社会科見学

あたい

小町

歳?

忘れた。

スリーサイズ?

鎌なら1本だけだよ。


 …とかいう言い回しが少し前に外の世界で流行ったらしい。
 結構面倒臭いな、これ。

 あたいは小野塚小町。死者の魂を三途の河の向こうまで渡すのが仕事…なんだが、最近はどっかの化け猫のせいで来る量が減ってる。多いときでも1日に2、3人ってところだ。…まぁ、おかげで堂々とサボれるんだけど、上司の四季映姫・ヤマザナドゥ様には説教され放題。来ないもんは来ないんだからしょうがないじゃないですか。
 とりあえず、あの猫娘は一度とっちめてやった方がいいかもね、軽く。

 魂が来ない間何をしてるかっていうと…大体は昼寝だ。あとは散歩とか。散歩は結構楽しい。三途の河といっても、ぱっと見た感じは普通の川とたいして変わりはない。川を見れば魚が泳いでるし、上を見れば鳥が飛んでるし、左右を見れば動物や虫がいる…もっとも、みんな魂だけの存在で実体はないんだけどね。そういうのを観察できるのが散歩の楽しみだ。
 河岸で魂を待ってるときにも、動物達の方から寄ってくることがあって、遊び相手になったり一緒に昼寝したりする。これも結構楽しい。

 でまぁ、最近その動物たちに混じってアレが現れるんだよな。
 ほら、噂をすれば何とやら。
 「ゆっくりしていってね!!!」
 「ああ、あたいはゆっくりしてるよ。お前さんもゆっくりしていきな」
 そう、ゆっくりだ。場所が場所なんで、みんな真っ白で透けてるけどね。死んだ奴なのかここで自然発生したのかはわからない。
 このゆっくり達は動物以上にあたいによくなついてくる。特に吸血鬼んとこの門番のやつと…あたいと同じ顔してるやつ。後者は最初のうちは気味悪かったけど、今ではそうでもない。ちなみにこの2種類はお互い仲がいいらしく、よく一緒に昼寝しているのを見かける。

 ゆっくりもそうだが、ここの動物たちは基本的に三途の河を渡る必要がない。四季様をはじめとする閻魔様達が善だ悪だと言ってるのは、結局人間がそういう意味を後付けしただけであって、人間にしか通用しないのだ(幻想郷の場合は妖怪にも通用する)。自然を自然のまま生きて天寿を全うした動物たちに人間の定規を当てるのは自然の理に反する、ということらしい。
 もっとも、ゆっくりには人並みに悪さをする奴もいるので、四季様の許可をもらったり、四季様からの要請を受けたりした時は、そういう悪いゆっくりを三途の河に沈めてる。あそこは底なしだから、一度沈むと二度と上がってこれない。

