ゆっくりの寿命は短い 後編







【初冬】


誰が疑問に持つこともなく二匹はツガイとなった
狩りの得意な成れいむが山を駆け巡り、たくさんのご飯を集め
おっとりした成まりさが気の長いご飯の加工作業や巣の修繕をする

巣とは言っても洞窟や木のウロではない
偶然できた小さな倒木の空洞であり、雨をしのげる程度の作りだ
隙間だらけでとても冬の寒風を防げるはずもないし
ご飯をしまうと成体二匹が身を寄せ合えば、なんとか寝る程度の広さしかない
いつか増える家族の事を考えると、とても間に合ったものではない

 「ゆぅ…これじゃあ ゆっくりできないよ…」

 「どうしたの れいむ?」

いつものゆっくりとした口調でまりさが語りかける

 「まりさ! ゆっくりしていたらだめだよ! このおうちでは ふゆさんは のりこえられないよ!」

 「そうなの?」

 「そうだよ! もっとおおきくて かぜさんも ゆきさんも こないおうちがひつようだよ!」

 「ゆきさんて なんなの? おいしいもの?」

 「ゆーーーーーーーーーーーー!」

これは困った
おっとりとしたまりさのマイペースには
れいむも大好きではあったのだが
生活するに当たって、まるで頼りに成らないのだ

あの時れいむが助けてあげなかったら
すぐに変なものを食べたり、他のゆっくりに騙されていたかもしれない

しかしれいむは、このまりさとずっと一緒にいると決めたのだ

 「どうしよう…どうしよう…どうしよう…」

またまたれいむはどうしようと呟き始めた
近くにはもう空いている洞窟もない
今から他の土地に探しに行くなんて危険を冒すことはできない
きっとまりさがすぐに駄目になってしまうだろう
れいむ一人なら さくっと探せてしまうのに

なんでまりさはゆっくりしているのだろう
これからゆっくりできなくなるっていうのに…
なんでこんなまりさを選んでしまったのだろうか

れいむは
狩りも上手い
料理も上手い
知識も多彩だ

一人でやっていけるはずだ
なんでまりさといるんだろう
別に困ることなんてないんだ












そんなことはない










そうだ

あの強いお父さんが
れいむをかばって怖いふらんに怪我をされた時も
お母さんが毎日お父さんを看病をしていた

優しいお母さんがれいむに古いご飯を食べさせてちゃって
酷く落ち込んで気に病んでしまった時も
お父さんはいつも笑顔で元気にお母さんを励ましていた

一人では駄目なんだ
自分が狩りも料理も上手くなったのは両親のおかげだ
お父さんお母さんが、まだ弱かったれいむを育てながら
三匹で暮らしていけたのは、夫婦で協力していたからだ


思い悩むれいむに、まりさが言う

 「れいむ…ごめんね…れいむ……まりさのせいで ゆっくりできなくて ごめんね…」

 「…」

 「まりさは…いつも…れいむの あしでまとい だよね……だから……ほかの ゆっくりと いっしょに…」

 「そんな…」

 「れいむ?」

 「そんなことないよ!」

 「れいむ…」

 「まりさが いてくれるから れいむは がんばれるんだよ! どんなにかりが たいへんでも おうちに まりさがいるから がんばれるんだよ!」

 「…」

 「れいむには…まりさが! まりさがひつようなんだよ! れいむのまりさは ひとりだけだよ! まりさは! まりさは! れいむの たからもの なんだよ!!!!!」









【真冬】


二匹のゆっくりが山を降りていた
まりさ種の帽子が、とても膨らんでいるのは越冬用の食べ物がたくさん入っているからだろう
ツガイであろう一回り大きいれいむ種はリボンに大きな葉っぱの袋を下げているようで
おそらく生活で使う薬草や木の実の類だと見える

雪は降り始めているが地面はまだ白く染まっていない
しかし気温はだいぶ下がり、秋には実りにあふれていた森は音を無くし静まり返っていた


 「ゆっ! ゆっ! まりさ! ゆ! だいじょうぶ!?」

 「ゆぅ! うん! ゆぅ! きゅうけいは いいよ!」

れいむ達は独り立ちをして跳ねてきた道を戻っていた
小さかった以前の倒木を後にして、持ち運びやすい食料を分担して運んでいる

 「ゆっ! あとすこし! がんばって! ゆっ!」

 「だいじょぶ! ゆ!」

思い出したのは両親の言葉だ








 「おちびちゃん きをつけてね! つらくなったら もどってくるんだよ!」

 「だめだよ! もうすぐ さむいさむい ふゆが くるから そのとき かおを みせてね!」

 「おかーさん おとーさん! れいむは さびしくないよ! ちゃんと ひとりで ゆっくりできるよ!」






お父さんにれいむの顔を見せてあげよう
そして れいむのまりさを紹介しよう
お父さんにそっくりな まりさなのに
こんなにお母さんにそっくりな ゆっくりさんだったら驚くかな?

