※今回、ゆっくりはほとんど出てきません。人間中心のSSになってしまいました。
また、倫理観が渦巻く鬱な内容です。
きずな③~難関~
眠ってしまっためーりんを眺めながら、進は溜息をつく。
「はぁ…母さんになんて言おう…」
進の母親はゆっくりをあからさまに嫌っている。進はそんな話を本人から良く聞かされていた。
そのエピソードの一つを綴ろう。
それは母親が、買い物へ行き、かなりの時間を掛けて帰宅してきた日のことである。
「母さん、遅いよ~。お腹空いた…」
「ごめん、ごめん。ちょっとね…」
母親は平謝りの後、すぐに台所へ向かおうとしていた。進はどうせ、近所の主婦達との世間話に花を咲かせていたのだろうと予想しつつ尋いてみた。
「なんで遅くなったのさ?」
その答えは予想とは全く異なるものだった。
「いや、それがね。実は食べ物を要求するゆっくりの一家に遭遇しちゃってさあ…」
以下、要約したものが母親の話した内容である。
くれてやる食べ物はないと言った後、無視して去ろうとすると『ばばあ』、『ゆっくり氏ね』だの言ってきた。饅頭の分際で、と腹が立ったので子まりさを踏み潰してやった所、母親まりさが攻撃。面倒だった為、食べ物をやるからついて来いと伝え、ゆっくり達を橋の上に連れて来させると川の中へ投げ飛ばしてやった。
そんな恐ろしい母親の姿を脳裏に浮かべた進はぞっとする。
「…母さん、…その…命をむやみに奪うのは…」
そんな進の諌める言葉を遮り、興奮気味に拳を突き上げ語り始める。
「いい、進。ゆっくりには命なんてない。あいつらは人間を馬鹿にしたしゃべる饅頭…いや、ムシケラ以下の存在よ。ゆっくりはね。死んで当たり前なの。あんなものを生き物を見なすだなんて、虫達…いえ、命すらないその辺の石に失礼なのだ!!!で、あるからして。我はゆっくりを駆除すべく…………(ry」
「…あの後、同じことずっと繰り返し怒鳴られて…30分位説教続いたっけ…」
進の母親は普段、非常に温厚だと専らの評判だ。それが、ゆっくりという単語を見たり、聞いたり、臭ったりするだけで豹変してしまう。
「…母さん、なんであんなにゆっくりを嫌ってるんだろ?」
あれだけ嫌っているのはある意味病的である。過去にゆっくり絡みで何かあったのは明白だ。
進は考える。
確かに確かにゆっくりは人を攻撃し、畑を荒らし、人の家に勝手に入り込み、仕舞いには自分の家にしようとする。他にも、仲間を平気で迫害したり―――そう、この子めーりんが虐められていたように―――共食いすら平気でするという話もある。だが…
「でも…ゆっくり全部がそんな奴等って訳じゃあないと思うんだけどなあ…」
目の前にいるめーりんは、虐めに耐えてるだけだった。相手への仕返しなど何もする気はなかったことだろう。(力差の為一方的な攻撃ではあったが)ドスまりさという巨大なまりさは常に群れの仲間を大切にし、人間共良好な関係を築こうと努力すると聞く。めーりんを虐めていたゆっくり達ですら、仲間が傷ついた時には本気で心配し、見捨てないでしっかりと助けた。他にも農家の野菜を守るゆっくりもいるらしい。
ゆっくりは全て悪―――それは、傲慢な人間による固定観念に過ぎない。
進はふとめーりんに視線を向ける。実に幸せそうな表情を浮かべ眠っている。少なくとも、このめーりんには害は何も無い。それが進に確信できる唯一のことであった。
「うーんと…やっぱり母さんにばれるのはなあ…」
もしかしたら、家の外へ投げとばされる…いや、虐待…あるいは虐殺されてしまうかもしれない。恐ろしい想像が脳裏を過ぎり、背筋が凍る。そして過ぎった光景をかき消すように首を横に振った。
「でも…この子だけは…僕が守り通してあげなくちゃ…」
静かに、しかし心の中では重くそう誓う進であった。
「とにかく…しばらくはこの子を隠しておこっと…」
めーりんを守るならこれが最も良い選択肢なのかもしれない。
現在午後4時30分。とりあえず暇なので学校の宿題を済ますことにした。
――― 一時間半経過 ―――
「JAOOOOO…」
眠る前のような大きなあくびを伴いめーりんが目を覚ます。進はそれを見届けて時計に目をやる。 ―6時7分過ぎ―
と、母親が大声で進を呼ぶ。
「進ー!ご飯よー!!」
進はその声にはっとなる。…そうだ、めーりんの夕食はどうしようか… ゆっくりと考えたかったものの、急がないと母親が部屋に来てしまう。
「めーりん、悪いけど、ここで静かに待っててね。後で、食べ物持ってくるから…」
