うーちえん・下

   *   *   *


日もだいぶ沈み、窪地を紅く照らし始めた頃。
れみりゃは、岩を背もたれにして、座り込む。
満足げな笑みの浮かんだ顔は上気し、額には汗を浮かべている。

「つかれたから~ちょっとゆっくりするどぉ~♪ えれがんとなあふたぬぅ~んだったどぉ~♪」
「ゆぅ~ちゅかれたねぇ~」
「でも、とってもゆっくりできたよ!」

れみりゃの傍らには、同じく汗を浮かべて息を荒げる子ゆっくり達。
遊び疲れて、一同は楽しかった一時を反芻しながら休憩していた。

「「「ちぇんちぇ~~♪」」」
「うー?」

れみりゃが振り向くと、そこには数匹の子ゆっくりと赤ちゃんゆっくりがいた。
そのゆっくり達の上に、草で編んだお花の冠が乗っていた。

「う~しゅごいどぉ~♪ かぁーわいいどぉー♪」
「とってもゆっくりしたかんむりだよ!」
「れいみゅたちじゅっとがんばってちゅくっちゃんだよ!」
「おそくなっちゃったけど……」

「「「ちぇんちぇーいつもありがとうー!」」」

そう言って、子ゆっくり達は、お花の冠をれみりゃに渡そうとする。

「……うー、いいのぉー?」
「ゆぅ~ん、きっとにあうよ!」
「まりさたちからのおれいだよ!」
「えんりょしないでかぶってね!」
「うー♪ ありがとうだどぉー♪」

れみりゃは、子ゆっくり達から冠を受け取り、それを自分の恐竜頭の上に乗せる。
花の冠は、ちょうど恐竜頭のでっぱっている部分にフィットした。

「ゆぅ~~! ちぇんちぇーとってもよくにあってるよ!」
「とってもゆっくりしているよ! おひめちゃまみちゃい!」
「うっうー♪ れみりゃおひめちゃまになっちゃったどぉー!」

感激し、喜ぶれみりゃ。
子ゆっくり達も、自分達で作った冠がほめられて嬉しそう。
それは、とてもゆっくりした、"うーちえん"の光景だった。


だが。
それは長続きしなかった。

ゴゴ。

「う?」
「ゆぅ?」

最初、遠くで何か音が聞こえた気がして、
れみりゃ達はふと違和感を覚えた。

ゴゴゴ。

「なぁーんのおとぉー?」

首を傾げるれみりゃ。
その間にも、音は大きく近くなっていく。

ゴゴゴゴ。

「ゆ、ちぇ、ちぇんちぇー、にゃんかこわいよ」

だんだん明確になるその音に、子ゆっくり達はおびえだす。

ゴゴゴゴゴ。

「み、みんな、れみりゃのそばにあつまるんだどぉ!」

音は止むことなく、強くなる一方だ。
れみりゃもさすがに危険を感じ、子供達を自分のそばに集める。

ゴゴゴゴゴゴゴ。

「ゆーゆー! ゆーゆー!!」
「うあ、うあ、うああっ、ざ、ざぐやぁぁぁー! たしゅげてぇー!」

大きくなる音、それはもはや轟音といって過言でなかった。
いままで聞いたことの無い轟音に、れみりゃも子ゆっくりも怯えるしかない。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。

「じ、じめんがぐらぐらだどぉー!! こあいどぉーーー!!」

踞り、両手で頭を抱えて叫ぶ、れみりゃ。
そう、その轟音は地鳴りだった。
あたり一帯を、強烈な地震が襲ったのだ。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。

「うああーーっ! うああああーーっ! ざぐやー! なにじてるんだどぉー!」
「ゆぁぁぁぁぁぁーーーーん! おかーしゃーーーーん!!!」
「じめんさんゆっくりしないでゆれないでぇぇぇぇーーー!!!!」
「これじゃゆっくりできないよぉぉーー!」