 ある日、河岸で動物たちと遊んでいると、2匹のゆっくりが近づいてきた。片方は吸血鬼んとこの図書館の主のやつ…ぱちゅりーで、もう片方は寺子屋の教師のやつ…けーねだ。現世のぱちゅりーは体が弱いらしいが、実体のないここのぱちゅりーは、少しおとなしいものの、健康面に関しては他のゆっくりと大して変わりはないみたいだ。けーねは本物よろしく満月で角が生えたりするんだろうか。
 どっちもゆっくりの中では知的好奇心や記憶力があり賢い方で、あたいの話をよく聞いてくれる。
 「こんにちは、おねーさん」
 「むきゅーん、こんにちは」
 「こんにちは、お二人さん」
 「おねーさんおねーさん」
 「何だい?」
 「むこうの"かわぎし"には"さいばんしょ"があるんだよね?」
 「そうだよ。それがどうかしたのかい?」
 「わたしたち、むこうの"かわぎし"にいってみたいの」
 聞けば、死者が向こう岸に渡った後どうなるのかを直接見てみたいらしい。あたいの舟じゃないと三途の河を渡れないんで、あたいに聞いてきた、というわけだ。
 「いいのかい?ゆっくりできないかもよ?」
 「でもいってみたいの。ね、ぱちゅりー?」
 「むきゅーん」
 ぱちゅりーはうなずくように縦に動いた。
 「…よしわかった!でも死者が来ないと舟を出せないからしばらく待とうな」
 「ゆっ!」
 「むきゅーん」
 そうしてあたいたちは死者を待っていたんだが、現れたのは夕方になってからだった。ウトウトしてたところをけーねの頭突きで起こされ、前を見たら死者が1人いた。いやぁ、死者に居眠りしてるとこを見られるとは、失態失態。
 死者の男とけーね、ぱちゅりーを乗せて舟を出す。男が聞いてきた。
 「この2匹は?」
 「ああ、なんでも裁判所見学がしたいんだそうで」
 「なるほど。魂になってもそういう所はあんまり変わんないんですね」
 「好奇心のことかい?」
 「そうそう。私もけーねを1匹飼ってたんですけど、そいつもやたらと本を読みたがったんですよねぇ」
 その後、ゆっくりの話や世間話をしているうちに対岸に着いた。まず男を降ろし、次にあたいが2匹を抱えて舟から降りた。
 裁判所に着くと、誰かが四季様の判決を受けたところだった。
 そいつが退場した後、四季様がこちらに気づいた。
 「あら、小町」
 「死者1人連れてきましたー。ところで今のは?」
 「よその裁判所から依頼されて臨時で裁判をしていたところです。なんでも、死者の大渋滞を起こしているそうで。…それは何ですか、小町?」
 四季様は2匹を指さした。
 「ああ、見学希望です」
 「あら、感心ね。2人とも、見学なら静かにしていてくださいね」
 「ゆっ!」
 「むきゅーん」
 「それでは裁判を始めます」

 男の判決は天界行きだった。生前は良き夫であり、良き父親であり、良き飼い主であったみたいだ。しかし四季様は天界行きでも地獄行きでも非常に大きくてハリのある声を出すため、2匹はずーっとビクビクしてた。
 帰りの舟で2匹に感想を聞いてみた。
 「じつにきょうみぶかかったわ」
 とけーね。
 「むきゅーん、でもおねーさんのいうとおり、あまりゆっくりできなかったわ」
 とぱちゅりー。
 「そうかい。また行きたいかい?」
 けーねはしばらく考えた後、
 「やっぱりこっちの"かわぎし"でゆっくりしていたいわ」
 と答えた。ぱちゅりーも、
 「むきゅーん」
 と、けーねに同意したみたいだ。
 「そうかいそうかい。まぁ、また行きたくなったら声をかけてな」
 「ゆっ!」
 「むきゅーん」

 舟が河岸に着き、あたいは2匹を降ろした。
 2匹はあたいに別れの挨拶をして帰っていった。
 …久しぶりに四季様の判決見たらあたいも疲れちゃったよ。
 昼寝でもしながら次の死者をゆっくり待ちますかね…。

以下言い訳など
  • 小町っぽさを出すのに苦労しました。ちょっと油断すると第三者視点のカタい文になるし、"はすっぱな"(はてな参照)っていうのもよくわからなかったので。
  • 締めがなんか中途半端だ…。
  • 東方キャラ出すとゆっくり分が少なくなるなぁ…。今度ゆっくりだけで1個書いてみようかしら。
  • 感想、質問、誤字報告等あれば下のコメント欄へ。閲覧ありがとうございました。
尻尾の人

  • 早速小町ものが来ましたね、小町ものは貴重なので気が向いた時にでも充実させてみて欲しい -- 名無しさん (2008-11-20 08:19:59)
  • 感想ありがとうございます!
    致命的ミスを発見したのでそこを含めて少し修正しました。

    …スリーサイズのところ、あんまおもんないな。残すけど。 -- 作者 (2008-11-20 09:59:55)
  • おお、小町視点だ
    とても面白かったです
    天国でも地獄でもない"かわぎし"で二人のゆっくりはなにを学ぶのでしょうね -- 名無しさん (2008-11-20 20:37:04)
  • 感想ありがとうございます!
    >>何を学ぶのか
    う~ん…とりあえず、当分は他のゆっくりに
    ご教授したり質問攻めにあったりする気がしますw -- 作者 (2008-11-21 20:49:44)
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最終更新:2008年12月24日 15:47