連れて自分の部屋に戻ることにした。
「んじゃ、いただきます」
「いただきます!」
れいむは皿に盛り付けた飯、さなえは俺が昔使ってきたお椀に飯を盛り、飯を食う。
おかずには魚の煮たもの、ポテトサラダ、後二匹はしっかりと自分用にチョコレートを買ってきていた。
「おじさんが作るごはんもおいしいけど、たまにはいんすたんともいいね!」
「まあ、味が違うからな。何ならいっつもこれにするか?」
「おじさんのりょうりのほうがおいしいのでおじさんのがいい!」
さなえも飯をかきこみながらうなづく。こいつらこういう時だけ調子がいいのだから。
「まあ、褒めてくれるのはありがたいがな」
俺もおかゆを口に入れる。普段食べている飯よりかは若干柔らかいが病気の俺にはいいだろう。
それに、このピリッとした辛み。
……辛み?
「おい、れいむ」
「なに?」
「カレー味のおかゆって、俺、始めて食うんだが……」
「ほ、ほらおじさん、かれーだいすきってきいたから」
「……」
「『かれーはえいようかがとっぷのものです!のこさずたべてくださいね!』ってさなえもいってる」
「カレー確かに好きだけど、病気の時に食うものか?」
「ごめん。れいむもそこまでかんがえてなかった」
こいつらの『おまじない』とやらが何故かカレー味になるのかは分からない。
栄養価はともかく、こいつらの思いを無下にするのもどうかと思ったので気にせず食う事にした。
「よく噛んで食べりゃいいか……」
気のせいか、カレー味のおかゆは発汗作用があるのかよく汗をかいた。
「じゃーん!にあってる?」
「いや、お前らどこから持ってきたんだよ……」
飯をすまし、薬も飲んだので、寝ようとしたところれいむ達がやってきた。
頭にはご丁寧にナースキャップをかぶってきている。
「俺、そろそろ寝ようと思うんだが」
「そのまえにすこしでもせいけつにしなきゃだめだよ。さなえ、おねがいするね」
れいむが言うとさなえが手にタオルを持ってきていた。
「れいむはできないけど、さなえがおじさんのからだふくからきものをぬいでね。
おふろはいれないんでしょ?」
「そうだけど、お前よく知ってるな」
「このまえ、うどんげにおしえてもらったの」
そういえば、行った病院にうどんげがいたな。看護師の手伝いなのか子供の患者に声をかけていたのを思い出す。
あそこのゆっくりなら、そういう事も言うかもしれない。
「んじゃ、お願いするかな」
俺は服を脱ぐと背中をれいむ達に向けた。温かく、気持ちいい感触が伝わってくる。
「『おきゃくさまー、いいせなかですねー。おしごとなんですか?』だって」
「何かいかがわしい店みたいだぞ、それ。またどこで覚えたんだか……」
「ないしょだよー」
「何だよ、ゆっくりにも内緒の事なんかあるのかよ」
「まちのゆっくりたちにも、まちのねっとわーくがあるからね」
すげえな、ウチの町内。
背中をさなえに拭き終わってもらうと、れいむが気を利かせてくれたのかスポーツドリンクを持ってきてくれた。
ゆっくりと飲むと今度こそ寝ようと俺は布団に入った。
「んじゃ、俺寝るから。お前らも早く寝ろよ」
「うん、おやすみ。ゆっくりやすんでげんきになってね。れいむたちのごはんだいかせぐために
ばんばんほんをかいてもらわないと」
「へいへい。そうしますよ」
「では、よくねむれるようにれいむがこもりうたを―」
「いや、それはいらん」
「『わたしをまくらにどうですか?』ってさなえがいってるけど」
「気持ちいいのは確かだが、変な夢見そうなんで遠慮しとく」
「ゆう。じゃ、れいむたちも寝るね」
「おう寝ろ寝ろ」
れいむ達は自分達の寝室に向かおうとする。
「れいむ、さなえ……ありがとな」
れいむは振り向くと
「どういたしまして!」
と笑顔で答えた。さなえもうなづいている。
れいむ達がふすまを閉めるのをみて、電気を消す。
「まあ、ゆっくりできたかな……」
そう呟くと、俺はすぐに眠りについた。
- 僕も最近風邪気味だからゆっくりに看病して欲しいです。枕元でゆっくりしてるだけでいいから。 -- 名無しさん (2015-12-06 11:56:29)
最終更新:2015年12月06日 11:56