激しい地鳴りの中、身動きが取れずその場で叫び続けるゆっくり達。
その地震は、時間にして10秒足らずのものだったが、ゆっくり達には永遠にも等しく思えた。

そしてなにより、その大地の猛威は、
楽しかった"うーちえん"を一変させるには、充分すぎる力だった。

「……う、う~?」

ようやく揺れがおさまり、そらからさらに数十秒がたった頃。
頭を抱えて震えていたれみりゃが、ようやくを顔を上げた。

「……うー? うー?」

自分の四肢を持ち上げて無事を確認したり、
周囲で震えている子ゆっくり達を見回したりする、れみりゃ。
幸いにも、れみりゃも子ゆっくり達も全員無事なようであった。

「うー♪ やったどぉ! ぷりてぃー☆だんすできたえてたおかげだどぉー♪」

喜ぶれみりゃは、立ち上がり花畑の方を見に行こうとする。
あれだけの"ぐらぐら"では、他の群れのみんなにも何かがあったかもしれない。
れみりゃはそう考え、子ゆっくり達を"うーちえん"に避難させたまま、ひとまず"うーちえん"を出ようとする。

「……う?」

れみりゃは、ふと首をひねった。
それから、壁際にそって"うーちえん"のある窪地をどったどった歩いていく。

「……うう~?」

れみりゃは、いつのまにか窪地を一周して、元いた場所に戻ってしまう。
その時になって、れみりゃはおそるおそる事態の深刻さを感じ始めていた。

「……ど、ど、ど、どーいうことだどぉー?」

今度こそと思って、歩き出すが、またしても窪地を1周してしまう。
窪地からの唯一の出入り口である洞穴が、どこまで行っても見つからないためだ。

「こ、これじゃ、でられないどぉー!」

そう、洞穴の出入り口は、地震によって崩落してしまっていた。
いまや、"うーちえん"は完全な陸の孤島と化してしまっていたのだ。

ゆっくり、ゆっくりと、その事態の恐ろしさを噛み締め出す、れみりゃ。
気が付くと、れみりゃは空に向かって無我夢中で叫んでいた。

「うぁぁぁーん! しゃくやぁーー!! れみりゃたちをおたしゅけしてぇーー!!」


   *   *   *


れみりゃが空に向かって助けを呼んでから、3日目。
れみりゃと、子ゆっくり達は空腹で力もでず、一カ所に集まって力なく項垂れていた。

「うー……おなかへったどぉ……」

この3日間、窪地に自生していた植物や木の実で、
なんとかやりくりしてきただが、それも限界に近づいていた。

閉じこめられてしまったのが、
体力の無い子供達と、燃費効率が悪く体の大きいれみりゃだったというのも、
状況の悪化に拍車をかけていた。

「……うっく、ひっく、おそらとびたいどぉー」

れみりゃは、空を自由に飛ぶ渡り鳥を遠くに見ながら、
目に涙を浮かべながら呟いた。

にじむ視界の中で、雲がゆっくり流れていく。
ああ、自分もあの雲のようにゆっくりしたい……れみりゃの中で欲求が膨らんでいく。

「……ぷっでぃーん……ちょっこれぇーとぉ……しょーとけぇーきぃ……」

雲を眺めながら、ブツブツ呟く、れみりゃ。
空腹が限界を超えたれみりゃには、雲の形が大好物の甘いお菓子に見えてくる。

「……くっきぃ……じぇりぃ……ばばりょあ……」

れみりゃの意識は、徐々に朦朧としてくる。
目の焦点は定まらず、口からはヨダレをこぼしている。

「……うー、おまんじゅうもいいどぉ……あまあまほしぃどぉ……」

おまんじゅう。
れみりゃは呟きながら、ふとそれが目の前にあるのに気付いた。

「……うー♪ おまんじゅうみっけぇー♪」

弱々しくだが、絞り出すように喜びを声に出したれみりゃは、
おまんじゅうを手に持ち、顔の前まで運ぶ。

「ゆぅ? どーちたのちぇんちぇー?」

そして、寸出のところで、おまんじゅうだと思ったものの正体と、
