きずな⑥~陰~

きずな⑥~陰~
※人が人から虐めを受ける描写があります。ただし、これは虐めを助長する話ではありません。

 人の自己の投影に対する感情は2種類に分類される
 一つは、即ち忌み嫌う
 一つは、即ち慕い好む
 自分と同じ性質を持つから相手を憎悪し
 自分と同じ性質を持つから相手を愛でる



 3人の少年が自転車をこいでいる。
「つーか、あのセンコー、マジうぜぇな。」
「何が『掃除しなさい』だよ…清掃員でも雇えつーの。」
「今度一発ボコるか。」
 容姿はまだ幼さが残るが、言葉遣い、どの会話の内容はお世辞にも綺麗とは言えない。
 と、一人が何かを発見して自転車を停めた。
「ん…?なぁ、おい。あれ…進じゃね?」
「…ホントだな。…あいつ何やってんだ?」
「うわ…あいつ、ゆっくりと遊んでるぞ!…きもちわりぃ~…えんがちょー。」
「ありえねーな…友達いねえからって…マジひくわ。頭、イカれたんじゃねぇか?」
「いや…イカれてんのはいつものことだろ。」
 その言葉に同調する様に3人は下品に笑う。
「そうだ…ちょっとからかってやるか…」



 進はめーりんを抱え、公園のブランコを漕いでいる。
 乗り始めた頃はそのスピードから怯え、吼え散らしていためーりんだったが、慣れてくると切る風は気持ちよく、楽しめるようになっていた。
 実に良い笑顔を見せているのがその証拠だ。

「ははは♪どう?ブランコも結構楽しいでしょ?」
「JAOOOOO!」

 皐月も半ばを過ぎ、春というよりは夏に近い日差しが差す。そろそろ春も終わり、本格な夏の一歩手前の時期―――梅雨がやってきそうだ。
 進とめーりんが出会って早3週間以上…もうすぐ1ヶ月が経とうとしている。
 めーりんは実にゆっくりとしていた。生後2週間で家族を皆、失い。同族から迫害を受け。絶望した。孤独だった。
 姉達を守れなかった己を憎んだ「JAOOO」としか発せない己を呪った。
 そして、あの日。5匹に囲まれた。虐められるのは何も2度、3度と数えられる程ではない。
 抵抗する気力もなかった。もう、終わりにしようと思った。
 だが、進はめーりんを助けた。
 どうして助けてくれるのだろう?誰からも必要とされてない私を。どうして助けてくれるのだろう?

 進の心は温かかった。かつての両親と同じ温もりを感じるのだ。
 めーりんは、進むの心に触れてゆく中で、いつからか誓っていた
 あの時は…自分の力が足りなかったせいで…大切なものを守れなかった。だけど…今度は…今度こそは…

 「JAOOO!?」

 そう思考している時、めーりんに何かが当たった。突然痛みが走り、思わず呻く。
 その直後、バランスを崩し、進の掌から落下して…地面へと叩きつけられる。
 めーりんの唐突な墜落に進は慌ててブランコから降り、めーりんに寄り添う。
「大丈夫!?めーりん!!」
「JA、JAOOO…」

 と、進の周囲から足音が聞こえる。
 進が顔を上げると3人の少年がジリジリと近づいてきて進とめーりんを囲んでた。
 その3人を見る進の額にはうっすらと汗が滲んできている。

「よう、進君。楽しそうだなあ。」
 1人がそう話かけるが、進はめーりんを庇うように隠し強く警戒する。
「…な、何の用…かな?…」
「いやあ、俺達、ヒマでさあ。」
「俺達もそのゆっくりと遊ぼうと思ってな。」
 進は目を鋭くし、奥歯をギリッと噛む。
「…断るって言ったら…?」
「はあ?…なぁ、進、俺達友達だろ?混ぜてくれよ。」
 不穏な空気が流れる。最初は人間が現れ、戸惑っていためーりんだが本能的にこの3人は”ゆっくりできない”と感じた。

「…お、お前等なんか…友達なんかじゃない!!」
 強く言い切る進。一方で3人はにやにや笑っている。

「そうだったなあ、進君。お前には友達なんざあ…1人も居ねえんだったなあ。だから、そのゆっくりと遊んでるだろ?…かわいそうな進君。」
「………………」
 進は咄嗟に言い返せなかった。
 …それは…否定出来ないことだったから。確かに、寂しく感じ、めーりんを欲したのだ。

「俺は進君が可哀相に思えてきてな…だから、そのめーりんを俺達に差し出してくれないか?…そしたら、お前の友達になってやるよ。」

 いつもなら…こいつらの言いなりになっている。自分させ我慢すれば…それで解決することだから。
 だが…今の進には守らなければならないものがある。…こんな悪意ある言葉には…屈する訳には…いかない。

「…めーりんは…めーりんは…僕の大切な友達だ!お前等には絶対渡さないよ!!」
 その瞬間、3人の内の一人が持っていたエアガンのトリガーを引く。
「JAO!!」
 めーりんに命中した。先刻に当たったのもどうやらこれらしい。

