episode01

コケコッコー!
庭から雄鶏の雄叫びが聞こえる
鶏は大体決まった時間に鳴くので、目覚ましには丁度良い

布団から身を起こし、一つ大きな伸びと欠伸をして土間へ向かう

カマドに火を入れ釜を置き、二合分の米と水を入れる
今日一日の主食だ
そして、朝食とお昼の弁当のおかずを準備する


コトコト・・・
白飯が炊け蒸らしに入ると、あたりにご飯の良い匂いが漂いだす
庭からは、コッコッコッと鶏達が庭を散歩している声が聞こえる
毎朝ココで展開される光景になっている

と、いつもは聞こえないノイズが突然聞こえだす
コケー!
この声は、雄鶏が何かを威嚇している声だ

我が家は森が近いため、稀にヘビやイタチが鶏卵やヒヨコを狙って庭に入ってくるときがある
そういう時決まって雄鶏が威嚇声を上げ、おいらが家から庭に飛び出すのだ
今日もその例に漏れず、手近にあった木の棒を手に取り土間をダッシュで庭に向かう

そして、ソコにあったものに思わず怯む
何せ人の頭二つ、涙目でそこにあるのだ
驚かないほうが変だ
何でそんなものが庭にあるのか、物陰に隠れながら良くよく観察してみると、なんと頭だけでモゾモゾ動いている
二つの頭がお互い後頭部を押し付け合い、その周りを鶏達が取り囲んでいる格好になっている
コッチから見て手前側、赤い髪飾りをつけてるのが見て取れる
対して奥には、黒い三角帽子を被ったのが見える
そして、『ゆ、ゆ~』なんて声を挙げ、涙目で鶏と睨み合っている

まぁ、ココは妖怪が跋扈する土地だ・・・こんな変な妖怪が居てもおかしくはない
そう思い、何とか持ち直す
そうなると、今度は鶏達をこのままにしておくわけにはいかない
このまま襲っちゃって、この妖怪に逆襲されるのが怖いのだ

『ほらほらお前たち、危ないから近づくんじゃない』
そんな声をかけながら鶏達の囲いの中に入り、鶏たちを散らそうとする
しかしどうにも散る様子がなく、不審物を強く警戒したままだ
埒があきそうに無いので、足元にいる二つの頭部を両脇に抱えこむ
何が起こったか分からない表情をしているのを無視してそのまま縁側まで行き、上に置いた
縁側は鶏には絶対に上らないように教育してあるので、ここなら安全だ

鶏達は暫く縁側の上の二つの物体を睨んでいるが、コー・・・と不満げな声を挙げながら散っていった
そんな庭の様子を、二つの物体は身を寄せ合いながらどうしていいか分からない様子で見ていた

『ゆ、ゆゆ、ゆっくり!ゆっくり!』
そんな声をかけてきたのは、赤い髪飾りのほうだ
人間の言葉をしゃべってきたのには驚いたが・・・何が言いたいのか分からない
『ううーん』
とりあえず助けたものの、頭を悩めてしまう
『おまいさんたちは、どこから来たんだい?』
『ゆっくり!ゆっくり!ゆっくりしていってね!』
『名前はなんていうんだい?』
『ゆっくり!していってね!』
終始そんな按配だ
とりあえず中途半端に意思疎通が出来るみたいなので、呼称を考えないとややこしそうだ
赤い髪飾りをつけ盛んに話をしている方、博霊の巫女さんにとてもよく似ていた(とっても失礼)ので『ゆっくりれいむ』と呼ぶことにした
対して、黒い三角帽子をかぶり辺りをきょろきょろしている方は、里中心部付近に店を構える霧雨道具店の一人娘によく似ていた(やっぱり失礼)
確か、家出同然に家を飛び出して森の中で生活しているという噂で、その名前を取って『ゆっくりまりさ』と呼ぶことにした