自分がやろうとしていたことの真実に気付くのだった。

「う、うぁぁーーーっ!」

無我夢中で叫び、手に持っていたものの……即ち子ゆっくりの1匹を慌てて手放す、れみりゃ。

「ゆふっ!」

地面に落下し、痛そうな子ゆっくり。
けれど、その子ゆっくり以上に、れみりゃは涙を浮かべて取り乱していた。

「ちがうー! ちがうのぉー! あまあまじゃないのぉー!」

自分は何てことをしようとしていたのだ。
その罪悪感から逃れるように、れみりゃは叫ぶ。

「ゆぅー、ちぇんちぇーだいじょーぶぅ?」

子ゆっくり達は、そんなれみりゃを心配そうに覗きこむ。

「う、うー、だ、だいじょーぶぅ、だどぉ……うっくひっく、ごめんだどぉ」

れみりゃは、涙を手でグシグシと拭って、子ゆっくり達に謝った。
そして、自分達もお腹がすいているだろうに、れみりゃのことを心配そうに見つめる子ゆっくり達を一望し、決意に胸を熱くした。

(そーだどぉ! こーいうときこそれみりゃがしっかりしなきゃだめだどぉー!)

ずずと鼻をすすって、頑張って笑顔を作る、れみりゃ。

「う、うーおちびちゃんたちぃー、おなかすいたどぉー?」
「ゆぅー、おにゃかぺこぺこだよ……」
「これじゃゆっきゅりできにゃいよ……」

顔を曇らせる子ゆっくり達。

(うー! れみりゃは、おちびちゃんたちのためなならなんだってできるどぉー!)

れみりゃは、子ゆっくり達を勇気づけるように、自分の胸をドンと叩く。

「しんぱいごむようだどぉー♪」
「「「……ゆぅ~?」」」

れみりゃは、べたーんと腹ばいになって横になり、尻尾と背中を子ゆっくり達に向ける。

(だって、れみりゃは、れみりゃは!)

自分達に向けられたれみりゃの尻尾を、不思議そうに見つめる子ゆっくり達。

(れみりゃは、うーちえんのかりしゅま☆しぇんしぇーなんだどぉ!)

れみりゃは、子ゆっくり達に顔を見られないように注意しつつ、精一杯明るく元気に口を開いた。

「うっう~♪ おなかすいなたらぁ~、れみりゃのおしっぽ~、がじがじするといいどぉ~♪」
「「「ゆゆっ!」」」

れみりゃの発言に、驚く子ゆっくり達。

「ちぇ、ちぇんちぇー、それって……」
「う~~♪ えんりょはだめだどぉ~~♪ かりしゅま☆しぇんしぇいのおしっぽたべられるなんて、らっきぃーだどぉ♪」

体を食べる。
それがどういう意味なのかは、無知な子ゆっくり達でも本能的に感じ取れる。
だが、れみりゃの明るい声を聞いて、もしかしてれみりゃには何か考えがあるのでは?れみりゃなら大丈夫なのでは?
といった考えが、徐々に子ゆっくり達の中に芽生えていった。

「ゆ、ゆぅー、それじゃ……ゆっくち……たべるよ?」
「ぎゃおー♪ れみりゃのおしっぽがじがじされちゃうどぉー♪」

ぱく。
子ゆっくり達の中でも比較的大きな1匹が、おそるおそるれみりゃの尻尾にかじりついた。

子ゆっくりより太いれみりゃの尻尾は、ちょっとやそっとでは噛みきれない。
だが、噛んだ瞬間、極上あつあつの肉汁が、口の中に広がっていった。
れみりゃの体は、とびきりアツアツじゅわじゅわの肉まんだ。
それは、子ゆっくり達が今まで食べてきたものの中でも、もっとも美味しいものの一つだった。

「ゆゆゆっ! な、なにこれ! お~いしぃ~~!」

空腹を忘れ、夢中でれみりゃの尻尾をかじる子ゆっくり。
やがて、その1匹にうながされるように、他の子ゆっくり達もれみりゃの尻尾を囓り出す。

「がーじがーじ♪」
「む~しゃむ~しゃ♪」
「お~いちぃ~!」
「なにこれ、むっちゃうめぇ!」
「しぃ~あわせぇぇ~~~!」

何十匹という子ゆっくりが、れみりゃの尻尾に群がる。
一人では大きな尻尾に噛みつけない赤ちゃんゆっくりには、
成体に近いお姉さんゆっくり達が、口移しで食べさせてあげた。

