暗い夜道を男は走っていた。走って逃げていた。 
そんな男が、屋台の灯を見つけて安心するのは当然のことだ。 
男は息を切らせながら屋台に入ったが、屋台のオヤジは男を見る事も無く、 
「どうしたんだい、お客さん。そんな慌ててさ。」 
と、背を向けて聞いてきた。 
「はあ、はあ……。いや、さっきあっちで恐ろしいもんみちまってさ……」 
男はそう言うと、途切れ途切れながらも話し始めた。 
男が夜道を歩いていると、道端で、女がしゃがみ込んでいる。 
どうやら泣いているようだ。「どうしましたか?」 
男がそう声を掛けると、女はこちらを振り向いた。 
すると…… 
「ゆっくりしていってね!!!」 
そう言った女の顔は、先程の後ろ姿の頭とは一致しない、大きさで、 
下脹れで鼻のない、目の形も異様な、世にも不気味なものだった。 
「不気味?」 
話の途中でオヤジが聞き返す。 
「兎にも角にも、不気味なんですよ。けど……あれをどう説明すりゃあいいのか……。」 
「簡単ですよ、そりゃ。それよりも……」 
背を向けていたオヤジが振り向いた。 
「ゆっくりしていってね!!!」 
男が気を失うと、ふっ、と屋台の灯が消えた。
――
ゆっくり怪談の人
最終更新:2009年05月04日 21:44