巣の大きさはどうがんばっても三匹分しかないだろう
しかし自分が育った土地だ
手早く加工すれば ご飯と一匹がギリギリ収まる程度のくぼみやウロは知っている
まりさには冬の間 お父さんとお母さんと仲良くしてもらおう
冬がいなくなってくれるのが どれだけ長いのかは わからないが
まりさに会うまでは一人で暮らしていたし
すこしくらい寂しくても 春になってみんなと会えたら元気になる

がんばろう

 「ゆっ! ゆっ! ゆっ!」

がんばるんだ

 「れいむ! いそぎすぎだよ!」

はやく

 「ゆっ! ゆぅ! ゆぅ!」

おかあさんに

 「れいむ きをつけてね! じめんさんが つるつるするよ!」

おとうさんに

 「ゆっ! ゆぐ! ゆぅ!」

ほんのり雪で覆われた崖の斜面
何か草のようなものでフタをされて隠されているが
れいむにしっかりと見えていた

見えた!
自分の育ったおうちだ!
見た事のある原っぱ!
見た事のある洞窟!

 「あった! おうちだ! おうちだよ!!!」

塞いでいたフタを急いで外すと
れいむは 洞窟の中へと駆けた
思い出すのは子供の頃ばかりで
昔の落書きやいろんな傷が今の自分にとっては
とても小さいものに感じられる



 「おとーさぁーーーーん!」

入り口にはお父さんが梅雨のときに盛った土の残りが置いてあった




 「おかーさーーーーーん!」

お部屋にはお母さんが れいむを慰めてくれた藁のベットがあった






 「れいむだよ! れいむが かえってきたよ!」


 「おとーさん? おかーさん?」


 「れいむだよ?」


 「かえってきたんだよ!」


 「どうして? どこにいったの? れいむが かえってきたんだよ!」

持ってきた食料を誰もいないお部屋に投げ捨てると
だいぶ雪が降り積もった巣の外へ出てきた

両親はどこへ行ったのだろう?
こんな寒い雪の中 出かけるはずもない
まさかふらんに襲われた?
それにしても部屋の様子はとても片付いており
荒らされたわけでもなく、狩りに必要な道具や荷物入れは置いたままで
どこかへお出かけに行った様子もない

すぐにでも使えるような おうちとお部屋があるだけで
お父さんとお母さんだけが すっぽりと抜け落ちていないだけだ












 『おとーさん なんで おうちのいりぐちを ふさいでいるの? こんなかたちだと れいむが ころんじゃうよ?』

 『これでいいんだよ いりぐちと じめんさんに やまを つくっておくんだよ』

 『こんなことすると おうちにはいりにくいよ!』

 『だいじょうだよ! おとうさんのおとうさんも このいえに こうしてきたんだよ ずっとむかしからね!』














お父さんのお父さん?
お父さんのお父さん(おじいちゃん)には…お父さんのお母さん(おばあちゃん)もいたはず
なんで昔から住んでいたのに、れいむはお父さんの両親を見たことがないだろうか?

生まれて物心ついた時には
お母さんとお父さんと三匹でくっついて
外の寒風を耳にしながら
おうちの中で春を静かに待っていた

ならあの頃

お父さんの両親 お母さんの両親は どこにいたのだろう?






どこへ?