「ゆぅ~~~~ん♪」
「ちぃあわちぇ~~~♪」

れみりゃの尻尾の味に、歓喜する子ゆっくり達。

「れみりゃのだいじだいじなおからだが、まじゅいはずないどぉー♪ かりしゅま☆おじるあつあつでおいしぃどぉ?」
「「「とってもゆっくちできるおあじだよ!」」」

口角から、れみりゃの肉汁を飛ばしながら、叫ぶゆっくり達。

「う、う~♪ そ、それはよかったどぉー♪」

れみりゃは、顔をふせながら、くぐもった声を精一杯絞り出した。
子供達に気取られないよう努めたその顔は、涙でぐしょぐしょに濡れていた。

自慢の、お気に入りの体を食べられている、その痛み、苦しみ、恐怖。
ただでさえ甘えん坊でワガママで泣き虫なれみりゃからすれば、それを耐えるのは並大抵のことではなかった。

(うーーー! ざくやぁー、まんまぁー、あいだいどぉー! れみりゃにおちからかしてだどぉーー!)

れみりゃは、尻尾が無くなっていく感覚に、必死に堪えていた。
そして同時に、信じて願っていた。

どんなことがあっても、この子ゆっくり達を助けてあげるんだと。
そのためならば、自分はなんだってできるのだと。

だって、自分は"うーちえん"の"かりしゅま☆しぇんしぇい"なのだから。

「れみ☆りゃ☆うーー♪ ぎゃおーー♪」

気付くと、れみりゃは叫んでいた。

そして、、無くなっていく尻尾とは裏腹に、
胸の中から熱い何かがとめどなく溢れだしているのを感じるのだった……。


   *   *   *


夕焼けから薄暮へ移り変わっていく空を、コウモリの羽のついたダンボールが飛んでいく。
それは、れみりゃ種の亜種、うーぱっくの群れだった。

「うーうー!」
「うーうー!」
「うーうー!」

顔こそいつものニコニコ顔だが、うーぱっく達は息を切らせながら必死に飛んでいた。
そんなうーぱっくの上で、影がもぞもぞと動いて叫ぶ。

「ゆゆ! うーっぱく、おねがいだからゆっくりしないでいそいでね!」
「「「うーうー!」」」

叫び声の主は、1匹の大人のれいむだった。
そのれいむの気持をくみ取ってか、気合を入れて叫ぶ、うーぱっく達。

「がんばって、うーっぱく!」
「まりさたちのこどもがたいへんなんだよ!」
「むきゅ~~! このおれいはきっとするから!」

うーぱっく達の上には、れいむ以外にもたくさんの大人のゆっくり達が乗っていた。
その表情は、みな一様に不安と緊張で染まっている。

彼等は、あの花畑の群れのゆっくり達……
すなわち"うーちえん"に子供を預けて食料集めに出ていたゆっくり達だった。

地震で離ればなれになった彼等は、
時間をかけて合流し、仲間や子供達を探した。

しかし、いくら待っても探しても、子供達とれみりゃが見つからない。
そこで、"うーちえん"の出入り口の洞穴へ向かい、洞穴が途中で崩落しているのを知ったのだ。

群れのゆっくり達は、困惑し、絶望した。
たとえ力を合わせても、ゆっくりの力では崩落した岩盤を取り除くことなど不可能だ。

仕方なく、ゆっくり達は山を越え、うーぱっくの群れの下へ向かった。
山を越えるには時間がかかり、子供達の安否が気遣われたが、それ以外に選択肢は無かった。

そうして今まさに、うーぱっく達に事情を話し、"うーちえん"のある窪地へ急行しているところだった。

「おちびちゃんたち……ゆっくりぶじでいてね……」

祈るように目を瞑る親れいむ。
どの親も同じ気持ちだった。

ゆっくり達にも、理性ではわかっていた。
非力な子供達が閉じこめられて無事なはずがない。

地震で押しつぶされてしまったかもしれない。
食料が無くて餓死してしまったかもしれない。
野生の動物や、捕食種達に襲われてしまったかもしれない。
そして何より、空腹が限界を超えたれみりゃに食べられてしまったかもしれない。

