episode02

さて、縁側で座布団の上で静かに寝息を立てるこの謎の生物をどうしたものか・・・
縁側で、抱え込むと少し小さい丸い物体を二つ見ながら考える

そもそも、こいつ等は一体何なのだ
そうだ、と思いつき家の中に駆け込む

少し前に、御阿礼の子が書かれた妖怪について纏めた本を買ってあるのだ
最近は妖怪が人を襲うことが減っているので、あまり開くことは無いのだが知識として覚えておいて損は無いと思い、買っておいたのだ
縁側に戻り、まだ上りきっていない日を浴びながらページをめくる

夜雀のページを見、最近行ってないと思いつつ、ヤツメウナギの味を思い出す
夜雀の焼くヤツメウナギはとても美味しいのだ
闇の妖怪のページを見、先日野菜を上げてお礼を言われたのを思い出す
闇の妖怪は、おいらの畑の付近に年に数度ほど現れるのだ
その妖怪が現れるようになってから、いのししによる畑の被害が激減した
見た目が可愛いし、礼儀正しいし、害獣も追い払ってくれるみたいだし、いい妖怪だと思う

そうしながらページをずっとめくるが、この奇妙な物体の項目は何処にも無かった

うーん、本を閉じながら再び頭を悩ませる
危険な妖怪なのか、そうでないのか判断に悩む
ふと、家の反対側にある通りを窓越しに見ると、特徴的な帽子を頭に乗せた背の高い女性と、リボンを髪に沢山つけた女性が見えた
片方は慧音先生で、もう片方は自警団長の妹紅さんだ

『丁度いい』
そうひとりごち、土間を駆け抜けて通りまで掛ける
『先生!』
そう、去り行こうとする背中に声を掛ける
里の殆どの人は寺子屋に通ったことがあり、皆から先生と慕われているのだ
『ん、どうした?』
二人が歩みを止め、こちらを振り返る
うん、二人とも相変わらず美人だ
『先生、変な妖怪が現れたのでちょっと見てもらって良いですか』
そう言いながら、家の奥を指差す
『ほう、変な妖怪とな』
変な妖怪や動物が出たりしたときに慧音先生に相談を持ちかけるのは、里では良くあるらしい
生半可ではない膨大な知識が解決へ導いてくれるのだ
今回もソレを期待した

土間を通り抜け庭に回り縁側へ二人を誘導する
『なんだこりゃ・・・』
『むぅ』
二つの物体を見て、妹紅さんと慧音先生はそんな声を漏らす
『こっちは貧乏巫女にそっくりだな』
『んで、こっちは白黒魔法使いにそっくりだ』
妹紅さんは各々指差しながらそんな事をいう
『やっぱりそう見えますか』
おいらもそれに賛同する
『こらこら、失礼じゃないか』
慧音先生もそんな事を言いながら顔が笑っている
同じ事を思っているようだ
『何かゆっくりゆっくりと声を出すので、こっちをゆっくりれいむ、こっちをゆっくりまりさと今は呼んでます』
そういいながら頭をなでる
先ほどからお日様を浴びてるので、ぽっかぽかだ
なでられると『ゆゆ~』などと声を漏らす

『どれ、少し見てみるか』
慧音先生が腰を落とし、眠っているゆっくりれいむを両手で挟み込み静かに目を閉じる
見覚えのない動植物や妖怪に遭遇すると、こうして歴史を少し紐解いてもらい危険かどうかを見てもらうのだ
妹紅さんがソレを見ると、少し離れた縁側においらを引っ張っていき
『私たちはココで邪魔にならないようにしないとな』
そんな事を言いながら座る
『今年の野菜の出来具合はどうだ?』
『里の金物屋の娘が・・・』
慧音先生の歴史への問いかけが終わるまで、そんな世間話をした



『お茶のおかわりを入れてきますね』
慧音先生の問いかけは存外長く、おいらと妹紅さんは縁側の隅でお饅頭片手にお茶をしていた
空になった急須を手に土間に回り込むと、中に入ってた茶葉を新しいのに交換し、ヤカンに沸かしておいたお湯を急須に注ぐ
お饅頭も減っていたので、予備の幾つかを皿に乗せ再び縁側に戻る
すると、妹紅さんの横に慧音さんがにこやかに座っていた

『あ、どうでしたでしょか』
湯のみにお茶を注ぎながら慧音先生に聞いた
『うーん、それがな、見えないんだ』
渡された湯のみに視線を落としながら、湯のみに語りかけるように洩らした
『見えないってと、あいつ等の歴史がか?』
『ああ、最近の歴史はあの子たちの記憶から辿れるんだが、その先が無いんだ』
妹紅の問いかけにそう答えると、庭の奥へと歩いていく
そして、木の棒を拾ってきて戻ってきた
『歴史ってのは、当人を含めた誰かが何か書物に記録されて、はじめて成り立つ』
『ある程度古くなると記憶ってやつは変化してしまうもので、それじゃ役に立たないんだ』
『だから、当人の記憶が歴史として、まぁ正確には事実として使えるのは比較的最近のものだけで、ある程度古くなるとぼやけて見えなくなる』
『当人がはっきりと覚えていても、それには色々な意図や思いが混ぜられ変質してしまっているので歴史としては役に立たない』
『書物になっていれば、記述した人の意図が混入されては居るものの長い間にわたって変質することが無くなる』
『より多くの人が書いていれば色々な記述した人の意図を取り除きやすくなり、総合して歴史の姿が見えるようになるんだ』
そこまで地面に色々絵を描きながら一気に喋る
そしてこっちに向き直る
『はは、すまない、つい教師としての癖が出てしまったな』
そう赤面して舌をチロっとだした
『あの子たちは、少なくとも私が読んだ事のある書物には記録が無い』
真顔に再び戻ると、話しを続けた
『最近発生した妖怪なのだろうと思う』
『そんな突発的に沸いて出るものなのですか?』
おいらが慧音先生に質問する
『まぁ、そうだな・・・ありえないことでは無いことはないんだ』
『んでまぁ、慧音?結局こいつ等は一体何なんだ?』
妹紅さんが核心に一気に進む
『ああ、それがな・・・』
そういい、とあるトコロを指差す
その指先の更に先にあるものは・・・お皿に置かれた饅頭だった

