「わからないよー…」
1匹のゆっくりちぇんが、夜の森をさまよっていた。
このちぇんは、父親ちぇんと母親ちぇんの一家3匹で仲良く暮らしていたのだが、この少し前に吹いた突風に3匹とも吹き飛ばされ、一家は離ればなれになってしまった。
ちぇんが飛ばされた先はちぇんの知らない森だった。ちぇんは自分の傷の具合を確認し、近くにあった草やキノコを少し食べると、両親を捜すべく歩き始めた。
日が沈んでからも、ちぇんの捜索は続いた。しかし、夜目が利くとはいえ、夜に歩き回るのはあまり安全とは言えない。捕食種であるれみりゃは夜行性のものが多いからだ。ちぇんもそれをわかっていたが、危険を冒してでも、早く両親に会いたかった。
ふと、ガサガサ、という音が聞こえた気がして、ちぇんは立ち止まった。ちぇんが音のした方に振り返ると、れみりゃが飛んでくるところだった。
「うー♪うー♪」
ちぇんはれみりゃから逃げ出した。ちぇん種はゆっくりの中でも足の速いほうなので、れみりゃから逃げ切ることもできる。しかし今のちぇんには逃げ切れるだけの速さは出せなかった。
れみりゃの羽ばたく音がだんだん近づいてくる。
「たーべちゃうぞー♪」
「わからないよー!」
れみりゃがちぇんにかみつこうとした瞬間、茂みから何かが出てきて、れみりゃに体当たりをしかけた。
「わふっ!」
「うーっ!」
ちぇんが振り返ると、そこには地面に転がって泣いているれみりゃと、別の1匹のゆっくりがいた。銀白色の髪の毛と耳、赤い天狗の帽子、そして銀白色の毛並みの美しい尻尾…それはゆっくりもみじだった。れみりゃはせわしなく羽ばたいているが、まだ起き上がることが出来ない。
「だいじょうぶ?ゆっくりにげるよ!」
と、もみじはちぇんに言った。
「わ、わかったよー」
2匹はその場から逃げ出した。
2匹はもみじが住処にしている洞穴へと入っていった。もみじはちぇんの傷や弱り具合を見て、傷をなめたり食料を採ってきてちぇんに与えたりした。しばらくすると、ちぇんは安心したのか、すやすやと眠り始め、もみじも寄り添うようにして眠った。
次の朝、もみじは2匹分の食料を採ってきて2匹で朝食を食べ、ちぇんに事情を聞いた。はぐれてしまった両親を捜しているということだった。
「それならもみじもゆっくりてつだうよ!」
「いいのー?」
「わふー!もみじはめとはながすごくいいんだよ!ゆっくりさがせるよ!」
「わかるよー!」
ちぇんは嬉しそうに跳ねた。
それから、ちぇんの両親を捜す2匹の旅が始まった。夜や雨の日は適当な木のうろや穴に入って休み、れみりゃに遭遇するともみじが追っ払い、風が吹くとちぇんはもみじの尻尾にかみついて飛ばされないよう、離れないようにしていた。
2匹で探し始めてから何日か経ったある日、ある場所にさしかかった時に、ちぇんが気づいた。
「わかるよー!」
「どうしたのちぇん?」
「このあたりはちぇんがまえにすんでたところなんだよー!わかるよー!」
前に住んでいた、ということであれば、ちぇんの両親ももしかしたら戻ってきているかもしれない。そう思った2匹は、ちぇんの住処だった場所に行くことにした。
ある洞窟の前でちぇんが立ち止まり、もみじに言った。
「ここがちぇんのいえだよー!わかるよー!」
先にちぇんがやや急ぎ足で入っていき、もみじもゆっくりとついていった。一番奥に着いたとき、もみじが見たものは、泣きじゃくるちぇんと、その奥でボロボロになって眠っている、やや大きめの1匹のちぇんだった。
眠っていたのはちぇんの母親で、正確にはもみじが見つける直前に息を引き取っていた。
ちぇんの両親は、別々の場所に飛ばされ、それぞれこの洞窟に向かおうとしたところ、偶然再会できたために、2匹でこの洞窟を目指していた。ところが、途中で野犬に襲われ、父親は母親を逃がすためにおとりになり、母親はその後れみりゃや小鳥に襲われながらもこの洞窟までたどり着いた。しかし、その時にはもう傷だらけでほとんど動けない状態だったという。
もみじは心配そうにちぇんを見つめ、頬をなめて涙を拭き取ろうとしたが、ちぇんはいっこうに泣きやまなかった。
夜になって、泣き疲れたのか、ちぇんは寝てしまったので、もみじも寝ることにした。
次の朝、2匹が目を覚ましたときには、ちぇんは泣きやんでいたが、元気が無く、もみじが集めてきた朝食にもほとんど手をつけなかった。
「わふー!ゆっくりげんきになってね!」
「…わからないよー…」
昼も、夜も、次の日も、ちぇんは相変わらずだった。もみじはだんだん不安になってきた。
そうして何日か経った。
その日の昼前、もみじは、食事以外に、何かちぇんの気晴らしになるものが無いかを探して歩き回っていたが、結局食料しか見つからず、2人分の食事を頬に蓄えて帰ろうとしていた。