嫌な予感や想像だけは、ぬぐってもぬぐっても脳裏から離れない。
その絶望的な気持を必死に押し殺しながら、親ゆっくりは達は、
いるかどうかもわからない"群れの守り神"に祈り続けるしかなかった。

「ゆゆっ! みんな見えてきたよ! うーちえんだ!」

目の良いまりさが、進行方向の眼下に"うーちえん"の窪地を発見する。
その一言を合図に、ゴクリと唾を飲み込む親ゆっくり達。
そして、うーぱっくは窪地の底へと急行した。

最悪の光景を覚悟し、目を瞑る親ゆっくり達。
しかし、おそるおそる開けた目に映ったのは、窪地の端でかたまっている子供達の姿。
うーぱっくを見て怯えながら体を寄せ合う光景は、まさに彼等が生きていることの証だった。

「ゆ、ゆ、ゆゆゆっ!」

声にならない嗚咽を漏らし出す親ゆっくり達。
見間違うハズがない。あの赤いリボン。可愛い帽子。ああ、私達の可愛い子供達だ!

「おちびちゃ~~ん!!!」
「ゆぅ!? おかーしゃん!?」

うーぱっくから我先へと飛び降り、我が子の下へと跳ねていく親ゆっくり達。

当初、初めて見るうーぱっくに警戒していた子供達も、
会いたくてしかたなかった親の姿を見るや否や、目を丸くして驚いた。
そして、思考が真っ白になる一瞬をはさんで、わけもなく涙を流し始めた。

そして、それは親達もまた同じだった。

「うあ~~~ん! おかぁしゃ~~ん! おかぁ~~~しゃ~~~ん!!」
「ゆぅ~~ゆぅ~~! おちびちゃんぁ~~~ん!!」

親子達はみな号泣し、互いの存在を確かめあうように頬をこすりつけあう。

「おちびちゃ~~ん! こわかったでしょ~~! おなかすいたでしょ~~! もぉーだいじょうーぶだからなねぇ!」
「ゆゆぅぅ~~~! おかーしゃぁ~~~~~ん!!」

うーぱっくの先頭に乗っていた親れいむと、その子供がいつ終わることも無く頬をこすりつけ合っていた。
この親れいむこそ、あの地震が起きた日の朝、洞穴の外でれみりゃに子ゆっくりを預けた親れいむだった。

「おちびちゃん、れみりゃに変なことされなかった?」
「ゆゆゆっ!!!」

親れいむが心配から発した何気ない一言に、子れいむはハッとして涙を止めた。
そして、一泊置いてから、今度は喜びではなく悲しみの涙をだぁーだぁー流し始めるのだった。

「ゆぁぁぁぁぁーーーーーん!」
「ゆゆっ! どーしたのおちびちゃん!? れみりゃにへんなことされたの!?」
「「「ゆぁぁぁぁーーーーーーーん!!!」」」
「ゆ、ゆゆっ!?」

驚く親れいむ。
あたりを眺めると、どの子ゆっくりも我が子と同じく涙を流しているではないか。

いったいどうしたというのか、そもそもそういえばれみりゃの姿が見えない。
まさか子供達を置いて一人で逃げ出したのか?
親れいむは、義憤から頬を膨らませ、れみりゃを探した。

しかし、いくら見回してもれみりゃの姿は見えない。
強いて言えば、視界の端に"緑色の大きなかたまり"が落ちているだけだった。

「ゆぅ~~~! れみりゃはどこいっちゃたのぉ!?」
「「「ゆぁぁぁ~~~~~ん!!! ちぇんちぇいがぁ~~~~~!!!」」」
「ゆぅ?」

「「「ちぇんちぇいがゆっくりうごかなくなっちゃったよぉ~~~~~!!!!」」」

ゆっくりうごかなくなった。
親ゆっくり達は、最初のその意味を理解出来なかった。

親れいむもまた、わんわん泣く我が子をあやしながらも、その意味がわからないでいた。
ただ、なんとなく。涙にくれる子供達の後ろに落ちている、"緑色の大きなかたまり"がさっきから気になっていた。