全員が一瞬止まる
『え?これ?』
紅妹さんだけが短く声を出した
『そう、饅頭なんだ』
『あの子たちが持っていた記憶はここ数日だけのものだろう』
『森の中を跳ね回り、妖怪や動物から逃げ続けた記憶なんだ』
『そして、その際体にギッシリ詰まった餡子の心配をしたりしていた』
おいらは、言葉にならなかった
っていうか、饅頭みたいな食べ物が妖怪になるのか?
そう思わないでもなかったが、すらすら喋る慧音先生からするに、おそらくあるのだろう
『彼女(?)たちの仲間みたいなのは居るんですかね?』
『仲間と離れ離れになったとか、何処かに皆で住んでいたとか』
縁側の座布団の上で思いっきり気持ちよさそうに寝ているゆっくり達を見ながら、そう聞いてみた
『分からない』
それが答えだった
『効いた限りで分かるのは、どうやらあの子たちの立場は相当弱いのは間違いないみたいだな』
妹紅さんが縁側から立ち上がる
『まぁ、確かに饅頭なのじゃあねぇ・・・』

おいらはゆっくり達に近づき、頭をなでる
『ゆぐ~~』
今にも涎が出てきそうな緩みっぷりだ
『それで、どうするんだ?』
妹紅さんが、声をかけてきた
『どうする、といいますと?』
『そいつらを、だ』
そう言い、指差す
『野に放せば恐らく食われるだろうな、お前さんにはあまり関係は無いことだろうが』
『かといってそいつは妖怪だ、それを飼うか?』
野生動物を飼育するというのは、ちょくちょく耳にすることがあるが、妖怪を飼育するというのはあまり聞いたことが無い
ゆっくり達の頭を撫でながら、暫く考える
『このまま放したら、食べられちゃうんですよね』
『恐らく、な・・自然の摂理といえばそうなるが』
慧音先生が静かに言う
ソレを聞き、撫でる手が思わず止まる
『暫く飼おうと思います』
口に出た言葉がそれだった
『かわいそうじゃないですか、仲間も居ないんですよ』
『・・・そうか』
慧音先生は短くそう答える
かわいそうとか、そういう理由で飼うのはハッキリ言ってあまりよろしくない
だが、慧音先生には別の思惑があった
妹紅が何か言いかけるが、横でそれを察する

『短い記憶を辿る限り、この子たちは恐らく雑食だろう、そこの鶏と同じものでも食べるだろう』
おいらは、慧音先生から飼育についてのアドバイスを受け、メモを取る
『眠らせる時は結界の中に入れておくと良い、あの小屋みたいにな』
そういいながら鶏小屋を指す
おいらの家の鶏小屋には軽い結界が張ってある
外にある鶏小屋が、夜間低級妖怪に襲われ無いようにするためだ
中級妖怪の場合、下手に妨害すると家やおいら自身に危険が及んでしまう
そういう時は、潔くあきらめるに限る
それ以上の上級妖怪の場合は、そもそも襲うという事をしないのだ
丁度、棚状に切ってある小屋の最上部は空いてるのでそこを寝床にすることにする
『はい、そうします』
鶏小屋に近づき、最上段を確認しながら先生に答えた
少し掃除をすれば大丈夫そうだった
『でも、しばらくは室内でも大丈夫ですよね・・・鶏たちを慣らさないとならないので』
先生に向き直りながら言う
『ああそうだな。いきなり群れに変なのが入るのじゃ鶏のストレスがたまらないだろうからな』
ゆっくりたちに警戒の視線を向けている雄鶏に視線を向けながら、先生は答えた
『まぁ、そんなところだな』
他にも何点か飼育方法を聞き、全てメモに取った
『ありがとうございます』
おいらはそう言い、頭をさげる
『私たちもたまに見に来させてもらうよ、なにせ一応曲がりなりにも妖怪だからな』
そう慧音先生は言い残し、おいらの家を後にした

『なぁ、慧音?』
少し家を離れたトコロまで歩いた頃、妹紅が切り出してくる
『まぁ、言いたいことはなんとなくわかる。』
『妖怪の飼育は良くない、とそうだろう?』
慧音は視線を前から変えずにそう返した
『ああ、あの姿は仮でどんな本性を持っているのか判った物じゃないからな』
妹紅は少し不満げな表情だ
『まぁ、野うさぎにまで追われるような弱さでは、そうそう何も出来ないよ』
『それに、こっそり護符を貼ってきた。』
そう言いながら、懐からお札を取り出し見せてきた
里でも売っている、安価で簡易的な護符だ
それに、おそらくオリジナルであろう強化の印が刻んである
『外から気配を取られないように、そして内側からも気配を探れないように』
『さらに、内部の妖怪の力をあまり強まらせないようになっている』
そういい、妹紅からお札を受け取ると再び懐に仕舞った
『後で里の古本屋と図書館と・・・そうだな、紅魔館のところの書物も調べてみよう』
『里から夕方の定期鳥便を出しておけば、明日朝から行くことが出来るだろう』
慧音と妹紅はそんな話をしながら里への道を歩んでいった



名前:
コメント:

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年09月23日 19:29