この







雪の中










 「うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ」





れいむは視界が白く染まった雪の中に飛び出た


 「おとーさぁあああああああああああああああああああああああああああん!!!!!」

れいむの声は、吹雪で白く染まった原っぱに溶ける

 「おかーさあああああああああああああああああああああああああああん!!!!!!」

れいむの声は、閑散とした森に響くだけ


空を見上げたれいむの顔に、雪が舞い落ちる
頬を流れ落ちて行く雫は、雪が溶けたものではない




 「…ゆっく……おとうさん………ゆぅ………おかあさん………ありがとう…………ありが……とう…………」





れいむは【自分の家】に戻った
まりさは運んできた食料を解いて並べている

 「…ゅ……まりさ…………あのね………」

 「れいむ いいんだよ わかってるよ」

 「…」

 「れいむは とてもやさしいから れいむのおとうさんも おかあさんも とてもやさしいひとだって しってるよ」

なんて聡明な妻なのだろう
あの冬の日 なんで自分は まりさを馬鹿にしてしまったのだろう
誰よりも優しいまりさだから、何も言わなくてもれいむの両親の気持ちがわかったのだ

まりさに出会えてよかった
まりさをを選んでよかった
れいむを好きでいてくれてありがとう
まりさをずっと好きでいよう

ここでずっとゆっくり暮らそう







【越冬】



先日の吹雪が合図だった
早々に閉めた入り口には寒風がぶつかりガタガタと鳴らしている
少しだけ空いた覗き用の隙間から、寒さを超えて痛いような空気が入り込んでくる
ある程度したら塞いでしまおう

 「…」

 「…」

ビュォォオオオ

唸り声のような風の音が聞こえるだけだ

 「寒いね」

 「そうだね」

火を扱えない二匹に暖を取る方法はない
寒さに身震いすると、れいむは入り口を完全に密封して
まりさのとなりに落ち着いた

 「ゆぅ…」

 「…」

 「ふゆさん、いつになったら ゆっくりしないで いってくれるのかな」

 「まりさはべつに いつでもいいよ」

 「ふゆさんが いなくならないと ごはんも たいようさんも ゆっくりしてくれないんだよ?」

 「だって… ずっと れいむと くっついていられるから」

狩りを覚え、伴侶を探す、まだゆっくりにはすべき事がある

 「もう まりさはー!///」

 「こうやって すりすりすると あったかくなるよ」

 「そうだね まりさの おはだは すべすべで すりすりきもちいいよ」

 「れいむは ごわごわだけど なんだか たのしいよ」

 「ごわごわ!? いったなー すりすりりすりすりすりすりすり」

 「ゆは! れいむ! もう! すりすりすりりすりすりすりすりすり」


 「ねぇ……れいむ……あのね」

 「うん…………………………」

もう二匹は寒くなかった
彼女らの周りにだけ春が来ているようだ

 「………………………………………赤ちゃんがほしい」

 「…………………………………………………………!?」

当然の事だ

独り立ちして、夫婦になり、子供を育てる
どんな動物でもしてることだ

 「わ、わかったよ! れいむ、がんば……ん?」

 「どうしたの?」

越冬で暗いおうちの中
若い二匹寄り添っていればこうなるのは当たり前だ
しかしれいむには何か引っかかっていることがあった

なんだろう

 「ちょ、ちょっと ゆっくりしててね!」

 「もう れいむ!! ばか!」

れいむは思い出してみた
きっと玉のように可愛い赤ちゃんが生まれるだろう
子ゆっくりにまで育ったら、れいむの狩りを教えてあげよう
子ゆっくりに育つまで…

 「あのね、まりさ」

 「なあに?」

 「いま すりすりして すっきりして ゆっくりした あかちゃんができると」

 「ゆん?」

 「まだ さむいさむい ふゆさんが はじまったばかりなのに ごはんもない おうちに あかちゃんが うまれるよ」

 「ゆ…ん?」

 「だから いまうまれると すぐおおきくなって ごはんも たりなくなるし さむいから あかちゃんも かわいそうだよ!」

 「ゆー」


まりさは本当は理解はしているんだろうが
餡子の下の方に思考と情熱がいってしまい
れいむが説得するのに一晩かかった

まあ その説得方法も子種を渡さないようにすっきりしてたわけで






【初春】


寒風も弱まり雲の隙間から暖かい日差しが差し込むと
おうちを囲んでいた雪も溶け始めてきた

ひょっこり芽を出したふきのとうを
れいむは採り過ぎないように集めていた

 「まりさ! いまかえったよ!」

 「ゆー おかえりなさい」

返事を返す まりさの体は少し変わっていた
頭のてっぺんから植物の茎のようなものが生えており
一個だけ白い実が生っていたのだ

 「れいむ とってもゆっくりした あかちゃんだよ!」

 「まりさに にて すごく ゆっくりしてるよ!」

まだ小さい実を二匹は笑顔で眺める

れいむは たびたび入り口の隙間から季節の変わりを調べて
もうすぐ春という頃合を計り、子供を設けたのだ
そして春が来る数週間の間
貯蓄していた赤ちゃん用のご飯で、すくすく子ゆっくりとなり
春一番が吹いたら れいむと狩りの練習を始めるだろう

