散歩に行ったっきりゆっくりまりさが帰って来ない。この時間になるといつも計ったかのようにおやつをせがむのに……。今まで当然のように放し飼いにしてきたが、問題だっただろうか。ともかく探しにいかなければ。
「まさか食べられちゃったなんてことはないわよね……」
簡単に支度を済ませて外に出た。
「ゆっくりー! いたら返事しなさーい!」
まりさと呼ぶのを他人に聞かれるとあっちの方と勘違いされそうだから敢えてゆっくりと呼んだ。まりさなら声でわかるはず。
「ゆっくりー! おやつよー! 今日はたい焼きよー!」
家から少し離れた場所を一通り探してみたが見つからない。これより遠くへ行ってしまったのだろうか。
「……」
本気で心配になってきた……
「…………ゅ」
「!」
「……ゅっ」
「まりさ!」
聞き間違えようはない、まりさの声だ。私は微かな声の元に向かって歩を速めた。
「まりさ! どこにいるの!」
「ゆっくり……」
この茂みの向こうからだ!
「まりさ! ここなのね!」
まりさを丸々包み込めるほどの茂みをかき分けると。
「まりさ! まりさ! もっとゆっくりしようよ!」
「ゆっくり……アリス?」
私の顔が、いや顔だけがあった。
「まりさ! まりさ! はぁぁぁん!」
「うっ、うえっ、ゆっくりやめてね!!!」
私の顔面はまりさに半ば強引にのしかかって頬を摺り寄せている。これは……襲われている? と、とにかく助けないと。まりさを覆いかぶさる私の顔面からちと強引に引き離した。
「うえっ、ぐすっ、ア゛リ゛ス゛お゛ね゛え゛さ゛ぁぁん」
可愛そうに、こんなに怯えて。外傷はないようだけど、果たしてどんなことをされたのだろう。
「よし、よし」
おでこの辺りを撫でてあげる。
「ちょっとおねえさん! そのまりさはアリスのものだよ! ゆっくりかえしてね!!!」
やはりこいつが原因か。
「そんなこと言ったって、まりさ嫌がってるじゃない。可哀想よ」
「いやよいやよもすきのうちよ!」
「……だそうだけど、どうなの、まりさ?」
「ありすきらい!」
「ゆっ!?」
「ひとのきもち考えないし」
う。
「じぶんかってだし」
う、う。
「ひとりよがりだもん!」
う、ぐ、ご。
「ありすはゆっくりしね!!!」
私のことを言ってるんじゃない、私のことじゃない
「……いだっ! いだいよおねえさん! 何でつねるの!」
「あ、ごめんなさい」
「ふん! 今日のところはこのへんにしといてあげるわ! でもおぼえてなさい! まりさにふさわしいのはありすなんだから!」
三文芝居にありそうなセリフを吐いて私の顔面は跳ね去った。捕まえて懲らしめてやる気は湧いてこない……
「帰りましょうか、まりさ」
「うん!」
もう空は赤い。
「おやつどころか夕飯の時間ね……今日は何にしようかしら」
「まりさ、おねえさんといっしょなら何でもいいよ!」
「そう。嬉しいわ。うふふ」
まりさを抱いて帰るのは出会った時以来だ。
「お、ゆっくりアリスじゃん」
「魔理沙おねえさん、こんにちは!」
「ああ、こんにちは……ってより、もうこんばんわかな?」
「おねえさんなにしてるの?」
「今から霊夢のところで夕飯御馳走になるんだ。お前も来るか?」
「行く! 霊夢おねえさんのご飯おいしくて好き!」
「お前は素直でいい子だなあ。ほれ、抱っこしてやるよ」
「わーい!」
「ありすね、好きなゆっくりができたの」
「へえ。モノにしたか?」
「じゃまする女がいるの」
「そりゃ困ったな」
「でもありすあきらめない! ぜったいモノにするの! いっしょにゆっくりする!!!」
「そうかそうか、まあ頑張れ。応援するぞ」
「ありがとう、魔理沙おねえさん!」
- なんてシュールな -- 名無しさん (2008-10-30 23:05:02)
- アニメ化か漫画化して欲しい話だな -- 名無しさん (2010-11-27 14:18:56)
- 腹いてぇwwww -- 名無し (2011-03-19 01:37:50)
最終更新:2011年03月19日 01:37