魔理沙のゆっくりな日々

「ゆっ♪ゆっ♪ゆっ♪」
魔理沙とれいむは机の上のガラスの瓶をじっと見守っていた。

ここは霧雨邸。
今はシソの葉とブドウを煮込み、レモン汁を混ぜた葡萄ジュースを造っている最中だった、
ビンの上には黒や紫の固まりで満たされた大きな茶漉しのような物が固定されており、
そこから一粒ずつ落ちる水滴は、ゆっくりとガラス瓶を満たしていく、
そしてその様を、飛び跳ねながら満足そうに見入っているれいむと、それを眺める魔理沙の姿があった。

そして魔理沙の視線は、いつしかそれらの風景かられいむの頬一点に集中していた。
「うーむ・・・。いや、それは・・・・・しかし・・・。」
魔理沙は悩んでいた、そして
「・・・・・うむ、我慢は良くないな。 体に毒だ。」
少し大きい独り言をつぶやくと、魔理沙はおもむろにれいむへと手を伸ばす、
ぎゅっ。
ぐっ。
「ゆっ! おねーさん、ちょっといたいよ!」
魔理沙は聞き入れずに、すでにれいむの左頬をつまんでいた右手を手繰り寄せ、左手を右頬に添える。
むぎゅっ。
ぐいぐい。
(・・・これはやばい、すっげえ気持ちいい・・・・・。)
「おねーさん!いたい!いたいよ!!」
もう魔理沙の耳にれいむの声は届いていなかった。
ぐっ。ぐいっ。むにっ。むにゅっ。ぐいっ。ぐっぐっ。ぎゅっぎゅっ。ぎゅっぎゅっぎゅっ。
ぎっぎっ。ぎりぎりっ。ぎりぎりぎりっ。ぐにゅんぐにゅん。ぐにゅぐにゅぐにゅぐにゅ・・・・・・・・・・。

「ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ゆ゙ い゙だい゙い゙だあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙い゙」
れいむの絶叫がどうにか耳に届き、ようやく魔理沙は我に返った、
(・・・・・ああっ!やりすぎた!!!)
「ゔわ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ん゙!!!!!」
魔理沙は慌てて裏の井戸で水を汲み、ハンカチを濡らし、まっ赤っかになったれいむの両頬に当てがう、
そしてプチシュークリームを片手に、大泣きするれいむの頭をずっとずっと撫でてやった、
しかし、魔理沙はどうしても笑いを堪える事はできないでいた。





「「いただきます!!!」」
本日の霧雨邸の夕食は合鴨のローストだった、月に一度あるか無いかの御馳走だった、
魔理沙はあまり肉料理を作らなかった、面倒だったからだ、
しかしれいむと暮らし始めてからの約十日間、ずっと「おにくおにく!」と言われ続けて根負けしたのだ。
「今日はごちそうだぜ、よく味わって食べるんだ。」
「うん!ゆっくりあじわうよ! むーしゃ。むーしゃ・・・。」
れいむはすっかり機嫌を直し、今や目の前の「おにく」に夢中だ。
「むーしゃ。むーしゃ。 ・・・しあわせー!!」

夕食後、二人はテーブルの上の何かを目の前にして、何やら遊びらしいものに興じていた、
魔理沙が紙に筆と絵の具で絵を描いて、れいむに見せていたのだ、
「・・・うーん、もうちょっとほっぺがちいさいかなあ。」
「そうか・・・、こんな感じか?」
「うん!ぱちゅりーだあ!!」
魔理沙はゆっくりの事をあまり知らなかった、彼女がゆっくりに興味を持ち出したのはつい最近の事だったからだ、
だが大抵のゆっくりは彼女がよく知っている奴に似ていたので、想像でゆっくりを描いてれいむに当てさせる遊びを思い付いたのだ。
「ぱちゅりーはね、やさしくてかしこいの、でもあんまりおそとであそべないの。」
「喘息はやっぱり喘息なのか・・・。」
魔理沙は頬の筋肉が緩んでいるのを感じつつ、お絵描きを続ける、
次に適当に崩した自分の似顔絵を描く、これにはすぐ反応するれいむ。
「あっ!まりさだー!!」
紙と魔理沙を交互に見て、驚きと喜びをあらわにするれいむだった。
「まりさはみんなをひっぱるかっこいいこだよ!でもたまーにうそをいうんだ。」
「・・・・・ははは、そうか。」
魔理沙は苦笑いしつつ、次の絵に移る、彼女は既にゆっくり特有の感じは掴めてきていた。
「これは・・・ありすだね。」
「おっ、アリスもいるのか、あいつはどうなんだ?」
「うん、ありすはすっごくまりさがすきなの、
でもあいつはうえからめせんだからゆっくりできないぜ・・・ってまりさがいってた。」
その答えを聞いた魔理沙は吹き出しそうになっていた、そしてれいむが続ける。
「ところでおねーさん、「うえからめせん」・・・ってなあに?」
「・・・・・ぷ・・・ぶはははは」
「?」
口をぽかんと空け、ハテナを浮かべるれいむを横目に、しばらく笑い続ける魔理沙だった。
そしてこの遊びは、れいむが疲れて居眠りをはじめるまで続けられた。





「じゃあ出かけてくるぜ、外には出るんじゃないぜ。」
「うん、おねーさん、はやくかえってきてね!!!」
魔理沙は今日も博麗神社の宴会に行くのだった、それは彼女の日常であった、
しかし少しだけ変わった事がある、
彼女の帰宅時間が少し早くなった事と、彼女はお茶菓子をなるべく持ち帰ってから食べるようになった事だ、
れいむは少し自由すぎる主人に翻弄される事もあったが、しあわせだった、
そして一人と一匹の共同生活は、まだまだ続くのであった。

  • 素敵な日常だ。幻想郷やヨネザアド・アタゴオルに行きたくなるね。
    -- 名無しさん (2010-11-27 14:25:09)
  • これを読みながら
    饅頭くった。
    なぜか罪悪感が・・・ -- 名無しさん (2012-08-10 22:58:27)
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最終更新:2012年08月10日 22:58