数日後の夜

 「れれれれれれれれれれれいむ!!」

 「ゆぅ…まりさ れいむは まだ ねむたいよ ゆっくりねかせてぇ」

 「ゆっくりしているばいじゃないよ れいむ!」

 「どうしたの まり……まままままままままままままままりさ!?」

まりさの茎にぶら下がっていた実が
ぐりんぐりんと揺れている
赤ちゃんが無意識で産まれ落ちようと揺すっているのだ

 「どどどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう」

たぶんれいむが生涯で一番どうしようと慌てただろう

 「れいむ! わたしのまえに わらをしいてね!」
 「つよいひかりは だめだよ!」
 「いりぐちを しめてきてね!」
 「まださむいから のっこたわらをふんで あたためといて!」

逆にまりさは人生一番のテキパキっぷりだ

 「あかちゃん ゆっくりしてね! あわてなくていいよ!」

 「あかちゃん! まりさが おかーさんよ! ゆっくりうまれてね!」

まりさの「お母さん」にれいむは思った
そうか
自分はお父さんなんだ
ついにお父さんになるんだ
いつもまでも両親の子という感覚だったれいむは
親になると言う自覚を深く感じた


 「れ れいむが おとうさんだよ! ゆっくりしていってね! ゆっくりしてね!」



くりんくりん揺れていた あかちゃんの小さな口が開いた

 「ゅぅ~ ゆっくち うまれりゅりょ!」

まだ目は開いてないが
つながった茎から離れようと小さく揺れている

 「ゆ! あかちゃん! まりさ! しゃべ! あかちゃ! まりしゃ!」

 「おちついてよ れいむ! 」

生まれる前に自分の子供の声を聞いてしまったれいむは
もう何がなにやらと餡子脳の限界を超えていた
特に自分ができる事は もう何もないのだが
とにかく何かがんばらなければとあたふたとしている



ぷちっ

とさ




二匹

 「…!」

 「…!」

おめめ ぱっちり

 「ゆっくち ちていっちぇね!」

二匹

 「…!!」

 「…!!」

ちょっと不思議な面持ちで

 「ゆ、ゆっくち ちていっちぇね?」

二匹は

 「!」

 「!」

そして力いっぱいに

 「ゆっくち ちていっちぇね!!!!!!」


「「ゆっくりしていってね!!!!!!!!!!!!!!!!」」



まりさは誰に教わることもなく
茎をれいむに折ってもらうと軽く咀嚼して赤ちゃんに食べさせた
れいむは自分が敷いて暖かくなった藁で赤ちゃんを包み

いつまでも二匹―いや三匹は寄り添っていた










【二度目の春】


お母さんのまりさに見送られて、一匹の子ゆっくりが巣から顔を出した
赤ちゃんの頃からずっと今まで、巣の中で暮らしてきた、この子ゆっくりのまりさには
外の世界はとても眩しく感じられた

暖かいお日様
草の匂い
頬を撫でる風

今日はお父さんれいむが外で一緒に遊んでくれるという

 「まりさ! ゆっくりしないでおとうさんについておいで!」

 「ゆゆ!? おとーさん まって! ゆっくりしてね! まってぇえええ!」

こてん

転がってしまった
狭い巣の中では大きく跳ねる必要もなく
体全体を使うような経験がなかったからだ

転んでいるうちにお父さんの姿はどんどん小さくなる

 「いじゃいよぉお あんよが ひりひり ずるのおぉおおお」

 「…」

お父さんれいむは子まりさに振り返るが、すぐにきびすを返して跳ね始めた

 「ゆぅ!?」

お父さんに助けてもらえると思っていた子まりさは
思いがけない対応に驚く

 「…おとうさん もういくからね! まりさも はやくきてね!」

 「ゆぅえええ! おどーじゃぁん! まっでよぉおお!」







お母さんまりさは入り口の傍で、そのやりとりを見届けると
巣に戻って梅雨になる前にベッドを新しいものに取り替えようと藁を組んでいた

れいむは父親として厳しいかもしれないが
頼りない母まりさより、りっぱなゆっくりまりさになってほしいので
毎日狩りの訓練と言っては 何処へ行ってきたのか傷だらけになって戻ってきたり
森で怖い思いをして泣いて帰ってきたり、へんなキノコを舐めさせられたりとかは目をつぶっていた