「JAOOOOO!!」
めーりんを残し、食卓へと向かう。この時、少年は冷蔵庫の中の野菜を適当に取り繕ってめーりんに食べさせてあげるつもりだった。
食卓には母親と進の二人だけであった。断っておくが、何もこの二人だけの家庭ではない。父親、そして姉がいる。
だが、父親はたいてい8時過ぎにしか帰宅せず、姉は今春から大学生となり上京している。
慣れたとはいえ、二人だけの食事も少しもの寂しいものだ。進は平生頗る無口で、食事の際も母親の話に相槌を打ったり、頷くだけで時が進んでゆく。
「あ、そういえば進、」
母親が何か思い出したように話かける。
「何?母さん。」
「進、今日、家に帰った時に何か持ってなかった?」
いきなり核心を突かれ、進はご飯を飲み込み咳き込んでしまった。
「ゴホッ…!!ゴフッ…!…な、ななな、何のこと?母さんの見間違いじゃないかな?」
その咳き込みといい、ごもり方といい…何か隠しているのは明確だ。10年以上そだてた息子のその不審なサインを親が見逃す筈はない。
「ふーん…あ、そういえば何か帰ってから変な声が聞こえるのよねぇ…」
(まさか…)
進はうろたえる。変な声…進が知っているのは”あの”声しかない。それでも必死に平常心を装う。
「へ、へえ~。ど、ど、どんな声なの?」
「うーんとねぇ…犬でも猫でもない…変な鳴き声よ。確か…『JAOOOO!!』って聞こえたような…」
進は絶望する。これは、もうどうみてもばれている。絶対に…だが、ここで取り繕わなければ…
「ははは…はは…最近の犬はそんな鳴き声するらしいよ。今日、先生がHRで言ってたっけ。最近、いのししがこの辺に出現して、そのいのししと犬との間に合いの子が生まれたらしいよ。…えっと…名前は…い、いぬ…しし…そう!いぬしし!!そんな新種が生まれるなんて。いやー世も末だねえ。はっはっはっ。」
カンペキだ…進は心の中でガッツポーズした。これは絶対に誤魔化し切ったと。
―――しかし、現実はそれ程甘くない―――
母親はニコリと微笑み、進に優しく語りかける。その笑みは穏やかな筈なのに…蛇に睨まれたように固まらせてしまう魔力があった。
「進、ウソは関心できないわよ。素直に吐いちゃいなさい。」
「う、ううう、ウソなんて、ついてない!!ホントだよ!」
「うそよ…だって…」
決定的な一言を告げられる。
「あなた…普段は岩みたいに無口なのに、ウソ付く時だけ、こんなにもお喋りさんになるもの。」
とどめを刺された…進がしまったと後悔するが時既に遅し。このあたり親には勝てない。
「で、何を連れて来たの?ちゃんと言いなさい。」
有無を言わせない重圧が放たれる。
「はぁ…生き物だ「どんな?」
母親にとって進が生き物を連れて帰ったのは周知の事実。
「それはもう、知ってるの。母さんが知りたいのは、『そ・ん・な』の部分よ。」
ささやかな抵抗はいたずらになりけり。進はとうとう観念した。
「…怒らないでよ…」
「…種類によるわね…」
進はためらうように重々しく口を開く。
「…ゆっくり…」
ぼそっと囁く程度の大きさだったが、母親には十分聞こえているだろう。その証拠に手がワナワナ震えている・
「ゆっくり…です…って?」
進は不穏な空気を肌で感じ、やはり話すべきでなかったと後悔する。
「…で、進はそのゆっくりをどうするつもりなのかな?飼ったりするのかな?…母さん、怒らないから正直に話してね。」
(うわ…すでに怒ってるよ…)
ここに来て母親に媚ようかと一瞬思ったがすぐにかき消した。
「…一緒に…暮らすつもり…」
そう答えるや否やバンッ!!という凄い音がする。母親が鬼の形相で進むを睨み、テーブルを叩きつけたのだ。
進は思わず息を呑み、動きが完全に停止する。
「…一緒に暮らすですって…?ゆっくりを…?…」
母親の表情を一言で形容すると『鬼の形相』が適切だろう。明らかな怒りが伝わってくる。噴火一歩手前といった様子だ。進は萎縮してしまい、震えることしかできなかった。
―――ついに、限界点が来た―――
「この愚息め!!ゆっくりを飼うだなんてなんて馬鹿げたことを!おのれ…許すまじ!!今すぐそいつを殺してやる!」
母親のスイッチがONとなった。立ち上がりそう叫ぶとすぐに進の部屋に向かう。
「あ…あ…」
進は声を発することが出来なかった―――止めて!―――この一言すら。いつもの進むならこれで終わっていただろう。…だが、
(めーりんが…めーりんが…殺されちゃう…!!)