「俺達に逆らうとは…いい身分になったもんだな。…覚悟はできてるな…?お前等二人とも地獄だ…!!」
 3つの銃口がめーりんに向けられ、集中砲火を喰らう。…が、進はめーりんを腹に抱え、地面に蹲った。丁度、めーりんを庇うように。
(めーりんは…僕が守る…!!)
 3人は容赦なく撃ち続ける。一発、一発の威力は大したことはない物ではあったが、頭を狙うなど、悪質な攻撃を仕掛けていた。

「くそ、なんだよこいつ!グズな進な癖に…おい、あれ持って来い。」
「ああ…」
 一人が自転車へと向かう。
「進、お前、何をそんな大切そうに守ってんだ?所詮、ゆっくりだろ?バカじゃねえの?」
 攻撃は、口撃へと移った。
「ダチいねえからってゆっくりに構うとか…正直、頭おかしいぞ。」
「そんなんだから嫌われるんだよ。気持ち悪ぃ~。」
 進は耐えた。そんな言葉、普段から聞き慣れている。もう、涙なんてとっくに枯れたのだから。今更傷つきはしない。

 と、何かを取りに行った少年が戻ってくる。その手にはまたもや銃らしきものが握られていた。
 そして、進へと放たれる。―――冷たい――― 体に水圧が掛かる。…そう、水鉄砲だった。
 威力なぞたかが知れているが、水で濡れるというのは精神的に辛い。
 それでも、進は屈する様子を何一つ見せない。
 このままでは埒が明かないと思い、同時にイライラし始めた3人は進に近づく。

「…そんなに大切ならよ…てめえの力でしっかり守ってみろよ!!!」
 そう叫ぶと進の背中に踵落しを繰り出す。まともにもらった進は思わず呻く。
 …ついに、直接の暴力に走った。その踵落しをかわぎりに3人の殴る蹴るの応酬が始まる。
「…痛くなんか…ない…ぐ…」
 必死に耐え忍ぶ…進には…こうすることしか出来なかった。
「JAOO…?」
 進の体に守られているめーりんは心配そうに進を見つめる。
 進はこんな状況であっても、めーりんに微笑みかけるのだった。
「大丈夫…だよ…ぐはぁ…大丈夫だから…うっ…めーりんは、僕が…守るからね…」

                あれ…? 

 スーっと襲う既視感。

 あれ…?
      あれ…?
           あれ…?
                あれ…?

 前にもこんなこと…なかったっけ…?

 あれ…?
      あれ…?
           あれ…?
                あれ…?
 こういう時って…何か大切なものを…失ちゃうんじゃなかった…け…?

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 おとうさんおかあさんおねえちゃんすすむおとうさんおかあさんおねえちゃんすすむおとうさんおかあさんおねえちゃんすすむ…

 そこにあるのは繰り返される恐怖だけだった…また…失ってしまう壊れた世界…



「はぁ…はぁ…こいつ、しぶてえな…ゴキブリかよ…」
「ほら、いつもみたいに鳴けよ!ごめんなさいって謝れよ!」
 ペッと進の頭に、唾をかける。
「…あや…まら…ない…」
「…今、なんつった…?」
「…あや…まら…ない…悪いのは…いつもお前達じゃないか!?僕が何をした!?めーりんが何をした!?」
 進の…今出来る最大限の抵抗だった。1人がしゃがみ込み、進の頭に手をかける。

「お前等は…存在が罪なんだよ。生きているだけで気持ち悪いんだよ!このカスが!!」
 そして、顔面を思い切り殴った。間髪を入れず、残りの二人が地面にしがみつく進むをひっくり返して抑え込む。
 そこに居たのは恐怖に固まっていためーりんだった。少年はめーりんを掴み上げる。

「進…そこでよく見とけ。お前の大切な大切なお友達が苦しむ様をな。」


 なんとかしなきゃ…私は…いつも守られてばかりだ。
 私には力がないから…守れない…だけど…
 だけど、大切な進は、進だけは…命を賭けてでも守り遠さなきゃいけない!

            「JAOOOOOOOO!!!」

 石のように固まっていためーりんは突如叫び、動き出す。そして、少年の指を噛み砕いた。
「ぎゃ!いって!!…クソ!こいつ、噛みやがった!」
 もう片方の手でめーりんを潰そうとするが、めーりんの方が次の行動が早かった。
 地面へと降りる際に、今度は少年の足を潰す。
「ぐは…!…つっ…こんにゃろ!」
 しかし…人の力にはやはり及ばなかった。すぐにまた、捕まってしまう。
「JA、JAOOOOO…」
「はぁ…はぁ…手こずらせやがって…もう許さねぇ…じわじわ嬲り殺そうと思ったが、今ここで叩き潰してやる!」
「や、止めて!僕はどうなってもいいから、めーりんだけは見逃して!」
 進は懇願した。何があってもめーりんだけは…友達だけは…傷つけてはいけない。そう思って。
 だが、少年の返答は冷酷なものだった。
「何寝ぼけてるんだ?このめーりんを殺したら、お前と遊びの続きを始めるんだよ…覚悟しとけよ…」
 そう言うと、めーりんを高く振り上げる。そして、今正に叩きつけようとした、その刹那―――少年の腕が止まった。
 一瞬何が起きたか分からず、振り返る。振り返った先には―――
 体格の良い、大男が立っていた。
 進はその姿を認めた瞬間に…絶望した。