【二度目の夏】


梅雨や日照りのある季節だ
水に弱く乾燥にも弱いゆっくりにとって冬と共に危険な季節だ

 「ゆぅ~ あついよ~」

父れいむから狩りを教えてもらった子まりさも更に大きくなった

 「まりさ! なつというのは あついだけじゃないからね!」

 「ゆゆ? おとーさん なつは あついんでしょ! まりさも わかるよ!」

 「あついあついといっても あつくないときが あるんだよ!」

 「???」

どうやら父れいむの説明している事が 子まりさには理解できていないようだ

母まりさは そのうち不当労働に泣いてくるだろうと思って
皆で寝ているベットの上で、いつか使うだろう子まりさのための荷物入れを作っていた




 「ゆえええええん!ゆええええん!おどーーざんのばがぁああ!まりさは わるいごどじでないのにぃぃい!」

あら早いこと
母まりさはベッドに飛び込んできた子まりさに おいでおいですると
すりすりしながら 涙をぬぐってあげた








【二度目の秋】


実りの秋
春の時と同じように子まりさは巣の外に顔を出した
今度は両親と一緒だ

 「…」

春の時は目を輝かせて お外を見ていた子まりさだったが
表情は陰り、はっぱで作られた荷物を抱えている

 「まりさ きをつけてね! つらくなったら おかーさんのところに もどってきてね!」

 「だめだよ! もうすぐ さむいさむい ふゆが くるから そのとき おとーさんに かおを みせてね!」

 「おかーさん おとーさん! まりさは さびしくないよ! ちゃんと ひとりで ゆっくりできるよ!」

すくすくと育った子まりさは、いまや成まりさだ
春夏と過ごした巣は成体三匹では手狭となっている
成まりさはうすうす大きくなったら 一人で暮らす事を理解していた

 「まりさ ほんとうに おおきくなったね! おとーさんはうれしいよ!」

お父さんれいむは、自分と同じくらい大きく育った成まりさを嬉しがっていた

 「おとーさんの おかげだよ! まりさなら どんな かりでも できるよ!」

お母さんまりさは、自分と同じくらい賢く育ったに成まりさを喜んでいた

 「まりさ! ふゆになるまえに ごはんをあつめてね!」

 「わかったよ おかーさん! まりさは おかーさんにならった りょうりで いつも おいしいごはんを つくれるよ!」

 「…」

 「…」

 「…」

 「ゆわぁああああああああん」

 「「まりさぁぁ!」」

この数ヶ月で、両親から受け継いだ狩りや自然の知識を学び 子まりさは一人前のゆっくりとなった
もう自分一人の力で生きていかなくてはならない
ひとしきり別れを惜しんですりすりを終えると
何度も何度も両親を振り返りつつ、成まりさは遠い草原の向こうを目指した








 「いっちゃったね…」

 「うん…」

母まりさと父れいむは顔合わせた

 「はー 楽しかったねぇ」

 「そうねぇ」

狩りの名人だった れいむ
いつの間にか草原を駆けた足は、ハリをなくしヒビがわれている

美しかった まりさ
秋の陽光のせいだろうか、金の髪はところどころ白くなっている

 「いっぱい ゆっくりしたね…」

 「いっぱい ゆっくりしたよ…」

 「あのこが ぶじにそだって よかったね」

 「りっぱなこ になって よかったね」

おうちの中へ戻る れいむ
足を引きずるような跳ね方は、もう昔のように戻ることはないだろう

よろけるれいむを まりさが支えてあげる

 「ちょっと あのこのために むりしちっゃたかな」

 「れいむったら おやばか ねっ」

れいむは自分の親が、どんな気持ちで見送ったのだろうかと
昨日まで思っていたが…もう考えるまでもなかった

夫婦二匹はおうちへ入った















【そして初冬】


巣のおくにはしわがれた二匹のゆっくりが住んでいた
赤茶にくすみ、垂れ下がったリボンから れいむ種だとわかる
普通より大きな体躯から、若い時には狩りに優れていだろう