僅かな一握りの勇気を振り絞って進も立ち上がる。そして思い切り叫んだ。
「めーりんは…めーりんは…もう、僕の友達だ!!殺さないで!!」
進の叫びに母親の動きが止まる。
「ゆっくりが…友達…?何を馬鹿なことを言ってるの?そんなの、母さん、認めないから!!」
そう言われても進はもう退こうとしない。寧ろ睨み返した。…今にも闘いが始まりそうだ。―――と、その時、
「ただいまー。」
玄関から声がした。父親が帰ってきたのだ。
「ふぅ…疲れた~…ん?どうしたんだお前ら?喧嘩でもしたのか?」
突然の父親の登場で緊張感が若干緩む。
「あなた…丁度いいわ、あなたの意見も聞きましょう。」
母親が応接間と二人を促す。
「んー。飯食いながらじゃ駄目なのか?俺、腹減ってるんだ。」
腹を擦りアピールするが無視される。
「ダメよ。とても真剣な話よ。私にとっても、進にとっても。」
進と母親は順に説明する。一通り説明が終わると父親が腕を組み唸る。
「んーーー。とりあえず話しは分かった。進はそのめーりんと一緒に暮らしたい。お前は断固反対。」
二人が同時に頷く。
「あなたはどう思うの?」
当然、私の主張は正しい。そんな言外のニアンスが含まれている。
「俺としては飼わせてやってもいいと思うぞ。」
瞬間、進むの顔がみるみる内に輝く。
「ホント?」
「ああ。」
当然母親は納得がいかず抗議する。
「ちょっと…あなた!!ゆっくりはただの害虫なのよ!?納得がいかないわ!」
その声は憤慨に満ちていた。父親はそれを宥める。
「まあ、落ち着けよ。なぁ、進。進は、他のゆっくりから虐められているめーりんを助けてやったんだろ?」
「う、うん…」
「それはな。とても難しくいことだと父さんは思うぞ。弱きものを助ける。口で言うのは簡単だが、いざ実践しようとしても中々行動に移せないもんだ。それをお前は勇気を振り絞って助けた。すごく立派だ。
「それは…そうだけど…でも、所詮、ゆっくりなのよ!?」
「喩え饅頭であっても生き物であることには変わらんだろ。それともなんだ。そのゆっくりはお前に何か悪いことでもしたのか?」
「…それは…まだだけど…」
「長い付き合いだ。お前がゆっくりを嫌っていること位分かる。だが、何もゆっくり全てが悪者って訳じゃねぇだろ?」
母親は反論できずに押し黙る。
「それにな、進が命の尊さを学ぶ良い機会だ。だから、オレは進に賛成だ。」
「父さん、本当にめーりんと暮らしていいの?」
父親は進むの頭を手で撫で、優しく答える。
「ああ、勿論だ。ただし、世話はお前がちゃんとしてやるんだぞ。母さんに迷惑掛けちゃ駄目だ。」
「うん!!分かった!!」
進と母親の表情は実に対照的であった。父親は拗ねるような母親の見て笑みをこぼすとしっかりフォローを入れる。
「お前も…もう、いいだろ?進がこんなに喜んでるんだ。」
父親の優しく諭す口調に母親は表情を緩めた。
「…そうね、私が大人気なかったのかもしれない…」
母親の目には元気良くはしゃぐ息子の姿が浮かぶ。…こんなにも嬉しそうにしている息子は何年ぶりに見ただろうか?…ゆっくりを飼わせるのは不本意ではあるが…その息子の明るい笑顔を見ると、そんなことなどまるでどうでもよくなるのを感じる。
「さて、じゃあ、夕食にするか!母さん、飯準備してくれ~。…あ、進、そのめーりんを連れて来い。一緒に飯食おうぜ。」
「うん、分かった!…その…父さん…ありがとう…」
息子のその感謝の辞がどこかくすぐったく感じる父親であった。
こうして、進むとめーりんの共同生活が始まる。その日の食卓は久しぶりに明るさが取り戻されたという。
~続く~
以上、ひもなしでした。
愛でスレにてアドバイスや感想をくださった方々、また、うpロダにて挿絵を描いてくださった方々、感謝申しあげます。
虐待自体はほとんどないのですが…どうしても使いたいと思った部分のみわずかに含めました。また、鬱な要素が多く愛で要素8割は難しいかもしれません…ですがなんとか皆さんが好めるように調整、努力をしたいと思ってます。
- 虐スレでやれ -- 名無しさん (2008-10-11 00:42:38)
- 普通の動物でもこういう反応する人居たりしますよね…まぁ内容に問題ないので此方でお願いします~次回はうpろだでw -- 名無しさん (2008-10-11 01:10:43)
- 八割ってのは勝手に誰かが決めた基準なので律儀に守る必要はないかと。大事なのは読後感だと思います。続き期待しています。 -- 名無しさん (2008-10-11 02:48:46)
- 愛で要素8割とか真に受けないように。大切なのは、ゆっくりのための物語であること。そして、あなた自身がゆっくりすること。このめーりんを幸せにできるのは、あなたしかいない。 -- 名無しさん (2008-10-11 08:58:58)
最終更新:2008年10月11日 08:58