白石さん
久し振りの休日の午後を、俺は近所の駄菓子屋で過ごしていた。
本来は子ども向けに用意されていた筈のベンチに座り、小さなカルパスを囓る。
休暇の使い方としては勿体ないとは思うのだが、
どうしてなかなか、存外に居心地が良い。
この店に小坊の頃から通っているからだろうか。
……単に人付き合いが苦手なだけだろうか。
ほんの僅かな量のカルパスを食べ切ると、俺はクーラーボックスの蓋を開けた。
「ゆう。ゆっくりしていってね。」
クーラーボックスの中にいるこの生首は、
この駄菓子屋で長年飼われている、ゆっくりれてぃ。
通称、白石さん。
「相変わらずだな、白石さん。」
「みのりくんも、かわらずでなにより。」
白石さんは俺をみのりくんと呼ぶ。
俺、名前健一なのに。
俺はアイスキャンディーを1本取り出すと、カウンターに座る店主に70円支払った。
俺が戻ると、白石さんはベンチの上にちょこんと乗っかっていた。
「……あついね。」
「……いや、もう秋も半ばなんだけど。」
俺は白石さんの隣に座ると、アイスを食べ始めた。
「ねえ、みのりくん。」
「なに、白石さん。」
「なんかよこして。」
「……断る。」
だが、白石さんは俺の返答を意に介さない。
「じゅうえんのこんにゃくぜりーがいい。
さいきんやわらかくなってびみょーになったけど、
こおらせてあればまだまし。」
文句を言いながらもねだる白石さんに、
俺はいやいや凍ったこんにゃくゼリーを渡した。
「もぐもぐ。」
20円を支払って、俺も食べてみた。
……やっぱり変に軟らかい。くそぅ。
こんにゃくゼリーを食べ終えた白石さんは、
「ちきんらーめんほしい。」
と言い出した。
「……流石に、それの代金は白石さん持ちな。」
「おーけー。」
白石さん持ちとは言うが、つまりそれは店主持ちということだ。
もっとも実際には、賞味期限が迫って店頭には置けなくなった商品を貰うのだが。
期限切れではないので(あと三日に迫っているが……)美味しく頂ける。
俺の分も一袋貰った。
軒先に戻ると、ベンチには電気ポットと、その隣に座った体付きの白石さんがいた。
……一体どういう原理で体が付くのか。俺には想像もつかない。
俺がチキンラーメンを一袋渡すと、白石さんはとても嬉しそうに袋を開けた。
そして、それを適当に割ると、何処からともなく取り出した紙コップの中に入れる。
「ふふふ。ちきんらーめんはこうたべるのがおつ。」
俺の方は店主から借りた丼に普通に入れた。
お互いにお湯を入れて……3分経ったら出来上がり!
「ふふ、ただしはしでたべる……。」
白石さんはそう言って美味しそうにラーメンを啜る。
俺も啜る。……なんだかとても懐かしい気分だ。
帰りに買おうか。けど、すぐに飽きて余らすんだろうな。
俺がそんなことを考えている内に、白石さんはラーメンを食べ切っていた。
「おいしかった。……なんだか、きよしさんがいきてたころをおもいだすわね。」
「今日は随分と感傷的じゃないか、白石さん。」
「こんなとしにもなればね。」
白石さんはそう言うと、また頭だけになってゆっくりしだした。
……やっぱりこれには慣れない。
紙芝居並みと言いたくなるぐらいに前後の変化が急だ。
中割りが全く無い。
「きよしさんもあのよでゆっくりしてるかしら。」
「きよしさん」とは亡くなられた前の店主。
今の店主の祖母だ。
……やっぱりと言うか、俺より酷いと言うか、
本当はセツさんていうお婆さんなんだけど……。
「まあ、セツばあちゃんもあの世でゆっくりしてるだろうさ。」
「ふふふ、そうね、けんいちくん。」
……白石さん曰く、「みのりくん」というのは「健一」のあだ名らしい。「きよしさん」もまた然り。
なんじゃそりゃ。
「きょうはゆっくりできたわ。ほんとありがとう。」
白石さんはそう言うと、クーラーボックスの中に戻る。
「ふたあけて。」
……。
俺はクーラーボックスの蓋を開けて、白石さんを中に入れた。
「じゃあな。」
「じゃあね。またあえるのをゆっくりまってるわ。」
俺はクーラーボックスを閉じる。
「ありがと、健一君。」
現店主だ。
「いえ、白石さんの相手は結構楽しいですから。」
「……そう。」
「いやまあ、そう言われると……。」
どっちなんだろうか、本当。
「ばあちゃんが居た頃より、子どものお客さんが少なくなってね。
寂しがっているんみたいなんだ。
大きいお客さんは、健一君含めてそこそこ来るんだけどねぇ。」
「嫌味?」
「まさか。お得意さんだよ。」
駄菓子屋のお得意さんか……。なんだかなぁ。
「それじゃ、これで失礼します。丼、ありがとう御座いました。」
「じゃあね、健一君。」
「それじゃあ。」
そう言って踵を返した俺の耳に、
「いくじなしぃ。」
という声が聞こえた。
俺の後ろで、彼女は首を傾げてるだろう。
俺の方は顔を真っ赤にしていた。
そして白石さんは、きっと小坊の頃から相変わらずな俺を、
小馬鹿にしながら、応援してくれているんだろうか。
- かわいいぜ…
こんな駄菓子屋があったら毎日でも通うもんねぇーッ!
しかも体つきってどうなのよ
もう…もう…
ひゃあ!我慢できねぇ!チキンラーメンだ! -- いぷしろ (2008-11-18 00:32:07)
- こういうれてぃもたまには・・・ -- 名無しさん (2008-11-29 21:22:31)
- チキンラーメン買いたくなった! どうしてくれる! -- 名無しさん (2009-03-13 15:55:32)
- 白岩さんじゃないんだ・・・ -- 名無しさん (2010-11-28 13:41:32)
- この前チキンラーメン食って3分なのに忘れて10分ぐらい放置してひさんな目にあったこと思い出した
-- 名無しさん (2011-08-27 19:55:06)
- みんなは卵
入れる!?入れない!? -- 名無しさん (2012-08-17 11:40:20)
- 白石さんとチキンラーメン食いたくなった‼︎
-- 水無月 (2014-03-23 23:40:30)
最終更新:2014年03月23日 23:40