親れいむは、考える。
こんな"緑色の大きなかたまり"なんて知らない。自分は初めて見る。
だというのに、何故だか気になって仕方ない。わなわなと胸の内側が震えだして仕方ない。

あの柔らかそうなふくよかな体も。
頭頂部の大きな目を思わせる飾りも。
ずんぐりむっくりした短い手足も。
大きな口の間にあるはずの下ぶくれ顔も。

親れいむは、知らない。
知らないと思いこもうとする。
あんな"緑色の大きなかたまり"なんて知らない。
だって、あの"ご自慢の"尻尾が根元から無いじゃないか。

私が知っているのは。
もっと元気で、
甘えん坊で、
わがままで、
イタズラ好きで、
泣き虫で、
怒るとちょっと怖くて、
でもいつもニコニコしていて、
みんなといっしょにゆっくりするのが大好きだった、

「れ、れみりゃぁーーーーっ!!」

気が付くと、親れいむは涙を流しながら"緑色の大きなかたまり"の前で叫んでいた。
その声を聞きつけ、他の親ゆっくり達も事態を徐々に把握し、れみりゃの下へ集まってくる。

「…………ぅ」
「!!!?」

れいむの呼びかけに応じるかのように、弱々しくれみりゃの口から吐息がもれた。
それは、声というにはあまりにも弱々しく、薄暮に流れる風に今にもかき消されてしまいそうであった。

「れみりゃ! ねぇ、れみりゃ! きこえる!?」
「…………ぅー、ぇーむぅ」
「そ、そうだよ! れいむだよ!」
「…………ぇみりゃ……ぉゃそく……まもぉ……ぇたぁ?」
「え?」

約束。
それは、親れいむから子れいむを任されたという一言。
だが、その一言への矜持と誇り、そして無事子供達が親と会えたことへの満足感が、れみりゃの目を微笑ませた。

「…………ょかったどぉー♪」

れみりゃは、不思議な気持だった。
お腹が空いているはずなのに、立ち上がる力も残っていないのに、
それでも体の奥から熱くて尊い何かが漲ってくるのを感じずにはいられなかった。

「……おなか……いっぱい…だどぉ……♪」

れみりゃは、何の他意も無く、ただ満足げに呟いた。
そのれみりゃの様子を見て、子ゆっくり達はなおさら涙を強める。

「ゆぅ~~~! ちぇんちぇーわたちたちのためにぃ、なにもたべずにしっぽぉーー!!!」

子供達が、泣きながら親達に状況を説明しようとする。
感情的で的を射ない発言だったが、親達は尻尾を失ったれみりゃと無事な子供達を見て、本能的に事情を察するのだった。

「れ、れみりゃ、なんでぇーーーー!」
「ぅー……だぁってぇ………れみりゃ……ぅーちぃぇん…のぉ…かりしゅま……しぇんしぇー……だも……ん♪」

泣き叫び親れいむ。
れみりゃを疑ってしまっていた自分への恥ずかしさ、愚かしさ、そしてれみりゃへの感謝。
とめどない感情があふれ出して止まらなかった。

「………ぅぅー」

そんな親れいむの頬を、れみりゃは震える手を上げて優しく撫でた。

「………なかないでぇ……ゆっくり……するどぉ♪」

れみりゃの言葉に、親ゆっくり達も、子ゆっくり達も何も言うことは出来なかった。
何を言えばいいのかわからない。何をすれば良いのかわからない。

こんな時どうすれば。
どうすれば。

理性と本能が導き出した答えは、たった一つのシンプルなものだった。
親と子と、そこにいた全てのゆっくり達は、心の底から微笑んで、叫んだ。

「「「「れみりゃ!! ゆっくりしていってね!!!」」」」」

滲む視界の中で。

れみりゃは。

ニコニコ笑っていた。

だから、ゆっくり達の耳には、
楽しげに答えるれみりゃの声が、確かに聞こえた気がしたのだ。


"う~う~♪ ゆっくりするどぉ~♪"



