『ゆっくり住み着いてるよ!』

『ゆっくり住み着いてるよ!』

都会でなくとも、今は余程の田舎で無ければ星は見えない。
そんな夜に僕は、家の近くの公園でぶらぶらしていた。
「ゆ!?どうしたの?おにいさん!」
そんな僕に声を掛けたのは、ここに住み着いてるゆっくりかなこだった。
「……ちょっと、お前らの家に入らせてもらっていいか?」
ここで言う「家」とは、この公園にある大きな滑り台のことだ。
かなこはそこに住み着いてる。
「いいわよ!ふたりともよろこぶから!!」
かなこの許可を貰った僕は滑り台の中に入る。
「おにいさんこんばんは!ゆっくりしていってくださいね!!」
「あうー!ゆっくりしていってね!!」
こいつらはかなこと一緒に住んでいるゆっくりさなえとゆっくりすわこだ。
「おにいさん、なんでこんなおそくにきたの?」
すわこが不思議そうに聞く。
それも当然だ。時刻はもう八時を過ぎている。
「……まぁ、ちょっと。」
僕はうつむいた。話すべきかどうするか。
「どうしたんですか、おにいさん。」
心配そうにさなえが尋ねた。
……こいつら相手では、愚痴にしかならないだろうけど、変に不安にさせるのも駄目かな。
「……母さんと高校の事で揉めてさ、家出したんだ。
僕の為とか言って、自分の見栄の為に進学校に行くように言ってるんだから、
僕が出て行って困ってるだろうね。……いい気味さ。」
僕がそう愚痴を言い終わると、
「おんばしらぁー!!!」
「ひでぶっ?!」
かなこの千歳飴が飛んで来た。
「よくわかんないけど、おやをこまらせていいきみだ、
なんてさいていだよ!!
ゆっくりはんせいなさい!!」
うう、ゆっくりに説教された……。
「まあまあ、かなこ。おにいさんだって、いろいろつらいんだよ!!
ここはゆっくりなぐさめてあげようよ!!」
すわこが優しくフォローしてくれた。
が。
「すわこ……あんたええかっこしいだよ!!」
「いいよ、かなこ。けっちゃくつけようか!!」
と、2匹とも体を押し付けあっての喧嘩を始めた。
『うりうりうりうりうりうり!!!』
……結局、僕は無視されたようだ。
そう思っていると、
「おにいさん。」
さなえが声をかけてくれた。

「わたしも、おにいさんのおはなしはよくわかりませんでしたけど、
おやごさんと、ちゃんとはなしあったほうがいいですよ!!」
さなえはそういうと、体ごと夜空を見上げた。
「ここからだと、おほしさまはみえませんけど、たしかにおそらにあるんですよ。」

……これは、ゆっくりに諭されているのだろうか。
僕が分かってないだけで、母さんは見栄なんかじゃなく、
僕を思って、進学校に行けと言ってるんだと。
でも……
そんな風に考えていると、
『すっきりー!!!』
という声が聞こえた。
見るとかなことすわこがヘブン状態になっていた。
喧嘩で体を押し付けあっていたら、いつの間にかすっきりしていたみたいだ。
「……あほらし。」
僕はそう呟いて、滑り台の外に出た。
「ゆ!おにいさん、どこへいかれるんですか!!」
さなえがそう言うと、かなことすわこも
「まだまだゆっくりしていくといいのに!!」
「あーうー!ゆっくりしていってね!!」
と言ってきた。
「もう帰るよ。やっぱ、母さん心配してるだろうし。」
僕がそう言うと、かなこは
かなこは自慢気な顔になった。
「ゆ!いいこころがけね!!
おかあさんをだいじになさいよ!!」
「分かった、分かった。じゃ、また明日、な。」

『またあしたね!!!』

三匹と別れた帰り道に空を見上げた。
夜空は相変わらず星空ではなかったけど、僕には妙に綺麗だと思えた。



  • さなえさん・・・ -- 名無しさん (2010-11-28 14:31:17)
  • すわこ可愛すぎ!w -- あほ (2011-12-11 11:57:03)
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最終更新:2011年12月11日 11:57