体中に残っている傷を見ると、比較的新しいものが多い
といっても、この家の近くには自生していない植物の葉がくっついてたりしてる
コレは推測なのだが、こいつらは少し離れた所から一昼夜さ迷いながら森の中を抜けてきたのではないか
そして、森が開けたと思ったら突如として鶏達に囲まれたのではないか
じっくり観察してみるとこの二つ、妙にほほが扱けていた
見た感じ、もう少し丸い形状をしててもおかしくない、そう思うと一つの事柄が思い浮かんだ
『お前たち、ちょいとココで待ってろ』
そう言い残し、庭から土間へ駆け込んでいく
庭では雄鶏が興味無さげな振りをしながら二つの物体の動向を伺っていたが、縁側に上がることは無いだろう

土間に駆け込むと飯台を取り出し、水をぶっかけ馴染むまでの間に釜の様子を見る
『よしよし』
そう声をかけたくなるくらい、しっかりと炊き上がっていた
飯台の水を流し、釜のご飯を全部その中に取り出すと猛烈な量の湯気が一気に立ち上り、ヤケドしそうになる
湯気をかわしながら、団扇であおいでご飯を冷ましていく
ある程度さめたら手に塩をつけお握りを作りだし、六つほど出来上がるとソレを持って庭から縁側に回りこんだ

縁側では、相変わらず不安げに二つのゆっくりたちが身を寄せ合っていた
『お前たち腹が減ってるんだろう、コレを食え』
そういいながら、二つの前にお握りを一つづつ小皿に置いて出してやった
突然だされたお握りを、二つはただじっと見ていた
食べ方が分からないのだろうか、それとも見込み違いか?
そう思いながら、自分の分を頬張る
コレがおいらの今日の朝ごはんだ

自分の分を一個食べ終わっても、ゆっくりたちは食べる気配が無かった
ためしに、ゆっくりれいむの前にあったお握りを手に取り口元に運んでみた
ゆっくりれいむが、コッチを見ながら恐る恐るお握りを半分ほど頬張る
『お、おいしー!』
ゆっくりれいむがとたんに目を輝かせ、残りの半分もおいらの手ごと齧り付いた
ビックリしたが、歯が無いのか柔らかい湿った感触だけが手に残った
『ゆ!ゆっくり!ゆっくり!』
そういいながら、ゆっくりまりさも目を輝かせている
どうやら、お握りを知らない上食べ方も分からなかったようだ
『ほれ』
そういいながら、ゆっくりまりさの前にあったお握りを手に取り、口元に近づける
ズリっと体(頭?)を動かし、お握りを半分ぱくっと食べる
『お、おいしー!』
ゆっくりまりさも同じ反応をした

ゆっくりまりさが一個食べきると、ゆっくりれいむが近づいてきた
動きを見ていると、ハトが頭を前後に動かすように上半分くらいを前後に強く揺らし、その反動で滑っているようにみえる
底面に傷が付いたりしないのだろうか・・・今度、ひっくり返して底を調べてみよう・・・そんな風に思った
もう一つ欲しがったので、皿からお握りを取り同じ様に両方にあげる

お握りを二つ食べて満足したのか、縁側で日がぽかぽかあたって気持ちよいのか、はたまたゆっくりして今までの疲れが出たのか、二つのゆっくりは眠そうにしだした
『眠いのか?』
そう聞くと、ゆっくりまりさのまぶたが閉じていく一方、ゆっくりれいむのほうは必死に起きていようとしている様子だった
『少し待ってろ』
そういい、縁側から家の中に入り、ちゃぶ台の周りにあった座布団を取り縁側に戻ってくる
座布団二つを日向に置き、二つのゆっくりをその上に乗せた

『ゆっくりぃ~~』
そう気持ちよさそうに言いながら、ゆっくりれいむは眠りに落ちていった
ゆっくりまりさは、既に夢の中の様だった

『さて、どうしよう・・・』
おいらは、気持ちよさそうに眠りに落ちていった二つのゆっくりを眺めながら天を仰いだ

ゆっくりとおいらの生活はこうして突然幕を開けたのだった-----



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最終更新:2008年09月23日 19:29