   *   *   *



うーぱっくの群れは、今日も各地を飛び回ってお届け物をする。
そんなうーぱっく達を伝って、ゆっくり達の間で、いま奇妙な噂話が流行っていた。

「ゆ~~、そんなのしんじられないよお~~」
「ほんとうなんだぜ、れいむ! まりさは、うーぱっくから確かに聞いたんだぜ!」

とある森で語り合う、仲良しのれいむとまりさ。
その話題は、うーぱっく達から聞いたという噂話についてだ。

「だって、れみりゃはこわいんだよ! そんなれみりゃを"まもりがみさま"にするなんて!」
「ほんとうなんだぜ! れみりゃを"まもりがみさま"にしてる、れいむやまりさ達のむれがあるんだぜ!」

れいむは、信じられないといった風に、眉をひそめる。
まりさは、れいむに信じて貰おうと、大きな声で叫んだ。

「しんじてほしいんだぜ! そのむれは、じぶんたちのゆっくりプレイスを"うーちえん"っていってるらしんだぜ!」

きょとんと、れいむは目を丸くした。

「……うーちえん? なにそれ? ゆっくりできるの?」
「……そう、らしいんだぜ」

自信なさげに答える、まりさ。
ますます疑いの眼差しを強める、れいむ。

すると、ちょうどそこにうーぱっくが通りかかった。

「ゆ! ちょうどいいんだぜ! お~~い、う~ぱっく~~~!」
「う~?」

まりさは、うーぱっくを呼び止め、ことの真偽を確かめようとする。

「なぁ、うーぱっく! "うーちえん"のこと教えてほしいんだぜ!」
「……うー」

まりさの言葉に、そのうーぱっくは静かに目を細めて、空を見上げた。




その空のはるか向こう。
人里から遠く離れた森の奥。

そこには草花が咲き乱れ、
小川の周囲には何匹ものゆっくり達がいた。

その花畑には、たくさんのゆっくり達がいた。
そこでは、捕食種も被捕食種も関係なく、温かな陽射しの下で、皆ゆっくりと同じリズムを口にする。

"ゆぅ~ゆぅ~ゆぁゆぁ♪ ゆぅ~ゆぅ~ゆぁゆぁ♪"

その楽しげなリズムは、いつ果てることもなく続くのだった……。




おしまい。





============================
≪あとがき≫
長々と失礼致しました。
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました。

誤字脱字見落とし等があったやもしれません。
何卒ご容赦ください。

by ティガれみりゃの人
============================


  • うあー!健気すぎて胸が熱くなってしまったどぉー! -- 名無しさん (2008-10-20 17:21:14)
  • れ☆み☆り☆あぅー だどぉー!! -- ゆっけの人 (2008-10-26 02:22:02)
  • あなたのゆっくりゃはホントにかわいいですな! ティガれみりゃ本編の完結も待ってます!愛で版Endをこっちに上げて欲しいかも。 -- 名無しさん (2008-10-31 17:52:04)
  • いいラストだった…… -- 名無しさん (2009-01-22 18:54:00)
  • あれ、前が見えない・・・。 -- 名無しさん (2009-01-22 23:09:21)
  • 全俺が泣いた(TwT) -- 名無しさん (2009-02-05 17:09:32)
  • ( ;∀;)イイハナシダナー -- 名無しさん (2010-09-24 21:59:42)
  • 涙と鼻水で顔がヤバイ。 -- 名無し (2011-03-16 23:05:48)
  • タイタニックを越え全俺工業収入第一位だとぉ!!!! -- 名無しさん (2011-04-30 19:40:29)
  • ゆぅ~ゆぅ~ゆぁゆぁ♪ ゆぅ~ゆぅ~ゆぁゆぁ♪ってウッウッウマウマのメロディーかな? -- 名無しさん (2011-05-01 14:15:22)
  • 読むのは4度目だが泣いてしまう -- 名無し (2011-07-06 18:42:46)
  • ルナティックイイハナシダナー -- ちぇんと(ry   飼いたい (2012-04-02 09:57:06)
  • れみりゃ…幸せだっただろうな きっと -- 名無しさん (2012-08-08 15:29:22)
  • イイハナシダナーれみりゃほしい -- レズ娘 (2013-12-03 21:53:52)
  • 健気 -- 名無しさん (2014-03-29 13:20:45)
名前:
コメント:

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2014年03月29日 13:20