「何やってんだお前等?」
 その男の言葉に3人は萎縮し始める。
「た、たた大将!…進とこのゆっくりを甚振ってたんだよ。大将も一緒にやる?」
 大将と呼ばれた男は3人の少年、進、めーりんを一瞥した。
 その後、ゆっくりと言葉を吐く。
「いや…いい。それより、今からお前ん家に遊びに行っていいか?」
 3人は媚を売るように次々と答える。
「そ、そうだよな。進で遊ぶなんていつでも出来るもんな!」
「大将と遊んでた方がよっぽど楽しいぜ!」
「よし、じゃあ、大将、俺んち来てよ。」
「ああ…」
 この3人が媚び諂う理由は…この大将という男がガキ大将であるからだ。因みに、進を虐めだした張本人でもある。
 成る程、進が絶望感を感じるのは当然と言える。

 少年達が進を背に去ってゆくが、大将だけは神妙な面持ちで進とめーりんを眺めていた。
 しかし、少年等の早くーという言葉に反応して同じように去ってゆく。
 めーりんは、すぐさま進の下に寄る。
「JAO、JAOOO!!JAOOOO!!!」
 進に必死に声を掛ける。それとは対照的に進は至って穏やかな笑みを浮かべていた。その表情からは一種の達成感が感じられる。

「めーりん…良かった…無事で…なんとか…守れたね…」
 そう言うと目を閉じてしまった。
「JAOOOOOOOOOOO!!」
 めーりんが泣き叫ぶ。嫌だ…もうこれ以上…失いたくない…だけど…自分の力じゃ…進を助けられない…

 途方にくれていためーりんだったが、急に何かを閃いた。そして、一心不乱に公園の外へと走っていった。



 1人の少女と1匹のゆっくりが、道を歩いていた。少女は、一見すると小学校高学年程だろうか。
 一緒に歩いているゆっくりは”さくや種”だった。

「今日も良い天気ね。さくや。」
「はい、おじょうさま。きょうもきっとよいことがあります。」
 と、目の前から何かが向かってくる。
「ん?何…かな…?」
 猫だろうか…?いや…ゆっくりだった。赤い髪に緑の帽子。その帽子には☆のマーク。…そう、めーりんだ。
「JAOOOO!」
 めーりんは、少女の目の前で止まると、泣き叫ぶ。
「…1人のようね…野生かしら?」
「JAOOOO!JAOOOO!!」
 めーりんは叫ぶ。助けてくれと。…が、JAOOOとしか聞き取れない少女にはめーりんの言わんとしていることが理解できない。

「んー…ごめんね。あなたが何をしゃべっているのかが分からないわ。」
 それでも、めーりんは鳴き続ける。―――伝わると信じて
 と、さくやが少女に話掛ける。
「おじょうさま。このめーりんは、たすけをもとめているようです。ついてきてほしいといっております。」
「え?私に…?うーん…分かったわ。えっと…あなたはめーりんと言うのね。あなたについて行けばいいの?」
「JAO!JAO!」
 めーりんは返事をすると、すぐに傷ついた進のいる公園へと案内する。

「JAOOOOO!!」
 とうとう、公園に着いた。
「ここでいいの?ん…?あれは…?」
 少女の視線の先には…進がぐったりと倒れていた。それを見ると、すぐに駆け寄る。
「す、進君!?大変…!ひどい傷!!誰がこんなことを!」
 進は全身が濡れており、ところどころに痣があった。
「とにかく助けないと…さくや、めーりんとここに居て!私、家から弟を呼んでくるから!」
 更なる助けを呼びに行く少女。
 めーりんは目に涙を溜め、心配そうに進むを見守っていた。

                        ~続く~


以上、ひもなしでした。今回は補足を
【進がめーりんを助けた理由】
今回のSSを見ていただければ明らかですが、進は学校で虐めを受けていました。
友達と呼べる存在は、残念ながら今の現段階ではいません。
初めてめーりんを見た時、彼女も同族のゆっくりから虐められていました。
最初の内は自分には関係ないと思っていましたが、元々優しい心を持っていたことに加え
このめーりんと自分の姿が重なって見えたのでしょう。
なけなしの勇気を振り絞って助けようと決意したのです。
「この子は自分と同じ目に遭わせたくない」と。

  • れ レミリアー ややっぱり良い子や -- 名無しさん (2011-04-27 19:21:38)
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最終更新:2011年04月27日 19:21