すると、もみじ体が急に宙に浮いた。誰かがもみじを持ち上げたのだ。
もみじはあわてて飛び降りると、今もみじを持ち上げた人物を見上げた。緑色の帽子を被った、黒髪の少女だった。隣にもう1人いた。銀白色の髪で、剣と盾を背負っている。もみじにはちぇんのそっくりさんと、自分のそっくりさんに見えた。
もみじは少し怒り気味になって、その2人に言った。
「わふっ!もみじはいそいでるからゆっくりやめてね!」
2人はもみじの様子をじっと見ていた。黒髪の少女が口を開いた。
「椛のゆっくりって珍しくない?」
椛、と呼ばれた少女は答えた。
「…私も初めて見た。こんななんだ…」
黒髪の少女はしゃがみながらもみじに問いかけた。
「ねぇ君、なんで急いでるの?」
「わふっ!もみじはもみじとちぇんのごはんをもってかえるところなんだよ!だからおねーさんたちはここでゆっくりしていってね!」
「ちぇん?」
「橙のゆっくりってことじゃない?」
椛は黒髪の少女に言った。
「あ、そっか」
そうしてる間に、もみじは去っていった。
「あ」
「…逃げられちゃったね」
「…ねぇ椛、後追わない?」
「…なんで?」
「…なんとなく」
橙は椛にそういうと、もみじを追って駆けだしていた。
「あ、待ってよ」
椛もあわてて橙を追った。
もみじは洞窟に入っていき、いつものようにちぇんの前に食事を出した。
「ゆっくりたべてね!」
しかしちぇんは返事をしない。
仕方なくもみじは1人で食事を始めた。時々、ちぇんはか細い声で「わからないよー」と言っていた。ここ数日の間、だんだんと弱っていってるようにも感じられる。
「…見つけた」
いきなり声がして、もみじがあわてて振り返り、ちぇんがゆっくりと声の方を見ると、橙と椛がいた。
橙はもみじとちぇん、それから、奥にある干からびたちぇんを見た。
「わふっ!さっきのおねーさんたちだね!ゆっくりでてってね!」
もみじは橙に吠えたが、橙はちぇんに両手をのばした。
「おねーさんなにするの!ゆっくりやめてね!」
もみじの制止も聞かずに橙はちぇんを持ち上げた。ちぇんは少しおびえている。
そのまま橙はちぇんを抱きしめ、頭を優しく撫でた。
「…親が死んじゃって悲しいんだね。わかるよ」
ちぇんは橙の腕の中で小さく泣き始めた。
「…ぐすん…わからないよぉ…ぐすん…」
「ゆっくりわかればいいよ。…今は友達を大事にしてあげなきゃ」
そう言われたちぇんは、橙の腕の中でもみじの方に振り返った。
もみじは心配そうにちぇんを見上げている。橙と椛に対する警戒心はもう解けているようだ。
ちぇんは橙の腕から飛び降りてもみじに近寄ると、もみじにほおずりをし始めたが、しばらくすると静かに泣き始めた。もみじは涙をなめて拭き取ったり、ほおずりしたりした。橙と椛はしばらく2匹の様子を見ていた。
ちぇんはその日の昼食を多めに食べ、すっかり元気になった。
2匹の食事が終わった時に、橙はちぇんに話しかけた。
「ねぇ君、よかったら私達と一緒に来ない?」
「ちょ、橙、何言って
「旅は道連れ、って言うじゃない。多い方が賑やかでいいし。それに、この子をここにいさせるのはちょっと…ね」
「あ…」
母親の遺体は橙と椛が丁寧に埋めてやったが、元々住んでいた場所となると、ちぇんには少し辛いかもしれない。
ちぇんは橙の思いを読み取ったのか、答えた。
「わかるよー、ちぇんはおねーさんについてくよー」
橙は嬉しそうにちぇんを抱きしめた。
「…だってさ」
と、椛はもみじの方に向き直りながら言う。
「お前はどうする?」
「わふー…」
もみじは答えを決めかねているようだった。するとちぇんが言った。
「わかるよー、ちぇんはもみじといっしょがいいんだよー」
「…決まりだね」
椛がもみじに言った。もみじは決心したように凛々しい表情になった。
「わふっ!ゆっくりいっしょにいくよ!」
以下作者の言い訳など
- もう「ア○キさんごめんなさい」としか言いようがありませんorz
- ゆっくりちぇんの口調ってこんなだったっけ…。
- 椛と橙の性格わかんねー。ってかこの橙、人が出来すぎてる…恐ろしい子!
- 感想、質問、誤字報告等あれば下のコメント欄へ。閲覧ありがとうございました。
尻尾の人
- もみじは中々見ないだけにちょっと新鮮だった
引退作?と書かずに気が向いたらまた書きに来てよ -- 名無しさん (2008-11-30 19:27:34)
- 感想ありがとうございます!
引退…とりあえずネタがないのと、一番最初に書きたかった分は
書ききったかなぁ、という感じなので、しばらくは書かないかなぁと思います。
またネタが思いつくことがあったら書きたいと思います。 -- 作者 (2008-11-30 20:16:10)
最終更新:2008年12月17日 21:57