そのれいむに寄り添っているのは
とても長い白髪を持っているまりさ種だ
今もなお 美しいツヤを持っている髪の毛は
きっと輝くような金髪だったのだろう

巣の中は綺麗に整頓されており、生活感は漂ってない
もしどこかの家族が移り住んだのなら
この老ゆっくりより有意義に使うはずだ

二匹はお互いを支えあいながら入り口を出ると
近くにあった軽い枝を組み合わせたようなものでフタをした
すると洞窟の入り口は、もう知っているゆっくりにしかわからないように隠されてしまった

すでに雪は降っている

もしかしたらもう足の感覚はないのだろうか
うっすらと白くなった地面を這うように進んでいく
その先には何もない
もう雪は吹雪に近づき何も見えない

けれど二匹は、まるで誰かが通っていったかように
草原だった方向を振り返りと
懐かしそうな目をしている
どうしてだろうか
二匹は微笑んでいる

きっと彼女達はゆっくりとした人生を過ごして来たのだろう

なにも思い残すことはないだろう

しかし二匹はいつまでも草原を見つめ続けて語りかけるように呟いた















       「ゆっくりしていってね」



























あとがき

お読み頂きありがとうございました

書き始めたきっかけは
「ゆっくりは一冬しか生きられないほど、か弱いのでは?」と

しかしそうなると越冬の経験がなくなってしまいます
ではどうやって厳しい冬を乗り越えるのか
たった一年の人生を、本能だけで狩りや生活をこなせるのか?

その答えは劇中の通りです



ちなみに好きな映画は「アンドリュー NDR114」です
この映画ではアンドロイドの視点から200年を通してある一家が登場します
SSでは、れいむ達は死期を悟ると
自分達の両親がしたように巣を空け渡してどこかへ消えてしまいます
ゆっくりの短い人生のスパンでは祖父祖母を見ることは出来ません
代々受け継がれてきた親の愛情が今の元気な子ゆっくりに向けられている…家族っていいですよね!





  • ううう・・・(泣)本っと家族っていいですね・・・
    なんか切ないけどほのぼのというか・・・とてもいいお話だったと思います
    -- 名無しさん (2008-11-12 03:53:26)
  • >れいむは自分の親が、どんな気持ちで見送ったのだろうかと
    >昨日まで思っていたが…もう考えるまでもなかった
    本当に涙が出てきた
    連綿と受け継がれていく生命の営み
    醜いこともあろうが美しい -- 名無しさん (2008-11-12 14:44:08)
  • いつも虐待スレに居ますが、これは良いですね。たまには愛でるのも悪くないかなと -- 名無しさん (2008-11-14 04:27:47)
  • 家族愛を伝える作品として、今までで一番良かったかもしれない。
    ただ。。。
    この出生率だと、種が存続できないような気が………。 -- 名無しさん (2008-11-14 21:53:05)
  • 私もいつも虐スレに居ますが、この話には感動しました。

    >「はー 楽しかったねぇ」
    この言葉に、生きる事の意味が詰まっているような気がしました。 -- 名無しさん (2008-11-21 03:51:45)
  • 全 俺 が 泣 い た。誰かバスタオルをくれないか。 -- 名無しさん (2008-12-02 21:19:31)
  • 畜生、泣かせんじゃねぇよ・・・。 -- 名無しさん (2008-12-03 01:56:23)
  • 役目を終えた両親はゆっくりぷれいすに行くんだね -- 名無しさん (2009-07-06 11:48:55)
  • 受け継がれる命と去りゆく命に感動しました。 -- 名無しさん (2009-07-13 19:50:37)

  • 目から餡子 -- 名無しさん (2009-10-19 18:17:21)
  • 泣けた。泣けたぁぁぁ。 -- 名無しさん (2010-05-03 18:56:34)
  • ゆっくりしていってね… -- 名無しのゆっくり (2010-12-07 18:53:00)
  • ビバ家族!!
    -- 名無しさん (2011-05-02 11:07:43)
  • ゆわぁぁん…ものすごくかんっどうしたよ…! -- ななしのゆっくり (2012-10-14 23:19:31)
  • 虐待ばっかで嫌になってたから、めっちゃ癒された。 -- ただのゆっくり (2013-02-11 12:32:49)
  • 泣いた
    けどこのままだとどんどんゆっくりが減りそう -- 名無しさん (2013-05-14 14:54:06)
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最終更新:2013年05月14日 14:54